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 妖かし   作者: 三日月
19/39

 恋心

午前八時。

恭祐と小島は会社を出た。




『まず、市内のホテルからだな。一件目は近いな』

『これ、毎年なんですか?』

『そうなんだ。”るるぶ”っていう雑誌、知ってるかい?』

『はい。去年使いました。友達と旅行の計画を立てるのに』

『使ってくれたのか?有り難う。あの時は秋冬担当したの俺なんだ』

『凄いです。あんな沢山出来るなんて』

『君もいつかは一人で任されるよ』

『その時は頑張ります』






小島は車のキーを出した。

最近買ったシーマだ。見覚えがある。

小島は恭祐を助手席へ乗せると、自分は運転席へ乗り込んだ。

エンジンがつくと小島が好んで聴いている曲が流れる。



中孝介の”花”だ。





『俺、こいつ好きなんだよ』

『中孝介の”花”ですね。俺も好きですよ。確か、七月三十一日にカバー曲出しますよね?アルバムだったような…』

『あ!そうなんだ!来月末かと思ってた』

『そんな、気落ちしないで下さいよぉ?』

『楽しみにしてたもんで…』

『ショップへ行って無かったより良いじゃないですか?』

『そーだよな?行って無かったよりマシだよな』

『もしかして…着信音も中さん…だったりします?』

『うん』

『あっはは…』

『先輩を笑うなよ…』

『ごめんなさい…』

『きょんきょん酷い!』

『そのあだ名、教えたのタケシですね?』

『よくお分かりで。そうだ!宮澤君は付き合ってる子居ないの?』

『うーん…友達以上恋人未満?』

『もっと女には突っ込まないと駄目だぞ?』

『なんて謂うか…よく分からないんです』

『君さ、よく鈍感て謂われない?』

『不思議な事によく謂われます』

『不思議な事にそれは不思議じゃないんだよ』

『そんな…』

『笑った仕返しさ』

『…う』





そんな話をしながら一つ目のホテルへ向かう。何か飲み物が欲しいと謂うことになり、途中セーブオンに寄った。





『多分今日は三つ目のホテルが終わったら、カプセルホテルへ泊まる事になると思うから』

『分かりました』

『パソコン、ちゃんと持ってきたかな?』

『はい。大丈夫です。メモリも此処に』





恭祐は鞄を軽く叩いてみせた。

小島は”よし”と謂うと運転席に座り込む。

缶珈琲を開けると、一口飲み発進させる。




今日は特別蒸し暑い。

シャツがべっとりと纏わりつくのが

分かる。小島はエアコンのスイッチを入れた。


恭祐は外へ視線を移す。

小雨が降り続いている。

空はどんよりと黒い雲に覆われる。

十字路にあるドラッグストアの店員が

特売日なのか旗を数本立てている。

首には青いタオルが掛けられていた。


汗を拭く為のタオルだろう

信号が変わり、発進する。




歩行者は赤で止まり傘をさしながら

空いている手で、扇いでいる

数人が同じ行動をとっているこの蒸し暑さだ…仕様がないだろう。

少し進むと畑道に入る。トウモロコシだろう。

二十本植えられている。






『今年の梅雨は雨が少ないみたいだから、今日みたいな少ない雨でも恵みの雨だな』

『そうですね。蒸し暑いだけだし…』






恭祐も缶珈琲を開け、一口飲むと再度外を見る。すると畑近くにある電柱に寄りかかる霊を視た。

頭を抱えている…恭祐に気づくと此方をじっと見ている。


二人が乗る車がその電柱を横切る時

何も知らない小島が煙草を吸うため

ウィンドウを少し下げる。

その瞬間、女の霊が入ってきた。






「悩みを訊いて貰ってもいいですか?あ、私、天野トシといいます」

(どうしたんですか?)

「実は、生きている方に恋をしてしまったんです…」

(…随分難しい悩みですね…)

「そうなんです…」

(俺が相手に伝えても構わないんだけど…相手がどう思うか…)

「実は…その…、今、運転してらっしゃる方なんです…」

『えぇっ?!』

『わっ!なんだ?!どうした?!』

『…えっ、えっとぉ…』

『幽霊と話してたとか?』

『うっ…』

(鋭い…)

