表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

第三十五話 牽制

10/7 誤字修正

 一行はシブサワ重工を後にし、次の候補機体の製造メーカーへと向かった。


 街の中心部から徐々に離れていくに連れ、近代的な建物は鳴りを潜め、石や煉瓦で組まれ、蔦に絡まれた古い年月を感じさせる建物が目に入る様になってくる。

 アイバンのナビに従い二十分程走ると、少し古めかしい建物が見えて来る。二十年程前に新築と呼ばれていただろうビルは、長年風雨に晒され続け、外壁の至る所に雨垂れの跡が黒くくすんでいる。敷地の広さや建物の大きさも先程のメーカーの半分程度。シブサワ重工が大手メーカーなら、ここは中小メーカーと言った所だろうか。

 その印象は建物の中に入っても変わらない。小さめのロビーには、入ってすぐ横にある来客用スペースに年季の入った革張りのソファーと硝子テーブル。あまりワックスの効いていないリノリウムの貼られた床を進むと、突き当りに既製品であろう小さな受付用のカウンターが置かれていた。

 一人ポツンと座っていた受付嬢に話をすると、すぐに案内担当の男性が現れた。

「お、お待たせしました」

 走って来たのだろうか。息荒く話す男性は、少しふっくらとした人の良さそうな印象を受ける。

「じゃあ、案内しますので、付いて来て下さい」

 先導する男性に、一行は付いて行く。

 入口から一端外へ出ると、建物を周り裏手へと進んで行く。

 建物の裏手に回ると、そこには三台のハンガーが並んで置かれ、それを囲う様に格納庫が建てられていた。その三台並んだ中央のハンガーに、今回の目的である機体が格納されていた。

「えー、こちらが御指名頂きました、マリーアイゼンになります」

 五人はカグツチの時と同じ様に、一斉に機体を見上げた。


 胴体や肩などは少しくすんだグリーン、二の腕や太腿はグレーの二色に塗り分けられた、重厚感溢れる機体が聳え立っていた。

 このマリーアイゼンは上位機種から登場した、格闘戦を想定して設計された機体である。

 頭部は他の機体よりも一回り小振りに作られ、半分程を胴体に喰い込ませた様な形状となっており、頭部に衝撃を受けた際にダメージが分散される構造となっている。

 但し、その構造上、首の可動範囲が120度に制限され、視野と言う面では中長距離での戦闘に難が生じてしまう設計となっている。

 胴体は丸みの帯びた厚い装甲に覆われており、機体の前後幅は前機のカグツチと比べると実に1.3倍にも及ぶ。肩の装甲も円形状で装飾や突起物も殆ど無く、戦闘時のショルダータックルの使用も考慮された作りになっている。

 脚の付け根をカバーする様に覆われた腰の装甲も、殆どの機体が採用している固定装甲を排除。稼働範囲の確保と軽量化の為に装甲板が採用され、脚と共に前後に揺り動く様になっている。又、装甲板は損傷を受けた際にも交換しやすい様に、ボルトオン方式で取り付けられている。

 前機のカグツチ壱型-Sタイプが軽量級なら、このマリーアイゼンは重量級ARPSと言えるであろう。


「ほう、全然方向性が違う機体だな」

 外観の印象から、グレンが呟くと

「実はそうでもないんですよ」

 横にいるビエコフから訂正が入った。

「そうなのか?」

 グレンは少し意外そうな声を上げるが、すぐに案内の男性から機体説明が始まった。

「こちらがうちで開発製造を手掛けました、マリーアイゼンになります。このマリーアイゼンは設計段階より格闘戦を取り入れた、今までに無い機体に仕上がっています。当機の特徴としましては、重装甲でありながら素早く動けると言う、格闘戦での理想を目指した機体となっております」

