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 妖かし   作者: 三日月
22/39

 特別編後編 荷物の女

先輩が”着いたよ”と謂うまで話しをしていた。さっきまで弟の帰りを待っていたけど今は遅くなれ!と願う自分がいる。

だけど…やっぱり家に一人は…。




『そうだ。先輩部活は?』

〔先生が暑さでやられちゃってさ〕

『追ってましたもんね?』

〔そうだな〕


『ふふ。一つ、いいですか?』

〔いいよ〕

『どうしていつも雛連れてるんですか?』

〔え?!バレてたの?!〕

『だって、昨日肩に乗せてたじゃないですか?』


〔ああ…昨日ね…〕


『大丈夫です。誰にも謂ったりしませんから』

〔ありがとう。こいつは俺のボディーガードだよ〕

『ぼでぃがぁど?』


〔詳しい事はまた。あと少しで着くよ〕

『それじゃ今…』

〔いや、俺が着いたら教えるから〕

『はい。あ!犬の鳴き声!あっ!先輩見えた!』

〔え?それじゃ開けてくれるかい?〕

『はい!』





電話を切ると私は玄関へ向かった。

鍵を開けると先輩が玄関先で立っていた。私が涙ぐむと先輩は私の頭を優しく撫でてくれた。ホッとしたらしくて彼の前で泣いてしまった。


先輩が中へ入ると私は帰り道の出来事(経緯)を話して訊かせた。





『嫌な感じだった?』

『はい。それに、外はあんなに暑いのに…汗なんて全然…』




私は麦茶を出しながら謂った。





『さっき電話でこいつの事、訊いたよね?』

『はい先輩の事、…知りたいです』

『…実は変な女の人に”眼”を貰ったんだ』


『私ですか?』

『ぷっ!君、面白いね?』

『そんな事…それより、すごーく怪しいんですけど…』


『夢の話しなんだ。だけど、現実俺は眼を貰ってから視えない者が視えるようになった』

『視えるように…』


『…うん。今日、君に話しかけたのは昨日その”黒い服の女”がずっと吉原さんを見ていたものだから』




先輩はその後、”気になって”と付け足した。まさか…幽霊なんて…そう思いたかったけど帰宅途中に見てしまっている。




『だからあの道は…』

『うん。昨日、気分ご悪くなったのも恐らくそいつのせいだろう。桜子ちゃんは寄せるタイプだから…。俺が付き添っていれば一人怖い思いをしなくてすんだんだけど…』


『先輩は悪くないです』


『ありがとう。けど、もし今日の桜子ちゃんの立場が俺でも立ち止まってしまっていたかも知れない』

『あの…』


『何かあったら電話でもメールでもしてくるといいよ。それと、早いうちがいいな。山奥の神社に行って御守りを貰ってくるといい』


『判りました』

『悪さをする霊、しない霊がいるけど殆どがしない奴達なんだけど…』


『マレにいるんですね…』

『うん。もし、今晩何かあったら電話してくれ。力になれるかも知れない』


『…はい…』

『桜子ちゃんの家までだと走って五分だから』

『そんなに近いんですか?!ん?走って?!』

『うん。俺、走るのだけは本当好きなんだ』




そう話ながら先輩は初めて笑顔を見せてくれた。独り占めした気がして嬉しかった。もっと一緒に居たいけど、先輩はやることがある。

後少しでいい。私は弟の話しをした。





『弟さん、居るんだ?』

『はい。寄り道してるみたいで…ハハ…』


『そっか。俺もよくしたなぁ。寄り道…弟さんが帰るまで居ようか?大丈夫ならだけど』

『だ!大丈夫です!全然!』





やったぁ!まだ先輩と一緒に居られるぅー!私は自分も忘れて先輩の前でガッツポーズをかましていた。




『えと…そのガッツポーズは何?』

『へっ?!……うわっ!な、なんでも無いです!』

『ぷっ!あははははっ!』

『なんで笑うんですかぁー!』

『だって君…今…あっははははっ!』

『笑いすぎです!』





今日は宮澤先輩を二つ知れた。

一つは本当に幽霊が視える。そして肩の雛は先輩に憑いてるはずの守護霊が居ない為守ってくれていると。


二つ目はどこか意地悪…。

その夜、私はいつもの様に夕食を済ませて自分の部屋へ向かう。ベッドにダイブするとスマホの着信履歴を見た。


先輩からの初めての着信。噂では先輩が密かに好意を寄せている相手が別の高校に居るみたい。彼女にはなれそうに無いけど話が出来る様になっただけで幸せだ。


何となく、カーテンを開けて夜空を見上げる。夏では無いからかあまり明るくない。うすらぼんやりより明るいかな?視線をズラすと電柱に身体を預けた人が目に入った。よく見てみるとあの女だ。足元に見覚えがある大きな荷物。

