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第四十六話 報告

3/4 誤字修正

 沈みゆく夕日を浴びて、淡いパステルカラーに彩られ、色彩溢れる首都の街並みは燃え盛る様な赤一色に染まっていた。


 キース達は街に到着後、すぐにオフィス近くの駐車場に車両を停めると、終了報告をするべく、ソフィーヤのオフィスを訪れた。

 受注の時とは違い、受付で名前を告げると、すぐに前回と同じ部屋へと通された。

 キース達は前回と同様、また左右二手に分かれて座り、依頼主の到着を待った。

「お待たせしました」

 ソフィーヤは部下らしき男性を伴って現れると、挨拶も早々に本題へと入った。

「それでは、報告を伺いましょう」

 ソフィーヤの言葉を受けると、クルツが口を開いた。

「廃墟を占拠していた者達は、御依頼通りに全て排除致しました。占拠者の総数及び正体は不明。遭遇時の戦力はARPSが十三機に装甲戦闘車が三台。内、十二機のARPSが未知の機体でした」

 見知らぬ不審機と言う言葉を聞き、ソフィーヤが眉を一瞬顰める。

「それと、もう一つの御依頼であった調査の方も、占拠者を排除後に建物内を捜索。占拠者が使用していたと思しき小型の端末と、整備用重機からデータカセットを入手致しました」

 クルツが報告を終えると、隣の席に座るマグスがバッグの中から入手した品を、ヴァンが討伐証明となるトランスポンダを取り出して、テーブルの上へと置いた。

「御苦労様でした。すぐに、こちらからも人を派遣して確認が取れ次第、報酬の方を御支払い致しましょう」

 ソフィーヤが視線を送ると、それを受け男性は携帯電話を取り出して、すぐにどこかへと連絡を入れる。

「提出頂いた品に関しても、早急にこちらで中身を調査して、追加の報酬を御支払い致しますね」

 すると、連絡を受けて新たにやって来た人達と共に、後ろに控えていた男性がテーブルの上の品を手に取り、部屋を退出して行った。

「報酬の支払方法に関してですが、御希望はありますか?」

「報酬は追加も含めて、各チームに50%ずつと言う形で御願いします」

 クルツは最初の打ち合わせ通り、折半と言う形での支払いを頼む。

「分かりました。それでは御希望通りに御支払いしますね」

 話を終えると、ソフィーヤは徐に立ち上がった。眼前に左右居並んだキース達一人一人の顔を、頭の片隅にでも記憶するかの様に順に眺める。

「今回は御苦労様でした。またいつか、仕事を依頼出来る機会を楽しみにしています」

 そう言うと、ソフィーヤは軽く一礼をして部屋を後にした。

「……ふう、皆さん、お疲れ様でした」

 クルツは姿勢を崩し、大きく息を吐くと、メンバーに労いの言葉を掛けた。

「お疲れー」

「やっと、終わったのう」

「結構、疲れたな……」

 各メンバーは依頼主が退出したことで寛ぎながら、それぞれ思い思いの言葉を発している。

「それでは、私達もそろそろ解散(ログアウト)しましょうか」

 クルツは無事に終わったと言う解放感と同時に、今まで蓄積されて来た疲労も手伝い、だらけた雰囲気となったメンバーを促す。

「そういや、打ち上げはしないのか?」

 ダリルが問い掛けると、エレノアやヴァンと言った、まだ元気が有り余っているメンバーの目が光った。

「それについては、また日を改めてにしましょう」

「えー、今日はしないのー?」

 クルツから延期と言う言葉を聞き、エレノアが不満気に声を上げる。

「そう言うな。年寄りには色々と堪えるからの」

「そっかー」

 シャバックの説得を聞き、エレノアも大人しくなる。

「後、キース君達の今後の予定はどうなってます?」

 疲労から集中を欠いていたキースは、クルツから声を掛けられ、一気に意識を覚醒させる。

「えっと、一応首都の散策がまだ終わってませんので、その続きをしよう思っています」

 散策の途中にヴァンから声を掛けられたことで、クエストへの参加と言う思い掛けない幸運に恵まれた。その代わり、首都を訪れたにも拘らず、まだ殆どの場所を散策していない。

