…て下さい…
今回から幽霊たちだけでなく
妖怪の存在も…。
そして、和服の女が恭祐に…?
夕食が終わると四人は売店へ入った。
流石苺が有名なだけキーホルダーやストラップなどになっている。
奈留と恭祐はそれらを見て
同僚や友達への土産として数個買った。
食べ物は明日買って帰ればいいだろう
そう考えていた。
暫く見ると卓球をやり汗をかいたという事もあり、部屋へ戻って中と外にある
浴槽に湯をはった。
『小さい露天って感じなんだな』
『恭祐はどっち入る?』
『俺はどっちでも構わないよ』
『俺は外だなぁ~』
『お二方何を話してるの?ねぇ?奈留ちゃん?』
『わぁ!外にもお風呂がついてるのね』
『もしもーし』
『あ、ごめん。多分中と外どっち入る?とか話してたんじゃないかな?』
『奈留ちゃん正解!俺は外の解放感を満喫するよ』
『ほらほら、まだ出来ないから部屋へ戻るぞ。此処で四人溜まるな』
『きょんきょんのイケずーぅ』
『河辺、タケシを頼む。ちょっと飲み物をそこの自販機で買ってくる』
『承知!奈留ちゃんは付き添うの?』
『…いや、奈留も此処で待っていてくれ。袋持つから気にすることはないよ』
『うん…判った』
そういうと恭祐は財布とビニール袋を持ち部屋を出た。
和服の女はドアの反対側に立ち、顔を伏せている。彼へには言葉をかけず
ずっと足元を見ているだけだ。
恭祐はアルコールの自販機まで行くと
数本、烏龍茶も数本買った。
『はぁ…本当はイケないんだけど…あ…』
「…て…下さい…」
今…一瞬言葉が判った。
恭祐は後ろに立つ女を横目で少しだが
捉える。
「殺されて下さい…殺されて下さい」
声がだんだん大きくなってきた。
彼の背筋に緊張がはしる…。
動きたいが何故か足が動かない…
してやられたか…。
女は後ろから腕をまわし恭祐を抱きしめた。女の頬が彼の頬と触れる…氷のように
冷たい。身動きが取れない。
恭祐の鼓動が早くなる…。
勇は?
彼の存在を気になった恭祐は勇へ
意識を集中させた。しかし、勇も何故か恭祐と同じようになっていた。
自販機の隣にある椅子で
顔を青くしていた。
「殺されて下さい…貴方、殺されて下さい」
部屋ではタケシが風呂の湯を止めていた。すぐそこの自販機で買うだけなのに
少し遅すぎる。
売店へまた行ったのか?
気になったタケシは奈留と恵に一言謂うと急いで廊下へ出た。
変な胸騒ぎがしていた。
夕飯の時に視たあの女…正直嫌な予感がしていた。勇も一緒だから大丈夫。
自分に言い聞かせていた…。
自販機までもう少し…。
『恭祐!』
『……』
(タケシ!)
タケシの声が聞こえた途端女は消え
身体が動くようになった。
『ピヨーッ!動いたピヨ!』
『何だったんだ…』
『恭祐…はぁ…はぁ…何してるんだよ
遅いから何か遭ったんじゃないかっておもったぜ…』
『ああ。“何か遭った”んだ』
『へ?』
『和服の女に捕まってた。身体は動かないし声も出なかった。勇までも…』
『何かされてたのか?』
『いや、後ろから俺を腕をこうまわして…“殺されて下さい”って…』
『はぁ?なんだそれ…それにピヨ吉までやられるなんて…』
『強いのか正直判らない。油断していたから余計…』
二人は廊下を戻る。
タケシは恭祐の左となりを歩く。
何気なく恭祐へ目をやったつもりが
彼の首筋に目をやった。
赤くなっていた…。
『恭祐…その首筋どうしたんだ?』
『え?』
『ここ、赤くなってるぞ?』
『首筋…?あ…』
そう、先程抱き締められながら
女の頬が当てられた事を思い出した。
恐らく、その時に“何か”されていた…。
しかし冷たかった事しか思い出せない…。
『何だよ?』
『ここ、女の頬と触れたときに出来たのかも知れない…』
『お前…“何かに”殺されるのか?』
『まさか…』
部屋へ戻ると二人は何かに怯えているのか互いの手を握っている。
そして…何かを見ている様だ。
部屋の奥へ入るとその原因が判った。
『恭祐君…』
『タケシ君…何してたのよ!』
『どうしたんだ?』
恭祐が訪ねると恵が窓を指差し
虫が入ったと訴えてきた。
一瞬和服の女かとおもったりもしたが
入れないようにしてある。
虫で良かった。と、安心した。
『ぶっちぶちのてんとう虫!』
『判った。外へ出しておくから先に汗を流しておいで』
『あ…はい…』
『恵ちゃん?どうしたの?』
『一つ提案なんだけど宮澤君』
『ん?』
『出た俺の彼女の“提案”』
『ん?』
『なぁに?』
『私と奈留ちゃんで中のお風呂入るから二人は外のお風呂入ろうよ?』
『脚下』
『なんで?安心して?水着あるから』
『脚下』
『なんで!良いじゃない?ね?タケシ君?』
『んー、んー?』
『奈留ちゃんは?』
『恥ずかしいよ…』
『仕方ない…じゃ、お先ね』
『恭祐君…てんとう虫だけじゃなくてね…カミキリ虫もなの…』
『判った。外へ逃がしておくよ。早く入っておいで』
『うん』
奈留もバスタオルを持つと脱衣場へ向かった。
少しすると外の方を選んだのか話し声と笑い声が聞こえてきた。
『賑やかだな』
恭祐は鏡を使い自分の首筋を見た。
タケシの謂うとおり赤くなっている。
けど、奈留には見えていない。見えていれば誰もが気づくはずだ。
『騒がしいよりましだな』
『成実か?』
『あいつは一人で騒がしいからなぁ』
『それならタケシも負けていないだろ』
『ひど!酷いわきょんきょん!』
『ピヨ…お兄ちゃんのその赤いやつ…印かも知れないピヨ』
『印?』
『訊いてませんのね!って印って?』
『狙いをつけたって事ピヨ』
『幽霊だろ?そんな事しないだろう?』
『そうだぞピヨ吉。さっきのだって幽霊だろうけど…』
『僕、勘違いしてたピヨ。幽霊は最初此処に来て成仏させた人と廊下いた数体ピヨ。残りは幽霊に成り済ました妖怪ピヨ』
『幽霊も妖怪も同じみたいなもんだろ?ピヨ吉?』
『違うのか?』
『妖怪と幽霊の区別は力があれば視えるけど、妖怪は滅多に視ないピヨ』
『そうなのか?』
『ふぅん…』
『和服の女は?』
『幽霊ピヨ』
『俺は妖怪信じない』
『ピヨピヨピヨピーヨッ!』
(タケシはあれだし…勇は何やら遊び始めたし……其れにしても幽霊だけかと思ってたけど本当に妖怪が…?此処は念をもつ幽霊が多いのか?悪霊から消えることのない妖怪へなったとでも?駄目だ…判らない…)




