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第四十三話 出端

1/13 誤字修正

2/11 AIの会話の括りを《》から――に修正

 突入したプレイヤー達を焦らすように、ゆっくりと開き続ける(シャッター)

 優にARPSが通れるほどの隙間は開いているが、敵は一向に姿を現さない。

 じっと、敵の登場を待ち受けるエレノア達一行。

 (シャッター)は天井部にまで達すると、金属を打ち付ける音が夜の闇に拡散しながら、その動きを止めた。

 開き切った時の残響音が辺りに響くも、敵の動きは依然として無い。

 もどかしい時間が続く。


 その時間を一番緊張して迎えているのは、何を隠そうグレンだった。

 建物の陰に潜み、タクティカルミラーで入口から敵が出て来る瞬間を見定めようと、瞬きを忘れるほど見入っていた。

 今回の襲撃では、グレンの担う役目の大半はこのトラップの成否に掛かっていた。

 しかし実際の所、敵の動きに対して先制を仕掛け、攻撃の出端を挫く程度の役目であり、仮に失敗をしたとしても大勢に与える影響は少ない。

 とは言え、そこは今まで培ったものが掛かっているだけに、グレンとしては失敗は許されない心持ちである。

「咲耶、頼むぞ」

――大丈夫、そんなに心配しなさんな――

 こちらのタイミングをずらそうとしているのか、はたまた誘いを掛けているのか。漫然と開け放たれたまま、一条(ひとすじ)の光さえも通さぬ漆黒の入口が不気味に見える。

 すると、ようやく動きがあった。建物内部から、微かにだがARPSの起動音が聞こえて来る。

 恐らく、本隊であるエレノア達の位置からでは捕捉出来ていないであろう。それほど小さな音だが、入口付近に潜んでいたグレンの耳は逃さなかった。

「出て来るぞっ!!」

――あいよ――

 ARPSの稼働音が聞こえてからも、敵はすぐには姿を現さない。じりじりとした時を過ごす中、不意に複数のローラー音が立て続けにしたかと思ったら、三機の敵ARPSがいきなり飛び出して来た。

 機体の半身は月明かりの影で隠され、細部まで見ることは出来ない。それでもシルエットからは細身では無く、重厚な印象を受ける。それが初めて目にするARPS『ヴァルヤルヴィ』であった。


 装飾や凹凸が少なく、簡素な四角い頭部には顔の部分中央に円形のプレートが埋まり、僅かに内側へと窪んでいる。その丸い円形のプレートには、上下左右の四ヵ所にアイカメラが装着。プレートには対角上のカメラを結ぶように十字の形で細隙(スリット)が入れられており、その隙間から配線や歯車と言った駆動パーツが覗く。四ヵ所に配置されたアイカメラは、通常のカメラと夜戦用の赤外線カメラが対角線上交互に付けられており、回転することで昼夜の切り替えを行えるようになっている。

 肩や上腕、膝下の下腿部分など戦闘時の接触が激しい箇所には、一般的な大型の一体成型装甲を用いている。それ以外の胴体などには、小型の装甲板を積層の様に幾重にも重ねて使用している。これは機体の軽量化と共に、補修効率を考慮した設計からである。

 通常の一体成型の装甲では損傷を負った際、パーツを丸ごと交換をしなければならない。しかし、小型の積層型装甲だと損傷を負った箇所のみの交換で済み、修理費用の低下にも繋がっている。

 そんなヴァルヤルヴィの機体は濃淡二色のグレーを使った都市迷彩色の上から白い塗装を重ねられ、三色を用いた斑模様となった冬季迷彩色をしている。


「――っ!?」

 長く待ち過ぎた影響で身体が力んでいたグレンは、その瞬間に反応出来なかった。しかし、咲耶には関係無い。

――ほいっと――

 入口から機体が飛び出したタイミングで、仕掛けたトラップを起爆させた。

 突然、予期せぬ側面からの攻撃を受け、敵の出足が乱れる。

 運良く先頭に居た一機は難を逃れられたものの、追走していた二機はトラップの餌食となった。

 二機はそれぞれ機体に損傷を負い、ローラー走行に支障を来たす。いきなり速度が落ちたかと思うと、隣の建物にも達せぬ内に機体が停止してしまう。一機は左脚から薄らと黒煙を噴き上げ、もう一機も通った後に点々と黒い染みを残している。