女はゆっくりと顔を上げる。私は目が合う前にカーテンを閉め、スマホを持つと先輩へ電話をかける。いつ着信があっても良いよう側に置いといたのだろうか?先輩は直ぐに出てくれた。





〔先輩…!今自分の部屋何ですけど…カーテンを開けて外を見たら…夕方に見たあの黒いワンピースの女の人が…〕

『判った。出来るだけ早く行くよ』





先輩はそう謂うと一度電話を切った。

リビングでは母と父、弟がテレビを観ている。先輩が来ることを伝えよう。





『お母さん。これから宮澤先輩が来るから』

『先輩?あっ!やだ!悛のランドセルと図工で作った物が散らかったままよ!』

『いいよ…勝手口から入って貰うから。悛、早く宿題やっちゃいなよ?』




そう謂うと私はリビングから出る。

私が出ると悛は父に叱られた。勿論、宿題をせずにテレビを観ているからである。悛は文句を謂いながらランドセルを取りに出る。どうやらお風呂までに終わらせるらしい。


外では何処かで花火をやっているのだろう。時々パンパンと音がする。





『花火かぁ…』

(先輩…あの女の人の事、なんて謂うかなぁ…怖いなぁ…』




私は先輩へメールをする為ダイニングテーブルへ寄りかかった。送信を終えると落ち着きなくテーブルの周りをウロウロしていた。腕組みをしようとした時、着信が鳴った。先輩からだ。私は急いで電話に出た。その電話は家に着いたとの連絡だった。カシャンと音が聞こえたので早かった理由が判った。自転車で着てくれたのだ。勝手口を開けると雛を肩に乗せた宮澤先輩。そして気づけば私の後ろに父。なんで!




『やぁ、今晩和恭祐君。玄関が散らかってるんで勝手口からで申し訳ない』

『今晩和。いえ、気にしないで下さい』

『お父さん!お風呂入るなら早く入ってきてよ!』

『酷いなぁ、久振りの恭祐君なのに』

『意味判んない!』






父はカッカッと笑いながらリビングへ戻った。何しに来たの!





『それで、俺が来るまで何か変わった事なかった?』

『ありません…』

『…君の部屋へ行こう』

『はい!』





私は初めて自分の部屋に男の人を入れた。ドアを閉めようとしたけど、開けたままにしとく様にと謂われたので開けとく。それは男と女だからだろう。





『まだ…居るのかなぁ…』

『うん』




即答!!まだ…居るんだ…。


私は先輩の隣へ立ち、カーテンを少し開けた。女の人はさっきより此方へ進んでいる。一体、何が目的なんだろう…。そう思った次の瞬間…部屋の電気が消えた。階段も不気味な程に真っ暗だ。



遠くて雷が鳴っているけど停電する程ではない。ふと外を見ると他の家には灯りが点いている。家だけ?


怖くなって身体が震える。

こんな事…テレビの中の話しだけと思っていたのに…。





パンパンッ!




『何?!』

『ラップ音だよ。大丈夫。一人にしないから』




先輩は慣れているのか怖がらない。

外の女の人はさっきより進んでいる…違う…。ベランダに…立ってる。





『きゃーーっ!』





私は初めて悲鳴を上げた。

思わず部屋を飛び出そうとしてしまう。

黒い服の女の人は窓に両手をつけニタ…とする。





『死ぬまで…引き摺ってあげる』

『嫌よっ!』





ドンドン!!




