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 妖かし   作者: 三日月
15/39

 夜の訪問者

四月も後三日で終わる頃、恭祐は父、勝と夜道を歩き家を目指し、歩いていた。

家へ着くと、ポケットから鍵をとり出し開ける。



午後八時。




『ただいま』

『お帰りなさい。夕飯、出来た所よ』

『…あっ!お二人さんお帰りぃ〜。お兄ちゃん仕事どう?』

『まぁまぁかな?着替えてくるよ』

(恭祐さぁ〜ん!メロン買って下さぁ〜い♪)

(…何かモチスケ…俺に訴えてる…)




恭祐はネクタイをゆるめながら二階にある部屋へ行く。

その後をモチスケが追う。器用に飛び跳ねながら階段を上がる。恭祐はその様子をドアの前で見ていた。




『ピヨー!やっと出れたピヨ!』

『学校と違うからな。疲れたろう?』

『ん〜?そうでもないピヨ!』

『恭祐さぁ〜ん!お仕事お疲れ様でしたぁ〜♪マッサージでもしましょうかぁ〜?』

『いや、マッサージはいいや。その代わり、そこのハンガー取ってくれ』

『わかりましたぁ〜♪』




メロン買って下さい作戦決行。

モチスケはベットの上にあるハンガーを

恭祐に渡す。受け取ると、スーツをセットする。





『メロンの時期になったら、買ってくるよ』

『本当ですかぁ〜?!』





メロン買って下さい作戦は恭祐に見抜かれていた。

決行しなくとも、恭祐はメロンの時期になったらモチスケへ買う予定だった。

人間界へ来てからというもの、彼には我慢してもらっているところもある。




『約束するよ』

『僕はクッキーが食べたいピヨ!』

『いつも食べてるだろう?』

『そうですよぉ〜♪メロンちゃん待ってますよぉ〜♪』




恭祐はモチスケの頭を撫でる。

着替えを終え、何気なく視線を外へズラすと、家の門の前に人影か見える。客人かと思い玄関まで行く。鍵を開け、扉を開ける。


 だが、さっきまで居たはずの”人物”は居なかった。





『確かに誰か居たはず…』





洗面所から戻ってきた茜が玄関先に居る兄に気づき、話しかける。”どうしたの?”と訊くが恭祐は”なんでもない”と応えた。


玄関を閉めた。

この時、彼は霊が入ってしまったことに気づかないでいた。”眼”を使っていれば防げたかも知れない。だが、彼が開けなくとも、冴が犬の散歩で開けてしまう。どの道入ってきてしまう。


リビングへ入ると冴が、片付かないから早く食べる様恭祐へ謂う。




『恭祐も早く酒が飲めるようになれ?仕事帰り、連れていってやる』

『あーなーたーぁ?!』




勝の言葉に冴が睨み付ける。恭祐は父の反応に笑うと茜もつられて笑った。





『もう!まだ未成年なんだから!』

『ピヨー!』





冴は勇の夕飯だけを持ったまま、勝に説教していたので勇がねだる。




『あ、ごめんね。ピヨちゃん。はい、どうぞ』

『ピヨ〜!』




やっと夕飯が貰え、食べ始める。

モチスケは綺麗に食べているが勇の顔の周りはすぐ汚れた。





『ん?モチスケ、何着けてるんだ?』

『……?』




恭祐がモチスケへ訊くと彼は

首を傾げた。




『私が作ったエプロンよ!可愛いでしょう?』

『…………可哀想に…』




勝もモチスケを見て同情する。

この仔は雄だと付け加えた。


茜は食事を中断し、モチスケの所へ移動すると抱き上げて見せる。





『着せ替え人形じゃないんだぞ?』



呆れた恭祐は茜を非難した。



『だってモッチー私から逃げるんだもん!』

『茜が意地悪するからだよな?モチスケ?よしよし、取ってやろう。こっちへ来なさい』





モチスケは勝に茜の手から逃れられ勝の所へ行く。

恭祐はその様子を見て。吹き出しそうになる。茜お手製エプロンはヒラヒラでビラビラのエプロンだ。そのエプロンは勝の手により外された。


暫くすると食事が終わり、恭祐はケチャップで汚れた勇の顔全体をティッシュで綺麗に拭き取る。




『恭祐、先に風呂入りなさい』

『え?』

『父さんは少し仕事ごあるんだ。お前が出る頃には終わるだろう。それに、まだケチャップが落ちてないだろ?』




恭祐は勇を見る。

確かにオムライスのケチャップが

うっすら残っていた。




『分かった。それじゃ先に入るよ』

『ピヨ〜♪』

『覗きに来るなよ?』

『覗かないわよっ!もう!』

『モチスケも、少し汚れてるな?入って来なさい?また、茜に悪戯されるぞ?』





勝の一言でモチスケは猛スピードで脱衣場へ向かう。その様子を見ていた勝は口元で笑った。恭祐は着替えを持つと、その後に続く。すると、先に行ったモチスケが恭祐を待っていたのか?恭祐の背中に飛びついた。