 続く二撃目を用意して、後続の様子を窺っていたグレン達だが、その思惑に反して敵は一向に現れない。

 少し訝しんでいると、開け放たれた入口からすっと銃口が差し出される。月明かりを浴びて、銃口が鈍く光ったと思った次の瞬間、爆発があった方角へと銃弾が放たれた。

 暫くは雪に着弾するくぐもった音が続くも、すぐに仕掛けたトラップを探り当てられ、敵もいない中、空しく爆煙を夜空に噴き上げた。

――流石に二度は引っ掛かってくれないようさね――

「でも、格闘装備機を二機損傷させたのはでかいぞっ」

 最初に飛び出して来た三機は、いずれも片手にマシンガン、もう一方の手にはナックルを装備していた。

 敵味方が入り混じる乱戦時に於いて、一撃で戦況を覆せる威力を持つ格闘装備機は非常に厄介な存在である。どんなに注意を払っていても、複数の方向から攻められれば、全ての攻撃を防ぎきることは難しい。そのような危険な存在を開始直後に損傷を負わすことが出来たのは、僥倖(ぎょうこう)の限りである。

「さてと、後は準備も済んでるし、殿の機体を待つとするか」

 グレンはトラップを排除されたことで、出撃を再開した敵ARPSをミラー越しに眺めながら、再び襲撃の時を待つ。




 グレン本人は無事にトラップが発動して、敵に損傷を負わせたことで満足感を得ていたが、実際にはそれ以上の効果をもたらしていた。

 本来であれば、すぐにでも後続のARPSが続々と出て来る筈であった。しかし、他にもトラップが仕掛けられている可能性を考慮して、敵の出撃が中断を余儀なくされた。

 そしてトラップの探索と排除と言う手間を掛けさせられたことで、全機で迎撃に出て、一気に数での力押しと言う敵の当初の策は不発に終わった。

 更には敵の狙いであろう、格闘装備機によってエレノア達の混乱と注意を促し、その隙を突き攻撃に晒されること無く全ての機体を出撃させると言う思惑も、先行した機体が損傷したことで既に崩壊している。

 それらの多大な効果に逸早く気付いたクルツやシャバックなどは、トラップの有用性から自チームへの導入を検討し始めている。

 特にシャバックなどは、自身の期待以上の働きを見て満足気な笑みを湛えていた。


 建物より飛び出して来た三機のARPSは、後続の二機がトラップによって損傷を負い、先頭を走っていた一機のARPSだけが突出する形となった。

 単機となり孤立した敵ARPSは、後続の異変に気付いた時には運悪くエレノア達の攻撃圏内へと既に侵入しており、退くに退けない位置にまで来てしまっていた。

 一瞬の躊躇を見せたものの、背後から響く二度目の爆発音にも押され、敵ARPSは目の前の標的へと単独での突撃を決断した。

 そして、この状況は機体数の劣るエレノア達にとっては、士気を高める格好の機会となった。

 単機で突撃を仕掛けて来る敵ARPSに対し、最初に動いたのはダリルの駆るエスクートゥアだ。

 左から右へと薙ぐようにガトリングガンで掃射する。雪片が舞い散り、小さく破裂する痕が徐々に敵の機体へと迫って行く。

 敵ARPSも迫り来る銃弾に気付くと、回避する為に意図せぬ方向へと動かされる。エレノア達へと真直ぐ突き進んでいた進路は、敷地の端へと徐々に追いやられて行く。

 しかし、銃弾を回避した先に待ち受けていたのは死地であった。進む先には敷地を取り囲む高い塀が聳え、追い立てる銃弾が自機へと迫り来る。

 そして残された逃げ道に待ち受けていたのは、シャバックの駆るカグツチから放たれたバズーカの砲弾であった。

 逃げ場を失った敵ARPSに無情な攻撃が撃ち込まれる。マシンガンとナックルしか所持していない敵ARPSは為す術無く、機体の正面を庇うように腕を回すと、そこに砲弾と銃弾が襲い掛かった。

 機体を掻き消すほどの爆煙が辺りを覆う。立ち込めた粉塵が晴れた後も、敵ARPSは辛うじて立っていた。腕の装甲は剥がれ落ち、骨格フレームや破裂した内部ユニットが外気に晒され、まるで血が噴き出したかのように細かな部品が足下へと零れ落ちている。