 男性の熱のこもった説明が続く中、早くもエレノアは一人あちこちと機体を覗き込んでいる。

「この重量と体格で速いのか」

 グレンの声を耳にして、男性はよくぞ聞いてくれたとばかりに、笑みを浮かべた顔を向けた。

「誤解の無い様に補足しますと、速さと言いましても最高速度が速い訳ではありません。近接戦闘で重要となる瞬発力に優れた設計になってます」

「ほう」

 グレンの肯く様子を見て、男性は更に話を続ける。

「ですが、一番の売りは何と言っても制動力です」

「制動力?」

 ビエコフは男性の言葉を思わず繰り返してしまう。事前にネットなどで色々と情報を集めていたが、その中に制動力と言う言葉は一つも含まれてはいなかった。

「ええ、そうです。近接戦闘、取り分け格闘戦ともなりますと、瞬発力と同等以上に制動力が重要と考えています」

「えーと、説明して貰っても?」

 今一腑に落ちないビエコフが更なる説明を促す。

「はい。格闘戦に於いて、殴る為に踏み込む時や咄嗟に避ける時など、制動力と言うのは意外と多くの場面に使用されてます。ですが、その割には速度を出す方にだけ目が向けられ、軽視されがちでもあります。当機の場合、速度を上げる以上に制動力の方にも力を入れており、この重量の機体ながらトップクラスの数値を誇っています」

 ビエコフは話を聞き終えると、一段と機体を見つめる目に熱が帯びて来る。

 その後も男性からの説明は続き、一通りの質疑も終えると、一旦メーカーを後にして検討をする為に場所を変える。




 一行は来る途中に見付けたレストランに入ると、昼食を取りながら、早速それぞれの印象などを話し始めた。

「俺ならマリーアイゼンだな。専用設計だけあって、色々と考えて作られている」

 まずはグレンが口火を切った。

「私はカグツチかな。確かに設計的には優れてるかも知れないけど、身体に染み付いた操作感はそう抜けないし。それに機体の信頼性なら明らかに上だと思うわ」

 ディートリンデは性能などの数値以外の面を重要視している。特に信頼性と言う点では、曲がりになりにもここまでエレノアに酷使されても、不具合一つ出さなかったカグツチは高い評価を得ている。

「自分の場合、見方が皆さんと違うのであれですが、弄ってみたいのはマリーアイゼンですね」

 ビエコフの興味は新機種と言うだけで、完全にマリーアイゼンへと向けられている。

「肝心のエレノアの意見はどうなんだ?」

 キースの言葉に、一同の視線はエレノアへと向けられた。

「えー、どっちも好きかなー。カグツチは相変わらずかっこいいし、マリーアイゼンのずんぐりしてるのもいいよねー」

 一同はそのエレノアらしい意見を聞き、溜息を漏らす。

 方向性が違う為、比較検討することが難しいと言う事もあって、その後も色々と話し合うが決め手に欠ける。

 結局は本人の選択に委ねると言う結論に落ち着き、四人の注目を浴びる中、エレノアが答えを出した。

「じゃあねー、カグツチは一度乗ったから、今度はマリーアイゼンにする!!」

 キース達の初となる上位機種のARPSは、格闘特化機であるマリーアイゼンに決まった。


 エレノアの決定を受け、一行は一路メーカーへと舞い戻る。

 再び顔を合わせることになった男性は、エレノアの機体購入の話を受け、殊の外喜んでくれた。曰く、性能には絶対の自信があるのだが、需要が少ないらしく、出荷台数の方が伸び悩んでいるらしい。

 その後は手続きと共にBP(バックパック)を選ぶ。BPも上位機種の解禁と共に、幾つか新しい種類が登場している。

 一般的なBPは殆どのメーカーで受領が可能となるが、新しく登場した一部のものは指定された製造メーカーでないと購入が出来ない。

 そんな中、エレノアは今まで使用して来たターボパックでは無く、SC(スーパーチャージャー)パックを選択した。

 ターボパックは機体出力を上げることで、走行速度を含めた性能を向上させている。対してSCパックは出力自体に変化は無い。その代わり、機体の瞬発力が向上される仕組みになっている。

