第三十六話 天敵
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武装ヘリの襲撃により、キース達の策は未然に敵に察知されてしまい、修正を余儀なくされた。
残された時間ではトラップを再度仕掛け直すことも難しく、当初のプランから変更が必要となった為、再度の襲撃を警戒しながらも、一端集まって対策を練ることになった。
「まさか、単独で偵察を行うとは思ってませんでした……」
少し考えれば防げた筈のミスから、キースは渋い表情を見せる。
「俺も単独での偵察は、可能性が低いと思ってたからな」
グレンもキースの言に同意する。まさかと言った思いだ。
いくら空を飛んでいるとは言え単独での偵察は、敵の配置や策を事前に知れる分見返りは大きいが、その分撃墜されるリスクも高い。
「取り敢えず、反省会は終わってからにしましょ。まず目の前の対処を考えないとね」
ディートリンデの言葉を受け、反省モードだった二人はすぐに気持ちを切り替える。
「でもさー、罠は仕掛けられないんでしょー」
一個は仕掛けたものの、それだけだと流石に効果は期待出来ない。
「そうね。時間も無いことだし、今回は正面から当たるのも手よね」
今までは対処しやすくする為に、敵を個別に分断して戦闘を行っていたが、敢えて三対四での集団戦を選ぶと言う方法も有る。
その後も幾つか提案がなされるも、時間的制限と言う壁に阻まれ、結局ディートリンデが最初に言った集団戦を行うことに決めた。
「それだと、まずヘリを無力化しないといけませんね」
ただでさえ数的不利な状況の中、空からも支援されると勝率はぐっと下がってしまう。
「まあ、そっちは何とかするわ」
当初よりもグレンに掛かる責任は、非常に重いものへと変わる。
「頼みますね」
「がんばれー」
「お願いします」
「おう!!」
メンバーからの激励を受け、グレンは気合を入れる。
方針が決まると、グレンを除いたARPS三機は、纏まった状態で敵との迎撃地点へと向かった。
迎撃地点となるのは、当初選んだ地点よりも少し先となる小高い岩山が混在した森に四方が囲まれた、少し開けた広場の様な雪原が選ばれた。
三機のARPSは森と広場の境目となる場所に、スヴァローグとマリーアイゼンの二機が前衛として少し距離を開けて立ち並び、シュヴァルディアが少し下がり後衛として支援に当たる配置に着いている。
今回集団戦を選んだのは、何もデメリットばかりではない。こちらが一ヵ所に固まることで、攻撃ヘリの移動範囲を制限し、撃墜しやすいよう誘導することも目的である。
流石に空を自由に飛び回られると厄介だが、ある程度範囲を絞れれば、それだけ撃墜するチャンスも生まれる。
その攻撃ヘリを担当するグレンは、丁度広場の真ん中位に当たる位置から森の中へと入った岩陰に潜んでいる。
「分かってるな。ヘリを撃墜するまでは突出し過ぎず、攻撃よりもまずは回避に専念しろよ」
乱戦が予想される今回の戦闘の中で、一番懸念される要素である為、キースはくどい程に注意を入れる。
「もー、そう何度も言わなくても分かってるよー」
指摘を受けたエレノアの方は、少しうんざりした様子で答えている。
他のメンバーからも一度戦死をさせたと言う思いがあるからか、代わる代わる同じ注意をしていくので、受ける身としてはいい加減聞き飽きている。
「攻撃するのは、ヘリを撃墜してからでしょ」
自分はちゃんと理解しているのだと言わんばかりに、今回の決め事を口にする。
「そうだ。性能が上がったからと言って、無茶はするなよ」
「そうよ。まだ慣らしどころか、機体のテスト戦闘も済んでいないんだからね」
そこにキースとディートリンデの二人から、また別な注意がなされる。
今回の戦闘が新たに購入したエレノアの愛機、マリーアイゼンのデビュー戦となる。その為、必死に抑えようとはしているものの、エレノアからは新しい玩具を与えられた子供の様な興奮が溢れ出し、努力も空しく全く隠しきれていない。