 両腕が破壊され、既に攻撃力は失われていたが、機体はまだ生きていた。

 シャバックが止めを刺そうとした瞬間、視界の隅から大きな影が飛び出した。

 バズーカを構えたカグツチのすぐ脇を擦り抜け、敵ARPSへと向かって行ったのはマリーアイゼンだった。

 抜群の瞬発力を活かし、シャバックとダリルの二人を出し抜くと、敵ARPSの真正面に突っ込んで行く。

「あーんぱーんち!!」

 機体を庇うように回していた両腕の僅かな隙間に右腕を捻じ込み、衝撃で歪んだ胸部装甲へとナックルを叩き込んだ。

 既に半壊となっていた敵ARPSは、その一撃で止めを刺され、衝撃と共に仰向けに倒れ込んだ。

「よしっ!!」

 前哨戦の鬱憤を晴らすかのように、エレノアは小さく拳を握る。

「おお、やるなあ」

 ダリルが感心したように呟くと、すぐさまシャバックより注意が促される。

「敵さんが御出(おい)でなすったぞ」

 トラップの排除に成功し、敵の本隊となる集団が現れた。

 三機ずつ出撃をした敵ARPSの数は、都合三回で合計九機。最初の三機を合わせると、機体総数は十二機と当初の想定してた敵数の最大値となる。

 敵ARPSの集団が一丸となって、エレノア達の機体を飲み込もうと向かって来る。

「げっ、いっぱい出て来たー」

「このまま動かずに十分引き付けろよ」

 反射的に動こうとしたエレノアを、ダリルが押し留める。

「うえー、早くして欲しいかなー」

 敵の接近に対して攻撃を行うでも無く、漫然とただ姿を晒し続けることに、エレノアは(むずが)るように身体を震わす。


 後方より戦況を窺っていたクルツは、敵の様子を見て一人ほくそ笑んでいた。

「最初ですから景気良く、全弾撃ち尽しましょう」

 クルツはあっさりと初撃に全力を注ぐ決断をする。

――砲弾の補充には九十秒ほど掛かります。ご注意を――

「了解。ま、それ位なら何とか持たせてくれるでしょ」

 マオからの注意にもメンバーへの信頼からか、慌てる素振りも見せずに照準を付ける。

 クルツの駆るシュヴァルディアの右肩から、七発にも及ぶロケット弾が豪快に発射された。

 目の前の獲物(エレノア達)に向かって突き進んでいた敵ARPSの集団に、上空から砲弾の雨が降り注ぐ。

 少数で固まっているエレノア達に対し、尚も数で押そうと集団で進んだことが裏目となり、敵ARPSは轟音と黒煙に飲み込まれた。爆発による閃光と粉塵が幾度も繰り返され、その都度夜空に氷の欠片が無数舞い散った。

 暫く滞留してた黒煙が消え去ると、その惨状が露わとなった。直撃を受けたのか、一機のARPSが爆心地で倒れ伏し、引火した火で燃え上がっている。その隣には全身が煤に塗れ、黒く焼け焦げた機体が一機、両腕をだらりと垂れ下げて立ち尽している。

 レンズが割れ、光を失ったアイカメラ。力無く垂れ下がり、装備を失った両腕。装甲が大きく歪み、隙間から覗く内部ユニット。オイルが吹き出し、ぎらつく光沢を放つ脚部。いつ倒れても可笑しくないほど、見るも無残な姿となり果てていた。

 周囲を僚機で囲まれた中央の機体は避けることも儘ならず、集団の外側に位置した機体はどうにか直撃は避けられたようだ。

 他の機体は爆心地を取り囲むように左右二手に別れ、少し離れた場所に立っていた。

 何とか直撃を免れた機体だが、その衝撃からは立ち直っておらず、呆然と立ち尽くした状態のまま居た。

「よしっ、行くぞ!!」

 動きの止まった敵に対し、チャンスとばかりにシャバックは二人に声を掛けると同時に、敵に向かって疾走する。

 カグツチが未だ煙の(くす)ぶる中、立ち尽す敵の集団へと突き進む。

「おっしゃ!!」

「とつげきー!!」

 呼応するように、エスクートゥアとマリーアイゼンも共に駆け出した。




 グレンは敵ARPSのローラーが奏でる無数の出撃音を聞きながら、仕掛ける時をじっと待っていた。

――グレン、そろそろだよ――

 咲耶の声に、グレンは無意識に弾頭の装填されたARPS砲を手で探りながら確認すると、ミラー越しに入口を睨みつけた。

 もう何度目となるのか。金属を擦り合わせ、火花でも撒き散らしていそうなローラー音が響き渡る。

――来るよっ!!――

 幾分緊張感を含んだ咲耶の声が耳朶に届く。

 最後となる敵ARPSが三機、建物より飛び出して来た。アサルトライフルとシールドを装備した二機が並んで先行し、その後ろ、少し遅れた形でバズーカを持った機体が追走している。

