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第2話:出逢い【2】

 


一言で言うなら『絶世の美男子』。

 だが、それは人を拒む氷の刃の様な美しさ。


 ほぼ左右対称の整った顔が人形みたいだからなのか、銀縁眼鏡の奥にある瞳が何かを企んでいるかのように光っているせいなのかは判らないが、凪は見惚れながらも彼を怖いと感じた。

 その男が値踏みするような視線を凪に浴びせる。


 凪は彼から逃れたい気持ちになったが、どうしても彼から目を離す事が出来ないでいた。

 否、正確には目を逸らしてはならない気がして、逃げたくても敢えて彼を見つめ返していた。

 そんな様子の凪に興味を持ったのか、男は微笑み(邪悪な笑み)を浮かべて凪に手を差し伸べた。



「会計の帯刀恭介たてわききょうすけだ」


「え?あ、えと樹神凪です」



 ハッとなり、半ば慌て気味にその手に握手すると、電流が流れるような刺激があり、思わず手を離した。

 帯刀も意外な刺激に一瞬顔を歪めたが、すぐ先程の表情に戻り、何事もなかったように殿様へ視線を移した。



「浩樹、彼女に学内は案内したのか?」


「いや、これから」


「では、俺が案内する」



 予想していなかった言葉に殿様は口を尖らせて抗議した。



「なっ!?俺が案内するのが妥当だと思うぞ。何せ生徒会長なんだからさ」



 その言葉に帯刀は鼻で笑い顎で生徒会長のデスクを指した。

 見るとそこには、山積みになった書類で埋め尽くされている。



大海原浩樹わたのはらひろき生徒会長。

 そう言われるのならば、まずはあの書類を何とかしてくれませんかね?

 貴方が捺印しなければいつまで経っても費用がおりないのですがねぇ?」



 嫌味たっぷりに言われ、浩樹は低い唸り声を洩らした。



「さあ、バカは放っておいて行くぞ」



 帯刀はそう言うと、凪の返答を待たずに生徒会室を出て行った。



「し、失礼します」



 言われた凪も慌てて浩樹に頭を下げると、生徒会室を出て帯刀を追いかけて行った。

 だが、学内案内をしてくれるのは有り難いが、彼の案内はあまりというよりは全く親切ではなかった。

 ひたすら無言で部屋のプレートを見ろとばかりに、指を差すだけ。しかも足が速い。

 ただでさえコンパスの差があるのに、歩みまで速いので、小走りしないと追い付かない。

 鍛えている彼女はスピードは苦ではなかった。

 だが、せめて説明して欲しいとも思ったし、回りの視線も妙に気になった。

 浩樹の時と違い、周囲の視線は恐ろしい物でも見るような形相で、中には悲鳴を上げて逃げ出す人までいた。



(この人やはり怖いのだろうか?)



 忙しい中案内してくれているのだから、優しいところもあるのだろうとは思う凪だったが、どうしても怖いと感じてしまう。

 一緒にいると今までの自分と違う自分になりそうな不安のような恐怖。

 それは、今逃げている周囲の生徒が感じているものとは違うものと思われるが、凪は本能で逃げたいと感じていた。



「樹神」


「ハイ!」



 いきなり名前を呼ばれ、驚いた凪は、思わず裏返った大きな声で返事をし、それを見た帯刀は一瞬目を見開いたが、ニヒルに笑った。



「俺が怖いか?」


「……はい」


「素直だな」



 そう言って苦笑するのを見て、凪は慌てて首を振って否定した。



「いや、違うんです。……怖いのは確かなんですが、その何と言うか近付いたら何かが変わってしまいそうなという意味であって……」


「……なるほどね」



 それをどういった意味で捉えたかは判らないが、それ以降は凪を面白い物でも見るような微笑を浮かべながら接するようになった。

 歩く速度もゆっくりになり、放たれる雰囲気も若干柔らかくなっていき、本能は未だ警鐘を鳴らしてはいるものの、凪は安堵していた。

 だが、そんな表情も寮の前でまた硬化した。

 いや、最初の印象より怖い。

 まるで、彼の回りだけブリザードが起きているかのようだった。

 訝しんだ彼女は帯刀の視線の先に目を向けた。

 すると、そこには宝塚の男役のような長身でボーイッシュな女とそんな彼女より更に背の高いヒョロリとした男が立っていた。

 細身のせいか、身長自体は殿様よりやや低い位なのだが、彼よりも背が高い印象を受ける。

 男は凪をチラリと見ると、徐に口を開いた。



「おや、貴方が女性連れなんて珍しい事もあるものですね」



 話し方は丁寧だが、その口調は殺傷能力の高い刃のようで、凪は背筋にゾクリと冷たいものが走った。




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