とは言え、まだ無茶はさせられない。流石に新しい機体だからと言って、ゲームである以上初期不良などはIランクの機体では起こらない。だが、何十時間も操縦し、自身に合わせた調整が施され、機体の細かな癖まで把握していたカグツチとは違う為、その様な心算でいると手痛い思いをすることになる。
「むー、だいじょーぶだよー」
二人からの指摘にエレノアは機嫌を損ね、拗ねた表情を浮かべるも、すぐに消えた。
――エレノア、来たぞ――
GARPの声に反応し、エレノアは前方へと視線を向ける。
眼前の広場の先、森との境となる位置に、敵の姿がちらちらと木々の隙間から見え隠れしている。
丁度100m程の長さがある広場を挟み、対峙する形となる。
「あっ、止まっちゃった……」
――まあ、すんなり出てくれれば楽だったがな――
止まること無く広場へと歩み続けてくれれば、先頭の機体をディートリンデの狙撃によって、攻撃する予定であった。
互いが停止した状態となり、攻撃を仕掛ける切っ掛けを失った。
その状態のまま、暫し睨み合いが続くかと思われた時、静寂を掻き乱す音が耳に入る。
「ヘリ来たっ!!」
敵ARPSの到着から少し遅れて、森の上に小さな機影が見えた。
外観はオリーブドラブとダークグリーンの二色に塗り分けられた上に、所々白い塗装が重ねられた冬季迷彩仕様となっている。
角張ったデザインで正面からはほっそりと見える機体には、操縦者と射撃手の二名が前後の座席に別れて搭乗する。機首には火器管制用の小型のドームが付き、その下部には大型のチェーンガンが備わり、機体左右のスタブ翼にはロケット弾ランチャーが一基ずつ装着されている。
ARPSの手が届かぬ空を縦横無尽に駆け、一方的に殺戮することも可能な対ARPS攻撃用ヘリ。今回が初対戦となるARPSの天敵である。
徐々に機影が大きくなるに連れ、鳥の羽ばたきにも似たパタパタとローターが奏でる独特な音が響き渡る。ヘリはARPSとは比較にならない速度で広場を突っ切ると、そのままエレノア達の頭上を通り過ぎて行った。
「あー、全然当たんない……」
こちらへと向かって来ていたヘリに対し、牽制する様にキースが銃弾を放ったが、思っていたよりも飛行速度が早く、一発も当たること無く通り過ぎてしまった。
――エレノア、正面から来るぞっ!!――
視線を前方へ向けると、ミサイルポッド持ちを森の中に残し、ロッドを装備した機体を先頭に、三機の85式が森から次々と飛び出してくるのが目に入る。
「よーし、いっくぞー!!」
そう言うと、エレノアはアクセルとなる右足のペダルを一気に踏み込んだ。
出力を示す計器の針が一気に跳ね上がり、僅かに屈んだ姿勢を取るマリーアイゼンは広場へと飛び出して行った。
背面に装着したSCパックからは甲高い吸気音が鳴り響き、その音に呼応する様に加速していく機体は、鈍重そうな外観からは不似合いな速度を出して敵へと向かって疾走する。
「うぉー、はやーっ!!」
慣らしをまだ終えていないが戦闘時と言うこともあり、初めて出力リミットを外した状態での操縦に、エレノアは今までに無く興奮していた。走り出した時に身体がGにより座席に押し付けられる感覚など、カグツチでは一度も経験したことなど無い。
――おい、あんまり無茶な操作はするなよ――
GARPの注意も最早耳に入っていない。
一瞬で巡航速度まで達すると、隣に居た筈のスヴァローグを一気に置き去り、僅か数秒で敵と対面することになる。敵の先陣は右手にマシンガン、左手にロッドを装備した機体だ。
敵ARPSは一瞬で距離を詰め寄ったマリーアイゼンに驚き、その僅かな隙にエレノアは易々と格闘距離にまで近づく。敵もすぐに気付き、慌てた様に銃撃を加えようとするも、マリーアイゼンは回り込む様にマシンガンを持つ右側へと避けると、銃を持つ右腕の上腕部へとそのままナックルを叩き込んだ。
装甲が捩れ、内部ユニットの潰れる感触が、ナックルを嵌めた右腕から操縦するエレノアへと伝わって来る。
――エレノア、一旦退くぞっ――
後ろを遅れて追走していたアサルトライフルと盾を装備した二機の85式が追い付き、僚機を救出するべく銃撃を仕掛けて来た。