 ミラーを懐へと突っ込むと、グレンはARPS砲を手にして建物の陰から一気に駆け出した。

 眼前には未だ撒き散らされた雪煙が宙を舞い、標的である敵ARPSの後ろ姿には薄く(もや)が掛かっているように見える。

 身の安全を考えるとあまり近づきたくは無いが、まずは初撃を当てないと話にならない。

 グレンは覚悟を決めると、敵に少しでも近づくべく足を速めた。日中との気温差の影響から雪上には薄らと氷の膜が張っており、駆け出した足下をすくわれ、転倒せずに走るだけでもかなりの労力を要する。

 グレンは敵が潜んでいた建物から少し過ぎた場所を狙撃地点と決めると、片膝を立ててARPS砲を構えた。徐々に遠ざかって行く、九機の敵ARPS。見えている機体の後ろ姿が段々と小さくなる中、一番最後尾となる機体に狙いを定める。

 両手で数えるほど多くの敵の前に、生身の姿を晒すのは想像以上に神経を消耗させていく。

 グレンは緊張を解きほぐすように一旦大きく息を吐き、呼吸を止めると、素早く引き金を絞り込んだ。

 一瞬、気の抜けたような音を立てて発射されたロケット弾は、標的となった機体に向かって真直ぐに飛んで行く。煙を引き、奮然と敵に向かったロケット弾は、狙い通りに背面に背負っていたバックパックに着弾すると、大きな爆炎を上げた。

「よしっ!!」

――これで誘爆さえ起これば、楽だったのに……――

 着弾を見届け、踵を返そうとするグレンの耳に、咲耶の残念がる声が聞こえた。


 ロケット弾やミサイルと言った砲弾の予備が詰まったアイテムパックであっても、破壊された時に誘爆は引き起こらない仕様となっている。

 実はβテスト時には、内容物によって誘爆が起こる仕様であった。ところが、互いにあまりにも一方的な戦闘が可能となるほど、戦闘バランスが崩れてしまう為、正式版開始に当たり仕様変更が掛けられて廃止となった。


「まっ、仕様なんだから、言っても仕方が無い」

 襲撃を受け、反撃に移ろうとしている敵ARPSを背中からひしひしと感じながら、グレンは急いで建物の陰に戻るべく走った。

――グレンっ、敵が撃って来るよ!!――

 咲耶の叫び声と同時に、背後からバズーカの発射音がする。

「くそっ、マジかよ。人に向かってバズーカなんか撃つな!!」

 グレンは咄嗟に真横へと身体を投げ出した。

 すると、直前まで身体があった場所のすぐ上を、ロケット弾が煙を噴出させながら通り過ぎた。

 雪に押し付けた顔を上げようとした次の瞬間、身体が揺さ振られるほどの爆風が襲った。

「ちくしょうっ」

 身体にいくつもの氷片が当たり、その都度じりじりとHPが削られて行く。

――近づいて来たっ。急げ!!――

 急き立てる咲耶の声に、グレンは衝撃でふらつく身体に鞭を打ちながら、建物の陰へと走って行く。

 すぐに次弾が飛んで来るかと思われたが、意外にも発射されなかった。

 そもそも雪上に冬季迷彩を着た人間(標的)に対して、砲弾を直接当てること自体かなり難しい。ただでさえ視認し辛く、小さい的がふらついていれば、難度は更に上がる。

 とは言え、防御力もHPも低い生身の人間が相手であれば、直撃させずとも倒す方法はある。爆風、氷や建物の破片と言った地形オブジェクトを利用した副次効果だけでも、十分なダメージは与えられる。

 しかし、初弾を外したことで向きになったのか、より確実に仕留めようと敵ARPSは接近することを選択した。

 いつ撃たれるとも知れない次弾を警戒しながら、グレンは縺れる足を動かして必死に駆ける。

 何とか次弾を免れて建物の角を曲がるも、グレンは足を止めること無く走り続ける。

 両脇を建物と塀に挟まれたこの場所には、身を隠すようなものは一切見当たらない。反対側の端へと続く、一本道である。

 日中に於いても建物の影となり陽も差さぬ場所は表とは違い雪深く、時折足を埋もれさせながらも必死に走っていると、背後から連続した大きな爆発音が響き、頭上から大量の雪が雪崩のように落ちて来た。

 グレンは壁際に降り落ちる重苦しい落下音を耳にしつつ、当たらぬよう祈りながら建物の半ばにまで達すると、身体を雪面へと伏せ、視界を敵が追って来る表側の方向へと向けた。