『俺も仲間に入れてくれよ?』

『……。車、止めて下さい』







キィ…。



小島は恭祐の謂う通り路肩へ車を止め

恭祐を真剣な目で見る。






『どちらでも良いので、手を俺の手の上に置いて下さい』

『…?分かった』






小島はそっと恭祐の右手に

自分の左手を置く。


恭祐は一度、目を閉じた。






『これで、今後部座席に居る方(霊)と話が出来ます』

『話し?』

『はい。天野さん、…どうぞ』






恭祐がそう謂うと、天野の姿が小島にも

視えた。彼は全身に妙な痺れを感じた。

生きている人間にある反応の一つだ。

初めて視る霊だ…


彼女はショートカットがよく似合っている。

目は二重でくりっとしている。

良い顔立ちだ。年は三十代半ばだろう。






「えっと…。初めまして、私、天野トシと謂います。…その…数年前、此方にお仕事でいらしてましたよね?」

『数年前…?あぁ。あの時…』

「その日から…貴男を見かける様になって…気がつくと…小島さんの事を…好きになっていたんです…」






小島の右手にはハンドルに

左手は恭祐の手に乗せたままの姿勢で

彼女の話を訊く。






『有り難う御座います。まさか、この年になって告白されるなんて思ってもなかったから、嬉しいよ。…けど…』

「いいんです。貴男には妻子が居ることは

知っています。それに、私は幽霊だし…。

告白出来ただけで私は嬉しいんです。…それで良いんです」





彼女は涙を流すこともなく

笑顔を作って見せた。

彼女は”有り難う御座いました”と言い残すと淡い光の粒となって消えた。 



小島は数秒、天野トシが座っていた後部座席をじっと見ていた。







『初めて…霊を見て…その…話したよ。有り難う』

『礼を謂われる様な事じゃないですよ。急だったにも関わらず、此方こそ、有り難う御座いました』

『なんて謂うか、何か切ないかな?』

『…そうですね…』

『さぁ!再発進だ!』






小島はそういうと、アクセルを踏んだ。

恭祐は先程の会話で、何故か遠く離れる彼女を思い出していた。


そして、ある事を決めていた。






『しかし、告白ってくすぐったいな…』

『…そうですね。俺もそうでした…』

『勇気持っての告白なのにな?』

『全くです。断り方が難しいです…』

『え?ずっと断ってたのか?』

『はい』

『ええーーー?!可愛そうに』

『え?』

『だって折角の勇気が…』

『小島さん、何人じゃないや、何股してたんですか?』

『…………』

『小島さん?』

『…………』

『こーじーまーさん?』

『何十だ』

『…………』

(訊かなかった事にしよう…)

『はぁ…しかし車から降りたくないよなぁ〜』

『向こうの空も怪しいですね』

『あれ?いつの間にやんでた?』

(車止めて貰った時です)

『あ、一つ目のホテルまで後五分ですね』

『それまで降るなよ〜?ホテル側〜?傘会社に忘れたんだからぁ〜』

(小島さん…小雨、朝からでしたよ…)






そして五分後、二人は一つ目のホテルへ

着いた。恭祐と小島が車を降りると雨が

狙ったかのように降り出した。

地面を、叩きつける様な振り方だ。

小島は恭祐から予備の傘を借りたが


二人は雨で濡れてしまった。





『あーぁ。…びしょ濡れですね…』

『見事に…』





恭祐は車を降りる前にタオルを取り出しやすい様にしていた甲斐があった。

鞄からタオルを、二枚取り出し小島へ一枚手渡す。

小島は礼を謂うとタオルを受け取った。

出来るだけ、スーツも念入りに拭く。



するとホテルの支配人が

二人に駆け寄ってきた。





『やぁ、小島。仕事ご苦労様』

『おう。いや〜車を降りたら降って来ちゃって、参ったよ』





小島は両手を顔の横へ持っていく。

そして新人の恭祐を紹介し、続けて

友人である村田を恭祐へ紹介する。





『君が噂の子か。宜しく』

『此方こそ、宜しくお願いします』

『…。今日来るの知ってるなら外で待っててくれよ〜?』

『すまない。最初待っていたんだが、呼ばれてしまってね』

『まっ、いっか。それじゃ始めてもいいかい?』

『その前に…濡れたままだと風邪をひく。温泉に入ってくると良い』

『上手いなぁ〜。それじゃ、きょんきょん、風呂行こう』

『え?…はい』

(いいのかな?)






二人は村田に案内されながら

大浴場へ向かった。





『この浴衣、デカいな?』

『上げるしか無いですね…』

『ん?こっちがきょんきょんだろ?

どえ見ても君方が俺より身長がある』

『………あ…』

『はい。こっちね』




午前中ということもあり、大浴場は空いていた。

この後数人で風呂掃除をするのだろう。

中へ入ると三人の客が湯に浸かっている。

二人は体に湯をかけ、雨で冷えた体を暖めた。






『支配人の村田さんとは、友人なんですね?』

『ああ。幼稚園の頃からの付き合いなんだ。まさか”あの村田”が支配人とはねぇ…。あいつ、子供の頃何かある度よく泣いてたんだ』

『そうは見えませんでしたけど…?』

『大人になったって事さ。んーと…ザリガニに挟まれて泣いたろう?折り鶴が折れなくて泣いたろう?あ、後妹が居るんだ!この妹が狡くてね…』


『…その話、訊かなかった事にしときます』

『はっはっはっ!』

『朝風呂、気持ち良いですね…初めてです』

『俺はよく朝シャンだぞ?』

『え?』

『夜、呑むまで我慢出来なくてね…』

『……知ってます?朝シャンてハゲるんですよ?』

『ええっ?!…や、やめよう…』

『…はぁ、大きい風呂って良いですね…』

『ああ。気持ち良いなぁ…』






二人が上がると支配人の村田が

脱衣場の外で待っていた。






『いい湯だったよ。有り難う』

『いいって事よ。それより、夜泊まる所は決まってるのか?』

『カプセルホテルかな?』

『それなら今日は此処に泊まるといい。素泊まりでどうだ?』

『いいのか?』

『勿論。夕食と朝食は出ないけど…』

『いいさ。外で済ませるから。悪いな?』

『悪いのか?友人だろう?』

『いい友人じゃないですか…』

『君、良い事謂うね』

『自分で謂うな。…それじゃ、仕事初めても構わないか?…』

『勿論だよ。では此方へ…』






恭祐達はホールへ通された。

小島はカメラを手に取る。ホテル内を

撮影する為だ。

大きい窓のある席を選ぶ。


外の雨は先程より弱くなっているが

降り続いている。

遠くで雷がなっている…。












        



おはようございます


恋心、如何でしたてましょうか?

幽霊だって恋愛します!

だって人だから。。。


叶わぬ恋ですが…

良いかな?と、思いまして。。。


さて、もう少しで…。。。

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