 これは事前にキースやビエコフと相談した時、もしマリーアイゼンを選ぶようならば、機体特性を活かす為にもSCパックを選択するべきだと言う、助言を元に購入を決めていた。

「このC-20型でよろしくー」

 エレノアが選んだC-20型は、装着することで機体の加速力が20%上昇する。

「分かりました。冬季装備の装着も含め、用意に時間が掛かりますので、ロビーの方で暫くお待ち下さい」

 その後、ロビーのソファーに座り、暫し雑談に興じていると声を掛けられる。

 エレノアは一人ハンガーへと赴き、代金を支払うと機体を受け取った。


 エレノアは操縦席に座ると真新しい機体特有の匂いに包まれながら、どこか居心地の悪さを感じて、もぞもぞと何度も座り直している。

 機種が変わったことで、今まで見慣れた光景から一変、モニターに映るセンサーや機体情報などの配置や内容が様変わりして、違和感を覚える。また、瞬時に状況を把握出来ないことで安心感を得られず、どうにも落ち着けないのだ。

 エレノアは暫くもぞもぞと動いていたが、諦めた様に大きく溜息をつくと、大事にしまっていたAIカードを胸のポケットから取り出した。

 いつも口煩いGARP(ガープ)だが、たった数日とは言え、その声を聞けなくなると少し物寂しく感じる。

 一度両手に挟み、祈る様に握りしめると、丁寧にカードホルダーへと差し込んだ。

 未だ慣れない視界の中、各種設定がなされ、AIシステムが起動する。

――ん、また随分と思い切った機体を選んだもんだな――

 エレノアが固唾を呑む中、GARP(ガープ)の第一声は依然と変わらぬ、どこか皮肉めいたものだった。

「なによー、折角の新しい機体なのにー」

 文句を言いつつも、エレノアは自然とにやける顔を抑えながら、久しぶりのGARP(ガープ)とのやり取りを楽しんでいた。


 その後、マリーアイゼンを無事アイバンへと収納すると、今度は武器の購入に向かった。

 装着していたナックルは無傷で回収出来たが、パイルバンカーの付いた盾は残念ながら破損状況が酷く、機体と同様に廃棄処分となってしまった。

 武器屋に到着すると、エレノアは数多く展示された多種多様な武器を見向きもせずに、ある一角へと脇目も振らずに進んで行く。

 後を付いて行く男性陣は、途中にある様々な物に目移りをして、あっという間に置いて行かれた。

「おっ、これ良さそうだな」

「こっちに換えると弾数は同じでも、威力が上がる。もう少し出力に余裕さえあれば……」

「おお、バズーカだ!!」

「グレンいつまで見てるのっ。キース君達も先に行くわよ」

 ディートリンデの声に、三人は慌てた様に後を追う。

 先行していたエレノアは最初から決めていた様で、一人パイルバンカーがいくつも陳列されている棚の前に立っていた。

 エレノアは一切の迷いも見せず、パイルバンカーの装着された以前よりも大振りな盾を購入した。


 ようやく全ての装備を整え終える頃には日も暮れ始め、新たに購入した機体を冬季仕様へと塗り替えが終わると整備場に機体を預け、休憩を入れる為に一旦ログアウトをした。

 翌日は朝一からギルドへと赴き、次の目的地である『ミーヌフクス』行きの依頼を探し始める。

 流石に首都行きとあってか、数多くの配送依頼が見受けられる。

 キース達はその中から慎重に吟味をし、出来る限りリスクの少なそうなものを選んだ。

 この先は初めて足を踏み入れる場所である。この街から更に北へと進む為、積雪量も増えるだろう。つい最近戦死者を出していることもあり、幾分慎重過ぎてしまうのも仕方が無いと言える。

