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第四話 受領

5/16 漢字変換率修正

5/25 誤字修正

2/21 一部修正

 ここから先は各自別行動となる。それぞれのスキル特性に合う機体を取り扱っている所に行かなければならないからだ。一応最初の一機だけは国からの支給らしく、代金は後日所属国から各メーカーへと支払われるという設定だ。そして初期機体だけは事前に公式サイトで紹介をされていたため、開始前の段階ですでに各自希望の機種を選び終えていた。

 尚、キースの指定地が一番遠いため、二人が迎えに来る手筈となった。


 そのキースの指定場所は街の中心部からは、かなり離れた郊外と言って良い外周部の辺鄙な場所に位置していた。

 指定された建物は周りとかなり雰囲気が異なり、ARPS製造メーカーより潰れかけた研究所といった趣だ。建物自体の大きさも三階建て程の高さしか無く、周りの状況も中心地から一転寂れた僻地といった様子だ。ただ郊外にある分敷地は広く、建物の前にはかなりの台数が停められそうな駐車場も付いている。

「何か、怪しい研究とかしてそうだな。こんな僻地に有るんだから、それなりに隔離される理由があるんだろうな。改造人間とか作ってたりして……」

 そんな印象の宜しくない建物は、当初の綺麗な白い外壁が風雨にさらされ、今では所々ひび割れが目立つくすんだグレーだ。外壁にある窓も曇っており、中を見通すことは出来ない。指定場所になっていなければ、絶対訪れないであろう建物の中に押し黙ったまま入って行く。




 中は拍子抜けがする程何もなかった。受付に人もいなければ、待合ソファーも何もない。あったのはカウンターの上にぽつんと置かれた内線電話だけだった。

「これで連絡して来いってことなんだろうな……」

 受話器を上げるとすぐどこかを呼び出す音が聞こえて来た。しばらく待っているとしわがれた声の男が電話に出る。

「何か用か?」

「あの、ロボットを頂きたいんですけど」

「うちじゃロボットは扱ってはおらん。全領域用装甲兵器(All Round Panzer System)、ARPSと呼ばれとる物ならあるがな」

「すいません。そのARPSを頂けますか」

「ちょっとそこで待ってろ」

「解りました」

 受話器を戻し、そのまましばらく待っていると、カウンター脇の階段から年老いた白髪の白衣を着た男が降りて来た。


「あのARPSを受け取りに来たんですけど」

「新規入国者か。うちを選ぶとは珍しいな。まだ一台も出とらんというのに」

 男はキースの発言を受けると、珍しい物を観察するように眺めまわしている。

「そうなんですか? じゃあ、一番目という事でお願いします」

「なら、付いて来い」

 返事も聞かずに男は入口から一旦建物を出るとその裏手に回り始めた。



 そこはハンガーというよりは倉庫といった様相の所だった。大きさこそARPSを収納できる程の広さがあるが、設備といった物は殆ど見当たらない。

 そんな中一機だけひっそりと立っているのが見える。

「これがうちで唯一扱っておるARPS。『スヴァローグⅡ』じゃ」

 スヴァローグⅡと名付けられた機体は、全長が6.1m程の高さがあり、厚い装甲で全身が覆われたがっちりとした印象を持つ機体だった。光沢の無いマットな塗装を施された真黒な機体は、特徴的な頭部と背面装備を持っていた。通常のARPSが持っているであろう、人型の頭部とは全く異なる円盤形のものがそこには設置されていた。その円盤の中身は広範囲捜索用レーダードームになっている。通常頭部で行う機能を限界まで排除して、全てを索敵機能につぎ込んだ結果がこの形である。このスヴァローグⅡは山岳国であるシュネイック共和国の特性を生かした、センサー性能に特化した機体であった。


「電子戦用機としての伝統の形か……」

 ビエコフが持っている古いアニメに登場してた機体に良く似ている。

 事前に公式サイトでも見ていた筈だが、やはり実物を前にするとまた違った印象を受ける。

「一応二点程確認じゃ。一つはこいつは通常の頭部の機能を排除しているんで、それを補うために専用のバックパックを積んでいる。もちろん、他のに変える事も出来るが、その分機能と性能に難が生じるがどうする」

 この件は事前にサイトで通達されたいたため、特に問題無く返答をする。恐らくこれが機体の人気の無さに拍車を掛けた一因であろう。

「このままでお願いします」

「もう一点はここじゃあ武器は扱っておらん。武装に関しては武器屋にでもいって揃えてくれ。そのためのPASSは発行しておく」

 こちらは初耳だったが、特に大きな問題ではないと思考を切り替える。そもそもスヴァローグⅡはその特殊なバックパックのせいで、装備重量制限をかなり圧迫されていた。そのため、元々装備可能な武器が選べる程種類豊富という訳では無いのだ。