――来るよ――

 咲耶の声と同時に、敵ARPSは堂々と姿を現した。こちらが生身だと言うこともあるのか、特に警戒する素振りも見せず、右手のバズーカを構えながら悠然と歩を進めて来る。

「そのまま余裕ぶって、進んで来い」

 グレンは伏せた状態のまま、敵の姿を目で追い掛ける。

 一歩、二歩。振り下ろす足の振動が、伏せた状態の身体を揺さぶる。

 ゆっくりとした歩調で敵ARPSは、グレンとの距離を縮めて行く。

 目の前へと迫って来る敵ARPSの足が降ろそうとした場所を見定めると、グレンは両手で頭を抱え込んだ。

 次の瞬間、敵ARPSの足下から爆炎と衝撃が襲い掛かった。流石にARPS砲だけでは未知のARPSに対し、不安に思ったグレンが事前に地雷を仕掛けていた。

 誘導されたとも知らず、見事地雷を踏み抜き、右脚の膝下を破壊された敵ARPSはバランスを崩し、両腕をもがきながら塀の方へと倒れ込んだ。右手に持つバズーカを手放す様子も見せず、そのまま倒れ込むと機体が塀に接触する。ガリガリと装甲が削られる不快な音を立てて、敵ARPSは腰辺りから身体を横に折り曲げる形で止まった。

――グレン、起きな。チャンスだよ!!――

 咲耶の声に、グレンは大量に振り掛かった雪を払いながら、伏せていた顔を上げた。目の前には横倒しになった敵のARPS。手にしていたバズーカは機体の下敷きとなって雪面へと押し付けられ、上に圧し掛かった自重の所為で、動かすことも儘ならない様子だ。

 グレンは身体を素早く起こすと、バズーカの射線上から外れ、急いでARPS砲にロケット弾を装填した。

 敵ARPSも自由となる左腕を使い、何とか体勢を整えようともがくも、変な姿勢で嵌ってしまっており、そこに右脚が破損したことが加わって抜け出せないでいた。

 グレンはARPS砲を構えると、左腕を振って何とか逃れようとする敵に向かって砲弾を放った。

 闇雲に振り回される左腕を上手く躱し、ロケット弾は頭部へと着弾する。敵の頭部は外部装甲に歪な穴が開き、四つあったアイカメラは一つを残して全て割れていた。大きく裂けたスリットからは飛び出した歯車や歪んだ基板、火花を散らす切れた配線が覗き、時折煙を噴き上げている機体の姿があった。

 敵ARPSは、その状態でもまだ稼働を続け、幾分緩慢となった腕を動かして何とか脱しようともがき続けている。

「この状態でも、まだ動けんのかよ……」

 あまりの耐久度の高さに、グレンはげんなりとした言葉を吐きながら、追撃の用意を進める。

 敵は視界を失っており、移動も攻撃も儘ならない。勝負は既に決していた。

 グレンは止めとなる砲撃を加えると、ようやく敵ARPSは機能を完全に停止させた。

「これでようやく一機かよ……」

――火力を上げないと、この先もっとしんどくなるさね――

 クエストに登場した以上、この先もクエストを続けるならば、再び相見える機会も訪れよう。今回は偶々共同で受けているが、単独であった場合、グレンは己が戦力として計算足り得ぬ存在であることを実感した。

――そんなことより、早く戻って来てHPを回復しな――

 初っ端の砲撃時のダメージに加え、冷気によってグレンのHPは今もじわじわと減らしており、残りは半分を切るほどにまでなっている。

 しかし、そんな咲耶の言葉も、今のグレンの耳には届いていなかった。

「何とかしないと、拙いな……」

 グレンの焦りと悔しさが入り混じる呟きは、戦場に響き渡る一発の大きな銃弾の音で掻き消され、誰にも聞かれることはなかった。




 敵へと向かったエレノア達三機のARPSは、未だ爆撃の余韻漂う中、あっさりと敵ARPSに近づくことが出来た。

 本来であれば損傷を負い、走行速度にばらつきが出る敵ARPSを、個別に仕留めるのがセオリーであろう。

 しかし、エレノア達にはそうも言ってられない事情があった。まずはクルツの駆るシュヴァルディアへのロケット弾の補充である。

 開戦時に撃ち尽したのには、いくつか理由がある。一つは戦況を有利に進めるべく、開始直後の集団が纏まっている時に損傷を与えること。もう一つは乱戦となる前に砲弾の補充を済ませたかったことだ。