急に部屋中が誰かに叩かれているんじゃないかって位に音が鳴り響く。

開けっ放しのドアは勢いよくドアノブをガチャガチャと音を立てながらバン!バン!と開いたり閉まったりを繰り返す。


女の人は窓を割ろうとしているのか、鋭い爪でギリギリと引っ掻く。

私は耳を塞ぐ。先輩は女の人へ話しかけていた。





『何故彼女を狙う?!』

「狙うのに理由は要らない」

『悪いが彼女は渡す訳にはいかない!』




そう謂った先輩は私を庇う様に背中の方へまわしてくれた。守られているってこういう感じなんだ…。そして先輩は雛に何か謂うと、肩に乗っていた雛が先輩の肩から飛び降りると眩しい光に包まれた。私は数秒だけ、目を閉じ、再び開くと白くて大きい狐が部屋の中に居た。


先輩はその狐の上に乗っていて片手を私に出していた。”乗れ”そういう事だろうと思い私は彼の手を取った。


少し小さい窓から出るのだろう。小窓はまるで自動ドアの様に開き、私達は飛び出した。





『先輩何なんですか?!』

『今は説明している場合じゃないから、事が終わったら話すよ!』





そんな!とも思ったけど確かにそうかも。

私の心臓はドクンドクンと早い。




『あの山へ降りよう!』

『降りる?って!飛んでるぅっ!あれ?白だったのに…』


『危ないからじっとしてて』

『はいっ!』





私はこれでもかって位白だったはずの狐にしがみついた。後ろを見たいけどそれどころでわない。だって私、高い所が大嫌い!…確か先輩もそうだよね?一人突っ込みが出来る事が幸いだった。



神社へ降りると先輩は白い紙を取り出した。折り畳まれていた紙を丁寧に開いてゆく。黒いペンだろうか?何か描かれている。私にはさっぱり判らない。





『ここであいつを待つ。桜子ちゃんは離れてて?』

『…はい。でも、先輩は?』

『俺は大丈夫。初めてだけど』

『へっ?!』

『勇っ!』





先輩が白い狐…色が戻ってる…。

狐に声をかけると狐は先輩の後ろへ移動した。私は少し離れた場所で先輩を見る。

すると石段をベタベタと這って上がってくる音が耳に届いた。あの女の人だと判る。


家から此処まで相当距離があるのにも関わらず私達が着いてすぐに辿り着くなんて…。先輩は判っていたからあの紙を…。





「よこせぇ…」





何も知らない女は鳥居を潜り私と先輩の方へ近寄る。私はあの大きな紙を思い出し先輩の足元を見た。相手にバレないだろうか?見てみると枯れ葉で隠されていた。


あの時だろう。白い狐が先輩の後ろへ移動した時狐が尾っぽで上手く隠したんだ。

凄い。…怖い…。


現実にこんな事…。女はゆっくりと近づく。一歩、一歩。ゆっくりだけどあの紙がある場所に女が足を踏み入れた。中央まで来た瞬間、物凄い突風か起きた。さっきより眩しい光にまた包まれた。先輩が何かと謂っていた様だったけど私には突風と女の悲鳴しか聞こえなかった。






『ん…』




私が目を開けると枯れ葉がハラハラと舞っていた。女の姿はもう、何処にも見当たらない。先輩だけ…先輩と肩に乗っている雛だけ………。




『…どうなったんですか?…』

『…終わったよ』





私はその場で気を失った。

気づいた時は私は自分の部屋のベッドだった…。ベランダと窓はいつもの静けさだ。

朝の光がカーテンの隙間から差し込む。階段下からお母さんが呼んでいる。間違いなくいつもの朝だ。





もう、あんな経験は懲り懲り。

そして先輩…ありがとう!





『桜子ー!何してるのぉ?早くー!』

『あ、ごめん。ねぇ初子、今日の体育楽しみだよね?』


『えー?嫌よ。あんた本当に好きよね?』

『勿論よ!』


『で、なに考えてたのよ?』

『二年生の時の思い出』

『”宮澤先輩との思い出”でしょ?良いわよね?家近くて?』


『へへ。でも先輩今は一人暮らしなんだ』

『家に居ないの?!』

『うん』

『なーんだ。いつ会えるか楽しみだったのに』

『残念ね?』





あの日の出来事は私と先輩だけの秘密。

初子にも誰にも…。まぁ、話したところで誰も信じないだろうけど秘密!

空飛ぶ白かったはずの狐は謎のままだけど。だけど私は今もあの道は使っていない…。






「荷物が重たくて…手伝って頂けないでしょうか…?」







        fin…。。。 



   

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