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第五話 初陣

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5/25 誤字修正

 中心部の近代的な建物が、走るにつれ徐々に高さが落ち、それに伴い年数の増えた建物が目に付くようになって来る。

 その内建物自体も疎らになり、やがてそれらも消える頃には草原と森林しか目に入らなくなる。平坦と言える様な所は殆ど見当たらず、うねる様に広がる緑の地には街道を示す一本の茶色の線が入る。

 そこを二機のARPSを乗せた一台のトレーラーが、土ぼこりを上げながら南へと直走っている。

 街から近い場所には何人ものプレイヤーがいたため、移動に足がある彼らは大分奥へと入り込んでいる。


「ねえ、まだ着かないの?」

「この先の森の辺りだから、一旦止めて探ってみようか」

 常時センサーによる探索をしているが、範囲10km圏内には敵の反応は無い。

 初の実戦となる相手は、街から南に下がった所を縄張として持つ山賊の集団だ。初心者がまずは手合わせをお願いする相手となる。

「相手も一応ARPSを持ってるのよね」

「そうだな。旧世代のを一、二機と武装車両が数台って感じかな」

「じゃあ、私がARPSの相手をするからキースは車両ね」

「了解」

 街道脇へと止まったトレーラーから一旦降り、スキル【スキャン】を使用してスヴァローグⅡのセンサー範囲を広げていく。スキルも装備も無い通常の機体で1~2km前後。スキル持ちで初期BP(バックパック)センサー装備で10km程度。スヴァローグⅡは条件によって差が生じるが、スキル使用で15~20kmの範囲を持つ。その分他より機体性能が劣り、装備の重量制限もきついので武器も貧弱になるが、誰よりも先に相手を発見する事でカバー出来るとキースは考えている。


――範囲15km圏内には、反応ありません――

「アデリナ、1-6-5から2-1-0の範囲を重点探索」

 ここから先は森林との間の草原地帯が、右へと蛇行して続いてゆく。全方位では無く、その草原部を中心に探索を切り替える。

――了解です。方位1-6-5から2-1-0の範囲で探索を開始します――

 範囲を限定することで通常よりも解析処理能力が上がり、探索距離も延ばせるようになる。

――アンノウン発見。方位1-8-8、距離16.8kmに車両三台。方位1-9-1、距離17.6km。森の中にARPSが一機います――

 どうやら敵は草原地帯を三台の車両で先行し、ARPSが一機森林地帯の中隠れながら付いて行っている様だ。

「いたか。エレノア、1-9-1の方角、17km先の森にARPSが一機。こちらに向かって来てる」

「おっけー。初戦だし、バーンとやっつけちゃうよー」

「途中、恐らく武装された車両が三台いるから森の中でも注意して接近しろよ」

「りょうかーい」

「自分はまだ武装が付いてないから、一旦離れますね」

「ここまで来させるつもりはないが、一応この辺には他に敵はいないから左の森の影にでも隠れててくれ」

「了解です」

 飛び出して行ったエレノアの後を追うように、キースは森林との境目をゆっくりと敵に向かって進んで行く。




 先行したエレノアは車両との接触を避けるように、森林の中程へと移動し敵へと駈けて行く。森の中程とはいえ、木々の間隔はARPS一機が通れる程には開けてる。その間を最初は早歩き程度だったのが、徐々に速度が上がっていき今では駆け抜けるように走っている。

――エレノア、もう少し速度を落とした方が良い。これだと音で気づかれる可能性が高い――

「何言ってんのよ。こっちは飛び道具を持って無いんだから、敵に近付かないと意味が無いじゃない」

――それなら、牽制用に銃器を持てばいいのでは?――

「私はロボットで殴り合いがしたいのよ。それに気付かれても、これだけ木があれば簡単には当たらないわよ」

――そうだと良いが……。こちらのセンサーでも補足した。方位1-9-8、距離1.5km。どうやら気付かれている様だ――

「上等。突っ込むわよ」

 左の腕に付けている盾で正面をガードするように前へと突き出し、木の陰から陰へと移っていく。相対距離が1kmを切るようにもなると銃弾が飛んできて、周りの木々から時々樹皮などの破片が降り落ちる。敵の機体が視認出来るような距離まで来ると全てを盾で防げず、流石に機体にも当たる銃弾が出始めた。

――敵機体80式と判明。二世代前の機体だから、大方軍の払い下げ品だな。武装もマシンガンの他にロッドを所持している模様――

 敵の使用している80式は、シュネイック軍の旧主力装備だ。特徴は一言でいえば、理想的な軍用品だ。メンテ性を優先させたせいか、簡易なデザインで構成された無骨な外観。性能的には特筆すべきことは無いが、誰にでも扱えてとにかく壊れないという点で重宝されていた。

