第1話「ステータス」
「夢......で済ませるには些かならず分が悪いか。それにしたってもっと送るに適した場所ってのがあるだろ……異世界の地理なんぞさっぱりだし、人里に辿りつける気すらしねーぞこれは」
辺りは一面の緑、見上げた先は果てしない空、建造物などまるで見当たらず、おまけに得体の知れない生き物が飛んでいる。生前であれば与太話だと一笑に付しただろうか。しかし病床に伏せっていたことも、神とおぼしき存在と対面したことも確かに記憶しており、何よりも直感がこれは現実だと告げていた。直感に頼る方ではないが、それ故に直感の大切さというものを知っているつもりだ。
「それに関してはご心配なく」
「うぅおぉぉ!」
一人嘆息していたところに、横合いから突如としてかけられた声に飛び上がる。
小人、宙に浮かぶ小人、透きとおった羽。
「妖精? 」
「はい。主神カルケーより案内役として遣わされました、デピュリーピクシーのクロトと申します。以後良しなに」
鼻先に飛んでくるなり抑揚のない声でそう言った妖精は金髪、ジト目、手の平程の大きさ。
驚きの余り頭がまわらないので困惑のまま聞こえて単語を繰り返す。
「主神カルケー?」
「はい。Ver3.0アスガルド主神カルケーです。」
「デピュリーピクシー?」
「主神の業務を代行するピクシーです。主神カルケーより異能の貸与がなされた場合、神々の1柱ともされます」
「わけが分からん」
クロトとやらの無機質極まりない説明を聞き、思わずしゃがみこんだ。
思えば神らしき存在も別の世界に転生してほしいの一点張りで、この世界についての説明はしなかった。目の前の妖精、クロトにしたって聞けば答えてくれるようだが聞かれたことの事実について伝えるといった感じで要領を得ない。
「とりあえず現状とこの世界について説明してもらってもいいか?」
「かしこまりました。転生後の現状と世界についての説明は指示されています。異世界からの転生の場合、常識の剥離と混乱が予想されるため、転生者は現世から隔離された状態でその生を受けることになります。
現状、貴方はアスガルドという世界に存在していますが定着がなされていないために種族・年齢・性別・容姿から転生場所に至るまでを新たに設定することが可能です。とはいえ前世との剥離には違和感が生じるので転生条件は前世と同じ姿を無理のない範囲で若くした状態。あるいはメイキングの上で0歳からスタートすることが推奨されています。」
「・・・・・・なるほど」
内心でこそ自らを作り変えるなんてむちゃくちゃだと思ったが転生なんてことからして常識外だと思い直す。この際、理解できるかどうかは置いておいてできる限り多くの情報を得るべきだろう。
「今更1からやり直すのもな…・・・問題が無ければこのままでいい。この世界に差別はあるのか?例えば人種によるものだとか、身分によるものだとか」
「現状アスガルドにおいてヒト種に対する差別はありません。人口の8割をヒト種が占めており、都市圏においては少数派である、亜人・獣人などは軽視される傾向にありますが、ステータスのある世界ですから個人の資質がより重視されます。
身分に関してはステータスにおける職業が何よりも信頼されます。職業は任意による変更でなく、認識と格によって決められています。王族や貴族など生まれながらに職業を持っているもの以外は0次職と称される村人・町人などから始まり、適正のある行動を続けることで職業が設定されます。ステータスと唱えてみてください」
促されるままにステータスと唱える。すると眼前には半透明の板が浮かんだ。
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碇 孫六/男性/17歳/ガイア
種族:ヒト族(日本人)
職業:遊び人
位階:1
HP15(15)/MP19(20)/筋力7/耐久8/俊敏10/器用15/運9
『スキル』
ギフト:【不可逆の両天秤<ファータム・ルーラー>】
パッシブ:識別眼・第六感・数値化
アクティブ:ダブルアップ
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「今浮かんでいるものをステータスボードといいます。MPを1消費することで本人、あるいは任意の人物に対して自分の情報を開示できます。0次職はMPが0のため、ステータスボードの提示はできません。そのため提示することで最低限の戦闘能力を有することの証明しもなります。また前衛系の1次職もMPが0であることが多く、冒険者ギルドに加入し身分証としてステータスプレートを携帯することが一般的となっています。ここまでで何か質問はありますか?」
ステータスはRPGみたいなものか。割とベーシックだな。前衛のMPが0ってのは昔ながらの感じである。最近のゲームだと万能型が多いからな。
「位階ってのはレベルだと考えていいのか? それとスキルについて詳しく」
「位階は格を指します。レベルという概念が本人の格を示すのに対し、位階はあくまで職業に付随したもので職業の格を指します。いわば職業レベルですね。位階は職業上における任意の行動をなすこと、職業を認知されること、魔獣を討伐することで上がります。
スキルは大まかに分けて、ギフト・パッシブ・アクティブの三つに分けられます。ギフトはその名の通り神からの贈り物と認識されており、アスガルドにおける保有者は多くありません。特に本人の資質に依存するネームド【名前付き】保有者はごく少数です。もっとも送られてきた転生者はほとんどがこれを保有していますが。
パッシブはMPなどを消費しない常駐スキルです。習得は一般的に本人の資質に依存しますが代替行為による取得が可能なスキルも存在します。
アクティブはMPなどを消費して発動するスキルです。位階を上げることで取得できる職業スキルと日常で獲得できる一般スキルがあります。スキルの詳細に関してはボードを開いた状態で強く念じると確認できるので、後ほどご自身でご覧になってください。」