【2】
読んでくださり、ありとうございます。
全部で【10】までいけたらいいなぁと考えています。
できたら月曜日に更新予定でいます。
【2】
私は、自分の気持ちに対して前向きになれる事がなかった。
心の片隅で、周囲の人間を完全に信頼できていなかったせいで、伝えない方が正しい。自分の感情を知られたら、周囲の人間は攻撃してくるのだと思っていた。攻撃されないためには、知られなければいいのだと。知られないように言わないという事は、苦しさをましていく要因にもなった。恋の話をすれば異性の事だと思われてしまい、嘘をつき続けていく事に疲れてしまう。
仮面という言葉が気になるのは、そのせいだと思う。好んでつきたくない嘘を、攻撃されないためにつき続けていくための仮面を、私はいつまでかぶり続けていかなくてはいけないのだろう。
自暴自棄になっている頃、この大学でルカに出会った。
ルカの隣にいるのは居心地がいい。何かをしてくれるわけでもなく、ただいつもそこに変わらずに居てくれる。そして、自分の気持ちを隠そうとはしていなかった。悩みがなかったとは言えないのかもしれない。それでも、ルカはどんな時でも、未来を見て前を向いて生きている。
だから、私も前を向いてみようと思えた。
「だから感謝している」
ふと笑みを浮かべてそう言うと、不満そうな表情を浮かべていたルカが私を見る。
「それはどうも」
照れたような笑みを浮かべてルカは自分のノートに視線を戻した。
「ね、人魚姫シンドロームって言葉知っている?」
「知らない」
「大人になりきれなくて、相手を追いかける人の事を人魚姫シンドロームっていうらしい」
「?」
よく分からないというような表情をルカは浮かべている。
「それは、肉食系女子と同じ意味?」
「まぁ、大体は同じ意味かも」
「何が違うの?」
「私もつっこまれて聞かれると答えられないかな。ネットで検索したら出てきた」
「ふーん」
「たぶん、ルカみたいなのを人魚姫シンドロームっていうのかなって」
「……」
ルカは視線で、姫って柄じゃないだろ?と少し嫌そうに眉をひそめる。その反応を見て、私はもっとからかってみる事にした。
「ひーめ」
「さてと、レポート書かないと」
わざとらしく声に出して、ルカがペンを取りだして珍しく真面目にレポートにとりかかり始める。大体この部室にいる時には、真面目に勉強のために立ち寄らないのに。
「姫が相手してくれないと寂しいなぁ」
「……」
聞こえていないフリをしている。一見何も反応していないように見えて、さっきから一文字も書き進めていないのを確認する。
「ごめん、少しからかいすぎたかも。・・・私もね、人魚姫シンドロームかもなぁって思う時があったんだ」
「そうなの?」
「そうなの」
報われる事が両思いになる事だというのならば、人魚姫はなぜ報われる事がない可能性も知りながら王子を最後まで愛し続ける事ができたのだろう。
振り向いてくれると、最後まで希望をもって諦めていなかったからだろうか。
それとも、どうしようもないほどに王子を愛してしまっていたのだろうか。
「上手くは言えないけど、人魚姫シンドロームではないと思う。俺は大人になりきれていないけど、君は大人だから」
ルカは苦笑を浮かべてそう言った。