音
お待たせしました。
ようやく、出来上がりました。
長々とお待たせして本当にすみません(T^T)
恭祐は向かい側に立つ自分をじっと見る。
何を謂うでもなく、何をするでもなく
ただ自分が自分を見ているだけだ。
夢はそれだけで終わる。
『…ん…』
『お!気が付いたか?』
『タケシ…はっ!』
恭祐は起き上がろうとしたが
タケシがまだ横になっているよう促す。
『不気味な男ならもう居ないぜ?』
『…そっか…って…』
『はは。何か俺も視えるみたいなんだ』
『…いつから?』
『さぁ?ただ、仏目ってのあるとか』
『だけど…』
『無茶はしないさ。だからお前も無茶するな』
『そうだな…』
恭祐は蟻をじっと見ている勇をみて返事を返した。やはり神社は落ち着く。
緑が沢山あり、涼しい。恭祐は視えるようになってから、よく此処へ足を運ぶ。
ただ、自分自身の夢…。
冷静に見直せ。と、謂うのだろうか?
それとも、今の自分が焦っているとでも謂うのだろうか?
現実世界、自身に欠けている性格の暗示だろうか?
もしくは自分自身見つめ直したいとでも?
何か問題を抱え、コントロールが利かない?
『ふぅ…考えるのはやめよう…』
『何か変な夢でも?』
『まぁな』
蟻と遊んでいた勇が恭祐に気づく。
『お兄ちゃん大丈夫ピヨ?』
『ああ。少しダルいけど大丈夫さ』
『あ!恭祐!クワガタ!!』
『ピヨーっ!!恐いピヨ!』
この後は何もなく一日が終わった。夜はいつも通り勇と食事を済ませ床につく。
勇は少し暑いのか中々眠れない様子だ。
恭祐は小説を詠んでいたがいつの間にか眠っていた。
時々、上の階から物音がする。
まだ起きているのだろうか?
二時を回った。
恭祐は蒸し暑さもあり目が覚める。
勇は恭祐がベッドから降りると、その振動で起きてしまった。
『悪い…起こした』
『大丈夫ピヨ…ピヨ〜…』
キッチンへ行くと冷蔵庫から烏龍茶を出した。コップに入れ、それを飲み干す。
小さい小窓を開け、温い風が入ってきた。
『今晩はヤケに蒸し暑いな…ん?』
『上の人、まだ起きてるピヨ?』
『しっ!』
何かが這う様な音だ。
床と服擦れ合うような…”何か”が居る。
引っ越してきてからこんな事は一度も無かった。
天井を見ていると、勇は姿を変えた。
一体何事だ…?恭祐は眼を使ってみる。
先程開けた窓…片目が無い者が此方を見ている。勇は霊力で窓を閉める。
同時に電気が点滅し始める。
そして消える。上の階の物音も激しくなる。とても眠れる状態ではない。それは恭祐の様に力が強いと悪鬼者達にとって目障り。
精神的に追い込み力を弱めようとしているに違いない。
『勇、どう思う?』
『煩いし眠い…』
『…はぁ。その姿で謂われても…よし!』
恭祐は勇を後ろにし自分で書いた札を一枚取り出すし、目を閉じ意識を集中させる。
自分を見つめ直すかのように。
そして意識を彼へにも集中させた。
部屋全体の揺れは激しさを増が食器やオーディオなどは落下しないである。
恭祐は”眼”を使う。
いつもなら青い眼なのだが、今回は赤い眼になっていた。また、勇の眼も彼と同様に赤い。中指と人差し指に挟まれた札は綺麗に立っている状態だ。
物音は途端に止むが、外には片目のない男が此方へ入れないで居る。
ずっと窓の外に居る気なのだろうか?
電気がブーンと音を立てながら明かりが点く。
二人の眼の色は元に戻っていた。
恭祐は膝から崩れた。
『何だか…今日はいつもと違うような…』
『”青い眼”から”赤い眼”になってたんだよ。いつもより強い力なんだ』
『それで…この脱力感か…』
『まだ油断は出来ないよ?外に一体、上の階に一体居るから』
『今晩は眠れそうに無いって事か…』
『うん!』
『”うん!”て…。明日の仕事、外なんだよなぁ…』
『暑いね…』
『仕事が終わったら早めに休むしかないか…』
『ピヨ』
勇は変化を解いた。
恭祐が使ったコップを片付けようと立ち上がった瞬間、また部屋が揺れ始めた。
どうやら先程の静まりは一時的なものだったらしい。
あれだけの力を使いながらも退散せずに居座る者。
このままでは明日の仕事に支障が出る。
危険を承知で着替えを掴むと、カプセルホテルへ行く事を決めた。
遅い時間だが、大丈夫だろうか?
