第三話 集結
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シュネイック共和国の開始地点は中央に噴水がある広い公園の様な場所だった。
噴水の周りにはいくつものベンチが並んでおり、その外の通りに面した場所には飲食店であろう屋台がいくつも出ている。取り敢えずはまず座る場所を確保して、探すのは後廻しにしようと空いているベンチへと腰掛ける。
最初からどっと疲れを感じるスタートになった訳だが、それはキースだけではないらしい。
「見渡す限り、半々って感じか」
平然と移動する人がいる傍ら、近くのベンチやら噴水の淵に何人もが腰を掛け休んでいる。
「未沙は最後だとしても、健はそろそろ着いていてもおかしくないな」
そんなことを呟きながら、未だぽつぽつと登場する新規プレーヤーと広場にいるプレイヤーを見ていく。
「髪型や色を変えたら、そう簡単には見つからないんじゃないのか」
そのセリフを聞きつけたのか、ちょうどそのタイミングでそれらしい新規プレーヤーが現れる。横からしか見えていないが180cmもある身長。鍛えていそうな肩幅のある体格。ここ十年近く変わっていない短髪の髪型が、なぜか赤いが恐らく間違いないだろうと当たりを付け声を掛けに席を立つ。
「健?」
「国光さん?」
どうやら当たりだった様で、彼はどうやら殆ど変更していないらしい。
「全然変えてないんだな」
「いやー、色々と弄ったんですけど何か違和感が拭えなくて。それで髪と目の色だけ変えて済ませました。国光さんは髪型も変っていますね」
「操縦するのに長いと邪魔かと思って短くしてみた。後は和名が無かったんで、髪と目の色も名前に合わせて弄った感じかな」
「あー、その辺はVRってどうなんでしょ。やっぱり目に髪が入ってとかあるんでしょうかね」
「まあ、その辺は未体験だから一応気にしただけだな。それより、フレンド登録を済ませようか」
「はい。じゃあ申請するんで名前教えてください」
「俺はキースにした」
「あー、これですね。自分はビエコフにしました」
届いた申請書にもちゃんとビエコフと明記されている。
「お前、その見た目でビエコフって似合い過ぎ」
「国光さんも、もう少し目を細めればキースって感じがしますよ」
指摘を受けたキースの外見は、ビエコフよりも10cm程度低い身長に標準よりやや細めの身体つき。髪も短くしたといっても彼の様な極端な短髪ではなく、あくまで現実より短いだけで長さ的には普通といって良い範疇だ。そして名前に合わせたといっていた色は、髪は金髪で目は茶色だ。
その後もお互いの事を笑い合いながら、いかに名前との親和性があるかを指摘しつつ最後の一人を待つ。
しばらくお互いを弄り合っていたら、背後から突然声を掛けられた。
「まったく、大声で笑い合っているのはどこの誰かと思えば身内だったとは……」
振りかえるとそこには、鴉の濡羽色をした腰程の長さにもなる髪の少女が立っていた。キースよりも身長が低いため、見上げる形になった勝気な黒い瞳。スレンダーと呼べる細身の身体と釣り合いの取れたやや小ぶりな胸。そしてその分を使用してるのではと、疑いたくなる程のエネルギーを体外に発散してるのは、間違いなく自分の知る未沙だった。
「未沙は黒髪にしたのか」
「そうよ。普段は染めているから逆に良いでしょ」
「姉ちゃん、操縦する時髪邪魔にならないか」
「それも確認したから大丈夫。ちゃんと髪を止めることは出来るみたいよ。それよりちゃんとキャラ名で呼んでよね。『エレノア』って名前にしたんだから」
ここで互いのフレンド登録を済ませてしまう。その後、行動予定を相談しようとするも衝撃を受けたオープニングムービーにどうしても話題がずれていく。
「私が見たのは奥にジャングルがある広い湿地帯で、四つ脚のロボットがいっぱいいた。そしたら前からずんぐりした太っちょのが現れて集団戦になったよ」
「へー、それはラサーラ対ニュートリアスっぽいな」
「なんかどっちもかっこ良くなかった。四つ脚の方は両手が銃になっていたし、それに雨も降ってくるし……」
「多脚もかっこいいけどなあ。自分が見たのは深夜の襲撃戦でした。基地みたいな所の警備している機体を山の中から狙撃してましたね。」
「みんな見事に違うもんだな。俺のは都市への襲撃戦だったよ。衝突地に落とされるとは思わなかったけど……」
「えー、特等席じゃん。制作側のサービスよ、サービス」
話題が尽きること無く話し続けるエレノアを何とか宥め、各自の役割決めとそのスキルを修得していく。それでも物足りないのか、エレノアは全種類制覇すると意気込んでいたが。
「じゃあ打ち合わせ通りに、エレノアが格闘でビエコフが専任メカニックでいいんだな」
「もちろんよ。これで性別や体格差に関係無くぶん殴ってやれるわ」
「自分もパイロット兼任の方が序盤はやれることが多いけど、元々弄ることが目的で始める訳ですし。それにチーム制限に戦闘員以外で二名の非戦闘員枠があるのは、バックアップ職に何かあると思うんですよ。それなら専任にして、早くスキルを上げた方がいいかなと」
「本人が納得しているんなら俺は構わないよ。好きなことをしないと続けても楽しくないしな」
「そういうキースだって、センサー系なんて地味で人気が無さそうなの選んでるくせに」
「まあそうだな。俺もビエコフと一緒でβの情報を見て、ひょっとしたらっていう希望込みの選択だから」
各自の役割が決まったので、それに合うスキルを選んでいく。スキルはセット可能なものが七個、サブが五個の計十二個まで修得出来る。開始時は七個までしか修得できるポイントが無いが、キャラの成長によってポイントが得られ修得が可能となっていく。スキルによってはLvが上がることにより新たなスキルの解禁や上位スキルへの変更などに派生するらしく、キースやビエコフはそれに期待していたりする。また、鋼鉄の新世界は職業として特定の役割は存在しない。個々の能力に応じてその役割が決まるので、その能力に直結するスキル選択はかなり重要と言える。ただスキル自体は後からでも修得や変更が可能なので、あまり神経質にならなくても開始時点では大丈夫である。
ここで各自が修得したスキルを紹介する。
まずはキースから。探索にボーナスが付き、長距離探索が可能となる【スキャン】、詳細分析が可能となる【解析】、スキャンを妨害できる【ジャミング】、ミサイルを回避出来る【チャフ】、銃撃による攻撃に判定が付く【マシンガン】、ローラーダッシュが可能となる【ダッシュ】、高低差のある移動にボーナスが付く【ムーブ】の計七個。
次にエレノア。打撃による攻撃に判定が付く【パンチ】と【ショルダーチャージ】、相手を転倒させる事が出来る【タックル】、衝撃時の機体制御にボーナスが付く【バランス】、機体による撹乱判定にボーナスが付く【フェイント】、それに【ダッシュ】と【ムーブ】の計七個。
最後はビエコフ。破損修理が可能となる【補修】、部品のアレンジが可能となる【改修】、部品の情報や耐久が解る【目利き】、プレイヤーの負傷手当にボーナスが付く【応急処置】、売買時に効果が付く【交渉】、車両が操縦可能となる【運転】、整備機械を動かすための【重機】の計七個。
この後はゲームの主役である、待望の各自の機体を受け取るべく移動を開始する。