闇と鬼
知ってるかい?
人という生き物は必ず、誰しも心に
闇を持ち鬼が住み着いて不安定になってしまうんだ。ポジティブだったりネガティブだったり…。
時には人を傷つける。
闇を持ってしまうと鬼が来る。
今回の妖かしは少し違う。
『お兄ちゃん!明日誕生日ピヨ!』
『誰の?』
『……ビヨっ!お兄ちゃんのピヨ!』
『あー。明日誕生日か』
『だから一緒に寝るピヨ!』
『勇…お前怖いんだろう?だから観るなって謂ったんだ』
『仕方無いピヨ!CM観たら気になるピヨ!』
『何ハマってるんだよ?眠れなくなったって俺は知らないからな?』
『ビヨー!一緒に寝るピヨ!』
『駄目だ』
『何でピヨ…』
『寝返りしたら潰れるかも知れないだろ?だから駄目だ』
『あんな幽霊が出たらどうするピヨ!』
『出ないから安心して寝ろ』
『あー!消さないでピヨ!まだ心のじゅ…あ…ピヨ…』
恭祐はお構いなく電気を消した。
『何で消すピヨーーーー!』
『煩い。寝ろ』
そして翌朝。
勇は一睡も出来ず恭祐の隣で目を赤くしていた。いつもと同じく、勇を制服のポケットの中に入れ登校したのだった。
『もう怖い番組観るなよ?』
『ピヨ…』
『あっ!宮澤くーん!』
『松丘。おはよう。今日は河辺と一緒じゃないんだな?』
『おはよ。ええ。何か体調悪くしたみたいで休むって』
『そっか。ここんとこ寒いからな』
『本当よね。でも男子は良いわよねぇ?暖かそうでぇー?』
松丘はそういいそう謂いながら恭祐を上から下まで身を配らせた。
恭祐は苦笑いをするしかなかった。
教室まで辿り着くと二人は目を合わせた。
いつも元気なタケシが居ないのだ。
二人は悟った。タケシと恵は昨日の夕方デートを楽しみ風邪を拗らせたのだ。
文化祭から二カ月経ち寒さは一層増していた。
『なる程』
『うんうん。馬鹿ね』
その時、成実が声をかけてきた。
『よ!おはよ恭祐!昨日の観たか?リアルだったよなぁ?!俺鳥肌立ちまくったぜ』
『やらせの割りには怖かったよな』
『何?もしかして成実君ビビり?』
『え…松丘ちゃん…そう見える?』
『勿論』
『くっそー!じゃ、今度遊園地行ってお化け屋敷でも…』
『駄目よ。テストが近いんだから行かないわよ!』
『恭祐は?』
『俺は雛の世話が忙しいからパス』
『世話って外に出るときポケットの中に入れてるだけじゃん!』
『じゃぁ寒いからパス』
『何で?!俺誤解されたまま?!』
『さっき松丘も謂ってたろ?テストが終わってからにしろよ』
『ちぇー』
『あ!忘れるところだった…宮澤君今日誕生日でしょう?此、プレゼント』
『あ…そうだった。…有り難う』
『ついでに明後日誕生日の成実君のもあるわ』
『俺ついで?』
『十八歳おめでとう』
そしていつも通りの一日が始まった。
ただ違うのはクラスの半分が休みだった。一時間目は数学の先生が欠席の為自習となった。
担任の矢井田加奈子が少しそわそわしている。恭祐は何気に”眼”を使った。
矢井田の側に黒い影があった。
人の形にも視えるが今まで視てきた霊達とは何かが違う。
前に勇が話してくれた事を思い出す。
”闇を持つ霊が時々人間の心の隙を狙いとり憑く”という話。
暗く冷たい嫌な感じ…。
『先生』
『なんだ?どうした?』
『あ…いえ…』
矢井田はたまらず恭祐の席まで近づく。
やはり黒い影も…。
(やっぱり狙いは先生か)
『少し顔色が悪いみたいですけど…』
『そうか?…少し寒いが…出よう』
『恭祐…何かしたの?』
後ろの席の木村春夫が声をかけてきた。
『大丈夫。何もしてないよ。すぐ戻るから』
『ギロチンの刑?』
『成実、何か謂ったか?』
『謂ってません!』
『ならいい』
二人は相談室へ向かった。
『いや…悪いな。…朝からって訳じゃないんだ。学校へ着いて暫くしてから何か…。宮澤。お前自習が始まってから私を見ていたな?いや、右肩後ろを』
