第四十五話 捜索
2/18 誤字修正
東の方角から陽が昇り始め、空を束の間、幻想的な紫色へと染める。
未だ激闘の空気を色濃く残し、冷めやらぬ戦場に降り立つと、辺りを漂う漏れ出したオイルの甘い香りに混じり、時折流れ込む黒煙と共に硝煙の匂いが鼻を刺す。
敵全機の殲滅を確認し終えると、機体損傷の少ないキースとマグスの二人をベースキャンプへと迎えに出した。
事前に連絡を入れていたこともあり、既にベースキャンプの撤収を終えていたビエコフ達との合流を果たすと、すぐに三台の車両に分乗して施設へと取って返す。
「さて、占拠者達の排除が終了しましたので、これから敷地の調査に移りたいと思います」
クルツの前へと集まっていた一行は、大きく頷いて賛同を示す。
「まず周辺警戒をキース君とマグス君の二人にお願いします」
「分かりました」
「……了解」
「次に建物内の捜索ですが、グレン君は護身用の銃は持っていますか?」
ゲームの仕様として、機体を破壊された場合でもプレイヤーが機外へと脱出していれば死亡とは見なされない。そうなると、当然生身の状態で戦場に放り出されることになる。その為、護身用としてハンドガンが売られている。
もっとも、ハンドガン程度の威力ではARPSにとっては歯牙にも掛けないこともあり、実際に購入している人は少なく、所持している人の大半は気休めやお守りとしての意味合いが強い。
今回事前の偵察によって、占拠者が建物内に潜んでいる可能性は低いことが判明しているとは言え、用心するに越したことは無い。
「ハンドガンなら一応な」
開始時よりソロの猟兵として活動していたグレンにとっては、乏しい火力と言えど手数が増えることは生存率の上昇にも繋がる為、何挺か所持をしている。
「ねーねー、拳銃って持ってた方がいいの?」
エレノアは隣に立つヴァンの方へと振り向きながら問い掛けた。
「ん? ああ、そうだな。討伐依頼を受けるなら、拠点探索の機会もあるからな。用心の為に買っても損はないんじゃねーか。もっとも、それなりの人数が残ってるなら、ARPSを使って掃討しちまった方が早いけどな」
犯罪組織の壊滅などの討伐依頼を受けた際、稀に生身の武装集団が登場することがある。機関銃やロケット砲などで攻撃を仕掛けて来るのだが、わざわざ機体から降りて相手をする必要も無く、殆どの場合ARPSを使って殲滅をする。
但し、極稀にではあるが依頼内容によっては拠点の捜索をすることもあり、機体から降りて調べる際に護身用の銃を必要とする場合もある。
「ふーん、そうなんだー」
エレノアの表情からは街に戻ったら、早速購入しようと言う決意が見られる。
「では、ダリル君と二人でお願いします」
「了解」
「はいよ」
「一応拠点として使用していた左側だけでなく、中央の建物も確認出来たら、お願いしますね」
そう言うと、クルツの視線が損傷を負ったエスクートゥアへと向けられる。
「ビエコフ君には、まずエスクートゥアの修理からお願いします。街への帰還の際に、戦闘することも予想されます」
「了解です」
ここでまだ呼ばれてないシャバックとヴァンから声が掛かった。
「わしらはどうするんじゃ?」
「そうそう」
「お二人には討伐証明の回収をお願いします」
全ての機体にはトランスポンダと呼ばれる送信装置が取り付けられており、機種名、型式番号、製造番号、賞金首の有無、更に加入しているギルドの所属国などと言った多くの情報が入力されている。索敵の際に得ている機体情報は、これらを読み取ったものである。
そして、今回のような討伐依頼の場合、証明としてトランスポンダを依頼主へと提出する必要がある。
とは言え、潜入工作を務めていた機体である。どれ程の情報が得られるかは定かではないが。
「かなり破損しているように思いますが、大丈夫なんですか?」
ビエコフが不安そうに見つめる先には、機体が大きく損壊し、黒く焼け焦げたARPSの成れの果てが転がっている。