「解りました。このPASSを渡せば武器が貰えるんですね」

「そうじゃ。指定範囲内の物ならどの店でも受け取れる。問題無いならこいつに受領確認をしてくれ」

 渡された端末での受領確認を終え男が立ち去ると、AIの設定をするため機体に乗りこむべく倉庫の中へと移動する。


 操縦席に乗り込み、搭乗ハッチを閉め、正面モニターの左に位置するカードスロットへとAIを挿入する。すると正面に小さな透過スクリーンが現れ、AIのセッティングが始まる。先ずは所有者登録のための情報の入力。次にAIの性別を確認後に名前を名付ける。

「女性か……。じゃあ『アデリナ』が良いかな」

 名前を入力すると、しばらくしてAIが目覚める。

――はじめまして、マスター――

「ああ、これから宜しくアデリナ」

――こちらこそ、宜しくお願いします。先ず最初にマスターのステータス情報の登録から始めます。情報を読み取りますので、しばらくの間そのままでお待ち下さい――

「わかった」

 時間にして三分ほどであろうか、アデリナと会話をしているとすぐに終了する。


――ここからは実際に動かしながら、各部所の操縦調整を行っていきます――

「わかった。取り敢えず調整は後回しにして、迎えを待つために移動しようか」

 建物裏手のこの場所は到底待ち合わせには向いておらず、二人を待つにしても建物の正面に移動する必要がある。

「初めて動かすから、ちょっと緊張するな」

――大丈夫です。私がサポートしますから――

「細かい調整は頼むよ」

 話しながらも機体を動かすべく準備をする。

 ARPSの操縦席は椅子と呼べるものは無く、自転車のサドルに近い物に腰掛ける形になる。席に着くと足下に丁度足首から膝下程の長さの筒が二本あり、そこに脚を通していく。爪先部分にペダルの感触が伝わり、軽く踏み込むと筒が締まり足が固定される。腕も同様に肘掛の様な所に手首から肘程の長さの筒があり、そこに腕を通して先にある球体状の物を握ると足同様に固定される。これで実際に手足を動かすと、ARPS自体も同調して動く事になる。

「よし、じゃあ動かすぞ」

――了解です。一応出力を30%でリミッターを掛け固定しましたので、いきなり暴走や壊れる事はありません――

「助かる。行くぞ」

 右足が一瞬震えると、ゆっくりと前へ一歩踏み出す。無事動けたのを確認すると、今度はゆっくりと歩き始める。最初は恐る恐るといった感じで動かしていたが、慣れてくるともっともっとと気持ちが膨らみ逆に抑えるのに苦労する。

