ツキビト コスモス畑の少女
今回の話は何故
勇が恭祐のツキビトになる決心をしたのか
その内容が明らかに。
そして彼の幼なじみからの突然の手紙。
封を開けて詠むとそこに書かれていた内容とわ…。
学校からの帰り道、勇は恭祐の肩に
ちょこんと乗っていた。彼の肩に乗る雛を見る野良犬や散歩中の犬達が吠えるのに
立ち止まったり、散歩しながら振り返り吠える犬。
恭祐は短いため息をつく。
その彼の後ろを歩く一人のクラスメイト河辺恵が声をかけてきた。
『宮澤君!』
『…?あぁ。河辺…』
『久し振りの学校ゎどうだった?…あれ?可愛いー!何処で拾ったの?この雛』
『…学校で…』
『へぇ〜。全然気付かなかったなぁ』
(そりゃ…子供の幽霊だったからな)
『あれ?でも何だか普通見る雛と違って
少し色が薄いのね?』
『そうなんだ…?』
『………』
河辺恵は恭祐の顔を覗き込む様な姿勢で
彼の目をじっと見つめた。
『何?』
『宮澤君の目…凄い綺麗…透き通ってる』
『目…?』
河辺は先程より顔をぐっと近づけて
彼の目をまじまじと見た。だが、この光景の意味を知らない者が見れば傍迷惑な勘違いもするだろう。
『…っ?!ごめんなさい!あたしっ!!』
『ん?』
『それじゃまた!明日学校で会いましょう!』
『ああ…また明日………目…か』
河辺恵は走り出すと二軒先の角を曲がった。
『何で慌てたピヨ?』
『…さぁ。さて!早く帰るかぁ』
歩き出してから数分後何処からか
ピアノの音が聞こえてきた。先程まで話していた河辺の自宅が今、歩いている所から近い事を思い出す。
『綺麗にかなでるなぁ…』
『誰が演奏してるのか…ピヨ』
『さぁな』
暫くピアノの演奏を聴くと
また、歩き出した。帰宅すると母、冴がキッチンで晩ご飯の支度をしていた。
今日は鶏のてりやきとサラダ、野菜たっぷりの汁物らしい。
『ただいま』
恭祐がリビングのソファーの上に鞄を置くと手を洗い、冴の居るキッチンへ移動し
手伝いを始めた。
『お帰りなさい。学校はどうだった?人気者だったらしいわね?宮澤ヒーローの誕生だなんて』
『母さんまで止めてくれよ?そんなつもりで助けたんじゃないんだから』
『ふふ。でもあの時、貴方が意識を取り戻したとき…母さん本当に嬉しかった』
『…ごめん…』
『過ぎた事よ。それに人の命を救ったんだもの。あの子にとって恭祐はヒーローなのよ』
『らしいね』
『初恋の相手でもあるのよね?ふふ』
(絶対からかってるよな…)
『あ!恭祐に手紙が届いてたんだわ!』
『手紙?』
『幼なじみの奈留ちゃんからよ?きっと心配してくれたのね』
『話したの?』
『ええ。あの晩留守電にメッセージが入ってたから。こんな訳で遅くなりましたって』
それなら仕方がないと恭祐は無理矢理納得
した。ただ、手紙というのが引っかかる。アドレスは勿論変えてもいない。最近はメールのやり取りもしていた。
勿論、入院中もだ。外へ出ては数通。
内容はお決まりの”元気してる?”という
文章からだった。ただお互い事故の事には触れずにいた。
すると冴が恭祐へ声をかける。
手紙の一部を詠んでいた彼の意識は
此方へ引き戻された。
『もう大丈夫だから。着替えてらっしゃい』
『うん』
彼が冴に背を向けた時、冴の目に雛の姿が映った。
『珍しいわね?恭祐が動物をつれて帰るなんて…』
『え?ああ…こいつ、暫く面倒見ることになりそうなんだ』
『誰かから預かったの?』
『…ん〜?まぁ、そんな所』
話を終わらせると自分の部屋へ向かった。
着替えを済ませると、冴から預かった手紙を手に取り封を開けた。
『ん…?ピヨ?』
『どうした?』
『感じない…?ピヨ?』
『…あ…取りあえず詠んでみよう』
〔恭祐君へ
急に手紙だなんで驚いたでしょ?