「ええ、平気ですよ。どう言う理屈かは知りませんが、復元率が高いのか、半分破損したものを提出したこともありますが、今の所受け取り拒否にあったことはありませんね」
「そうなんですか……」
ゲーム仕様と言われれば身も蓋も無いが、ビエコフはその言葉を聞いて、唖然としてしまう。
「残りの女性陣と私の三人で右側の工場内を捜索します」
事前にARPSを用いて残敵の有無を確認しており、唯一安全が確保された場所を担当することになる。
「りょーかーい」
「分かりました」
クルツは話を一旦区切ると、確認するように全員の顔を眺める。
「問題は無いようですね。念の為、各自警戒は怠らないように。それじゃあ、始めましょう」
「「「おー!!」」」
入口前の広場へと集まっていた一行は、合図と共にそれぞれの場所へと散開する。
徐々に陽が差し始め、薄らと赤みを帯びた光に照らされ、戦闘による傷跡を多く残す建物が浮かび上がる。
戦場に面した窓ガラスの大半は無残に砕かれ、外壁にも大小無数の銃痕が刻まれている。ロケット弾が着弾したのか、上階の一部の壁は大きく崩れ、真下には外壁の破片と共に家具らしきものが雪の上に散乱している。
グレン達は中央部の建物へと近付くと、窓枠だけ残された場所から中を覗き見る。廊下部分は足の踏み場もない程、割れ散ったガラスの破片で埋め尽くしている。
「あー、こりゃダメだな」
左側の建物との境界部分を調べていたダリルから、投げ出すような声が上がった。
「何かありました?」
「あそこ見てみな」
駆け寄ったグレンに対し、ダリルはある場所を指し示す。
隣接する建物との境界部には、隔壁としても使用出来そうな鋼鉄製の壁で閉ざされ、扉であろう場所には取っ手などが無い代わりに掌大の電子機器が据え付けられていた。
「生体認証……。電源も入ってないし、こじ開けるのも無理か」
恐らく他の階も同じだろうと、二人は中央部の建物の捜索を早々に諦めて、真直ぐに侵入者が使用していた左側の建物へと向かって歩き出した。
中央部とは違い、左側の建物は前線からも幾分遠かった所為か、外観には損傷がそれ程多く見られない。
グレン達は雪で埋まった一階部分を見ながら、建物内部へと侵入出来る場所を探して歩く。
一階はどの窓も上部を微かに残しただけで、その大半が雪下へと埋もれており、とても人が出入りをした形跡など見当たらない。
「まさか、中央の建物を使って行き来してたのか?」
ダリル自身、可能性は低いと思っていても、ぼやかずにはいられない。
警備要員の交代などを考えると、必ずどこかに出入りをしていた場所がある筈だが、一向に見付けることが出来ない。
再度、諦めた中央部の建物を探そうかと思い始めた時、グレンから声が掛けられた。
「見付けた!!」
手を振って知らせるグレンの下へと、ダリルが掛け寄る。
「ここにいくつか足跡が残ってる。この上から出入りをしてたんでしょう」
そこは敷地の外側に面した場所だった。一部の雪が建物の壁に沿ってうず高く積まれ、二階部分の窓の近くにまで達している。なだらかな傾斜を持つ雪には、踏み締められた靴跡がしっかりと刻まれていた。
「なるほど。一旦二階に上がってたのか」
「一々めんどくさいですがね」
先行したグレンが慎重に昇る様をダリルが下から見上げている。
昇り切ったグレンは、窓に手を掛けると案の定鍵が掛かっておらず、音も無くスッと開いた。
窓を半分程開けると、左右を覗き見て、人気の無いことを確認してから内部へと侵入する。
廊下に降り立ったグレンは腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、その場に屈み込んだまま、辺りの様子を探るべく耳を澄ます。
静まり返った建物内からは物音一つせず、開いた窓から入り込む風の音だけが聞こえる。
グレンは一つ息を吐くと、開いた窓から顔を出した。
「良いですよ」
グレンは周囲を警戒しながら、ダリルが昇り切るのを待った。
「随分と寂しい場所だな」
建物内へと侵入したダリルは周囲を見渡すと、そんな感想を持った。
