第2話「ギルド」
【不可逆の両天秤<ファータム・ルーラー>】
幾多の可能性を天秤にかけ、束ねるスキル。制約・契約・誓約の順に効力が上昇する。
【識別眼】
鑑定眼のひとつ。2対象における相違点を見抜く事にたける。
相違点以外の情報は保有者のもつ情報に依存する。
【数値化】
感覚を定量化するスキル
【第六感】
きらりと光る第六感。これで採取も安心だ。
【ダブルアップ】
2倍賭け。同一行動時ダメージ・被ダメージ二倍
妖精クロトから必要になりそうな情報を聞き出した俺はいわゆる始まりの町ルエンヌを訪れている。クロト曰くアスガルドにおいて食には困らないフィレンツ公国で危険度の低い小都市らしく転生者にはここから始めることを勧めているようだ。
街中には門番にステータスボードを提示することで問題なく入ることができた。ステータスボードの信頼性は確からしい。基本的に盗賊・奴隷、検閲が必要になる商人以外は提示だけで入れるんだとか。
街中は規模でこそ現代日本の都市に劣るだろうが活気はある。向こうじゃ普通に暮らしている時に働いている人を見る機会なんて小売か土木建設系ぐらいだったからな。
「おう、兄ちゃん見ない顔だな。観光かい?」
「ん、あぁ東の方からね」
ひとまずは散策しようと石畳で舗装された大通りを歩いていると露店のおっさんから声をかけられた。彫りが深く、いかついおっさんだ。顔に似合わずパン屋なんてメルヘンな職業についているらしい。似合わねぇ……ジャムお○さんを見習えよ。顔にマイルドさが足りてないだろ。
「ならうちのバゲット買ってきな。フィレンツと言えばバゲットここらの常識だ。持ち歩いてれば変に絡まれる事も減るだろうぜ」
「ならひとつもらおうかな」
「毎度。5バーツだな。」
クロトからもらった巾着から銅貨を5枚だす。この世界では銅貨をバーツ・銀貨をシリル・金貨をガルドと呼ぶらしい。補助単位としてアーツがあるが街中で使われることは一般的でないようだ。それぞれに10倍価値の大通貨があり、アーツ表記なら(大)銅貨=10(0)アーツ、(大)銀貨=1000(0)アーツ、(大)金貨=100000(0)となる。
「じゃあちょうどね。そいえばおっちゃん、冒険者ギルドってどこにあるかな?」
「冒険者ギルド? それならこの大通りじゃなく、門を入ってすぐのところを右手に進めばあるぞ。でっけえ剣と盾の看板ぶらさげてるからすぐわかるはずだ。なんせあいつらあ外への出入りが多いうえ、荒くれが多いからな。門から近けぇ方が都合がいいってわけだ」
「なるほどね。ありがと、おっちゃん。しばらくはこの町に滞在する予定だからまた来るよ。」
おっさんの店で買ったパンは硬かった。メルヘンじゃないのはおっさんじゃなく異世界のパン屋だったんだな。
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おっさんに聞いた道をいくとなるほどでっかい看板をぶらさげた建物が見えた、モチーフは幅の広いツーハンデッドソードに重厚というに相応しい大盾。勇ましさは伝わってくるが組み合わせとしてどうなんだよと思わざるを得ない。某狩ゲーのごとく武器でガードするのもどうかとは思うけどさ。
「いらっしゃいませ! 本日は依頼の申し込みでしょうか?」
扉を開けると右手から元気に声をかけられた。右手がカウンター、左手が酒場だろうかまだ早い時間だが数人が設置された椅子に座り、くだを巻いている。一通り横目で見渡した跡受付嬢の方に向き直って答える。
「あーと、今日はギルドに登録したいと思ってきたんだけど。すぐにできるものなのかな?」
「そうでしたか! 今の時間でしたらすぐにできますよ。あ、登録に銀貨1枚が必要になりますが大丈夫ですか?」
しっとりとした茶髪、健気可愛い感じな彼女に銀貨を取り出して答える。
「りょーかいしました! であれば一番奥のカウンターまでどうぞ!」
ギルドへの登録は引き続き彼女が対応してくれるようだ。街中で武器を持ち歩いている人間は少なくなかった。閑散としたギルド内を見るに冒険者という職業は朝早くおき日が暮れる前に帰るというのが基本的なスタイルなのではなかろうか。ともあれそうした時間帯を避けて訪れた方が丁寧な対応を受けられるのは異世界でも同じだろう。明日からもこれぐらいの時間に来よう、そうしよう。
「それでは冒険者ギルドへの登録と簡単な説明を行わせていただきます、リュシーです。これからよろしくお願いしますね! まずは登録の方からですね。このプレートの上に手をかざしてください」
奥のカウンターへと移動する彼女、リュシーへとついていき促されるままに白金色のプレートに手をかざすと手のひらから何か吸われるのがわかった。驚きから手を離すと土台の上にそれよりは幾分か小さく薄いプレートが置かれていた。
「えっと、イカリさんでいいのかな?は魔力持ちの方だったんですね。このプレートは誰もが持っている微細な魔力を吸収して、それを元に本人を証明するものなんですけど、戦闘において魔力を利用可能な職業に付いている方、いわゆる魔力持ちの方だとそれが分かるみたいなんです。特に害はないので心配しないでくださいね。ただボード・プレートともに神々との誓約に基づいたもので事実の範囲で表記を変更する事は可能ですが、偽造・詐称すると奴隷落ちしてしまうのでそこだけは気をつけてください。イカリさんの職業は……えっと、なるほど。頑張ってくださいね!」
職業を見てぎこちない笑みを浮かべこちらへプレートを渡しながら言うリュシー。激励っていうよりかは、憐憫まじりに励まされてる感じだなぁ。遊び人って不遇職業なんだろうか。まあ初対面で職業は遊び人ですなんて言われたら正直引くよな。言ってはないけどステータスの信用が口頭を上回ってるんじゃ似たようなもんだ。これから先ステータスプレートを提示するのにも何か対策が必要かもしれない。ステータスボードの詳細を見る限りでは弱いというわけでは無さそうなのが低いか……
「ま、まあ元気だしてくださいよイカリさん! これからじゃないですか! イカリさんの冒険は! Dランクに上がるまでにきっといい職につけますよ!!」
「え、あぁ、ありがとう?」
「となればこうしてはいられませんね! ぱぱっと説明は終わらせて行動に移りましょう! そうすればきっと、イカリさんにも輝かしい未来が! !私もサポートさせていただきますよ!」
「・・・・・・」
どうやら俺はリュシーのことを少し勘違いしてかもしれない。彼女はおそらく愛嬌がいいって以上に……かなり熱い娘だ。