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 妖かし   作者: 三日月
30/39

和服の女

恭祐達が作業をしてる間

彼女達は湯に浸かっていた。

露天と謂うこともあり解放感がある。





『気持ちいいね奈留ちゃん』

『うん!最高だよね!』

『ねぇ、宮澤君との出逢いってどうだったの?』


『え?』


『出逢いよ。きっかけって有るじゃない?』


『うん…確かあれは…』




ー あたしがいつも通ってた図書館があってね?そこで必ず宿題をやってから家に帰ってて、小学生の時だったかなぁ…。


六年生最後の夏に図書館へ行くと

隣のクラスの恭祐君が窓際の机に座っていたの。あたしの指定席が彼の斜め前でね…席についてドリルとノートを開いてやりはじめたの。



この時彼も同じように夏休みの宿題をやってたわ。



国語、算数を終わらせてワークを取り出して苦手な社会をやってたら、彼が話し掛けてきたの。





『そこ、間違えてるよ』


『え…』




恭祐君て社会得意みたいで教えてくれたの。丁寧でとても解りやすかったわ。

翌日も行くと同じ席に座っていたから一応挨拶はしたの。




『今日和。恭祐君』

『今日和』




そんな会話だけど、憧れてたから

嬉しかった。


次の日もまた次の日も彼がいたわ。





『奈留ちゃんて毎日来てるけど…』


『うん。あたし宿題は此処で終わらせてるの。家だと弟が居るから』


『そっか…俺は休みの日しか利用しないんだ』





其から中学生になっても続いてね

彼が図書館の出入口であたしをまっていてくれたの。


けど、その時に…。





『俺、転校することになったよ』


『え…』


『両親の都合とかでさ…父さんの仕事で…』


『会えないの?』


『んん』


『…少しいいかしら…』


『構わないけど』


『あの…あたし…』


『場所…変えようか』






気を使ってくれた彼は人気の少ない所を

選んでくれてね…もう心臓なんて破裂するんじゃないかってくらいドキドキしてた。けど、伝えないとって思って…。






『あの…有り難う…』


『んん』


『あたしね…あの時から…』


『うん…』





言葉を詰まらせると恭祐君が頭を撫でてくれたの。なんかホッとしちゃって涙が溢れちゃってそうしたら…優しく抱き締めてくれたの。





『無理しないでいいから、有り難う…』









『良いなぁ…』

『そうかな…』


『けど宮澤君らしいね』


『幼馴染みっていうのもあるけどだから余計なのかなぁ…よく判らない』


『ふふ』






露天風呂からあがると奈留が和服の女に気づく。恵は濡れた髪へタオルをあてる。




部屋へ戻る為エレベーターを待つ。

自分達以外の宿泊客が数人同じようにエレベーターの到着を待っていた。


暫くすると扉が開きスリッパの音を響かせながら乗り込む。



この時、先程見掛けた和服の女も一緒に乗って居たことに奈留は初めて気づいた。





(さっき一緒だったかな…)





きっと気づいていなかっただけ


そう思い直しエレベーターから降り

部屋へ向かった。

男の声が聞こえる。まだ二人は部屋の中だと二人は判った。







『ふぅ…気持ち良かったぁ!タケシ君達は未だみたいね?』


『あ、恵…いやぁ…なんか疲れちゃってさぁー、恭祐はシャワー浴びてたけどな』



恵がチラリと見る。確かに恭祐の髪は濡れていた。すると奈留が恭祐へ近寄り話し掛けた。





『恭祐君』


『ん?どうしたの?』


『うんんやっぱりいい。ごめんね』


『気になるんだけど?』


『でも…』






彼はタオル越しに奈留の頬へ触れる。

彼女は慣れているのか柔らかく微笑む。







『場所、変えようか』




恭祐はあの時みたいに奈留をべつの場所まで連れていった。


エレベーター前の自販機まで行くと奈留を付属されている椅子へ座らせた。

恭祐は飲み物を選ぶとボタンを押す。






『はい』


『有り難う』





次に自分の分も購入した。

キャップを開けると自販機に寄りかかった。






『…笑わないで訊いてね』


『うん』


『恵ちゃんは気づいてたかは判らないんだけど、脱衣場で和服姿の女の人が居たの…入るときも居て、出たときも…

誰か待ってるのかなぁ?って思ったんだけど…違うみたいで…


こっちに戻るときも気づいたらエレベーターに乗っていたの…変質者にしては目立ちすぎてるし…』



『変質者とは違うだろうな…』


『やっぱり?』






奈留が缶を置こうとすると何かに触れた。他人(ひと)がいつの間にか隣に座っている。





『あ、すみません…気づかなくて…』

『…奈留…』


『え?』





彼女はもう一度振り向くと和服姿の女が

ソコに居た。彼女はヒヤリした。


再び恭祐へ視線をやると

彼は不思議そうな、いや、驚いている様だった。一瞬しまったと思う奈留。この人は自分だけが視えている?



『あ…』


『おいで』





震える彼女へ右手を差し出す。

奈留は彼のその手を取る。







『大丈夫。大丈夫だから』






一度部屋へ戻り中庭を散歩してくると

タケシと恵に告げ、二人はまた部屋を出た。







『怖い?』


『…え』






少し遅れて返事をする。

恭祐は真っ直ぐ奈留を見ている。





『自分がおかしいとか、そんな考えは捨てなよ?奈留はちっともおかしくなんか無いんだから』


『どうして?』


『視えているんだろう?“和服姿の女の人”が』



『…ッ!』


『此処に来るまで沢山の人が居た。だけどアレは人を避けたりしなかった。今は大人しいけれどいつ牙をむいてくるか判らない。俺の側を離れるな』


『何を謂ってるの…やっぱり視えるの?』


『黙っててごめん。変な奴って思われたくなくて…謂えなかった』


『そんな事謂うわけないじゃない…』






その言葉が嬉しかったのか

彼の強張っていた顔が少し柔らかくなった。ずっと謂えないでいた秘密…それを謂えてすっきりしたようだ。






『此処、綺麗だな?』

『うん。綺麗…』






まただ。またあの気配だ。

近くにあの女が居る…

奈留は咄嗟に恭祐の手を取る。





部屋に居た奴等と違う。

追ってくる…。







「…て下さい…」




『振り向くな』

『うん…』







恭祐は自然な態度を貫く。

奈留は怯えては居るものの普通を装っている。





中庭を歩き終えると部屋へと戻った。

此所なら入れない事を彼は知っていたからだ。







『中庭デートどうだった?』

『茶化すなよ』


『俺、風呂入ったら卓球やるっ!』

『あーはいはい…なら入ってこい』


『いざッ!出陣ッ!』

『っておい!何で俺まで!』






座椅子へ座ろうとしていたが

強制的に連れ去られてしまった。

恭祐の文句が小さくなっていく…。

残された二人は笑だした。




『タケシ君て強引なんだね…あはは』


『あの二人面白すぎよ…あっはは…』



今回も有り難う御座います!

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