 クルツのシュヴァルディアには、ロケットランチャーしか装備がされていない。いくら護衛(カバー)役の機体が居ても、敵に襲撃されれば容易には補充が出来なくなる。その為、エレノア達が迎え撃つことで敵を足止めし、補充に掛かる時間を稼ぐ意味合いを持っている。

 そして重要となる、敵を入口付近にまで引き寄せる為だ。

 戦場となる敷地は周囲を林で囲まれており、狙撃の為の射線が得られるのが道が通っている入口付近しか無い。その為、敵を釣り出す形で射線にまで誘き寄せなくてはならない。

 わざわざ敵を誘導せずとも、来るのを待てばと思うかも知れない。しかし、それでは敵の移動速度を制御出来ず、相手を勢い付かせる恐れがある。

 折角握った戦いの流れを、わざわざ相手に返す必要はない。

 それに速い的と遅い的。狙撃可能な範囲が限られている以上、少しでも有利な状況を作りたいと言うのも要因である。


 先頭を行くカグツチは二機が立つ右側へと回り込むと、走りながらバズーカを放った。

 砲身から発射されたロケット弾が煙を棚引(たなび)かせながら、徐々に加速して行く。

 標的となった敵ARPSは外周に居た所為か、薄汚れた外観をしているものの、機体にはそれほど大きな損傷は見られない。自身に向かって来るロケット弾を、敵ARPSは難無く横に躱した。

「ちっ、本命には躱されたか」

 シャバックは悔しげに舌打ちをする。

 標的に避けられるも、依然として突き進むロケット弾の先には、クルツの砲撃によって半壊した機体が立っていた。

 開始時の砲撃で左半身に損傷を負った機体は、千切れ掛かった肘をぶら下げ、手にしていた盾は足下に転がっている。脚部も側面の装甲がうねるように歪み、大きな破片がいくつも突き刺さっていた。

 損傷を負った機体は、突然目の前の機体が避けたことで、カグツチより放たれたロケット弾の標的にされた。

 しかし、満身創痍と言える状態の機体には避ける余力も残されておらず、最後の足掻きとばかりに、未だ辛うじて動く右手に持つアサルトライフルを放ちながら破壊された。

「くそったれっ、こっちに撃ってくんなよ」

 無造作に放たれた銃弾は止めを刺したカグツチでは無く、離れた場所に位置するエスクートゥアの側面を襲った。

 予期せぬ方向から突然撃たれた銃弾は、俊敏さに欠けるエスクートゥアでは回避も叶わずに着弾する。

 操縦席の中にまで響く甲高い金属音は、片手で数えられる程度で終了した。

――損傷軽微。ですが、もっと周囲に注意を払って下さい――

「わぁってるよ」

 AIから苦言を受けたダリルはその鬱憤を晴らすべく、銃弾を撒き散らす。

 エスクートゥアの向かった先には、五機にも及ぶ敵の機体が固まっていた。

 その固まった敵ARPS全機を纏めて薙ぐように、エスクートゥアはガトリングガンを大きく振う。鞭の如く、しなやかに放たれた無数の銃弾が敵に襲い掛かる。

 たった一機でありながら、その銃撃は敵ARPS五機全ての足を止めさせる。

 背後に聳える建物の窓ガラスが左から右へと次々に砕け散り、外壁にも拳大の穴が無数に生まれ、コンクリートの破片が雪面に降り落ちる。

 一番手前に位置した敵ARPSは横からの迫り来る銃撃に、避ける間も与えられず、機体の正面へと盾を掲げることで銃撃を受け止めた。着弾時の圧力で盾は軋みを上げて歪んでいき、僅か数秒と言う短い時間で、その役割を終えた。

 しかし、その稼いだ数秒と言う貴重な時間を、有効に活用した機体がいた。攻撃を受けた機体自体を盾として、その背後を通り抜けて銃撃と擦れ違う。

「ちっ、一機逃したか」

 ダリルは敵を逃したことで舌打ちするも、そのまま銃弾を放ち続ける。大型で重量のあるガトリングガンは、取り回しが非常に悪い。特に今回のように左右へと大きく振り回すと遠心力も加わり、銃撃を止めるだけでも一苦労する。

 敵ARPSが足を止めて初撃を防いだのを横目に、ダリルは銃弾を折り返した。一度防いだ銃撃が敵ARPSへと再び襲い掛かる。

 しかし、初撃で盾を破壊された機体だけは、最早防ぐ手段は残されていなかった。

 右側から再び襲い掛かって来た銃弾に、為す術無く装甲が穿(うが)たれる。着弾毎に小さな装甲板が一枚、二枚と割れて剥がれ落ち、機体内部へと達した銃弾がショートを起こす。