すぐさまエレノアは左腕に装着した盾を正面へと翳すと、ローラーを使用して一気に後退を図る。
慣れぬ所為か、些か乱暴に操作した為、一瞬機体が左右へと暴れるものの、すぐに敵との距離が広がる。
「ふう、焦ったー」
すると、後方へと置き去りにしたスヴァローグと、ようやくここで合流を果たす。
「お前なー、突出するなと言っただろ……」
些か諦めた様な、力無い声がキースから掛けられる。
「えへへ、慣れてないから飛び出しちゃった。ごめん、ごめん」
キースの様子を受け、エレノアは誤魔化す様に謝って来た。
エレノア達の正面に立つ二機の盾持ちは、銃撃を仕掛けながら損傷したロッド持ちを背後へと庇うと、三機の85式を追い越す形で後方よりミサイルが飛んで来た。
「エレノアっ」
「りょーかーい」
名前を呼ばれただけでその意図を汲み、エレノアはすぐさま行動に移る。
スヴァローグから撒かれた妨害用フィルムの破片が頭上で舞い散る中、マリーアイゼンはその恩恵に与ろうと背後へと回る。前後に立ち並んだ二機の頭上に浮かぶチャフの雲の中を、二本のミサイルが煙を引いて突き抜けて行った。
その後は暫く互いに決め手を欠き、膠着した状態に陥る。
敵に対し、エレノアは機動力を活かして揺さ振りを掛け、キースは銃撃を仕掛けながら隙を探し、その二人が作り出した僅かな隙をディートリンデが狙撃で突く。
敵も盾持ちが二機並んで壁を作り、その隙間を縫う様にマシンガンやミサイルが放たれ、ロッド持ちが回り込む様に格闘戦を仕掛けて来る。
互いに撃ち合うも決定打を許さず、消耗戦の様相を見せ始めるが、主導権を取ろうとする争いはすぐに決着が付けられる。
――エレノア、注意しろ。ヘリが仕掛けて来るぞっ!!――
開始時以降、姿を消していた攻撃ヘリが、ここに来て戦場へと乱入して来た。
広場へと姿を晒しているスヴァローグとマリーアイゼンに対して側面を突き、チェーンガンによる掃射がなされる。重くこもった音がするモーターが鳴り響き、排出された薬莢が雨の様に降り落ちる。
エレノア達は正面と頭上、二方向からの攻撃に晒された。
――エレノア、ヘリの方を防げ――
被害を最小に抑えるべくGARPの指示に従い、盾を頭上へと掲げると、それを待っていたかの様に正面から大量の銃弾が放たれる。
しかし、より深刻なのはスヴァローグの方であった。
――マスター!!――
「アデリナ、レーダーを最優先で防御しろっ!!」
以前にも頭部のレーダードームを損傷し、その後の行程に支障を来たすことがあった。戦闘をする以上、損傷は覚悟するべきだろう。とは言え、機体の頭上から攻撃を仕掛けるヘリは、他の機体以上にスヴァローグにとっては厄介な存在である。
キースは正面の銃撃を防いでいた盾を頭上に掲げると、その制御を一旦アデリナに預け、チェーンガンからばら撒かれる銃弾の雨からレーダードームを守る。
二機の掲げた盾にはヘリが掃射した銃弾による鈍い衝撃と共に、振り被る薬莢が奏でる軽やかな金属音が搭乗席にまで響いて来た。
「くそー、卑怯だぞっ。降りて来ーいっ。一発殴らせろー!!」
盾から銃弾による衝撃が伝わる中、エレノアは手の届かぬ敵に対して悪態を吐いていた。
ヘリはマリーアイゼン達二機の頭上を駆け抜けると、後方に居るシュヴァルディアの方へと反転しながら、左右のランチャーから一発づつロケット弾を撃ち込んだ。
――ディー、避けてっ。こいつにはチャフが効かない!!――
「――っ!?」
狙撃を仕掛ける為に、木々の間から姿を出していたシュバルディアに向かって、二発のロケット弾が飛んで来る。
チャフが効かぬロケット弾に、咄嗟の回避行動が苦手なシュヴァルディアは、よたよたとした足取りで近くの木へと避ける。
すると、元居た地点の雪面が大きく爆ぜ、大量の雪と共に小さな氷塊が四方にばら撒かれる。
直撃は避けたものの、シュヴァルディアの機体にも飛礫となった氷がいくつも直撃する。
――損傷軽微、だけど右脚のスタビライザーに故障発生。使用は可能だけど、効果は大分落ちるわ――
