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 妖かし   作者: 三日月
3/39

 恋心、彼の未練

富山へ着てから二日が経っていた。



『今日で連休は終わりか』

『早いピヨ』

『久し振りに富山へ来れたし良かったよ。あいつらにも会えたし』

『浩一て人は本当に優しい人だったピヨ』

『だろ?浩一は女子と動物には優しいんだ』

『お兄ちゃんも負けない位優しいピヨ』

『そういうお前こそ』

『ピヨ?』

『今日は二人でのんびりしよう』

『本当ピヨ?!』

『ああ。今日はお前との時間だ』

『お兄ちゃんのツキビトになれて良かったピヨ』




別れがあると思うと寂しくなる。




『僕がお兄ちゃんの守護霊じゃ駄目なのかな…ピヨ…』

『俺は喜んで迎えるよ。ただ…守護霊は身内が憑く場合が殆どらしいけど…』





そして二人はその日一日、恭祐が育った富山で公園を散歩してみたり、自転車をかりてサイクリングを楽しんだ。


土手に自転車を置き、寝転ぶ。




『なぁ…勇…』

『ピヨ?』

『感づいているかも知れないけど…』

『……』




ー…二十歳まで生きられる保証がないんだ…ー




恭祐の言葉は宙に浮いた。




『隠しててごめん…』

『大丈夫ピヨ!!!僕がお兄ちゃんの寿命延ばすピヨ!!!』

『ありがとう…』

『…白いご飯を食べていれば寿命は延びるピヨ…』

『…うん』

『それにお兄ちゃんは喧嘩も強いピヨ…』

『…そうかな?』

『お兄ちゃんは病気にだって強いピヨ!!!』

『…勇…』

『お兄ちゃんは心優のヒーローピヨ!!!』

『………』




気がつくと恭祐は涙を流していた。

初めて勇に見せる涙だった。勇の言葉が嬉しくて、切なくて…。


そして翌日、二人は学校へ向かった。




『よ!恭祐!』

『タケシ…今日も朝から元気だなぁ?』

『おう!俺は頭は悪いが元気だけは良い!』

(本当元気だなぁ…)

『ところで文化祭の出し物何にする?』





恭祐が訊くとタケシらしい応えが返ってきた。




『居眠り部屋なんでどうだ?』

『…それ、家でも出来るだろ…』

『やっぱり駄目かぁ…』

『当たり前だろ』

『じゃーチョーク投げ!』





にやつきながらタケシが恭祐を見て謂う。

何かありそうだと、確信した恭祐は

すぐに応えた。




『絶対却下』

『早くないか?』

『却下だ却下』

『なんでぇー!恭祐が的』

『絶対嫌だ』




いつものノリで話をしているといつの間にか校門をの中に入っていた。




『おーい!恭祐ー!タケシー!』

『あ。成実。どうしたぁ?』

『なんでもねぇー』

『なら教室から叫ぶなよぉ!』

『ピヨ』

『きょんきょんの謂うとおりだな』



教室へ入ると先程叫んでいた男子、山口成実が二人の肩へ腕をまわす。タケシと同様文化祭の出し物を提案してきた。




『チョーク投げなんてどうだ?』

『却下』

『それ、さっき俺が提案して今みたいに即却下されたばかり』

『なんだよ〜。ヒーローを的に…なっ…て…』




成実が黙り込んだのには理由があった。

恭祐が物凄い睨みを彼へ向けていたからだった。




『悪かった…』

『次は拳骨かますからな?』

『うげっ!大丈夫!もう謂わない!!!』

(お兄ちゃんは強いピヨ!)

『俺、裏役やるから』

『なんで?!』

『力仕事は必要だろう?』

『恭祐ー確かにお前は力持ちだけど…たまには外役やれよ?』




恭祐と成実が話していると隣のクラスの女子がやってきた。




『あのぉ…』




するとすかさず恭祐が対応にまわる。




『どうしたの?』

『あ…恭祐君。これ、貴子に渡してもらえる?借りてた小説なの』

『判った。渡しておくよ』




貴子とは成実とよく痴話喧嘩をする行動力の女子、松丘貴子だ。




『ありがとう。それじゃ!』

『ああ』

『今の女子誰?』

『隣のクラスの矢口亜衣ちゃん』

『さすが成実君!凄いねぇ〜』

『あ、松丘』




そのタイミングで貴子が登校してきた。

恭祐は気づくと貴子の席へ行く。




『松丘!』

『おはよう。なぁに?』

『おはよう。これ、矢口さんから』

『ありがとう。まだ良かったのに』

『ヘーイっ!お〜は〜よ〜!恭祐、成実、タケシ、貴子様〜!』

(お兄ちゃんのクラスは面白いひとの集まりピヨ)





色んな話が飛び交う中突然急な雷雨になった。まだ外に居る生徒は走りながら中へ入っていく。




ドォォォン!!!