 敵ARPSは銃弾を全身に浴び、暗闇の中、ギクシャクとした動きで醜く踊っていたが、やがてガトリングガンから空転する乾いた音が響くと雪面に崩れ落ちた。

「しっかし、やたらと硬かったな」

――今まで対戦した機体よりも、約1.3倍ほどの銃弾を消費しました――

「そんなにか……」

 明確な数値を出されて驚くダリルに、シャバックから通信が入る。

「ダリル、敵を連れて一旦退くぞ。遅れるなよ」

「あいよ、了解」

 そう言うと、ダリルは残っている敵ARPSを名残惜しそうに見ながら、後退を開始した。




 シャバックの後をダリルと共に追ったエレノアであったが、格闘装備しか持たないマリーアイゼンは一向に攻撃の機会を見出せず、GARP(ガープ)に向かい不満を漏らしていた。

――元々二人と協力して叩くって指示だったろ――

「むぅ……」

 今回の接敵は、あくまで敵を誘導することを目的としたもので、殲滅させるまで攻撃を仕掛けることはしない。

 その為、この場での深追いは厳禁であり、一撃を与えたのちはすぐさま後退する手筈となっている。

 目の前で愉しげに攻撃を仕掛ける二機を、エレノアは指を咥えて見てるしかない。

 しかし、急激に機嫌を悪くさせつつあるエレノアに対し、システム(神様)の方が気を使ったのか、恰好の獲物が転がって来た。

 エスクートゥアの銃撃を掻い潜った敵ARPSが、単機でクルツ達へと向かおうとしている。

「あれは貰っても良いよねー」

 エレノアはにへらと笑みを浮かべると、返事も待たずに素早い反応を見せて、マリーアイゼンを走らせた。

――ああ、逃すなよ――

「いっただきー!!」

 GARP(ガープ)からの許可を得ると、エレノアは機体を更に加速させる。

 真直ぐにクルツ達へと向かって疾走する敵のARPS。しかし、瞬発力に優れるマリーアイゼンは、すぐに進路の先へと機体を割り込ませた。

 エレノアは敵の進路上に機体を止めると、敵ARPSと正対する。

「止まんないね」

――どうやら、強引にでも突破するようだぞ――

 敵ARPSはマリーアイゼンの姿を見ても、速度を落とすどころか、機体の正面に盾を掲げると更に加速をさせて来た。

――このまま当たると、流石に拙いぞ――

 マリーアイゼンは重装甲型の機体である。とは言え、このまま正面からまともにぶつかれば、静止している分だけ衝撃を受け、いかに重装甲型と言えど機体に大きなダメージを負うことになる。

「まかせてー」

 そう言うと、マリーアイゼンが敵ARPSに向かって走り出した。

 敵もまさか正面から向かって来るとは思ってみなかったのか、一瞬戸惑うように挙動を乱すも、すぐに腰を落とし機体を加速させた。

 全く退く様子を見せず、チキンレースの様相となっていた。たった一秒で十数メートルの距離が縮まる。互いに膝を屈め、腰を落として重心を下げ、正面に盾を構えた二機のARPSは、背面よりうず高く雪煙を舞い上げながら迫って行く。

 肌がひりつくような緊張感に包まれる中、最初に音を上げたのは敵の方だった。一向に避ける素振りを見せないマリーアイゼンに業を煮やしたのか、掲げた盾の横から銃口を覗かせると銃弾を放って来た。

 存在を無視するように、正面から無造作に放たれた銃弾は全て掲げた盾に弾かれる。

 すると、不意に銃口がゆらりと揺れた。

――盾を上げろ!!――

「――っ!!」

 GARPの声に反応し、エレノアは咄嗟に左手に持つ盾を上げた。不意打ちに頭部を狙った銃弾は、僅かに対応が遅れるも、正確性を欠いたお陰で被弾は免れる。

 もっとも敵はこの反応こそが狙いだった。盾で頭部を庇ったことで視界が失われ、敵との相対距離が掴めない。

 互いに後数歩と言う所まで迫った状況の中、勝敗の天秤は敵へと傾いたかに思えた。

 敵ARPSは衝撃を少しでも和らげようと、盾を傾けて位置を調整すると衝突に備える。

 しかし、敵の眼前にまで迫ったマリーアイゼンは、その準備を嘲笑うかのように思い掛けない行動に出る。

 突如、左脚を引いたかと思うと、機体を反転させながら、右脚のスキーモービルに装着したターンピックを撃ち込んだ。雪面に撃ち込まれた杭は、軋みを上げて荷重に耐えながら、しっかりと雪の中に喰い込む。

