第4話「Eランクと赤い月」
ギルドを発ったのが遅かっただけあり、吸魔草を必要な数取って帰る頃には日が暮れていた。ギルド内には登録仕事から帰ってきたのだろうか、早くも飲み始めてる人がちらほらいて騒がしい。
並ぶほど受付が混んでいるわけでもなかったので、クエストを受注してくれたリュシーの所へ向かう。創作だと冒険者ギルドは昼夜問わず込み合っていて騒がしい描写あるけど冒険者仕事しろよって思うよな。田舎のコンビニ前にたむろしてるチンピラみたいだな。たむろするにもシフトが決まってたりするのかよ。
「こんばんわ。吸魔草取ってきたんで、検分頼むよ」
クエスト報告のために吸魔草とステータスプレートを手渡す。
「あ、お帰りなさいイカリさん。お待ちしてたんですよ!吸魔草の状態はと、ふむふむ――うん、バッチリです! 採取後は寄り道せず速やかに戻ること。しっかり守れてますね。というわけでイカリさんは今日から! えーと、いや今からグレードEの冒険者です! おめでとうございます!!」
そうして実に嬉しそうな声色で伝えられたのは昇格の通知。グレードE。
「その、随分とあっさりできるものなんだね?」
「ええ、事実上の冒険者はグレードEからですからね。Fランクはステータスプレート目的の方がほとんどで冒険者を生業としている人はいませんから。ギルドの指示が聞ければ即グレードEには上がれるようになっているんです」
「じゃあ吸魔草の採集が?」
「今回の昇格試験になりますね、形だけになっちゃいますけど」
そう言ってはにかむ笑うリュシー。可愛い。
「ではグレードEについて説明させて頂きますね。まずEランクの仕事ですが魔獣が発生する地域で指定物を採取することがメインの業務になります。
本来冒険者ギルドとは魔獣への対抗策として組織されたものなので、発生地域に出入りするグレードEからは正式な冒険者として認知され人頭税が免除されます。
ただしグレードC以下では3ヶ月依頼を受けないと降格、Eランクの状態で依頼を受けないまま3ヶ月経過すると冒険者としての権利が剥奪。
再登録には手数料がかかってしまうので気をつけてくださいね。」
「グレードB以上に罰則はないのか?」
「そうですね。イカリさんにはまだ先の話ですから説明しませんでしたけどグレードB以上で依頼を受ける人は余りいないんです。」
「……え?」
「いや厳密には受けるんですけど、日常的に依頼を受けるっていうと語弊があるというかですね・・・・・・とにかく! グレードB以上は守護者と称されるんですが希少な戦力なので優遇されているわけです!! そのうえ依頼内容が用心の護衛だったり、その地に留まることだったりと契約期間が長いので3ヶ月なんて縛りはそもそも不可能なんですよ。イカリさんも将来はそのレベルを目指せるように頑張ってくださいね!」
グレードB以上は守護者。文字通り魔獣から人類を守護するってことなんだろうけど。意外と低いグレードから優遇されるんだな。Cまでは日雇い、Bからは契約社員みたいなもんか。
「ところでリュシー。今晩から泊まる宿を探しているんだけど良いとこあるかな? 値段が手ごろで料理が美味いとこがいいんだけど」
「でしたら――「リュシー、この黒いのが新人ってわけ?」
リュシーの言葉を遮るように後ろからやってきたのは、威嚇するようにまなじりの吊り上った眼、赤い月色をした緩やかなショートカット、そしてしなやかな体つきが身軽な野生動物を思わせるような少女だった。
「リジル! グッドタイミングだよ! そう、今日登録したイカリさん。グレードEの認定は済ませてもらったから、教習をリジルに頼もうと思って」
「ふーん。体はなよっちいし、目つきは反抗的そう。これをリュシーはアタシに押し付けようってわけ?」
「えっと……リュシーもそろそろベテランだし。教習をしたらどうかなって、ほらイカリさん良い人そうだし、大丈夫だよ」
「良い人? これがねぇ? リュシーに色目でも使ってたんじゃないの?」
「もうっ! リジル、怒るよ!! とにかく教習役をやってもらうから。宿を探してるみたいだから叔父さんのとこにも連れてってあげて、ね?」
「……リュシーの頼みだから引き受けるけど・・・・・・アタシ黒って嫌いなのよね。こんな奴とこれから数日過ごさなきゃいけないなんて……今日から気が滅入るわ」
「ありがとう、リジル。イカリさん、こちらDランク冒険者のリジルです。不慣れなイカリさんの教習役として数日間付いてもらうことになります。それから宿ですけど、彼女の叔父さんがやっているんです。連れて行ってもらってくださいね」
渋々といった感じで此方を睨みつけながら返事をするリジル。見た目は健康的で可愛い少女なんだが、強烈というか、日本であれば危険物のステッカーが貼られることが請け合いだろう。なんとゆうか眺めるのはいいけど触れたくない感じの少女である。ともあれ紹介してもらっておいて挨拶をしないわけにもいかないだろう。
「イカリです、よろしく」
「・・・・・・フンッ」
「なっ・・・・・・」
鼻をならし、差し出した手をスルーしてギルドから出て行くリジル。おいおいコミュニケーション障害一級かよ。いや、ここでハッキリした事は円滑なコミュニケーションをこなすのに問題を抱えてるってわけじゃなく奴の性格が恐らくとんでもなく悪いってことだな。リュシーとは普通に話していたし。
「あの、ちょっと口は悪いですけど良い子ですから。その、仲良くしてあげてくださいね?」
「・・・・・・善処するよ」
「ちょっと! ウスラ黒! あんた叔父さんの宿にいくんでしょ!? さっさとしなさいよね!私だって暇じゃないんだから!!」
フォローしようとしているリュシーには悪いが正直、全く仲良くできる気がしない。いや、だって、ねぇ。あれはないだろう。親しみやすさって奴をどこかに忘れてきたに違いない。ああ、こんな時にピッタリの台詞があるな。全くやれやれだぜ。