 そんな搭乗者の期待と興奮を微塵もその身からは感じさせずに、スヴァローグⅡは建物に沿って敷地入口へと歩いて行く。

 敷地正面の入口が見える頃には、歩くだけなら大分余裕が持てるようになってきた。


――操縦調整が終了するまでは、多少ラグ等操作に関して違和感が出るかもしれません――

「その調整はいつ終わるんだ?」

――通常機動に関してはそれ程掛かりません。ただ戦闘機動に関しては火器との調整等もありますので、それなりの時間は掛かります――

「銃を撃ったりってことは、街中じゃあ出来ないよな」

――街中でしたら、調整場で行えます。ただ時間制で場所を借りることになりますけど――

「あー、やっぱりそういう所があるんだな」

 アデリナと今後の調整予定を話していると、こちらに向かってくる銀色の大きなトレーラーが見えて来た。




「ずいぶんとまたでかいトレーラーだな」

 一旦機体から降りて、到着したトレーラーを見上げる形で迎える。

「ぷっ、何あれ? どら焼きが乗ってる。どら焼きだ」

 座席から降りて早々エレノアが、キースの機体を指差しながら笑い始めた。

「一般受けしないんだな……」

「唯一モデルチェンジしませんでしたし、人気が無いのは宿命なのではないかと」

「俺は結構気に入ってるんだけど……」

「自分も好きですよ。機能を追求した結果って感じがしますし」

 二人が嗜好の確認を行っている目の前では、未だ笑いが止まらぬエレノアが機体の周りをぐるぐると回っていた。


 受け取った機体をトレーラーへと無事に積み込み、笑いが収まった代わりに使い物にならなくなったエレノアを座席に放り込む。

「さてと、俺としては武器を貰えなかったから、武器屋に行きたい所なんだがどうする」

「そうですね。武器屋に寄りつつ、まず傭兵ギルドに登録をしに行きましょう」

 エレノアを放置したまま、二人で行動予定を次々と決めていく。

 どちらも場所は街の中心部に位置するため、今来た道を引き返すように高層ビル群へと走り出す。


 途中武器屋に寄り、マシンガンスキルでも使用できるアサルトライフルを選択し、傭兵ギルドへと到着した。

 因みに街中ではARPSの自立歩行は禁止されている。そのためARPSを運ぶ時には車両などに必ず乗せなければならない。

「ここの地下駐車場凄いね。何台でも停められるよ」

「これもゲーム仕様なんだろうな。駐車券を持って無いと辿り着けないらしいし」

 駐車台数無制限という今出て来たばかりの不思議空間の話をしながら、ギルドへと入っていく。

 傭兵ギルドという名に反し、中は役所といった雰囲気の場所だった。いくつものブースが並んでいる受付。その右手には建物の正面入口。受付の向かいには壁に沿ってテーブルが伸びていて、一定間隔に小型の端末が設置されている。そして受付左手には階段。壁面には大きなディスプレイが設置され、賞金首のプロフィールが顔写真と一緒に映されている。三人は左手の階段からギルド内へと上がって来た。


 ちょうど空いていた右端の受付の椅子に三人で腰掛けると、正面にいる女性が声を掛けて来る。

「こちらは登録カウンターになります。新規での登録で宜しいでしょうか」

「はい。三人お願いします」

「では、入会説明をしますので、その間にお渡しします端末に登録情報の入力をお願いします」

 そういうとタブレット型端末を三台渡され、ギルドの説明がなされる。


 ギルドランクはスタート時は無印。以降ランクが上がるとギルドカードに線が入り、一本線から始まり三本線へ。その上は線の上に星が入り、一つ星から三つ星まで。全部で計七ランク。

 依頼の難易度は下からE~A、S、最高難度はSS。依頼はランク毎に受注設定がされていて、無印ならE、一本線はD、三つ星はSSと決められた設定以下のランクしか受注出来ない。

 チームでの受注は最低ランクの一つ上のメンバーが基準となる。但し、最低との差が三ランク以上ある場合には最低ランクが適用される。

 ランクの昇格条件は依頼達成時に貰えるポイントの総計が、ランク毎の規定数を超えれば昇格となる。因みに一本線に上がるには千ポイントが必要となる。更に失敗などの違反記録があった場合、ギルド幹部二人の承認が別途必要となる。

 失敗時の罰則は、受注額の1.5倍の罰金。支払えない場合は降格処分。失敗は五回までは罰金だが、それ以降は降格及び昇格ポイントの減点が追加となる。

 それと賞金首討伐はギルドではなく国からの依頼となる。討伐報告はギルドではなくまず駐留軍へ行き、そこで討伐証明書を発行して貰う。それをギルドに渡すと賞金と昇格ポイントが貰える。賞金の窓口はギルドだが、後日証明書と引き換えに国に請求をしているらしい。

 登録は個人とは別にチーム登録も出来る。登録出来るのは、一チームパイロットが六名、バックアップが二名の最大八名。バックアップ登録の場合にはARPSの所持が禁止とされる。登録後も申請を行えば、役割の変更は可能とのこと。三人はキースとエレノアがパイロット、ビエコフがバックアップでチーム登録をした。


「登録チーム名はどうされますか?」

「えーとねえ……」

「保留が可能なら、一旦保留でお願いします」

 エレノアが喋り始めた途端、ビエコフがすかさず保留するよう受付の女性に提案する。この辺は姉弟ならではの推察力とやり取りだ。

「かしこまりました。なるべく早く登録下さるようお願い致します」

 保留は可能なようで、あっさりと女性が受諾する。

「えー、なんで保留にするのよー」

「一旦三人でじっくりと相談しよう。いいね」

「むー」

 エレノアの独断を未然に防げたのを、内心で安堵する二人。彼女のセンスからいって『ミルフィーユ』やら『杏仁豆腐』など、好きな物の名前を付けられる可能性が非常に高いのだ。キャラ名は選択式だったが、チーム名に関しては自由に好きな名前が付けられる。そのため、ここは今後を考えどうしても譲る訳にはいかなかったのだ。因みに、後日実際に『ミルフィーユ』と名付けられたチームと出会い、エレノアから色々と文句を言われる事になる。


 ギルド登録も無事終了し、いよいよ初の実戦を行うべく三人は街の外へと向かう。

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