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博徒が往く  作者: 道ノ瀬
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第5話「宿屋」

ギルドを後にして以降こちらを気にするようすもなくスタスタと歩いていってしまうリジルについていく。気に食わない奴だが何せ自分には土地勘が全くない。街中には分かりやすく宿屋と分かる建物もなかったし貴重な情報源を見失う分けにはいかなかった。

町に入ってきた時には賑わっていた町並みも日が暮れた今では静かなものである。露店の類も店仕舞いをしたのか、ポツポツと軒下の灯りが揺れている事を除けば、まるで街からは人の営みというものが失われたかのようだった。


だからだろうか?

「静かなものだな」

一人ごちたつもりだった言葉は異様に響き、リジルに問いかけたように聞こえたようで

「ハッ、当然でしょ?昼は営み、夜は育む。夜は家族の時間。そのために、そのためにみんな働いているんだから。最も……あんたみたいに一人気楽に冒険者始めようなんて輩には分からないかもしれないけど」

「あのなぁ!」

この女、一度ならず二度も鼻で笑ってくれた。思わず前をいく性悪の肩を掴み文句をつけようとするも、それは

「ここよ」

目指していた場所に辿りついた言葉で遮られる。振り返り、いっそ睨むかのように険しい表情でこちらを見る姿に言葉を失う。

「指導役はやる。頼まれたし、仕事だから。必要ない事で干渉しないで、嫌いなのよ。その黒も、冒険者なんて責任感の無さそうな仕事につこうとする軽い人間も」


言いたい事は言った、もう用はないとばかりに踵を返し建物に入っていくリジル。なんなんだ、なんなんだよその言い草は。怒りというよりはもはや呆然としていた。

「いらっしゃいませー! あ、お姉ちゃん!!」

「ただいまメアリ」


ギルドでも嫌な奴だとは思った。だがなぜ初対面の自分がこうもボロクソに言われねばならぬのか。ふざけるなと、直前まで怒鳴りたい気持ちはあった。あったがしかし、今ではそれを目の前の輩に直接伝えた所で無駄だと感じていた。この輩は干渉するなとのたまったのだ。罵詈雑言を浴びせた自らを棚にあげて。

「おうリジルお疲れさん、後ろのは客か?」

「うん、指導役をやることになった。だから叔父さん、この黒いの明日早く出ないようだったらたたき出して」


こいつはこうして普通の接し方ができるのに、自分にだけ、明らかに悪意を持って接している。気づき馬鹿馬鹿しい、とそう思った。おそらくは根本的にあっていないのだ。明日、リュシーに言って指導役を変えてもらおう。そうでなければ指導役なんていなくたっていい。稼げるようになるのは遅れるかもしれないが、曰く案内役であるクロトもいる。やっていけないということもないはずだ。


「明日、早朝、ギルド。いいね?」

だから念を押すように言われた言葉もどうでもいい。

「……あぁ」

と適当に返事を返す。ギルドには行ってやるさ、指導役を解消してもらいに。嫌々といった様子を隠そうともしない女はその嫌な仕事がなくなり、俺は嫌味な女から解放される。それでいいじゃないか。



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オプションの夕食を食べ終え一息ついた。味は食堂を兼業しているだけあってそこそこ。料金も朝夕2食付で一泊1シリル50バーツ、宿屋の親父曰くEランクだと生活していくのにぎりぎりだがDランクになれば余裕ができる程度の価格だとか。素泊まりなら1シリル20バーツだがそれなら他の宿屋に行った方が安いと言われた。


「クロト」

「はい」

お側に、じゃあないんだな。呼ばれて出てくるって言えばそのイメージなんだが。あくまで案内人、仕えてもらっているわけでもないし当然かもしれない。そもそもデュプリーピクシーとやらはどこまで融通が利くのか。少なくとも気は利かなそうであるが。


「先の話でひと目に付くところでは消えてもらうように言ったけけど、それって俺以外を対象にすることはできないのか?」

「? 現状すでに他人には存在を認知できないように設定されていますが……」

「だからそれは人目がある所の話だろ?明日からは多少不自然でも、人目がある所でも助言が受けられるような状態にしておきたい」

「......なるほど。認識に齟齬があったようですね」

「齟齬?」

「そもそも私が他人に見える事はありません。今、存在しているのは碇孫六がこの世界での生活を安定させるまで導くことですから。姿を消していたのは周囲から見て貴方が不自然に移るのを避けるためと認識していました」

「つまりは?」

「場所に関わらず助言をすることは可能です。ただ視線や反応から貴方がいぶかしまれる可能性は否定できません」

「それなら問題ない。伊達に遊び人なんて不名誉なジョブに就けられてるわけじゃないんだ。人に悟らせないことにかけては慣れたもんだ」


向こうにいた頃、最も多かった呼ばれ方は賭博師(ギャンブラー)だった。自分だって何も好きだからギャンブルに興じていたわけではない。ただ、一個人として勝負に出て勝算を見込めたのがあの世界だったというだけなのである。

そうして異世界に来て、与えられたジョブは遊び人。賭博師そのものならともかくそれは違うだろうと主張したかったが、そうなった理由であろう、ギャンブラーとしての生き方の中で身につけた外面を違和感無く装う技術を行使することについては何の躊躇いも無い。使えるものは使うし、どうして? そう他人に問いかけることの馬鹿馬鹿しさなどとうに理解できている。自分の事は自分で決める、昨日も今日もそうして生きてきたのだ。だから明日も、そうして生きていく。


「今日は寝る。早朝って行っていたからな。スムーズに事を進めるためにも先に動く必要がある。もし、主神? と連絡が取れるんならせっついておいてくれよ、文太のこと。それじゃあおやすみ」


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