『きやぁぁぁっ!』

『すげー。タケシと恭祐何びくついてんの?』

『驚いただけだよ』

『そーよそーよ!成実のお馬鹿ぁ!』

『アラレちゃんが猛スピードで走り去ったか?』

『『成実』』




恭祐とタケシが口を合わせた瞬間校内が

停電になった。




『なんだよ。避雷針意味ないじゃん…』

『病院みたいに外にあれば良いのにね』

『仕方ないな』





《実験室》




不気味に薄暗い実験室では不気味な啜り泣く声がしていた。だが室内には誰も居ない。啜り泣く声だけが響いていた…。

三十分ほどで雷雨は去り校内に電気が戻った。外も天気を取り戻しつつある。





『なぁ恭祐?』

『ん?』




タケシが恭祐へ話かけてきた。





『実験室の噂、知ってる?』

『実験室の噂?』

『そう。毎年文化祭が近づくと啜り泣く声がするっていう…』

『あ…訊いたことある。確か男の啜り泣く声って』

『今年もあんのかねぇ?』

『毎年ならそうなんじゃないかな?』

『な〜んか気味悪いよな?』

『成仏出来ないでいる霊なんだろうな…』


『う〜ん…。あっ!そだ!実はさ俺気になる奴が居るのよね』

『へっ?!』

(ピヨっ?!)

『なんだよー。俺だって恋くらいするって!』

『そっか。んで?俺にどうしろって?』

『明日…いや!明後日でも良い!!!放課後付き合ってくれ!』

『………悪いが俺はそんな趣味はない』

『ちーがーうーって!』

『断る』

『なんでだよ?!いいだろ?!』

『惨めな思いはしたくない。自分の事だろう?俺を巻き込むな』

『いっけーず〜!頼む!手紙渡しちまったんだ!』

『知らん』





そして恭祐は実験室へ準備の為急いで向かう事にした。誰も居ない。静かだ。自分の足音だけが響く。




『誰も居ないと静かだなぁ…』

『だけど断って良かったピヨ?』

『どうせまた来るさ』

『そうピヨ?』

『そうなんだよ』





その時、恭祐はタケシが謂っていた実験室の噂話を思い出した。文化祭が近くなると毎年啜り泣く声がする…。

まさかな…そう思い直し作業にとりかかる。数分で準備が終わる間近に

声がした。




「はぁ…どうすればいい…」




『…。この気配…』





彼が室内を見渡すと白くぼんやりとした影があった。じっと視る。少しづつではあるがはっきりと視えてきた。


思わず声をかけた。





『どうかしましたか?』

「君は…?」

『俺はこの学校の生徒です。恭祐といいます』

「そうか…。僕は前までここの生徒…”当時三年生”だった樋川」





幽霊への自己紹介はやはり今はまだ

慣れない。




『何か未練でもピヨ?』

「その雛は?」

『訳あって俺を守ってくれてるんです』

「そうか…」

『詳しく話して貰えませんか…?』




樋川は俯きながら話てくれた。

生きていた当時文化祭でどうしてもやっておきたかった事を。




『それは…?』


「実は僕、映画部へ所属していたんだ。文化祭へ向けて作った映画を皆に観て欲しかったんだ…だけど文化祭前日に通り魔に…副部長は僕無しじゃ出来ないって…それで映画はお蔵入りになってしまった…」


『そのフィルムってまだあるんですか?』

「勿論。でもどうして?」

『実は俺のクラス…まだ出し物が決まってないんです。宜しかったら俺達にやらせて頂けないですか…?』

「…構わないけど…いいのかい?」

『はい。クラスの皆に話してみます』

「ありがとう。恭祐…」

『フィルムは何処にあるピヨ?』

「恐らく準備室に…」




恭祐達は準備室へ向かった。




『準備室は…ここだ…』




準備室のドアを開けると

重たそうな荷物を持つ担任の矢井田が居た。





『ほっ!あれ…?宮澤…』

『何してたんですか?そんな荷物持ちながら…ドアを閉めて…持ちますよ?ちょっと待ってて下さい』


『成実にやられたんだよ!お陰で助かった』

『はぁ…』

(もしかして…文化祭への…それにしても凄い量だな…)