 肩に乗っていた勇がモチスケに近づいた時、耳元でバチッと鳴った。





『なんだ?』


『痛いですよぉ〜…』

『ビリーがきたピヨ…』

『静電気か…』

『今のは本当にきましたよぉ〜…?』

『痛いピヨ…』

『獣同士だから仕方ないだろう?』





風呂へ入ると洗いながら恭祐はさっきの影について思い出していた。人間はでなく、”眼”を使って視る者だったのではないか?霊の中には自力で中に入れぬ者が居ることを思い出す。



そのタイプの悪霊なら、突然消えた事と辻褄が合う。恭祐は勇とモチスケを洗い終えると濡れた髪の毛の上にタオルをのせる。




『ピヨ?』

『どうした?勇?』




勇はモチスケが入っている入れ物を

じっくり見る。





(ベビーバス…ピヨ…)




モチスケは楽しそうに泡を立てていた。



風呂から出ると恭祐は父の仕事部屋へ向かう。




『上がったよ?』

『おう、もう終わる』

『それじゃ俺もう寝るよ。お休み』

『お休み…あ、恭祐!』




恭祐は閉めかけたドアを再び開ける。




『母さんがさっき呼んでたぞ?』

『分かった』




ドアを閉め、恭祐は冴の居るリビングへ向かう。恐らく恭祐の一人暮らしの事だろう。何となくだが分かった。




『何?母さん…?』

『上がったのね?…ふぅ。来月、出るんでしょう?』

『うん。ゴールデンウイーク中に…』

『そう。…家具だとか、揃えないとね…』

『それは自分で何とかするよ。高二までバイトしてたし。大丈夫だよ』

『あ、そうだったわね…。忘れてたわ…』




冴はどことなく、寂しそうだ。




『だから、そのお金は母さんが持っていればいいよ』





恭祐は冴が手にしている物に気づき、言葉をかける。そのお金は恭祐が家を出ると謂った時から、冴がこつこつ貯めていた。




『いいえ。これは恭祐が使いなさい。母さんからのお礼よ』

『お礼?』

『そうよ。あなたには沢山助けて貰ったもの。だから、困った時に使って頂戴』

『…ありがとう。母さん』

『…髪の毛、ちゃんと乾かしなさいよ?春だからって夜は冷えるんだから』

『…分かってるよ』





恭祐は冴えが煩くならないうちに、部屋へ行くとドライヤーをとり出す。勇とモチスケはヒーターを点け座りながら乾かす。

やはり勇は何故か口を開けている。確かにこの部屋も夜は冷える。


 明日は休みだ。少し夜更かしをしよう。そう思いながら髪を乾かすと、小説を一冊引っ張り出した。恭祐は本を読んでいる時間が好きだ。何もせず、一番楽しい時間だからだ。


二匹も乾いたらしく、ヒーターの前から動き出す。どうやらトランプを始めるらしい。また、ババヌキか?恭祐はそう思った。


その時だった。


誰かが、階段を上がってくる足音がした。

一段一段…。途中立ち止まったのか静かになる。




ドン…ドン…



すぐ近くで壁を叩く音がした。




『母さん?』

『おばちゃんは今、明日の準備をしてるピヨ…人じゃないピヨ…』

『人間じゃないかも知れませんよぉ〜?』





勇とモチスケの言葉に彼は”眼”を使おうとした。その時…茜が入ってきた。

どうやら茜にも聞こえているらしい。





『お兄ちゃん…?母さんかと思ったんだけど…今の、違うよね?』

『…うん』




ミシ…。


また、階段を上がりだした。

二人の耳に階段が軋む音が聞こえる。

その音は徐々に近づいてくる。そして、また止まり、壁を叩く。先程より強く叩かれる。





ドン…!ドン…!





『お兄ちゃん…』




この出来事に恐怖を感じ、茜は恭祐に抱きつく。勇はモチスケの前で守りの姿勢に入った。足音は二人の部屋の間までやってきた。

恭祐は”眼”を使う。…やはり”人”ではなかった。





『あの時の悪霊ピヨ!』

『えぇっ?!ピヨちゃん喋った?!』

『ああ。ドアは開けない方が良さそうだな…』

『ピヨ…開けたら入ってくるピヨ』

『もう何でもありですねぇ〜♪』

『喋ってる…』




ドン!ドン!ドン!




『きゃぁぁっ!』

『激しいですねぇ〜…』




そういいながらモチスケは勇にしがみついている。リビングに居る冴には、この騒ぎは聞こえていないらしい。




「開けろ…」

『開けたら入ってくるだろう?俺に何か用か?』

「取り憑いてやる…お前の様に力の強い奴は迷惑なんだ…始末してやる…」

『お兄ちゃんに守護霊がいない事を知ってるピヨ。危ないピヨ!』

『…っ!茜、モチスケを頼む!』

『え?あっ!お兄ちゃん?!』

『俺が窓から出たら、直ぐに閉めるんだ。いいな?』





恭祐はモチスケを茜に預けた。

勇が恭祐の肩に乗ると、窓を開け外へ飛び出して行った。


茜はモチスケを抱き締めながら謂われた通り、窓を閉めた。恭祐が外へ出てすぐ、ドアを叩く音は止んだ。声もしなくなっている。





『モッチー私…怖い…』

『私がついてますよぉ〜…』

『頼りにならない……』

『さり気なく酷いですねぇ〜?』





恭祐は夜道を走る。

突発的に飛び出して来たので、何も考えていなかった。兎に角奴を外へ出したかった。勿論、二匹の事もあったが、それは、戻ってから説明すればいい。ただ、勇が姿を変えたら、茜はどう思うだろう?