廃墟独特のほこりの匂いが漂う廊下を階下へと降りるべく、二人は階段を探して歩き出した。
H型に配置された建物から中央付近にあるだろう予測し、中へと進むとすぐに目当てとなる踊り場が見えて来た。
先頭を歩くグレンはダリルから一旦離れると、単身一階に降りた。左右に続く廊下の手前、壁の端に張り付くと懐からタクティカルミラーを取り出し、廊下の様子を探る。
一階部分は未だ大半を雪に埋もれる窓の上部から、眩しい程の朝日が差し込んでいる。それでも照明も無い薄暗い廊下には、夜の間室内を煌々と照らしていた灯りが、扉の隙間から薄らと漏れて、廊下をオレンジ色に染めている場所を見つける。
グレンは上階で待機しているダリルに発見時のハンドシグナルを送ると、辺りの様子を窺いながら一人先行する。静まり返った廊下に、移動の際に漏れ出る微かな音がやたらと大きく響く。
グレンは目的地となる部屋の前へと到達すると、身体を壁へと寄せて、室内の様子を耳をそばだてて探る。
静まり返り物音一つしないことを確認すると、グレンは【ブービートラップ】のスキルを使ってトラップの有無を確認してから、音を立てぬよう静かに隙間を開ける。
【ブービートラップ】はトラップの設置だけでなく、解除や発見の際にもスキルの効果が得られる。とは言え、いくらスキルLvが高くても、あくまでも補助的効果しか無い。その為、結局の所、それぞれが持つ自身のプレイヤースキルが生死を分かつことになる。
グレンは指一つ分にも満たない隙間にタクティカルミラーを差し込むと、内部の様子を探る。
人気の感じられない室内にはヴァンが録って来た映像の時のままで、特に変わった様子は見られない。
グレンは再びハンドシグナルを出してダリルを呼ぶと、入口周辺に仕掛けられたトラップが無いかを確認してから、そっと扉を開けて内部へと滑り込んだ。
テーブルの上にある二つのランタンが、無造作に置かれたカップ類の陰影を壁に映し出していた。室温の方も人が消えてから大分時間が経っているらしく、外気と変わらぬ程冷え込んでいる。
「もぬけの殻か」
「そうみたいですね」
無人の部屋へと入ったダリルは構えていた拳銃を降ろしながらテーブルへと近付くと、物珍しそうに置かれた物を触れずに眺めている。
「流石に身元に繋がる様なものは残っちゃいねーか」
テーブルの上に散乱するものは、どれも生活用品の類しか残されていない。
「こっちは外れか……」
ダリルは少し落胆した表情を浮かべる。
元々可能性が低いとは言え、頭の片隅では多少期待をしていた。
すると、室内を散策していたグレンから声が掛かる。
「奥にも部屋があるようですよ」
窓際の壁の奥、戸棚の影となる場所にひっそりと隣の部屋へ繋がる扉が備え付けられていた。
「おっ、なんか残してるか」
ダリルはテーブルを回り込むと、扉の前で慎重にトラップを調べているグレンの背後へと立った。
特に仕掛けられた形跡も無さそうなのを確認すると、そっと扉を開ける。
中は窓も一切無く、蛍光灯の抜けた照明が残るだけで、かなり暗い。部屋広さは六畳程度。戸棚などの家具は一切見られず、中央にポツンと折り畳みテーブルと安物の椅子が二脚だけ置かれていた。
「外れですかね」
グレンが扉を押し開いて中に進むと、その後ろからダリルが部屋へと入って来る。
「見事に何にもねーなー」
部屋への入口は入って来た一ヵ所のみ。何に使用していたかは定かではないが、簡素を通り越して実に殺風景な部屋だ。
物が無いだけあり、すぐに一通り調べ終えると、最後に中央のテーブルへと足を向けた。
「おおっ、バッグ発見!!」
ダリルが嬉しげな声を上げた。
入口からは背もたれで死角となった座面の上に、小型のバックパックが一つ置かれている。
「すぐ調べます」
グレンが掛け寄ると、ダリルがその場から離れた。
グレンは静かにテーブルを退かし、椅子の前にしゃがみ込む。バックパックは外部にポケットの類が無い、シンプルな造りだ。
外部には仕掛けが無いようなのでバッグを開けるべく、ゆっくりとジッパーを降ろして行く。