『…あ…気づいてたんですか…』
『まぁな。私を気にかけてるのかと思ったが…』
『違います』
『シバくぞ?早いんだよ否定するのが』
『あはは…』
『なぁ…宮澤…お前視えるだろう?』
『……』
『隠す事はない。事故に遭ってからお前は時々ぼーっとして時がある』
『…あ…』
『居るんだろう?私の後ろに…』
まさか矢井田に気づかれていたとは…。
恭祐は面食らった。確かに授業中浮遊する者に意識を集中させる事があった。
しかしそれは矢井田や他の先生が机に座っている時だけだ。
自分が気づかないだけで
矢井田はその様子を見えていたのだ。
『はい。変な人間ですよね』
『そんな事は無い。私も”視える人間”だからな。宮澤、お前は選ばれたんだろう?特別な力を貰った。それだけの話だ。…恥じることは無い』
『…有り難う御座います。けど視えるのにどうして?』
『こいつは亡き者の霊じゃない。さっきまで判らなかった』
『さっきまで?』
『お前が声を、かけるまで。きっと霊感の強いお前に影響されてるんだな』
矢井田は久し振りに感じたのだという。
今日まで”力”を使う事は無かった。彼女は子供の頃生き別れた両親のことを恭祐にだけ話した。すぐ側で見守っている事は判る。だが両親を視る度泣いてしまっていた。安心して成仏して貰える様、力を使わなかったと…。
そうすれば悪戯にやってくる
霊達に追われる事ない。憑かれる事もない。
『そうだったんですか…』
『で、こいつはやっぱり…』
『鬼です』
『そうか…』
矢井田はとんでもない者に憑かれてしまったとボヤいた。彼女は”鬼”に狙われていることを認めたくなかったのだろう。
影は恭祐の目の前にやってきた。
嫌な予感がする…。恭祐の闇を探すかの様に…。
『それ以上お兄ちゃんに近づくなピヨ!』
勇が制服のポケットから飛び出すと白い煙りに包まれた。勇は姿を白く大きな鳥と化けた。目は透き通る様な青い目、尾は綺麗で凄く長い…。
勇は鬼を蹴散らした。
『勇…』
『鳥…?』
『先生すみません!実は…』
『僕はお兄ちゃんのツキビトなんだ』
『頭の中に…こ…声?!…しかし動物は…』
『動物の姿になっているだけなんです。本当は…』
『よく判らんな。話は後で訊く。他の先生方にバレるなよ?!』
『有り難う御座います!』
勇はまた煙りに包まれると雛に戻っていた。
『さっきの鬼は逃げただけでまた戻ってくるピヨ』
『ピヨ吉…』
『ぷっ!』
『っっ?!』
『ん?あー!勇ちゃんだったね!』
『”君”の方ピヨ!』
『ええい!何でもいい!ピヨ吉決定!』
『勇だピヨ〜!』
『ピヨ吉!ちゃんと宮澤を守れよ?何せ私の生徒なんだから』
『勇だピヨ…僕は勇ピヨ…』
『…あれ?』
恭祐は鬼が立っていた場所を見ると
何か黒い石を見つけた。
手に持ってみるとしっくりくる物だった。
『なんだそれ?』
『あいつが立っていた場所にあったんです』
『黒い石か…へぇ〜』
『先生が持っていて下さい』
『いいのか?…判った』
矢井田は恭祐から石を受け取ると大事そうにティッシュで包みウォッチポケットへ閉まった。
勇は片隅でぶつぶつと落ち込んでいた。
恭祐と矢井田が教室へ戻ると真っ先に成実が二人に駆け寄って来た。
成実の話によると二人が出て行って暫くしてから黒くらい大きな影が教室の扉から入り外へ向かって行ったという。
その直後、教室全体が激しく揺れたそうだ。
全員廊下へ出たが廊下は何ともなく
静かだったというのだ。
『ただ事じゃ済まないみたいですね』
『困ったなぁ。私だけの問題じゃないのかなぁ…』
『なぁ信じてくれよ!本当に激しく揺れたんだよ!』
『本当よ先生!』
『信じるから席に着け!』
