【9】
【9】
誰かが言っていた。
恋愛のその先にあるものは、家族になる事で恋には賞味期限がある。
恋に終わりがある事は、科学に立証されていると聞いた事がある。恋のウキウキとした楽しく感じるトキメキや情熱的な感情には限りがあり、その後に待っているものは穏やかな海のような安定した感情なのだという。
それは一般的に言われている事で、自分の抱いている感情が本当にそうなのかどうかは別の問題だと思う。
そのまま言葉を返されてしまったルカは、ふっと苦笑を浮かべていた。
賞味期限のある恋ならば、思うがまま味わいたいと感じるのはわがままだろうか。
「あぁー…やっぱり、つぶれている」
由佳と夏美が飲み物片手に戻ってくる頃には、彼女はもう夢の中におちていた。不満そうでもあり、ほんの少し満足そうな表情を浮かべて寝ている彼女を見て、呆れたため息を吐き出す。
「やっぱり?」
「見てのとおり、一杯飲むだけでもこうなるから…サークル仲間の飲み会とか参加してこなかったのよ、この子。ま、たぶん、信頼できるメンバーだから飲んだのかもしれない」
「…知らなかった。でも、なんで?」
私は寝息をたてて眠っている彼女に視線を向ける。
いろいろ飲み会やら女子会から誘ってきていたから、てっきり頻繁にそういう会に参加しているものだと思っていた。誘われたという事は彼女自身も誘われていたはずなのに、なぜ?
「君の事が知りたくて話したかったらじゃないの? そうでなかったら、俺なら誘いもしないけど…?」
ルカがそう言うと由佳は嬉しそうな表情を浮かべ、夏美はそういうものなのかと納得した表情を浮かべた。
「そっか、新山さんってチャライんだ」
夏美のその一言に、ルカがガーンとショックを受けているのを見て、私も由佳も思わずクスっと笑ってしまう。
「?」
きょとんとした表情を浮かべている夏美に、「俺はチャラクない」と抗議する彼女にさらに夏美は追い打ちをかけた。
「じゃあ…プレイガール? んー、違う…アキラみたいな感じだから…あ、プレイボーイ♪」
両手でぽんと叩き、楽しそうな笑顔を浮かべてとどめをさしている。
この子、見かけによらずにエスだ。絶対、エスで小悪魔だ。好きな対象をからかって遊んで楽しむタイプに見える。
「…ッだから、違うって!」
「冗談です。ちゃんと分かっていますから」
ふっと笑みを浮かべて夏美はそう言うと、そのままルカの持っているコップをとって
自分の持っているコップと交換する。
「それ、アルコールかなりキツイから返しなさい」
「ダメです。ルカは、そのノンアルカクテルにしてください」
「ね、あのアルコールって…」
透き通るような薄茶色の大きめの氷が入っているコップを見ながら、由佳に中身を確認すると思った通りの答えが返ってきた。
「ウィスキーのロック」
「だよね」
取り返そうとするルカに対して、由佳は夏美からコップを受け取るとほとんど一気と変わらないようなスピードで飲み干して空のコップを満面の笑みで見せた。
「ごめん飲んじゃった。ルカはそのノンアルね、最近飲み過ぎているでしょ?」
「…はい」
しぶしぶ納得してノンアル飲むと、甘いと困った表情をルカは浮かべている。
「ありがとう」
小声で私はルカにお礼を言った。
本人にとってはさりげなく言っている事に、大切な物を気づかせてくれて助けられている。本人には言う事はないけれど、さりげなく助けてくれるという意味でルカは「王子様」だったのかもしれない。
この飲み会に来て本当によかったと思う。相手の気持ちを決めつけていた事や、少しは希望を抱いてもいいのかもしれない。告白する事はしないけど、たぶん、大学を卒業してもたまに飲みに行く事は、これから先もできそうだ。だから、今ではなくていつかは自分の気持ちを伝えてみようと思う。急な変化はなくても、きっかけに気づかせてもらえたのだから。
END
このお話はこれで完結します。
お読み頂きありがとうざいます。