 受注手続きを済ませ、荷物を受け取り、食材などの補給を済ませると北に位置する街の境界広場へと向かう。

「じゃあ、先に行くねー」

 エレノアはマリーアイゼンをコンテナより降ろすと、アイバンを先行する形で街道を走り出した。

 受け取ったばかりの機体に早く慣れる為にと、毎日数時間の自走を志願したのだ。


 街を出ると目の前には雪深い景色が広がる。レニンスキより北に位置するマクノーシ・スラビシュ近郊は積雪量も多く、3m近くに達する場所も観測されている。

 一行は街道を北に進むと、すぐに左右への分岐地点が見えて来る。雪に埋もれた目印となる石柱碑は、それでも頭の部分を2m近く覗かせ、街道を通る人達に行き先を示している。

 首都となるミーヌフクスはここ左に曲がり、北西に三日ほど向かった所にあり、逆の右へ曲がると二日程でカルチェフと言う街に繋がっている。

「エレノア、この先を左だからな」

 キースは目の前を自走するエレノアへと声を掛ける。

「りょーかーい」

 エレノアの返事と共に、マリーアイゼンが加速していく。

 そのずんぐりとした重量感のある見た目とは裏腹に、鋭い加速をさせ、俊敏さを窺わせる動きを見せる。

 現在走っている所は街道とは名ばかりの場所である。雪が降る前は、それなりに整備された道だったかもしれない。しかし今は幹が埋もれ、枝先が手に取れそうになった木々に左右を挟まれた中、障害物が少ない空間を通行者の跡を示す様に、踏み締められた雪の上に薄らと轍がいくつも残され、街道をなしている。

 街道となる部分は周囲に降り積もった雪に比べて1m程低く、雪質もアイスバーン気味となっており、その道を削る様に、マリーアイゼンはスキーモービルから氷片を撒き散らしながら進んでいる。

――まだ慣らしだからな。出力も60%までで制限を掛けるぞ――

「えー、このけちんぼめー」

 GARP(ガープ)の気遣いも、エレノアに掛かれば形無しである。

 エレノアは口で文句を言いながら、モニターから視線を外さず、各種計器の配置と内容や警告を身体に覚え込ませている。

 ARPSの操縦者は戦闘中、各種計器類をじっくり見ている様な時間と余裕は一切無い。機体状況の把握を補助する為にAIが搭載され、音声によるやり取りを可能としているのだ。しかし、だからと言って全てをAIに頼っているだけではない。モニター上の各種計器は、色やアイコンと言ったもので視覚的に状況を逐一訴えている。初心者を卒業したプレイヤーともなると、視界の片隅に映る、それらの合図を瞬時に把握して動かしているのだ。

 これは何も特別な才能ではなく、誰でもが普段何気なくこなしていたりするものだ。解りやすく例えるなら、時計が一瞬視界に映る。デジタル時計だと読み取れる人は極僅かだろうが、アナログ時計だと殆どの人が大まかにでも把握出来るだろう。やっている事は、これと何ら変わりはないことである。

 当然、これにはそれぞれの意味と配置を覚えなくては、読み取れても意味は無い。

 今回の様に違う機種の機体に乗り換えた際は、身体に染み付いた以前のものを上書きしなければならない。特に似た様な表示や音で、全く違う意味のものなどは要注意となる。

 エレノアは機体に様々な挙動をさせ、操縦の癖などを覚えつつ、計器の反応を一つずつ確認していく。

 急加速や急減速。右や左にGを掛ける。その内、段々と物足りなくなってきたのか、街道を突如逸れ、木々の中へと侵入した。

――おいっ、まだ慣らしなんだからな。あんまり無茶な行動は控えろよ――

 突然の暴走に、GARP(ガープ)の声からは焦りが滲んでいる。

「へーき、へーき」

 エレノアは楽しげに答えると、街道と沿う様に木々の中を進んで行く。

 街道を外れると途端に雪質も変化する。粉の様にさらさらとした雪の中を膝下まで埋もれ、掻き分けながら進んで行く。最初は目の前に現れる木々を大きく避けていたが、徐々にその間隔が狭まっていく。