 80式は右手で銃を所持し、左側を木で遮蔽しながらこちらへと撃ち続けてる。距離も300mを切る頃になると、徐々に銃弾が盾以外の機体部分に当たる割合の方が多くなってくる。

――損傷率17% 操縦に支障は無いが、脚部への損傷が増えている――

 機体は頭、胴体、両腕、両足の計六ヶ所に耐久値が設定されている。値が無くなれば破損と判断され、操作不能となる。モニターには機体縮小図により耐久値が視覚的に表示され、白から赤へとダメージ量が視認出来る。AIによる口頭報告は戦闘中でもあり、細かく長く報告はせず、全体の損傷率と注意喚起が必要な事のみ申告される。

「ここまで来たら、もう大丈夫。いっくわよー」

 敵が遮蔽を取っている木の外側を回り込むように接近する。肩を突き出し半身の状態となり、ローラーダッシュを掛け敵左側面へと突っ込んでゆく。地面の状況は良くないが、それでもかなりの速度が出る。敵も気付き迎撃しようとするが、木が今度はこちらの遮蔽となって銃を向けることが出来ない。とっさにロッドを取ろうと左手を動かすも、その前にカグツチの肩が敵左上腕部へと突き刺さる。そのままよろける様に踏鞴を踏んで後退するも、背後にあった木に当たり踏み止まる。

「チャーンス、あーんぱーんち」

 右腕を振り被り、敵胴体部の操縦席へと拳に装着しているアイアンナックルを叩き込む。当たった衝撃を逃がそうと敵機体が浮き上がりそうになるが、背後の木に押さえられダメージを全てその身に受ける事になった。腕を戻す頃にはアイカメラの光も消え、敵機体は完全に停止していた。

「初勝利、ぶい」

――もう少し接近方法を考えないと今後支障が出るぞ――

「もう、せっかく余韻に浸っているのにGARP(ガープ)は水差さないでよ」


 こうしてエレノアの初戦は、最後に小言を受けながらも勝利で終わる。




 エレノアが敵へと飛び出した直後、トレーラーが左側の森林の陰へと移動したのを見届け、キースは敵へと向かうべく移動を開始する。草原部から木の間を通り森の中へと、境目を僅かに侵入しながらゆっくりとした足取りで敵へと進んで行く。


「さて、どうしたもんかな」

――アンノウン判明。バギータイプが二台。いずれも機関砲を装備し、一台は四連のロケットポッドが二ヵ所付いています。それと装甲戦闘車が一台。こちらには対ARPS用砲門を一門確認してます――

「機関砲は良いとしても、砲門は当たると厄介だな。シールドも装備して無いし。そうなると、やっぱり待ち伏せしかないか」

 敵はまだこちらに気付いてはいない様子で、依然と進路などを変えぬままバギータイプの二台の後ろを装甲戦闘車が大人しく付き従っている。

「アデリナ、予想経路上に機体を隠蔽出来るような場所はあるか」

――5km先、方位1-9-3の地点に該当する場所があります――

「予想経路からも50m程森に入っているし、ここがいいな。ジャミング開始」

――了解です。敵探索に対し妨害を開始します――

 敵の探索を潰しながら目的地へと移動を始める。結果として敵にこちらの存在がばれてしまうが、開始時の選択肢にステルス系スキルが存在しなかったのでキースには現状これしか手は無い。とは言えLvの低さからあまり広範囲には利かないので、結果オーライになってはいる。

 妨害をしているとはいえ、なるべく音を立てない様進んで行くと木々の中に岩場が現れて来る。ごつごつとした1m位の岩がいくつも転がっており、その中に一際大きな岩が見えた。高さが7、8m位あり直径も20m近くはある。その岩で遮蔽を取るべく、手前にある1、2m程の岩を乗り越えていく。

「間に合ったみたいだな」

――敵襲撃地点到着予測はおよそ二分半後になります――

「ジャミングの影響で、相手の移動速度が多少遅くなったからね」

 相手は警戒をしつつ、速度を落としながらもこちらへと近づいてくる。


 敵がこちらの視界に映り、射程範囲へと入った。依然妨害の効果か察知された様子は見られない。

 まずは一番厄介な対ARPS砲門を持つ装甲戦闘車を無力化するべく、アサルトライフルの引き金を絞る。三点バーストを二回、計六発の内四発の銃弾が装甲に当たる。銃撃音に気付いた先頭二台の機関砲が、音がしたこちらへと向けられる。銃弾を受けた装甲戦闘車はしばらくそのまま自走していたが、すぐに停止し破壊に成功する。

 これで危険な物はロケットポッドだけになる。そちらを排除しようと照準を向ける前に、突如操縦席に警告音と共にモニターに警戒シグナルが表示される。その件のロケットポッドから二発のロケット弾が発射された様だ。

