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第31話:苛立ち

 



 一方、凪が消えた後の帯刀は、機嫌が悪そうな表情を隠す事なくコーヒーを飲んでいた。

 浩樹はそれに気付かず、頼んで直ぐに出てきたピラフに舌鼓を打っている。



「恭介。このピラフ冷凍なのに味をちゃんと調整してあって、かなり美味いぞ!」



 そんな台詞も帯刀の耳に届いておらず、伊達を見た時の凪の表情を思い出しながらイラついていた。



(アイツ、また見惚れやがって!)



 仕事の事などを完全に頭から消え去り、帯刀は苛立ちながら手にしていたコーヒーを煽った。


 最初に出逢った時に凪が見せたものと同じ表情。

 恋愛感情で見惚れているワケじゃない。絵画や彫刻と同じような意味で見惚れているのは理解している。


 それでも、執事長を見てうっとりしている凪を見るのは面白くない。



(アイツの事だ。さっきのキスだって100%落ち着かせる為だと思っているに違いない)



 何処の世の中に、ただそれだけでキスする奴がいるんだと言いたい帯刀だったが、もう一つの感情がそれを抑える。



(凪が成長するためには浩樹みたいな強い光を持った奴じゃないとダメなんだ)



 凪の身辺を調べた結果、帯刀は彼女が生徒会入りをきっかけに強く育てる必要があると判断した。

 その為には彼女を引っ張る太陽のような存在が傍にいる事が必要だ。だが、どうあがいても自分は太陽にはなれない。



(コイツのカケラでも俺が持っていたらな……)



 浩樹が、本気で羨ましかった。

 何もしなくてもそこにいるだけで周りを照らし、引っ張る天性の魅力が羨ましくてならなかった。



(自分が浩樹なら、何度でも告白して凪を自分の恋人にするのに……)



 そんな事を考えながら浩樹を見ていると、浩樹は急に皿をガードした。



「いくら美味そうだからって人のを狙うな。浅ましい」


(…………いや、コイツにだけはなりたくない)



 人が悶々としているというのに浩樹は気楽に食に走っている。

 そんな相手を一瞬でも羨んだ自分に嫌気を感じながら、スタッフ控え室を睨み付けた。

 すると直ぐに凪が戻ってきた。



「遅くなってすみません」


「終ったのか。では、次に行くぞ」



 帯刀はそう言うと、浩樹を置いて凪を引っ張るように外に連れ出した。



「え?帯刀先輩?」



 評点もしないうちから廊下に出された凪は、戸惑っていた。

 帯刀も廊下に出てから初めてその事実を思い出し、舌打ちした。



(何をしているんだ、俺は!?)



 嫉妬に駆られて仕事を忘れる。自分らしくない失態である。



「帯刀先輩……」



 凪の自分を呼ぶ声に、先程と違って妙な重みがある。

 気になって視線を凪に向けると、凪は眉を寄せて窓から中庭の方を見ていた。

 訝しく思いながら凪の視線の方を見ると、そこにはスーツ姿の男が二人立っていた。



(あれは教頭と明智?)



 樹の陰に隠れていてよく判らないが、二人で何かを話をしているようだ。

 教頭は何かを言いながら狡猾な笑みを浮かべ、明智は必死にすがっているようにも見える。



(どうやら明智の身辺を調べた方が近道のようだな)


「いったい何繋がりなんでしょうか……?」



 判断材料が少ないだけに、凪はもどかしそうにしている。



「焦るな。いつか見えてくるさ」


「いつかっていつな……」

「恭介。食い終わらないうちに置いていくな!」



 会計を済ませて廊下に出た浩樹はそう苦情を言ったが、二人の様子がおかしいと気付き首を傾げた。



「……何かあったのか?」


「いや、ただ評点を忘れた事に気付いただけだ」



 浩樹は信じられないといったふうに帯刀を見た。



「お前らしくないな。戻るか?」


「いや、お前はちゃんと書いたんだろ?ならば不要だ。行くぞ」



 二人以上で評価すべきと言っていた帯刀らしくないセリフに更に首を傾げる浩樹だったが、スタスタと帯刀が歩き始めた為、納得は出来なかったがそれに続いた。




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