「そうですか。私達も暫くはここを拠点としますので、また近い内にお会いしましょう」

 両チームは再会を約束すると、オフィスを後にして別れた。




 翌日、キース達オレンジ・ブロッサムのメンバーは朝から一軒の喫茶店に集まっていた。

「さて、今日の予定だが……」

 グレンの言葉を受け、各自がそれぞれの意見を出し始める。

「まずは街の探索がてら、情報とかを色々と集めてみましょ」

「さんせー。まだ宮殿にも行って無いしねー」

 女性陣の意見に対し、特に反論は出て来なかった。

「時間に余裕が出たら、近場でMOB狩りをしても良いですね」

「おー、それもいいねー」

 キースの意見を耳にすると、すぐにエレノアが喰い付いて来た。

 帰還時には襲撃に遭わなかったこともあり、新たに入手した装備を一度も使用していないのだ。

「じゃあ、そんな感じで、取り敢えず、街の散策に戻るか」

「おー!!」

 締めの言葉を発したグレンに対し、満面の笑みで元気良く拳を上げるエレノアに釣られ、全員の顔に笑顔が溢れる。


 街の中心部までアイバンで一気に移動すると、近くにある駐車場に車両を預け、徒歩にて早速散策を再開する。

 歩道を賑やかに喋りながら、ショーウィンドウに飾られた商品を冷やかしつつ、練り歩いて行く。

 すると途中、ふらりと立ち寄った一軒の店で、面白い商品をビエコフが見付けた。

「これは!?」

 商品を手にしたビエコフの瞳が怪しく輝いた。

「えー、こんなの何につかうのー?」

「I.C.O.M.S.が使っていたのは、これですか!!」

 その店で見付けたものは、アバス村以来久々に目にする塗装チップであった。


 売られていたのは、『錆化』と言う商品だ。

 通常機体が損傷を負った際、装甲が凹んだりなどのダメージが与えられても、仕様により外装の塗装が剥げることは一切無い。

 しかし、この錆化を使用すると被弾などを受けた箇所は塗装が剥がれ落ち、その後塗装の補修をせず放置したまま時間が経過することで、徐々に錆が浮き出して、長年風雨に晒された貫禄ある機体を再現することが可能となる。尚、あくまでもデザイン的な処理だけなので、機体が錆付いても装甲強度や性能には一切影響は出ない。

 因みに、ダリルの駆るエスクートゥアには、この錆化が施されていた為、あの様な風貌の機体となっていたのだ。


「ほんとに買うのね」

 喜び勇んでレジへと向かうビエコフの姿に、後ろからディートリンデの声が掛かるも、耳には届いていない様子だ。

 男性とは美的感性が異なるらしく、ディートリンデには錆付いた機体の良さが理解出来ない様子だ。

「錆々な機体なんて、ボロっちーのに」

「そうでもないぞ。あいつの部屋に飾ってあるロボットは、どれもみんな錆ていただろ」

 キースの言葉に、エレノアは何度も入ったことのある弟の部屋を思い浮かべる。

 ロボットやメカもの好きな好事家(オタク)達の例に違わず、ビエコフの部屋にも戦車などの戦闘車両から、アニメや小説など様々な媒体に登場したロボットの模型が数多く飾られている。

「ああ、あの壊れている奴ね」

 一口に模型と言っても色々とあるが、ビエコフの場合、戦闘を一切経験してない様な真新しい機体よりも、幾多の戦場を潜り抜け、傷付き破損が激しく、ヤレた塗装や錆が浮き出た、長い年月を戦い抜いた機体の方が好みなのである。その為、飾ってある模型は被弾して装甲に穴が開いたりと、無傷な姿の機体は殆ど見られない。

「そうだ。お前の気に入っていた奴も所々錆びてただろ。恐らく、あんな感じになるんだと思うぞ」

「なるほどー。あれはかっこいーもんねー」

 エレノアのお気に入りの機体は、ビエコフの模型の中では珍しく破損箇所が非常に少ない機体だった。色褪せた塗装は長い年月を感じさせ、水陸両用らしく脚部には所々錆が浮き出し、正面に晒されたスワンピークラッグには多数の銃弾の痕が刻まれ、自然と老練な雰囲気を醸し出す機体であった。