恭祐はフィルムを見つけると

大荷物を持つ矢井田の元へ戻る。

とりあえず一番重い荷物を持った。

片腕でしか出来ないが思っていた以上軽かった。




『昼休みになったらぜっっったい成実をとっちめてやる!』

『あいつ、結構足速いですよ?』

『あたしだって高校生の時陸上部に入ってたんだ!あたしの方が速い!』

『あの…先生…』

『うん?』

『実は文化祭の出し物何ですけど、樋川先輩が作った映画を上映したらどうでしょう?』

『…お前…知ってたのか?』

『はい』

『…HRの時に考案してくれ』

『はい…あの…これ、何処まで運ぶんです?』

『体育館だ…』

(映画…出せるよう頑張ろう…)




そう誓うと隣に居た樋川が姿を消した。

荷物を持ちながら、あの事件を思い出していた…。彼がまだ中学二年生。樋川、高校三年生。



帰宅途中の学生をすれ違い様に刺すという

事件があった。被害に遭った学生は恭祐が通う高校で三七人居た。樋川が最後の被害者。通り魔に刺され命を落とした。



樋川が亡くなって二日後、通り魔は逮捕された。動機は”生意気だから”。そんな理由だった。

まさか自分がその被害者(霊)に会うことになるとは…。




『さ、そろそろ授業が始まる。手伝ってくれてありがとう。早く戻りなさい』

『はい』




教室へ戻るとタケシがまた誘ってきた。

なんど断っても緊張してしまうと嘆いたので仕方なく引き受けた。




(お兄ちゃん根負けしたピヨ)

『その代わり、昼は奢って貰うからな?』

『えっ?!…はい…』




そして彼等は次の授業の為実験室へ移動した。恭祐のグループはいつも通り賑やかだ。



『恭祐ー!消しゴム教室に忘れたからかして』

『成実またかよ…そこにあるから使ってくれ』

『ありがとうございまする!』

『忘れものの常習犯』



恭祐の突っ込みにタケシも突っ込みを

入れてくる。



『それが成実ちゃんです』

『タケシひどーい!』

『ほらほら、先生が見てるぞ?タケシに成実』

『『うげっ!』』



話を割るようにこの教科の担当の鈴木が入ってきた。



『どうだ?もう少しの様だな。どのグループも終わったらレポートを書くように!必ず提出だからな?』





鈴木と恭祐の後ろに姿を現せた樋川が

ポツリと呟いた。




「彼が映画部の顧問だったんだ」

(そうなんだ…)




レポートまで書き終わると教科書とノートを閉じた。終わらない者は次の授業までに提出と告げられた。鈴木が実験室から出ようとしたところ恭祐が鈴木を捕まえた。


上映されずにお蔵入りとなった映画の話を切り出す。




『お前よく知ってたな?そうだなぁ…もし、クラスで決まったら俺に教えてくれないか?』

『はい!』

『あの時は本当に残念だったよ。俺も手伝うって謂ったんだがお蔵入りとなってしまったんだ。樋川の為にも上映したかった…』



そう謂い終わると鈴木は職員室へ向かった。




『その気持ち、先輩にも届いてますよ』



恭祐は鈴木の背を見ながら鈴木へ謂った。

樋川は悲しい涙でなく、今度は嬉し涙を流していた。あっという間に四時間目になった。



『此からHRを始める』

『先生』

『おっ。宮澤なんだ?』




恭祐は立ち上がると、映画の話をし始めた。




『皆の意見を訊きたい』



恭祐がクラス全員に意見を求めると

一人一人が知っていた。

 


『その話、俺も知ってる。観てみたい』



と、山口。




『僕もお姉ちゃんから訊いたことある』



と、林。

林という女子は少し不良っぽいところがある。何故か自分の事を”僕”という。

クラスの半数以上映画部の話を知っていたし観たいとも謂ってくれた。





『良かった』

(ピヨ!)



後はタケシの義理デートだけだ。

出し物が決まると恭祐は鈴木の居る教室へコールをした。少しは待つだろうと思っていたが、鈴木が受話器を取った。


どうやらずっと受話器の側で待っていた様子だった。結果を報告するとそうかそうかと喜んでいた。



そんな中、他の生徒と矢井田は飾りはどんな物がいいか話し合っていた。

シンプルに飾りつけの方が映画に集中出来るだろうと案が出たので、ちょっとした看板に手作りの花を貼る事に決まった。

そして、HRが終わる。





《実験室》




『決まりました』

「本当かい?!やった!とても嬉しいよ!」

『俺も嬉しいです』

「ここの卒業生の弟や妹達が…」

『さっき、決まった時お兄さんやお姉さんへ連絡していましたよ。観に来てくれるらしいです』

「ありがとう…ありがとう…恭祐」 














此方の作品ゎ次回へと

続きます(゜ω゜)

作者の体験談ゎまだまだ先であります。



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