何だか書きたくなっちゃって。
あのね、貴方に会いたいの。会って
話を訊いてくれるだけでいいの。
次の土曜日、会えないかな?
本当、急でごめんなさい
奈留 〕
『話したいことって?それとこの変な感じ
は?…』
『多分何かが関係してるのかも…ピヨ』
『…メールするか。次の土曜日…』
恭祐はスマホを手に取ると
操作を始めた。
暫くして…。
『ピヨーーーっ!ピアノの演奏が聴きたいピヨーーーっ!』
『そんな事謂われても…俺はクラシックなんてCD持ってないぞ?』
『ママさんに訊いてみて…?ピヨ』
『お前なぁ〜?そんな事より話が先だろう?』
『ピヨ…』
勇はつぶらな瞳で恭祐を見た。
短い腕(羽)を手前へ一生懸命持って行く。たが…届かない。
恐らく”お願いポーズ”を取りたかったのだろう。
ピコンっ!
『痛い…ピヨ』
『訊いてきてやるから大人しくしてろよ?』
『ピヨっ!』
(凸ピンは嫌…ピヨ)
恭祐は部屋から出ると階段を降りた。
勇はなかなか戻ってこないのでそわそわ
し始める。
降りて行ったばかりなので仕方がない。
勇は恭祐の机の上でじっと待った。
ボーッとしていると部屋のドアが開いた。
恭祐が冴からかりたCDを片手に戻ってきた。
『ほら。あったぞ?かけてやるから
理由、ちゃんと話せよ?』
『ピヨ』
CDをセットすると勇は話出した。
恭祐が事故に遭ったあの日、あの女に恭祐のツキビトになって欲しいと頼まれたらしい。
最初勇はどうして?と困ったりしたらしい。勇は女の話に耳を傾けたのだ。
「実は彼に今守護霊がいないの
このまま、次の守護霊がつかなければ彼の命が危ないの」
「今回の事故はお姉ちゃんが助けたの?」
「ええ。彼は死ぬには早過ぎるから…好きな動物へ姿を変えて彼の守護霊の代わりをして欲しいの。…お願い…」
その話をされた日その日と再度今日らしかった。
学校への登校は出来るだけ近くで守ってくれていた。
『お兄ちゃんにその守護霊がつけば僕の役目は終わって霊界へ行く…ピヨ』
『そうだったのか…』
『僕、お兄ちゃん好きだしまだ死んで欲しくないんだ…ピヨ』
『有り難う、勇』
『ピヨ?』
恭祐は勇の頭を撫でた。
『そろそろ父さんも帰ってくる。下へ降りよう』
『それはまだ駄目…ピヨ!』
『それじゃスタンドは点けとくから、終わったらちゃんと消せよ?』
『有り難う…ピヨ』
『クスッ…ぷっ!』
『どうしたの?…ピヨ』
『あっはははっ!はは…』
勇が”ピヨ”を謂わない様頑張っていた。同様恭祐も”…ピヨ”には笑いを堪えていたのだが我慢が限界に達してしまった。
土曜の朝。
カーテンの隙間から朝日が顔を照らす。
『ん…眩しい…』
『朝だピヨー!』
『判った…昨日勇が遅くまでCD聴くものだからまだ眠いんだ…』
勇ゎ恭祐の上へ移動する。
彼が横を向いている為何度がズルズルと
落ちてしまう。やっとの事で肩を覆っておる掛け布団へ登れた。
『約束の時間になっちゃうピヨ』
その一言で恭祐は一気に目が覚め
勢いよく起き上がった。
その為、勇がぽーんとベッドの下へ飛ばされた。
『早く支度しないと!』
『痛い…ピヨ』
『何してるんだ?そんな所に転がって?』
『お兄ちゃんが布団と一緒に飛ばしたんだピヨ…』
『あ…』
『酷いピヨー!』
『悪い…』
そんなこんなで普段着に着替えると
スマホ、財布をポケットへ入れると出掛けた。朝食は何処かのコンビニで済ませばいい。
勇はコートのポケットの中に居た。
『ポケットの中は暖かいピヨ』