「ふん、ふん、ふーん♪」

 エレノアは段々と操縦にも慣れ、機体が自分の手足と同化する様な感覚へと近付き、乗り始めの頃の大雑把な動きは、今は見られなくなって来た。

 すると、また機体の前に現れた木を、今度は肩が触れそうなギリギリの所を擦り抜けて行く。

――木まで47cmだ――

「むむむ……」

 傍目からはかなり際どい所を通り過ぎている様に見えるが、本人にとっては納得のいく結果ではない様だ。

――まだ初日だからな。しょうがないだろ――

「でもっ、カグツチでなら20cmを切れたのに!!」

 その鬱憤を晴らすかの様に加速させ、木々の間を抜けると、1m程下を走る街道へと飛び出した。

 機体中から雪を舞い散らせ、一瞬の滞空ののち、マリーアイゼンは街道へと着地した。

 衝撃を上手く吸収はしたものの、その勢いまでは殺せず、銀盤と化した路面の上で機体が暴れ出す。

 飛び込んだ勢いを殺せず、機体は右側へと倒れ込みそうになるも、咄嗟に出した脚に履いたスキーモービルのエッジを立て、強引に進路を左へと捻じ曲げる。すると、すぐ目の前に小高い雪に埋もれた木が現れ、今度は機体を強引に右へと倒し込み、エッジを効かせてターンする。

――慣らし中だと言っただろう――

「だってさー」

 エレノアは街道の幅を目一杯使いながら、機体の勢いを抑えていく。スキーモービルのエッジを効かせ、街道を激しく削りながらターンを繰り返し、速度を徐々に落としていく。

――全く、またビエコフ殿に迷惑を掛けてしまうな……――

 色々と無茶をした付けは、全てメンテナンスを行う者へと回る。

「どうせ慣らし中なんだから整備は行うし、ついでよ、ついで」

――はあ……――

 整備に立ち会うことになるGARP(ガープ)は、先を考えると気が重くなる。




 午前中一杯、慣らし運転に費やしたマリーアイゼンは、昼食を期にアイバンへと収納された。

 予報では今日は崩れないと言っていたが、空はどんよりと薄暗く、時折風が強く吹くことから車内で軽く済ます。

 それ程広くない車内での食事中の話題は、新しく購入したマリーアイゼンへと自然に及ぶ。

「お前まだ慣らし中だってのに、無茶な操縦をするなよ……」

 後部座席でモッツァレラチーズや野菜がふんだんに挟まれたパンを咥えているエレノアに対し、キースは苦言とも諦めとも取れそうな言葉を連ねる。

 手にしたスープで口にしたパンを急ぎ流し込むと、心外だと言わんばかりの反論が返って来た。

「あれは試走中の不可抗力よ。偶々なのっ」

「それで新しい機体はどう?」

 隣に座るディートリンデに聞かれると、エレノアは堰を切った様に喋り出す。

「それがねっ、太っちょなのに速いの!!」

「外から見てても、カグツチとそう変わらなそうだったわね」

「そうなのっ。それにね、ちょっと動かすとすぐに反応してくれるの。だから、操縦が凄く楽しい!!」

 手足を大きく動かし、実際に操縦している時のジェスチャーをして見せる。

「じゃあ、当たりだったわね」

「うん!!」

 満足そうな笑みを湛えるエレノアを見て、ディートリンデも微笑ましげな表情を浮かべる。


 食事を終えると、再び街道を北へと上がって行く。

 大森林地帯に沿う形で伸びている街道も、ミーヌフクスまでの間は大分距離も離れている為、マクノーシ・スラビシュに向かう時の様な厳重な警戒は必要無く、アデリナへの負担も大分軽く済んでいる。

