【4】
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俺が女性を好きだと気づいたのは、高校の頃だった。
男性に全く好意を抱いた事がなかったのかというとそういうわけでもない。ただ、恋愛感情ではないと気がつくまでに時間がかかった。自分の性について考えれば考えるほどにどちらなのか分からなくなっていく。結論は、「俺」は「俺」だというシンプルな結論だった。たぶん、男性の部分もあるし女性の部分もある、それが俺だから無理に決めつけなくていい。そんなシンプルな結論に気がつくまでの間、自暴自棄になって酒を飲みながら、酒に弱い俺はいつか早くに死ねるだろうか、なんて考えてしまっていた事もあった。
でも、今は「俺」は「俺」である事に気づけているし、こんな俺を好きだと思ってくれる人がいる。少しでも長く傍にいたいと思える人と出会えて、自分の痛みをみせてもいいと感じられるようになっている。その事に気づくまでに感じた痛みが、俺の弱さであり痛みだ。
相手が信じきれる信頼できるのであれば、後悔をする前に自分の気持ちを伝えた方がいいと思うし、背中を押したいと思う。
「あ、ルカ…一週間ぶりだね」
教室に入ると顔なじみの子がそう声をかけてきた。彼女は、由香。同じ部活に入部しすごく綺麗な声をしていて、将来の夢は声優になる事で、カラオケに行った時に聞いた彼女の声は声優に向いていると素人ながらにそう思った。
「早い到着だね、いつもギリギリなのに」
「いつも遅刻ぎりぎりなわけじゃないから」
苦笑を浮かべてそう答えると、「それもそうか」と笑っていた。
机の上にレポート用紙と筆記用具を広げると、別の授業で出されているレポートを手書きで書き始める。
「課題?」
「そ、明日までの締め切り。今日は飲みに行く事が決定したから、片づけておこうかと」
「ふーん、珍しい。…明日は雨ね」
「あのね、俺はいつも締め切り守りますよ」
「そうね、ぎりぎりだけどね。書き上がるのが、一時間前、とか」
「うっ…」
「最近、放課後に部室に顔を出さない事があるけど、何かあったの?」
「あぁー、うん、ちょっとね」
「そっか」
「でも、なんで?」
俺は顔を上げて彼女に視線を向ける。
「ううん、なんでもない」
どこか嘘を言っている口調で彼女はそう言うと、俺から視線をそらした。
「そう?」
あまりその後は何も問いただす事なく、俺はレポートを書く作業をした。