『…諦めたのか?どうしても”ピヨ”が出るから』
『そうピヨ。それにぃ〜?』
『俺が笑ったからか?』
『そうピヨ。意地悪ピヨ』
『はは…そろそろ駅だ。静かにしてるんだぞ?』
『判ったピヨ!』
勇はポケットの中で敬礼の姿勢をとった。
…だがしかし、やはり手(羽)は届いていない。
駅へ着くと切符を買い電車が着くのを待つ。人は疎らだったが時間が経つにつれ
利用する客が少し増えた。人、人、人。
『あら?宮澤君じゃない?』
『え?えーと』
(誰だっけこの人…)
『まさか忘れた訳じゃないでしょうねぇ?』
『うっ…』
(ここは素直に応えた方が良さそうだな)
『ごめん』
『やぁね!中学の時一緒だったじゃない?坂井朋子よ!』
坂井朋子と名乗った彼女は半ばムスッとしていた。だが直ぐに機嫌を取り戻したようだ。名前を覚えることが苦手な恭祐は
やっと思い出した。
『本当名前覚えるの苦手ね?全然変わってない。…此から出掛けるの?』
『ああ。今日は幼なじみに会いに行くんだ』
そう。あの時奈留は彼が住む群馬まで行くと謂っていたが、久し振りに遠出をしたいと謂い、富山まで行く事にした。
『へぇ。そう謂えば宮澤君中学の時に転校してきたのよね?』
『うん』
『初めて話た時はナマりがあるのかなって思ってたけど全然標準語だったから
ちょっと拍子抜けしちゃったの覚えてる』
坂井朋子は懐かしそうに呟いた。
『よく東京に行ってたせいかな?』
『私、恥ずかしくて標準語、頑張ったっけ…』
『どうして?』
『どうして…って…あっ!電車着たみたいよ?私此からデートだから』
『この電車に彼氏が乗ってるんだ?』
『こら…』
そう話すと二人は別れた。
扉が開き、乗車していた客がちらほらと
下車する。恭祐はその少ない人混みの中
乗り込んだ。
空いている席へ座ると発車する音が鳴った。扉が閉まりゆっくりと動き出した。
暫くするとポケットの中の勇がもごもごと動き出した。
『暑いピヨ』
『仕方ないだろ…』
『ピヨ…』
少し言葉を交わすと恭祐は窓の外を見た。
ついでに少しだけ開けてやった。
小さい子供は長椅子の上に膝を曲げとびゆく景色を見ては凄いと感動していた。
隣に座る母親はちゃんと座るよう説得している。
『もぉー。駄目だったら!』
『もう少しーっ!』
恭祐は再び窓の外へ視線をズラした。
『俺もよく電車に乗る度注意されたなぁ…』
どれくらい乗っていたのか。途中眠ってしまったため判らない。富山の目的地近くになったからか?勇が嘴でつついて起こしてくれた。
『ピヨ〜…』
『よく我慢したな?偉いぞ』
『何か照れるピヨ』
『えっと…確か…』
待ち合わせ場所へ行こうとした時
後ろから自分を呼ぶ声がした。
『恭祐君!』
『あ…ごめん今着いたばかりで…待たせちゃったかな?』
『ううん。此処まで着てくれて有り難う』
『どうって事ないよ。それより話したいことって?』
『うん…とりあえずそこの喫茶店で何か飲みながら…』
『うん』
近くにあった喫茶店へ入ると二人はレモンティーを注文した。
『えと…家の近くのコスモス畑、覚えてる?』
『ああ…確か子猫がよく捨てられてた…』
『うん。実は先月なんだけどね…学校からの帰り道…そうね…女の子なんだけど髪の毛は短くて…そう、恭祐君と同じ位』
『髪の毛?』
『問題はその子が着ていた服装なの』
『服装?』
奈留は頷くとまた話し出した。
その子の服装は白い体操着の様なシャツと下はもんぺ姿だったという。
彼女は誰に話すも信じて貰えず手紙を出したのだ。