「あんな感じになるんだったら、私の機体もするー」

 具体的なイメージが掴めたことで、エレノアの評価も一変する。

 その現金な態度に苦笑をしながら、キース達はビエコフの帰りを待った。


「私のもあんな感じにしてね」

 店を出て、歩いていると早速エレノアが外装の変更を頼み出した。

「あんな感じって?」

 席を外していたビエコフには話の内容が解らず、困惑した表情を浮かべる。

 その様子を窺い、助ける様にキースがいない間に行われた経緯を説明した。

「なるほど。でも、それだとまだ一つ足りませんね」

「足りないって、何がだ?」

 興味が湧いたのか、聞き役に徹していたグレンが話に入って来た。

「えーと、今ある物だけだと塗装が色褪せないんですよ」

「言われてみると、確かにそうだな」

 オレンジ・ブロッサムの中で一番長い期間使用し続けているのが、キースが搭乗するスヴァローグだ。開始時から使用しており、もうすぐ一年を経過することになるが、戦闘の度に泥や砂埃などで汚れはするものの、洗い落せばすぐに新品時の輝きを取り戻す。

「恐らくですけど、錆化があるなら塗装が色褪せる様なチップも用意されてると思うんですよ」

「それはありそうだな」

 グレンは笑いながら同意を示す。錆化の様な商品が用意されている以上、エレノアが希望する様な仕様を求めるプレイヤーも少なからずいる筈だ。ならば、この製作陣が現状の様な片手落ちな状況にはしないだろう。

「じゃーさー、それがどっかに売ってるの?」

「多分ね。この先も新しい街には行くだろうから、注意して探してみるよ」

「早く見つけてね!!」

 エレノアは実現するのが待ち遠しそうに、ビエコフへと依頼をした。


 その後もあちこちと足を伸ばし、散策していると、空はすっかりと夕闇に染まり、歩いている歩道の街灯も点灯し始めた。

 店などを数多く有する街の中心部はあちこちで照明の光を受け、昼間とは全く異なった雰囲気の街へと変貌しつつあった。

 パステル系の色が塗られた建物も、昼間の涼やかな顔が鳴りを潜め、日が沈んだ夜の闇の中、街灯が点す温かみのある光に照らされて、大人びた表情を見せ始める。

「さてと、ここからは二手に分かれて調べるか」

 先頭を歩いていたグレンは、その後ろを歩くキース達へと顔を向けると声を掛けた。

 今まではクエスト受注条件でもある三本線への昇格を目指し、依頼の遂行を優先にして来た為、夜間は出歩かずにログアウトをして休息に充てていた。

 しかし、目標であった三本線にも到達し、この先の展開を見据えると、情報収集にも力を注いで行かねばならない。

「じゃーリンちゃん、一緒に行こー」

 そう言うと、エレノアはディートリンデの手を引いて、すたすたと歩き出す。

「おいっ、女二人だけじゃ拙いだろ」

 慌ててグレンが後を追い掛け始めた。

 これまではチームメンバーがばらけることは無く、また昼間しか活動していなかったことも有り、運良く遭遇していないが、女性が二人だけで出歩くとなれば、要らぬちょっかいを掛けて来るプレイヤーもいるだろう。そう言ったトラブル避けも兼ねて、グレンが女性陣と行動を共にしようとする。

「キース悪い、先に行く。一時間毎に連絡を取り合おう」

「分かりました。頑張って下さい」

「姉ちゃんのこと、頼みますね」

 キースとビエコフは小走りで後を追うグレンの背に向けて、声援を送った。


「俺達も行くか」

「はい。でもどこに行きましょうか?」

 キースとビエコフの二人は、取り敢えずエレノア達とは反対方向へと歩きながら、思案を始める。

 今求めているものは、新たなクエストとブラックマーケットの情報だ。とは言え、その両方とも今まで遭遇した経験も無く、取っ掛かりさえ見当も付かず、方向性さえ見出せずにいる。