ホテルへ着くと明かりは消えていた。
『駄目か…』
肩を落とし、諦めているとホテルの者が恭祐に声をかけてきた。
勝の息子だと判ると中へ入れてくれた。
『あいつには本当に世話になってるからね。此処、使って』
『ありがとう御座います』
『彼女とでも喧嘩?』
『違いますよ。ちょと落ち着かなくて…』
『そっか。ま、ゆっくり休んで?朝早いでしょう?』
感じのいい男の人で、良かった。
しかし、勝に世話になっていると謂っていたが…そんな事を考えながら二段目のカプセルへ入る。
此で少しは眠れるだろう…。
そう思ったのも束の間。
エアコンは、きいているはずなのだが
何故か蒸し暑い。…そして寝苦しい。
彼は少し外の風にあたろうと、勇を肩に乗せる。
『外の方が涼しいな…』
『何で中、急に暑くなったピヨ?あっ!…もしかすると”あいつ”が着いてきたのかも知れないピヨ!』
『いや、まだ”着いてきてる”が正しいかも知れないな…近くじゃないけど、そう遠くない』
『時間の問題ピヨ?』
『ああ。鈍いけど近づいてきてる…』
二人は話を終わらせると中へ戻った。
『さぁ、寝よう…』
眼を閉じる…。
時計の音が小さくなってゆく…。
どれくらい眠れただろうか?向かい側のカプセルを使っていた男が小さい音を立てながらベットから降りようとしていた。
御手洗いへ行くのだろう。
ハンカチを手に持っている。
『何だか暑いなぁ…』
この時気になる息使いが斜め後ろ上から聞こえてきた。振り返るように見てみる…そこには…この世の者とは思えぬ片目のない男が此方をじっと見ていた。
『うわぁっ!』
この悲鳴で恭祐や他の宿泊客達が目を覚ました。枕元のカーテンが疎らであるが、音を立ててサライドする。
悲鳴をあげたサラリーマン風の男は尻をつき顔をあげ震えながら、一点を見ている。
恭祐は降りると彼へ近づく。
『何だよぉ?早河…こんな時間にぃ…』
『…ふぁ…どうかしたのかぁ〜』
仲間なのだろう。
眠い目を擦りながら声をかける。
『どうしたんですか?』
『…あ…あ、あそこ…』
『え?』
恭祐は男が指差す方をゆっくりと顔をあげる。”眼”を使わなくとも肉眼で視える。アパートに居た”あいつ”だ。
ついに此処まで来たか…。片目のない男は恭祐が使っていたカプセルと天井の隙間からヌッと上半身を出し、此方を見ている。
”奴”は動きが遅いながら足を着けた。
『何だよあいつ!二段目だぞ?!人が挟まる隙間なんてっ!!』
同僚の一人が叫ぶ。
「うぅ…取り憑いてやる…」
『何だよこいつ!』
『くそ…』
(どうする…!)
『僕に任せるピヨっ!お兄ちゃんっ!乗って!』
『勇っ!』
勇は任せろと謂いながら
尾が八つの狐に変化し、恭祐を背に乗せる。狭いスペースではあるが蹴散らす事は出来るだろう…二人の眼は赤く変わった…。アパートに居たときと同じ…電気が点滅しだす。
カプセルを利用していた客達は、信じられぬといった表情だ。まるで、夢でも見ているかの様子だ。
彼が背の上で両手を、合わせると勇は吠えた。恭祐は少し苦しそうだ。が、見事片目のない男は黒い数珠に縛られ姿を消した。
『…終わった…』
彼はそう謂うと勇の背から落ち、気を失った。目を覚ますと恭祐は以前入院していた病院のベットの上だった。
『ありがとう御座いました』
カーテンの向こうから冴の声がした。
”母さん?”声を出すと冴がカーテンを開け不安な顔を覗かせた。
『ごめん…沢山の人に迷惑かけて…』
『気にすることないわよ。疲れだろうって先生が、謂ってたわ』
疲れ。それは間違いでは無いだろう。
あれだけの力を使ったのだから…恭祐はそう思った。
話ついでに気になっていたので思い切って訊いてみた。
『あのさ…ホテルに泊まってた人達、何か謂ってなかった?』
『貴男がカプセルベットから降りようとしたら派手に落ちたって謂ってかしら?』
(派手ってどんな風に…)
恐らく宿泊客達の記憶は勇の力ですり替えられたのだろう。
恭祐は隣で人の姿に戻っている勇を視た。
(ありがとう)
(へへ。派手に落ちた事になっちゃったけどね)
『あ!そうそう!今日一日は入院って謂ってたわ。少しは休みなさい?』
『うん』
『じゃ、仕事に行くわね』
『うん』
それにしてもあの男は何をしようとしていたのだろう?取り憑いてどうしたかったのだろうか…?