 とは言え、完全に視界から消えている訳では無い。視線を向ければ所々に点在する木々の隙間から、遠くに一際鬱蒼と生い茂る広大な森を眺めることが出来る。

 反対となる街道の右側はと言うと、ちらほらと見える木々の傍に雪が降り積もった大きな岩が幾つも転がっており、視線を伸ばせば小高い岩山がいくつか目に入る。

 丁度この辺りは前後を大きな山脈に挟まれた地形で、ミーヌフクスはその山の麓に位置し、背にする様に築かれた街でもある。

 静まり返り、物音一つしない静寂な中を、スパイクピンの付いたタイヤで氷を踏みしめる音が、喧伝するかの様に派手に響き渡る。

 一行は順調に距離を伸ばしており、そろそろ午後の休憩を入れようとした時、それは現れた。

――Alert!! アデリナより報告。方位0-2-8、距離17.4kmに所属不明機感知――

 車内にアイバンの報告が伝わると、急停車したトレーラーからARPSの操縦者達が飛び出して行く。

 スリープ状態から起動させ、索敵をさせていたアデリナから敵の詳細情報が報告される。

――マスター、アンノウン判明。85式が四機。アサルトライフルにシールド装備が二機。マシンガンにロッド装備が一機。ショルダーミサイルガンポッド装備が一機。いずれもアイテムパックを所持。それと対ARPS攻撃用ヘリが一機。大型チェーンガンとロケット弾ランチャーが装備されています――

 キースは一瞬驚き、反応が遅れる。

「……武装ヘリだと」

 全員に判明した情報を伝えると、キース同様に驚きを見せる。

「えー、飛ぶなんてずるーい。殴れないじゃないっ」

「いや、間違ってはいないけど……」

 ビエコフが反応に困っているのを余所に、キース達三人は対策を練り始める。

「リンデさん、行けます?」

「うーん、どうかな。初めてだし、移動速度も見てみないと分からないわね」

 ディートリンデは申し訳なさそうな表情を見せる。

 遠距離からの狙撃を得意としているディートリンデだが、距離を詰められ、素早く動き回る敵を相手にするには相性が良くない。

「じゃあ、俺が相手するしかないな」

 その様子を見たグレンが、自ら名乗りを上げた。

 現状滞空するヘリに対して攻撃が可能なのは、飛び道具を装備するこの三人しかいない。しかし、キースは敵ARPSと相対せねばならず、図らずもグレン自身が言った様に、担当する人物が否応無く決まってしまった。

 ざっと打ち合わせを済ませると、早速迎撃準備に取り掛かる。




 迎撃地として選んだ場所は細長い広場の様な雪原の周りを、ARPSの背ほどある岩がごろごろと転がり、その間を小さな雑木林が埋めている地形だ。

 まず敵よりも先んじて到着した一行が最初に行うのは、周辺地形の確認である。

 迎撃地点は事前にセンサーによって、ある程度の地形情報を精査したのちに選ばれている。しかし現実でも同じだが、地図で分かる情報と実際に目で確かめたものでは、その内容に誤差の範疇を超えるものが往々として起こり得る。

 例えば5m程の崖が地図上あるとする。地図の情報を元にするならば機体と同等の高さの段差に、昇り降りすることは難しいと考える。ところが実際に現場を確認すると、上から崩落した石や岩が溜まって傾斜をなしており、十分に行き交うことが可能となっていたなども多分にあり得るのだ。

 特に今は3mを越す様な積雪で一面覆われており、どこにどの様な影響を与えているのか、自分が戦場とする場所を各自が可能な限り、その目で確かめている。

 雪で埋もれた岩は遮蔽に使用しても、頭部など機体の全身をしっかりと隠すことは出来るのか。雪の中に空洞が出来ていて、うっかり機体が嵌る様な場所は存在するのか。傾斜をなしている場所の雪質は、今回の戦闘によって雪崩を引き起こす可能性はあるのかなど、事前に考察された項目を各自散開して一つずつ確認をしていく。