半分程引き降ろすと、タクティカルミラーを中に差し込み、内部の様子を探る。中にも特に仕掛けは見当たらず、小型の端末が一つ入っているだけだ。
「トラップなどでは無いようですね」
グレンはミラーを仕舞うと、手を使って中の小型端末を取り出した。
小型ながら重量のある端末は、武骨で頑丈そうな外観から軍用品を連想させる。
「奴らが残していったものか?」
「恐らくは」
グレンはダリルへと手渡すと、端末を何度も引っ繰り返しながら、訝しげに眺めている。
「まっ、流石にこの場で調べるのは拙いか。解析の方は依頼主に任せるとしようぜ」
そう言うと端末をグレンへと手渡す。
グレンは渡された端末を自身の背負っていたバックパックへと仕舞い込んだ。
「それじゃあ、他の部屋も見に行くとするか」
先立つダリルの後を追い掛けて部屋を後にすると、二人は他の階にも探索の手を伸ばした。
その頃、クルツ達は出撃の際に開放された正面入り口から、工場の内部へと入っていた。
内部はARPSも普通に立てる程の高さがある、巨大な空間である。照明も点されてはいるものの、その半分以上が壊れて役に立っておらず、明かり取りの窓から差し込む朝日によって、薄暗いもののどうにか視界を得ている。
「何に使ってたのでしょうかね」
クルツは目の前にある用途不明の大型重機を、不思議そうに眺めている。
廃墟となった際に打ち捨てられたであろう大型の重機が、ここにはまだ数多く取り残されている。
「ねーねー、こっちに良いものがあるよー!!」
エレノアが大きく飛び跳ね、両手を振りながらクルツ達を呼んでいる。
「何ですか?」
「これ見てー」
尋ねて来たクルツに向かって、エレノアは自身が発見した物をポンポンと叩いている。
作業で使用していた部材が積まれた区画の中、まるで人の目から避けるようにシートが被されていた。
「ほう、これは当たりですかね」
「恐らくそうでしょうね」
エレノアが捲ったであろうシートの奥には、鈍く光る金属の塊が覗いている。
「これが報酬アイテムですか」
傷一つ無い、真新しい金属からは武器特有の硝煙の匂いを嗅ぎ取り、クルツは興味津々と言った様子で眺めている。
そこには二チームでの受諾とあってか、二つのアイテムが置かれていた。
「ねーねー、どっちにするー?」
躾のなっていない子犬のように、興奮が抑えきれずエレノアの目が爛々と輝いている。
「分配は後にして、その前に回収しちゃいましょ」
「じゃあ、私が行って頼んで来るねっ」
エレノアはそう言い残すと、足取りも軽く入口へと駆け出した。
その後、クルツが名残惜しそうな素振りを見せるも、当初の目的を思い出して調査を再開する。
ケミクリートが塗られた床は長年の油染みで黒く汚れ、新築当時の面影は既に無い。捨て置かれた重機の周囲には、整備用の工具や使用済みのケミカル缶が転がっている。重機の間に置かれた製作途中であろう鉄の塊には、埃が厚く積っていた。
どこを見て回っても、不審者の特定へと繋がりそうなものは見当たらない。
「うーん、困りましたね……」
何らかの成果を上げないと、追加報酬が泡と消える。
クルツがうろうろと重機の間を彷徨っていると、奥からディートリンデの呼ぶ声が聞こえた。
「どうしました?」
クルツ達が駆け付けると、ディートリンデは一台の重機の前に立っていた。
「敵が使用してたARPS整備用重機だと思うのだけど、これ使えないかしら?」
「なるほど……」
整備用重機には、整備した機体のデータを記録している。修復個所や破損状況、各種調整を施した内容などの機体記録を記されたカルテと言えるものだ。これを解析すれば、設計の癖から設計者の割り出しや機体構造の特徴から製造メーカーの特定、更には占拠者達の正体へと繋がる手掛かりを掴めるかも知れない。
普通であれば重要なデータが外部に漏れぬよう、破壊工作などが行われていても可笑しくないのだが、幸運なことに見付けた重機は無傷のまま取り残されていた。