 ターンピックを軸にして、綺麗にマリーアイゼンの機体が回転した。真直ぐに突き進む敵ARPSの左手側を、背面を晒しながら擦れ違う。

 衝突に備え、身構えていた敵ARPSが肩透かしを喰らった次の瞬間、背後より衝撃が襲った。

 機体の回転に合わせて放たれたマリーアイゼンの裏拳が、背負っていたアイテムパックに叩き込まれる。アイテムパックの装甲が折れ曲がり、出来た隙間からは予備の銃弾がパラパラと零れ落ちる。

 敵ARPSは衝撃でバランスを崩すと、何度かスピンを繰り返して機体を停止させた。二機の機体は、僅か三、四歩と言う距離で睨み合う。

――左腕の損傷率9%。だが、何度もやると手首の関節が先に破損するぞ――

「もうしないから、だいじょーぶ」

 エレノアは目の前の機体から、一瞬たりとも目を離さずに答える。

――それと、シャバック殿達が後退を開始した。長引くと取り残されるぞ――

「へーき、次で仕留める!!」

 エレノアは自信満々に言い切った。

 二機が正対している距離は、もう既にマリーアイゼンの間合いだ。敵ARPSもそれは分かってるようで、西部劇でよく見る早撃ちの決闘の如く、機体は固まったように動かない。

 敵のARPSは機体を立て直した影響で、盾は明後日の方向に向いている。右手に持つアサルトライフルもバランスを取るべく振り回した所為で、銃口もやや後方へと下げられていた。

 ほんの数秒前までの優勢が嘘のように、たった一撃で立場が逆転してしまっていた。

 しかし、敵も戦意は失っていない。先程から攻撃の隙を窺うべく、じわりじわり銃口を動かし、仕掛けるタイミングを見計らっている。

 エレノアもその様子を視界に入れながら、動じることなく構えている。

 二機の間には周囲の喧騒が掻き消え、張り詰めた重苦しい空気が漂っている。

 すると次の瞬間、まるで示し合せたかのように、二機のARPSは同時に動き出した。

 敵ARPSが銃口を向けようと、アサルトライフルを振り上げる中、マリーアイゼンは真直ぐに突き進み、敵の懐に潜り込む。

 機体を庇うように正面へと回された盾に向かって右手のナックルを放つと、邪魔な障害物の排除に取り掛かる。攻撃を受けた盾は破壊には至らぬものの、衝撃の所為で盾が動かされ、機体との間に僅かな隙間が覗く。

 それをエレノアは逃さなかった。こじ開けられた隙間に左手に持つ盾を捻じ込むと、盾に備わっている杭の先端を敵の機体へと突き付けた。

「どーん!!」

 エレノアの声を合図に、盾に装着されたパイルバンカーが発射される。

 衝撃を受けた敵の機体が腰より折れ曲がる。機体からはパラパラと割れた装甲板の破片が零れ、杭を伝って黒く汚れたオイルが雪面に滴り落ちる。

 今まであっさりと敵の機体を貫いていた杭は、中ほどで押し止められていた。

 金属が掻き毟られる音を響かせながら、役目を終えた杭が引き抜かれる。

 敵ARPSもまだ動けるようで、ふらつきながらもアサルトライフルを持ち上げると、銃口をマリーアイゼンの胸部に押し当てて来た。

 銃弾を放とうと、トリガーに掛かった指が震えた瞬間、鈍い爆発音を受けると、力を失った手の中からアサルトライフルが零れ落ちた。

 敵ARPSの背面から突き出た杭はオイルや循環液に塗れ、月明かりに照らされた中、血を吸ったかの様にぬらめく妖しい光沢を放っていた。

 刺し貫いたパイルバンカーを引き抜くと、今度こそ完全に稼働を停止させた機体が膝から崩れ落ちて行った。

「なんか硬かったー」

――流石に今までとは違うようだな――

 二人がそんな感想を話していると、シャバックの声が割り込んで来た。

「無事に仕留めたようじゃの。一旦退く。遅れたら、置いて行くぞ」

「りょーかーい」

 エレノアはすぐにその場を後にすると、後退を開始したカグツチ達の下へと合流に向かった。


 上手く主導権を握れたことで、序盤を優勢に進めた戦闘は、ようやく折り返しを迎える。

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