目の前の出来事を信じてくれるだろうか?

恭祐が一番恐れていた事は、ただ、その事ではない。

あいつが茜に憑依したら…。


その為にも、奴を外へ誘い出し決着をつけたかった。

無謀な事は本人がよく判っている。





『はぁ!はぁ!はぁ!』

『あいつと、目を合わせちゃ駄目ピヨ!僕は後ろ守るピヨ!お兄ちゃんは兎に角走るピヨ!』

『はぁ!はぁっ!分かった!』





黒い影は追うスピードをあげた。

恭祐もまた、出来るだけ走る。夜遅いだけあって、誰一人、出歩く者は居ない。

唸るような声を出しながら、黒い影の悪霊は恭祐を追う。


十字路へ差し掛かった時だ。

つい前まで、高校の担任だった矢井田がビニール袋を片手に左側から歩いてきた。





『っ!先生っ!』

『ん?ああ。恭祐…どうした?』

『後で話します!』





走る恭祐が矢井田を追い越した時だ。





パァァァンッ!!





何かが割れる音がした。

恭祐は足を止め、矢井田の方に振り返る。

そこには先程まで追って来ていた悪霊の姿がなかった。


恭祐は足を開く様に、座り込む。

そこへ、矢井田が近づいてくる。




『はぁ…はぁ…今の音は?』

『これよ』




矢井田はあの時の石を恭祐に見せた。

彼女の手の上で黒い石が割れていた。どうやら鬼の石が二人を守ってくれたらしい。ここで彼女に偶然にも会わなければ、恭祐はどうなっていたのか?



矢井田が恭祐へ石の事を調べたのだと、話し出した。その石はオニキスと謂うらしい。数分程度で説明を訊く。



しかし、石の力は一時的なものらしく

また恭祐を狙ってくる。






『……ありがとうございます。先生のお陰で助かりました』

『いいよ。さぁ、立って?』




矢井田は手を差し出す。

恭祐は差し出された手をとる。矢井田の手は風呂上がりらしく、しっとりしていた。





『久し振りに会えたかと思えば、悪霊に追われてるなんて…』

『笑い事じゃないですよ』

『まぁ、憑かれなくて良かったよ』

『はい』

『前から狙われてたのか?』

『そうらしいです。何度か頭が重くなったり…』

『寄せるタイプか?』

『引き離すタイプです』

『ははっ!…もし、憑かれたりしたら私が背中を、思い切り叩いてやるよ』

『思い切りじゃなくていいですよ。…その時はお願いします』

『お…落ちるピヨ…』

『ん?』





矢井田が恭祐の背中を見る。

そこには”落ち掛けている”勇がいた。




『た…助けてピヨ…』

『ピヨ吉…久し振り』




矢井田は勇を摘む様に恭祐の肩へ乗せる。

すると勇は手(羽)を目一杯に広げお礼を謂った。矢井田は勇の頭を撫でる。




『ピヨ吉じゃないピヨ』

『うん?…明日は休みか?』

『はい。ゆっくりする予定です』





矢井田は照れ隠しで足元へ視線をズラし、恭祐が裸足だったことに初めて気づいた。


矢井田は恭祐にサンダルを貸すと謂うので、一度彼女のアパートへ行くことになった。アパートへ着くと足を拭くように暖かく濡れたタオルを出してくれた。






『今日は、本当にありがとうございます』

『いいよ。別に…』

『どうしたんですか?』

『ん?…うん。実は…男をあげるの…初めてなんだ…』

『お兄ちゃん第一号ピヨ!』

『…と、取りあえず…体を暖めてから…帰りなさい。く、車で送るから…』

『はい』





どことなく矢井田は緊張していた。紅茶を淹れようとカップを二つ取り出す手は、明らかに緊張で震えていた。

その為、ガチャガチャと音を鳴らしている。






『先生?…大丈夫ですか?』

『だ、だだ、だ大丈夫…』

『大丈夫じゃないピヨ…』









如何でしたでしょうか?

この話を詠んで下さった方も

経験があるかも知れません。

右肩を誰かに叩かれたはずなのに


振り向くと誰も居ない。。。


気のせいかで終わらせているかと

思います。

悪戯で叩かれる事が殆どですので

ご安心を。



自分が五年前に扁桃炎で死にかけた時が

きっかけで視えるようになるまで

幽霊に関してサッパリでしたが

親友に訊くと、気づいてほしくて


肩を叩いたり

ふと、視界に入るようです。


左手の親指の関節…目のような形(瞳らしきものはありません)に

なっているかたゎ…御注意を…。

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