矢井田がそう謂うと生徒全員ガタガタと音を立てながら自分の責任へ戻る。念のため他の教室も揺れなかったか訊く事にした。
『揺れですか?いえ、ありませんでした。ただ、地響きみたいな音はありましたけど…』
『そうですか。授業中申し訳ありませんでした』
矢井田は全て訊き回ると自分が受け持つ教室へ戻って行った。
『揺れたのはこのクラスだけらしい。後の事は私と宮澤で調べておく!』
『俺?!』
『俺だ。何か?』
『い…いえ…』
(断ったら何されるか…)
(ピヨ吉…ピヨ…)
『お前やっぱり何かやったのか?』
心配した春夫が恭祐に訊いた。
『いや…これといって何も…』
すると…。
「もし、もしそこの少年…」
『ん?…うわぁっ!』
『何だ?どうしたの恭祐?』
『どうした?宮澤…』
『ちょっと…席を外します…』
『…大変だな…早く済ませて来いよ?』
『はい』
『保健室か?』
『まぁ、そんなところ…』
恭祐は声をかけてきた霊を連れて教室を出ると、矢井田と使った相談室へ向かった。
「申し訳ない。視えているのは君と先生の二人だけだったんだね」
『はい。あのどんな用件で?』
「うん。鬼の事なんだけどね。あいつが井戸から出てしまったんだ」
『井戸から?』
「学校の裏にあるだろう?」
『うーん…ごめんなさい…判らないです』
「それじゃ放課後案内しよう。君ほど力が強ければ封印が出来るだろう」
『俺?…そんなに強いんですか?』
「勿論。ポケットの中に居る勇君もね」
『そうピヨ!僕は勇ピヨ!』
『元に戻った』
『えっへんピヨ!』
「あ…申し遅れたね。私は西田照之。宜しく」
『俺は…』
「宮澤恭祐君。…だろ?」
『はい。此方こそお世話になります』
「ああ。鬼を封印するのは大変だから呉々も気をつけて」
『西田さんも』
「ああ。けど鬼を封印するとき、おとりが必要だろう…」
『なら…俺が…』
「駄目だ。それは私がやろう。井戸の中へ上手く誘い込む」
『けど…』
「君には心配してくれる人達が沢山いるだろう?」
『……判りました』
「良い子だ…」
昼休みに入ると恭祐は矢井田を捕まえ、西田の話をした。
『あの井戸かぁ…あの”封”と書いた札は鬼を封じていたって事か…。ん?まさか…その封印を…』
『そうらしいです。その西田さんが見張りをしていた時…三十代位の男性が何か謂いながら破りとったらしいです…。えと…』
『何だ?謂ってくれ』
『矢井田加奈子に闇をもたらせ…と』
矢井田は愕然とした。
心当たりがあるように…恭祐には見えた。
だが、それはきっと気のせいなのだと…。
自分に謂い聞かせた。
だが…。
『もし、心当たりがあるなら…』
『五組の住田に告られたが…』
『告られたぁ?!』
「はぁ…男盛りが好みですか…」
『…悪いか?告られては?』
『あっ!すみません!つい…』
『つい…か?』
『その人じゃないピヨ!別の人ピヨ!』
『ピヨ吉…お前その場にいたのか?』
『ピヨーーーーっ!』
「あ…引っ込んだ」
『他には?』
『他にかぁ…うーん』
『ありますか?』
『うーん。父の饅頭の盗み食い…いや違うな。山口の鞄をあさってエロ本…いや、これも違うなクラス全員に内緒でケーキ…いや、これも無いな』
(俺達の担任ろくな事してないのかな…)
「自由人なんですねぇ」
『逆恨み…とか?』
『まさか…それは…』
「君は過去を視ることが出来ないかい?」
『先生の過去…?』
『私の過去?』
『井戸の?……』
「やってみましょう。もしかしたら彼の顔が判るかも知れない」
『それなら、放課後井戸へ行こう』
『…先生…視えてるなら俺を通すのを止めて下さい』
『告白の話で目を丸くしてたからな?お前達君?』
『う…』
「はっはっはっ!こりゃ一本取られたねぇ!」
今回も 妖かしを読んで頂き
有り難う御座います。
コメントや評価があれば
物凄く嬉しいです