ヘリの攻撃に備え、収納されていたスタビライザーだったが、爆発の副次効果によって損傷を負ってしまった。
「…………」
膠着していた戦況は、たった一機のヘリの参入によって流れが変わり、キース達は完全に砲弄されることとなった。
――マスター、機体の損傷率27%、センサーの損傷率は2%に留まりましたが、左脚を破損。ローラー走行が不能になりました――
敵ARPSは機動力を削ぐことを狙ったのか、執拗に脚部を狙われ、破損した膝の関節部分からは所々オイルが漏れ、白い装甲に黒い染みを作っている。
「くそっ、とは言え、今回は退けないぞ。リンデさんに支援して貰うか……」
通常であれば、一旦後方へと下がりたい所だが、今回ばかりはそうも言っていられない。キースは戦線を維持すべく、ディートリンデへと通信を入れ始めた。
――損傷率8%、こいつは思ったより頑丈な機体だな――
正面から無数の銃弾を浴びながらも大した損傷も無く、感心する様にGARPから損害報告がなされる。
今まで使用していたカグツチと比べると、半分以下となる損傷に、重装甲ARPSの性能をまざまざと見せられた。
「えへへ、良いでしょー」
まるで自分が褒められたが如く、エレノアは照れ笑いを浮かべる。
――しかし、ヘリをどうにかしないと、ジリ貧になるぞ――
搭乗者へと各機体の損害報告がなされる中、攻撃ヘリはこの戦闘の鍵を握る存在となった。
グレンは岩陰に潜みながらも、戦況を焦れる様に見つめていた。
標的となる攻撃ヘリは開始直後こそ姿を現したが、マリーアイゼン達の頭上を越えて行くと、大きく旋回をしながらグレンの潜む位置とは反対側へと舵を切り、戦域から離れて行った。
「ちっ、位置がばれたか……」
反対方向に舵を切っていれば、絶好の攻撃機会だっただけに、グレンの懸念も尤もである。
――いや、偶々でしょ――
グレンが潜んでいる場所は、戦場で対峙している双方の右側面となる森に少し入った、岩場が庇の様に張り出して上空からも視認し辛い所だ。真上に滞空するなら兎も角、サッと通り過ぎる位では見付けることが困難な場所である。
「それにしても、随分と慎重だな」
ヘリの通過で戦局は動き、戦場である広場には双方のARPSが飛び出し、戦闘が開始された。
しかし、そこにはヘリの姿は無く、戦端が開く切っ掛けを作って以降、戦域を離れた状態のままである。
――伏兵を警戒しているのか、はたまた何か作戦でもあるのか――
実際伏兵として潜んでいるグレンからすると、その行動の正しさが分かるだけに、敵の慎重な動きに対して苛立つ思いがある。
すると、気持ちが伝わったのか、ヘリの行動に動きが出た。
――グレン、来るよっ!!――
中央付近で睨み合っていたマリーアイゼン達に対して攻撃を仕掛ける様だ。
グレンはヘリの進路を見定めると、弾頭を装填した対ARPS砲を持ってケッテンクラートから飛び降り、森の中を駆け出した。
森の中は木々の間を多くの岩が占め、素早く移動するには生身での方が向いている。
ヘリは地上への攻撃の為か、かなり高度を下げて飛んでいる。森のすぐ上を滑る様に進み、ローターの生み出す衝撃を浴び、枝葉に降り積もった雪が煙の様に上空へと舞い上がっていた。
広場へと入って来たヘリはチェーンガンでスヴァローグ達二機を掃射すると、大きく旋回をして森に潜んでいるシュヴァルディアへとロケット弾を放ちながら、高度を上げていく。シュヴァルディアの居る位置を避け、大きく円を描く様に旋回すると広場から離れていった。
「くそっ、上手く狙えねえ……」
グレンはその間、頻りに場所を変えながらヘリを狙おうとするも、木や岩山などの障害物に妨げられ、上手く射線を得られずに攻撃が出来なかった。
流石にヘリは移動速度も速く、一度機会を失うと、次の機会を得るのは難しく、最初の遭遇では仕留められずに失敗した。
「思った以上に早いな……」
今回の伏兵によるヘリへの攻撃は、一度のチャンスしか無い。それも当然のことで、外せば存在が明るみとなり、敵も警戒して来る。