「中のデータだけを取り出して、提出しますか。方法分かります?」
「いいえ」
「しらなーい」
クルツが尋ねるも、整備などしたことの無いディートリンデとエレノアは首を横に振る。
「仕方ありませんね。ビエコフ君を呼んで来ましょう」
I.C.O.M.S.には専任メカニックは居らず、修復の際には主に街の整備場を利用している。その為、トレーラーに整備用重機を積んではいるものの、応急修理の際に動かしたことがある程度で、使いこなすまで詳しい者はいない。
早速ビエコフを伴い、クルツは重機の下へと戻って来る。
「すいませんね。修理をお願いしてたのに」
「いえ、良いですよ。内部データの取り出しですよね」
ビエコフは重機の裏側に回り込むと、手慣れた手付きで工具を使い、裏側のパネルを一部取り外した。中には多くの基盤が取り付けられ、配線が縦横に渡っている。
ビエコフは手前に見える配線を掻き分けると、その奥に縦に並べられてたカセットへと手を伸ばす。基盤に付いたソケットに差し込まれたカセットは、手で引っ張るといとも簡単に抜けた。取り外されたデータカセットはDVDケースを一回り程大きくしたものだ。
「はい、どうぞ」
作業する様子を隣で見ていたクルツへとデータカセットを渡すと、ビエコフは再び中に手を伸ばした。
重機に内蔵されてたデータカセットは三つあり、残りの二つを取り出すと、ビエコフは外部パネルを手に取り、元の状態へと戻した。
「ありがとうございます。これでどうにか依頼を完遂出来そうです」
入手した三つのデータカセットを持ち、クルツはにこやかな笑みを湛えていた。
建物の探索を終えると、一行は一旦集まった。
双方共に成果があり、十分追加報酬を期待出来る結果を得られた。
「調査の方は終えましたが、あれをどうするかですね」
クルツの言葉に、一同の視線が向けられた先には、撃破したARPSが無数転がっていた。
「倒したARPSは好きにしていいんだろ。だったら全部剥ぎ取って行こうぜっ」
ダリルの意見に、ヴァンやエレノアが頷いて賛同している。
「そうしたい所ですが……」
「時間も時間だしな」
グレンはそう言うと、時計に目をやる。すっかりと日は昇り、既に時刻は朝と言うには遅い時間となっている。
今の所、周囲に敵の気配は無いが、留まり続ければそれだけ襲撃を受けるリスクも高まる。しかも、エスクートゥアの修理に掛かりっきりとなり、他の機体へは手が回っておらず、機体が損傷を負った上での連戦となる。その為、敵の戦力次第では死亡者を出す恐れもある。
「だったら、こうしませんか? 価値の高い出力ユニットと演算ユニットだけ抜き取って行きましょう」
キースの提案に、一同は思案気な表情を浮かべている。
激しい戦闘の所為もあって、倒した敵の機体には無数の銃痕や装甲に亀裂が見られ、部位毎取る価値のものなど見当たらない。また、比較的価値の高い頭部や胴体と言った部位は機体の中枢部だけあり真っ先に狙う為、殆どの機体が損壊している。
そんな中では、無事な状態のものなど数も少なく、それ程回収に時間や手間を掛けずに済ませることが出来る。
「その辺で折り合いを付けるしか、なさそうじゃの」
「まあ、しゃーねーか」
シャバックが賛同する意思を示すと、渋々と言った様子でダリル達もキースの案に同意した。
「それでは素早く済ませましょう。キース君とマグス君は引き続き周辺警戒を。ビエコフ君は剥ぎ取るユニットの選定をお願いします。他の人達はビエコフ君の指示に従って、ユニットを回収して下さい」
「「「了解」」」
早速それぞれの役割へと散って行った。
回収班は手に工具を握ると、ビエコフがスプレーで印を付けた機体に取り付き、手早くユニットを外して行く。
その結果、無傷とは言えないものの、程度の良い状態の出力ユニットを二台、演算ユニットを三台回収することが出来た。
機体の剥ぎ取りを済ませると、キース達は足早に廃墟を後にした。
太陽も既に頭上近くにまで差し掛かって来ており、春の到来を感じさせる暖かな日差しの中、僅かに残った樹氷達も最後の輝きを放っている。
