先
数時間後、休憩室へ三人入ってきた。
『しかしあいつどこで油売ってるんだ?』
『真面目な人だから心配してるんだな?』
『けどさ…あ…』
自販機で珈琲を買おうと一人が
床に転がっているブラック珈琲を見つけた。誰かの落し物だろうと視線をもどそうとした時…。
『何だよ?早くしてくれ。時間なっちまうだろう?』
『そうだぞ?…ん?』
『た、た…谷村さんッ!』
椅子とテーブルが幾つか並ぶ影から
居なくなっていた社員を見つけた。
彼は壁に背を預け身体をダラリとさせながら口から泡を噴いていた…。
『何?何処だ?』
『あそこ!』
男は震える人差し指で
谷村という男を差す。
二人は指し示す方へ視線を送る…。
『『谷村ッ!』』
『僕…救急車を呼びますッ!それと部長へも知らせてきますッ!』
彼は駆出すと自分の部署へ戻り
デスクまで辿り着くなり受話器を手に取り電話をかけ始める。
それを見ていた同期の男が何事かという顔をしている。
彼が受話器を置くのを待つと話しかけた。
『谷村さんが休憩室で泡を噴いて倒れているんですッ!』
『『えぇッ!?』』
室内に残っている社員も椅子から立ち上がり休憩室へ駆け込む者も居れば
ただ驚いて口を塞ぐ者も居る。
室内はどよめいていた。
『部長は真っ直ぐ休憩室へ行くそうですッ!』
そう言い残し彼はまたあの休憩室へ
戻って行った。
暫くすると救急車のサイレンと警察のサイレンが近づいてきた。
その頃、恭祐達は社員食堂で
受付の女子二人と昼食をとっていた。
『何か騒がしくないか?恭祐?』
『警察と救急車…何かあったんだろうな…』
向かい側に座る受付の女子も気になるのか窓の近くまで行き下を見る。
その頃丁度到着した様で警察の人間と
救急隊員達が担架を押しながら中へ入って行くところだった。
『うちの会社みたい…』
『本当…誰か倒れたのかしら?』
ズキンッ!
『っッ!』
『恭祐?』
『頭が…』
『どうしたんだよ?』
恭祐は急な頭痛で両手で抱え込む。
痛みは激しさを増し声が聞こえてきた…。
「おいで…おいでぇ…」
その声と共に何階なのか判らないが
休憩室で泡を噴いき倒れている男が
ビジョンで視えた。
『誰か…あの老婆にやられたらしい…ぅ…何処の階かまでは判らないけれど……休憩室で倒れて…』
『おい本当大丈夫か?恭祐…』
立ち上がろうと試みた恭祐だが
激しい頭痛が頭全体に広がり彼は倒れてしまった。
その拍子にポケットの中に居た勇が霊体の姿に戻りタケシの後ろへ立つ。
『恭祐?!』
タケシは倒れた恭祐の上半身を起こす。
「お兄ちゃんもあいつに当てられたんだ…このままだとお兄ちゃんも休憩室で倒れている人も危ない…」
『……マジかよ…』
騒ぎに気づいた女子達も恭祐が倒れている場所まで小走りで戻って来た。
『宮澤さん…ッ!』
『うそ…何があったんですか?!』
『頭を抱えながら立ち上がったと思ったら…急に倒れたんだ…俺、こいつを処置室へ運んでくるよ。ごめんな…昼、台無しにしちまって…』
『いえ…此処は私達に任せて下さい』
『有り難う』
そう謂うとタケシは恭祐をおぶり
小さな勇と処置室へ向かった。
向かっている間、勇は暗い顔をしていた。
誰も居ないエレベーターに乗り込むと
勇は話しだした。
「僕の力が戻っていないから…お兄ちゃんは霊気に当てられちゃった…」
『運が無かっただけだろ?こいつの。そう落ち込むなよ?こっちまで暗くなる』
「だけど…」
勇はおぶられている恭祐を見る。
やはり頭痛が酷い為眉間に皺を作っていた。
『こいつが駄目なら俺とお前で何とかしようや?最悪な場合は俺の身体を使ってくれても構わない』
「え…でも…」
『身体を貸すと見返りがある事は恭祐から訊いて知ってる。けどそんな事をどうこう謂ってる時じゃねぇだろう?』
「覚悟、出来てるんだね…」
『あたぼーよ。俺はこいつの親友だぜ?恭祐が危ねえなら力になる。ま、こいつは嫌がるだろうけど逆の立場でもこいつは俺と同じ事をする。だろ?』
「うん!」
『決まりだ』
エレベーターの扉が開く。