「くそっ、誘導付なら楽なのに……」

 悪態を吐きながらも岩場から飛び降り、急ぎローラーダッシュを掛ける。直撃は辛くも避けれたが、ロケットが当たった岩の破片が銃弾の如く機体へと降り注ぐ。

――損傷率6%と軽微ながら、頭部レーダーに損傷。機能が14%低下してます――

「まずはあのロケット野郎からだ」

 機関砲の弾を機体に幾つも浴びながら、ロケットポッド付へと銃弾を撃ち込む。車体を急加速させ回避を図るも、上手いこと片方のロケットポッドに当たり誘爆を誘い破壊に成功する。残り一台となったのに気付いたバギーは逃走を開始するも、ローラーダッシュで追走しあっさりと破壊する。

「取り敢えずは終了かな。念のため一度周辺探査をしておこうか」

――了解です。範囲12.9km圏内には敵反応ありません。方位2-5-5にカグツチ壱型の反応を確認しました――

「エレノアも勝ったか。よし、じゃあビエコフの所に戻って直してもらおうか。アデリナもお疲れ」

――マスターも初陣お疲れ様でした――




 ビエコフの所に戻るとまだエレノアは到着していないようだ。目に付く限りでは特に大きな損傷は見られなかったが、岩の破片などを浴びたせいで光沢の無いマットブラックの機体はかなり薄汚れて見える。あまりのみすぼらしさに戻ったら塗り替えようとキースは心に決め、早速ビエコフに修理を依頼する。特にセンサー機能が多少とは言え落ちていては、当初のプランに支障をきたすため深刻だ。荷台の上へ機体を仰向けに寝かせると、ビエコフが嬉々とした表情で重機を動かし始めた。

 しばらくするとエレノアも無事到着し、三人(ビエコフは戦闘して無いけど)の初陣は無事勝利を飾る事となった。


 カグツチの修理の順番を待つ間、初戦の感想を互いに話し合う。

「思ったより楽しょーだったね」

「そうか?俺はロケット撃たれた時一瞬焦ったけどな」

「まだまだよのー」

「折角【チャフ】獲ったのに、無誘導には効果無いんだよなあ」

「次はもっと強いの狙おーよ」

「段階踏まないとすぐ死ぬ事になるぞ。デスペナルティもきついんだから」


 ここで『鋼鉄の新世界』に於ける死亡時の設定を紹介する。

 確認するまでもなく、あくまでプレイヤーが死んだ時点で死亡判定がなされる。尚、死んだら終了ではなく、キチンと復活し戻って来られる。復活場所は二ヵ所。一つは街中にある教会。もう一つはプレイヤーの拠点だ。但し、拠点の場合にはプレイヤーまたは所属チームが購入した物に限られる。復活時には復活場所の選択をすることになる。

 機体が破壊されても搭乗者が生きていた場合(脚部のみ破損し移動不可など)は、機体を降り逃げることが可能。但し戦闘中のエリア内でのログアウトは不可になる。ログアウトをするには戦闘エリアから外に出るか、戦闘終了時まで待つ必要がある。

 死亡時のペナルティは所持金の50%が失われるだけだ。意外に楽だと思われるかもしれないが、それはあくまでもプレイヤー自身に対してのみのことだ。

 まずは死亡時の機体の扱いについて。死亡状況は二種類に判別される。一つは操縦者が乗っていた場合。もう一つは降りていた場合。現状ではどちらの場合でも、死亡した時点で機体の所有権は失効される。そして所有権の無い機体は他者による鹵獲、略奪が可能となる。但し機体が破壊されていない場合に限り、六時間以内に機体へと戻り再登録すれば手元へ戻ってくる。もちろんその前に鹵獲、略奪されていた場合はその限りでは無い。尚、搭乗中の死亡に関しては機体は破壊扱いとなる。ただ再登録と言っても、瞬間移動系の交通手段が存在しないので条件としてはかなり厳しい。機体の支給は再度されないので、新たな機体は自費で購入しなければいけない。

 次にAIの扱いについて。まず搭乗中に死亡した場合、AIは消去されて再度別の新しいAIが支給される。次に降りていた場合。機体から外して所持をしていた場合には死亡しても消去はされない。逆に所持していない場合には消去される。

 装備品について。死亡時に身に着けていた物(拳銃を携帯している、バックを背負っている等)に関しては、消去はされず復活時にそのまま所持している。それ以外の物に関しては所有権を失効される。


「開始直後とは言え、育ててるAIを消去されるのは辛いぞ。機体は金さえ出せば取り戻せるが、AIはそうはいかないから慎重にな」

「むー、一理ある」

「焦らなくても、その内対戦できるさ」

「そうかな」

「ああ、それまでにAIとスキル鍛えないとな」

「そうだね。よーし、やるぞー」


 機体をすぐに修復して貰うべく、未だスヴァローグⅡを修復中のビエコフをせっつくためにエレノアは駈けだした。

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