キース達は夜半から始まった廃墟への襲撃を遂行。その後も休む暇無く建物への捜索や機体部品の回収をこなし、身体の疲労もピークに達していた。
その為、旧街道へと出てから暫く進み、昼を幾分過ぎた頃には早々と野営の準備に取り掛かっていた。
各自が忙しなく自分の寝床を用意して、手早く見張りの順番を決めると、ふらふらとした足取りで寝床へと潜り込んだ。
その後、順番に仮眠を取り、ようやく全員が揃う頃には夜も大分更け、辺りはすっかりと闇に包まれていた。
各メンバーは遅めの夕食を取るべく、クルツ達の居る大型シェルターへと集まった。
「まだクエストは終了しておりませんが、取り敢えずは拠点への襲撃が成功したことを祝して、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
野営地と言うこともあり、簡素ではあるがキース達は祝杯を上げた。
いつもと変わらぬ食事と飲み物だが、クエストの達成間近と言う状況から来る、妙に高いテンションが合わさって、酒も無いのに開始直後から大いに盛り上がっていた。
用意した食事もあらかた無くなり、各メンバーのお腹も満たされた頃に、クルツから今回入手したアイテムの話題が切り出された。
「そろそろ食事も終わっていそうですね。それでは、今回入手しましたアイテムの話をしたいと思います」
取り出した端末に入手したアイテムのデータを表示すると、各自の端末へと送信する。
それぞれが送られて来たデータを食い入るように見つめて、先程までの喧騒が嘘のようにシェルター内が静まり返る。
「今回手に入れたのは、この二つになります」
そう言うと、クルツはそれぞれの特徴などを説明し始めた。
入手したアイテムは二つ。一つはサブマシンガンで"シュテスナー G35"。
装弾数は三十五発。2%の確率でクリティカル特性を持つ。着弾時にクリティカルが発生すると、内部の搭乗者に対してHPに10%のダメージを与える。また、搭乗者がダメージを受けた際、低確率で混乱や身体の一部に一時的な痺れと言った状態異常が発生する。
そして、もう一つがリボルビング・グレネードランチャー"ウェーヴェン AF10"である。
装弾数は十発。回転式弾倉を有し、連発することも可能。弾頭には殺傷力のあるグレネード弾の他、発煙弾や照明弾と言った非殺傷性ながら、特有の能力を持つ種類との併用も可能となる。
「おー、なんかすごいぞー!!」
エレノアが興奮した様子で叫ぶと、周囲に居るメンバーも騒ぎ出す。
「どうやら初回限定アイテムのようで、譲渡及び売却不可になってましたよ」
「やっぱり、わしらが最初じゃったか」
クルツの言葉に、シャバックは満足そうな笑みを浮かべている。
「このグレネードランチャーの方は持ち手どころか、トリガーすら見当たらねーな」
ヴァンは不思議そうに表示された外観を眺めている。
短めの砲身に大型の回転式弾倉が付けられたのみで、グリップやストックの類は一切見られない。
「先程少し調べたんですが、どうやら手に所持するのではなく、肩に装着して使用するようです」
ビエコフの言葉に、大きくざわめく。
「おいおい、それってレア装備じゃねーか!!」
「そうじゃな。今の所、肩装備はロケットランチャーしか売られてないからの」
興奮した様子のヴァンに続き、シャバックも好奇の眼差しを向ける。
「そんなことよりも、早く分けようぜっ」
ダリルが逸る気持ちが抑えきれず、急かし始めた。
「では、組む際に取り決めていた通り、こちらから選ばさせて頂きますので、少し時間を貰います」
クルツの言葉に対し、キース達は了承する。
クルツ達は少し離れた場所に固まると、相談を始めた。やたらと興奮した様子のヴァンとダリルの二人を、クルツとシャバックが取り成す形で話し合いが進んで行く。
十分程経った頃だろうか、クルツ達五人が元の場所に戻って来た。
「それでは、私達はサブマシンガンの方を頂きます」