 確認が一通り済むと、今度はグレンがトラップの設置に入る。

 毎回事前に大まかな戦闘プランを練ると同時に、どの様にトラップを利用するのかも検討している。ソロの時は複数の敵を同時に相手にすることから、時間の許す限りあちこちに仕掛けていた。だがキース達のチームに加入以降、戦闘車両など支援機の排除や戦闘を有利に進める為の援助と言った役割へと、自然に変化している。


 今回のトラップの仕掛けは、こちらより敵の機体数が多いので複数との戦闘を避ける為、損傷による足止めを狙うのが目的となる。

 グレンは指向性地雷を木の根元に設置していた。

「ふう、これでやっと一個か……」

 この辺りの雪は粗目の様な氷の粒が集まり、かっちりと固まり締まっているので、ARPSなどは踏み込んでも埋もれることは無い。ただその分トラップの設置には向かず、グレンは素手では掘れない為、シャベルを使用して仕掛けていた。

「結構時間が掛かったな。これだと、後二個いけるか微妙だな」

――でも今回は後三個、出来れば四個は仕掛けたい所だね――

「そう言うがな――」

――待った、……グレンっ、そこの岩陰に隠れて!!――

 グレンは突然焦った声を出す咲耶に一瞬驚くも、すぐに近くの岩陰へと身を潜ませる。自身の二倍はあろう大きさの岩陰に隠れると、グレンは咲耶に状況の説明を促した。

――アデリナから警告が入った。ヘリが単独でこちらへと向かって来てるって――

 その内容を聞き、グレンは舌打ちをしたくなるのを抑える。幸い、トラップを仕掛ける為に、ケッテンクラートは少し離れた木の下に停めており、上空からだと視認し辛い位置になっている。

「やっぱりレニンスキから離れると、そうなるか……」

 どうやら戦闘の難易度が一段上がった様だ。

 暫くすると、パタパタと鳥が羽ばたく様な独特のローター音が聞こえて来る。

 グレンは背負っていたバックパックの中から双眼鏡を取り出すと、音がする方へと向けた。

 現在居る位置からでも、所々上空を見通せる隙間が開いており、微かには灰色の雲を覗き見ることが出来る。

 徐々に音が大きくなるに連れ、枝に積もった雪を払い落す強風と共に、頭上を影が通り過ぎて行った。

 すぐにグレンは岩陰から飛び出すと、後を追う様に駆けて行く。

――見付かっちまうよ!!――

「生身で動いているんだ。そう簡単にばれはしねーよ」

 雑木林の端にまで来ると、双眼鏡を使用せずともすぐにヘリは見付かった。

 雪原を挟んだ向かいにある林の上空を、旋回しているのが見える。

「ちっ、誰か狙われているな!!」

 視界に映るヘリからは、時折ローター音を掻き消す様にチェーンガンのモーター音が響き渡る。

――狙われているのは、ディートリンデみたいだよ――

 その報告を受け、グレンは僅かに安堵する。相手がディートリンデならば、万が一の事態は避けれるであろう。その程度の信頼は、互いに芽生えるだけの経験を多くのゲームで積んで来ている。

 すると、林の中から一発の銃声が木霊した。

 銃弾は当たらなかった様でヘリは依然と上空を飛んでいるが、突如旋回を始めると、来た方角へ去っていった。

「どうやら牽制が効いた様だな」

 元々攻撃を仕掛けると言うよりも、偵察が目的だったのであろう。ならば、事前に敵の配置が分かった時点で目的は果たし、後は無事に帰還をすることに重点が置かれる。

――でもこれで、トラップを仕掛ける余裕は無くなったよ――

 図らずも今回の偵察によって、キース達の作戦の一部を壊すことに成功したのだ。

「ちょっと拙いな……」

 作戦の立て直しを迫られたグレンは、若干焦燥を感じる。


 刻一刻と敵が迫って来る中、一行に残された時間は極僅かである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