 キース達の友人には情報屋を営んでいるプレイヤーも居るものの、最初から答えを聞き出すなど、そんな楽しみを投げ捨てる様な真似はしたくない。

「まずはそれを考える為にも、腰を落ち着ける場所を探すか」

「大分寒くなって来ましたしね」

 昼間は陽が照り付け、春の様相を帯びて来つつあるが、日が沈むと共に気温はぐんぐんと下がり、夜はまだまだ肌寒さを感じる。

 二人は近くにあった名が知られたコーヒーショップへと入ると、暖を取ると共に方針を検討し始める。

 背負っていたバッグから端末を取り出すと、店舗情報などが記載された周辺地図を映し出した。

「うーん、闇雲に両方を探すのも難しいだろうから、まずはブラックマーケットの方から探してみるか」

 現状、クエストに関しては幸運にも一度経験をしたこともあり、まだ一度も出会ったことのないブラックマーケットを優先して情報を探す。

「そうですね。夜間の方がやってそうなイメージですし」

 クエストのフラグも夜間に無いとは言い切れないが、より可能性が高そうなのはブラックマーケット方と推測する。

「何か取っ掛かりが欲しいな。最初からそれっぽい店を一軒ずつ回るのもな……」

「ローラー作戦は非効率ですし、掲示板にでもまずは当たってみましょうか」

 二人は手分けをして、情報を探し始めた。

「目ぼしい情報は見当たりませんね」

「まあ、有益な情報は売り買いされて、今は金になるからな。よっぽど広まっていない限り、公には公開されないか」

 この辺りは徐々にではあるが、情報屋を営むベインズの影響が出始めているとも言える。

 とは言え、全くの無駄でも無く、いくつかの新たな手掛かりを得ることが出来た。

 一つはキース達が唯一存在を知るレニンスキだけでは無く、他のいくつかの街でも存在が確認されていること。これにより、全ての街に一ヵ所以上存在するのではと言う推測がなされている。

 とは言え、未だ発見されていない街も有るらしく、まだ見付けられていないのか、人口や規模と言った何かしらの条件があるのか、現在検証が続けられている。

 もう一つは、プレイヤーが直接訪れることは出来ないと言うことだ。こちらは案内人と言うべき窓口の人間と同伴していないと、存在すら見付からない様になっているらしい。

 更に厄介なのは、その窓口の人間と知り合う為の条件が不明なことだ。通常多くのゲームでは一度発見すれば、誰でも同じ方法を取ることで同様の結果が得られることになっている。ところが、このブラックマーケットに関しては通用しない。

 とあるプレイヤーが教えて貰った方法を用いたが、全く同じ行動を取ったにも拘らず、案内人と接触出来なかったと言う事件が起こった。これと同様の報告は何件も上がっており、何らかの条件を満たしたプレイヤーに対してのみ、向こうとの接触が図られるのではと言った推論が現状唱えられている。

「となると、疑わしい場所に片っ端から足を運ぶしかなさそうだな」

「はあ……、街に付き一軒だけとは限りませんし、どれだけ回ればいいんでしょうかね」

 しかも条件が変われば、当然新たな場所にも行ける様になるだろう。そう考えると、全く終わりが無い様にも思えて来る。

「そんなに難しく考えなくても良いだろ。ベインズがグレンさんにやった様に、既に知ってるプレイヤーの招待でも行ける訳だからさ」

 実はここにも情報が出回っていない理由があった。

 この仕様を利用して案内料と言う名目で、有料での仲介を行っているプレイヤーが居るのだ。

「取り敢えずは、分かった情報をグレンさん達にも送って、焦らずのんびりと探すとしようか」

「そうですね。意気込んでも、これじゃあしょうがないですもんね」

 キース達は名残惜しそうに暖かな店を出ると、めっきり気温の下がった街を歩き出した。


 結局、日付が回る頃まで街中を探すも、両者共に目ぼしい情報を入手することが出来ずに、散策初日を終えた。

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