クルツが代表する形で告げた告げて来た。
今回得たアイテムは、どちらも非常に強力な性能を有しており、正直甲乙付け難い。そんな中、決め手となったのはスフォシークの運用改善に繋がりそうなことだった。
スフォシークは機体特性上、どうしても戦闘には不向きな機体である。実際、今回の襲撃の際にも戦闘には一切加わっておらず、車両の警護に回されていた。とは言え、毎回都合良く戦闘を回避出来る訳では無い。
そんな防御力に難があるスフォシークを運用するに当たって、今回入手したサブマシンガンは解決の糸口となるかも知れないからだ。
また、グレネードランチャーの方も考慮はしたものの、肩装備が機体の隠密性を妨げるか現状では不明な為、見送られることとなった。
「それじゃあ、俺達がグレネードランチャーを貰うってことで良いんだな」
グレンの言葉に、早速エレノアが喰い付いて来た。
「ねーねー、誰が使おうかー?」
エレノアは新しい玩具を手に入れた子供のように、興奮した様子ではしゃいでいる。
「リンデさんさえ良ければ、マリーアイゼンに使おうと思うんですけど、どうですか?」
「私が貰っても重量制限に引っ掛かるし、それで良いわよ」
あっさりとキース達が譲ってくれたことで、エレノアはきょとんとした表情をしている。
「えっ、……いーの?」
「ああ、それが一番有効的だと思うからな」
キースは改めてエレノアに説明をした。
以前より何度か問題となっていたのが、格闘装備のみとなるエレノアの機体運用だった。
本人が強い拘りを持っていることもあり、続けさせて来たものの、機体数が三機しかないキース達オレンジ・ブロッサムでは毎回フォローに回れる筈も無く、そろそろ単独での戦闘にも限界が見えて来た。
反省会用にと収集してある今回の戦闘データを見ても、随分とシャバックに助けられた部分が大きい。
そんな中、どのような手管を弄して銃火器を所持させるかと悩んでいた所に、絶好のタイミングで理想的なアイテムを入手することが出来た。
リボルビング・グレネードランチャーは肩装備となる為、今まで使用して来た格闘装備を手放す必要は無い。エレノアの希望する格闘戦と必要とする銃火器、その二つの両立を可能としていた。
更に相手にダメージを与えるだけでは無く、発煙弾や照明弾を使用すれば、格闘戦へと至る戦術幅も格段に広がる。
正にエレノアにとって理想を体現するような装備であった。
「俺の機体も重量制限ギリギリだしな。それに本職は支援機なんだ。そんなに色々と武装を付ける必要は無い」
機体数の問題もあって前線での戦闘を余儀なくされているが、本来スヴァローグは今回のように後方にて戦闘支援を目的とした機体である。
「そっかー。じゃあ、貰うね。ありがとー」
エレノアは花の蕾が綻ぶような笑みを浮かべて、キース達に礼を述べた。
「おっ、お前が使うのか?」
その様子を見ていたダリルが、早速声を掛けて来た。流石に両方を得ることは叶わず、キース達に譲りはしたものの、珍しい装備だけにやはり気になるようだ。
「うん、そうだよー」
「これを使えば、今度は滅多打ちに遭わなくて済みそうだな」
「むむむ……」
今回の戦闘を餌にからかって来るダリルに、エレノアが歯噛みをして悔しがる。
すると、勢い良く椅子から立ち上がると、ダリルを指差しながら宣言する。
「次の戦闘の時には、華麗に戦う私の姿を見せてあげるわっ!!」
「おー、大きく出たな。その言葉忘れるなよ」
ダリルはニヤついた笑みをエレノアへと向けた。
「そうじゃの。また一緒に組むこともあろう。その時を楽しみにしとるよ」
「うん、また一緒にやろーね!!」
エレノアは差し出されたシャバックの手を握ると、嬉しそうにブンブンと大きく振った。
手に入れた報酬アイテムの分配も終え、翌朝より帰還の途に就く。
帰還時の襲撃を警戒し、厳戒態勢を取る一行を嘲笑うかのように、道中は何事も無く平穏に過ぎて行った。
夕刻、街並みが夕暮れで真っ赤に染まる頃、四日ぶりとなるミーヌフクスの街へと帰って来た。