一度目のチャンスが失敗に終わったグレンは、すぐに咲耶へと連絡を入れた。
「咲耶、ヘリの進路を予測出来ないか?」
今回の攻撃が敵の基本方針通りならば、ヘリは一撃離脱を繰り返し行う可能性が高い。ならば、マリーアイゼン達の位置から逆算して、進路が予測出来るのではと考えたのだ。
――少し待っとくれ。あたしだけじゃ難しいから、アデリナにも頼んでみる――
AIユニット単体で存在する咲耶と、本職と言えるセンサー機としての機体を持つアデリナでは、解析能力に格段の差を持つ。そして、この場で重要となるのは性能差による予測精度では無く、分析スピードである。いかに優れた精度を持つ予測であっても、それに対応するだけの時間が得られなければ、何の意味も持たない。
暫く待っていると咲耶から声を掛けられた。
――お待たせ――
「おっ、出たか?」
グレンは広場で行われている戦闘から目を離すと、咲耶からの報告を聞く。
――一回しかデータが取れてないから、精度の方は怪しいけどね。狙うならロケット弾を放つ旋回時にしときな――
前回と同様の攻撃を仕掛けるなら、マリーアイゼン達の掃射後にシュヴァルディアへと攻撃を仕掛ける為の旋回時が一番速度が落ち、狙い目となる。
――狙う場所も見当を付けたから誘導するよ――
グレンは懐からコンパスを取り出すと咲耶の指示に従い、移動を開始した。
それと時を同じくして、一旦戦場を離脱していたヘリも動き出す。
成功して気を良くしたのか、前回と同じくマリーアイゼン達に対して側面を突く進路を取っている。
――グレン、ヘリが動いたよ。急いどくれ――
咲耶から報告がなされると、確認する暇も惜しむ様に走り続ける。
時折雪に足を取られながらも、木々を避け、岩場を越えて、駆けて行く。
指定された場所は周りを木々に囲まれた小さな岩場であった。人の肩程の高さの岩がいくつも転がっており、そのお陰でこの場所だけは上空が開けており、厚く垂れ込めた雲の隙間から所々覗く青空を眺めること出来る。
グレンは到着すると荒れた呼吸を整える間もなく、すぐにコンパスで方位の確認を行う。
――良いかい、ヘリは10時の方角から飛来してくるよ――
グレンは近場の岩場にコンパスを置くと、指示された方角の上空へとARPS砲を構えた。
この場所からだと視界を木々に遮られ、戦場の様子は確認することが出来ない。それでもローターの奏でる音が徐々に大きくなることで、近づいていることが分かる。
――グレン、旋回するよ!!――
身体に当たる風が強まり、視界の中を風圧によって飛ばされた雪が、雲の隙間から差す木漏れ日を浴びてキラキラと舞い踊っている。
すると、森の上空に突如ヘリの姿が現れた。ヘリはこちらへと側面を晒す様に、旋回をしながら徐々に高度を上げていく。
グレンはすぐさま照準を合わせると、ロケット弾を発射した。シュボッと言う気の抜けた音を残し、ヘリへと向かってロケット弾が飛んで行く。
旋回中のヘリは至近距離から発射されたロケット弾に、咄嗟の回避行動も取れず被弾した。
機体中央を狙い放ったが着弾地点は僅かにずれて、テールブームとの付け根付近に当たった様だ。
「あっぶねー」
旋回中とは言え、今までの敵とは比較にならない速度が出ており、危うく狙いを外す所であった。
――初めてにしては、良くやったんでないかい――
被弾したヘリは機体から炎を上げ、黒煙を噴き出しながら、ふらふらと高度を下げて視界から消え去った。
その僅か数秒後、遠くから大きな爆発音と共に上空へと黒煙が立ち昇り、ヘリが墜落した。
「ふう、これで一応役目は果たせたな」
――お疲れ。アデリナ達には連絡を入れといたよ――
これで脅威となっていた攻撃ヘリは排除出来た。
「よしっ、ケッテンクラートを回収したら、もう一機狩りに行くぞ」
――はいよ。じゃあ、さっさと戻って来な――
グレンは弾頭を失ったARPS砲を担ぐと、咲耶の待つ場所へと駆け出した。
上空の敵を排除したことにより、制空権と言うアドバンテージは消え去った。
これからキース達の残敵への反撃が開始される。