『恭祐君、事故に遭って大変だったでしょう?だからこんな話しても…嫌な風にとらえたら…どうしょうって思って…勿論心配してたよ…』
『ごめん。心配かけて。けど奈留が謂いたい事は判るから。俺達幼なじみだろ?』
『有り難う』
そう。彼女は自分なりに彼の事を心配していたのだ。それは恭祐が一番よく判っている。彼女からのメールを詠めば判るものだ。
『ねぇ、信じてくれる?』
『信じるよ。今からコスモス畑へ行ってみよう』
『ええ?!』
『俺も会ってみたい』
『判った』
二人は喫茶店を出るとそのコスモス畑へ向かった。彼は生まれ育った町を久し振りにじっくりと見ながら花畑を目指した。
『此処だ。…あ…』
恭祐の視線の先には焼けただれた少女の姿があった。奈留から訊いた格好ではなかった。下を向いたままでピクリとも動かない。息をしているような感じだ。苦しそうな…息の仕方。
やはり戦争で亡くなった霊だ…。
「痛い…熱い…苦しいよ…お母ちゃん…お父ちゃん…寂しいよ…」
恭祐はその女の子の場所へ歩き出した。
自分に何が出来るか判らないが知った以上、視えている以上…知らん顔は出来ない。しかし、余計なお世話。そんな言葉が頭に浮かんだ。
『恭祐君…?』
奈留の言葉は耳に届いていたが
恭祐は女の子が居る場所まで辿り着いた。
『どうしたの?』
「え…?」
女の子が顔を持ち上げる。その時生前の姿へ戻っていった。
「お兄ちゃん…私が見えるの?」
『視えるよ。…いつも此処に居るみたいだね。俺でよければ話してくれないかな?』
少女はゆっくりと喋り出した。か細い声だ。奈留が居なければ思わず抱きしめていただろう。
少女の名前は林田ハル。六歳だという。
ハルは戦争で爆死してしまったそうだ。そして、約束した家族との今で謂う待ち合わせ場所。ここで死んだ彼女は母と父を未だ待っているという。六十年以上も経つというのに。胸が悼む。
「お母ちゃん…お父ちゃん…」
『君は此処から動けるのかい?』
「…うん」
『お兄ちゃんと一緒に探そう?もしかしたらあの場所で眠っているのかも知れない』
「何処ぉ?」
『案内すから。ほら、此処から見えるお寺があるだろう?』
「見える」
『ご両親の名前、判るかな?』
「チハル。お父ちゃんは勤」
『よし。それじゃ行こう。お父さんとお母さんの待つ場所へ』
恭祐は奈留が待つ農道まで戻ると
一緒に寺まで付き合って欲しいと頼んだ。
三十分程歩くとその寺へ辿り着いた。墓を探すのに手間がかかるだろうと思っていたが直ぐに二人の名前が見つかった。
「お兄ちゃん、有り難う。此で皆一緒だから、嬉しいよ」
『力になれて良かったよ。子が居ての親なんだから。一つだけいいかい?君が立って居たあの場所に君の骨はあるのかな?』
「深いけどあるわ」
『判った』
ハルは恭祐に撫でられると淡く光り
消えていった。
『悪い。もう一つ頼みが出来た』
『なんか恭祐君が不思議人間に見えてきた』
『ブピっ!』
『何?!今の?』
『ああっ!気にすること無いよ!』
『えー?気にするよ!』
『と…鳥だよ。…ほら!』
苦しい言い訳だったが何とかその場を凌いだ。そして奈留の協力もあり、ハルの骨が見つかり両親の眠る寺で一緒になる事が出来た。
更新ゎ来週の予定でしたが
学校行事などがあり今週中の更新と
なりました。
今回はこんな感じで仕上げてみました。
戦争で別れてしまっても魂は
約束した場所で待ってるよ。。。
うまく説明出来なくてごめんなさい。