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第二十八話 吹雪

8/12 誤字修正

 キース達は吹雪を求めて二日程逗留するが、一向にその気配すら感じない為、一旦街へと帰ることにした。

 新装備の試行も済ませ、レニンスキへと戻って来た一行は、それぞれが今回判明した様々な問題点の対処の為に奔走した。

 それらの対策も済ませると、早速依頼をこなす為にギルドへと足を向ける。しかしそこには、これまでとは異なる依頼内容に驚かされることとなる。

「なんだこれ!?」

「バグか?」

「ねーねー、私達ついてる?」

 戸惑うキース達同様、ギルド内に居るいくつかのグループからはどよめきが上がり、ひそひそとした話声と共に足早に受付へと向かう姿も見受けられる。

「ねー、私達も早く行かないと良いのが無くなっちゃうよー」

「ちょっと待て」

 焦りを見せるエレノアを押し留めると、キースはグレン達他のメンバーと相談を始める。

 キース自身も一瞬黙って受注することも考慮したが、すぐにその考えを捨てた。バグにしろ何にしろ下手なリスクを背負うと、このゲームではあっという間に詰んでしまう。

 結局話し合いでは結論は出ず、分からないことは素直に聞こうと、一人納得いかない様子のエレノアを引き連れて受付へと向かう。そこで一行は、受付に入るギルド職員から、この不可解な現象に付いての説明を受ける。


 冬に入り、街道を雪で閉ざされて以降、シュネイックでは依頼内容に変化が生じていた。

 開始当初の頃と比べ、配達や運送系の成功報酬が大幅に上がったのだ。中には二倍を超える報酬の依頼もある。但し、討伐依頼に関しては以前と変わりない様だ。

 バグなどでは無い以上、これには勿論相応の理由が存在する。

 降雪前と比べ、配送期日に対する難易度が跳ね上がった所為によるものだ。

 説明をするまでも無く、配送系依頼は期日までに届けないと失敗となる。以前にも触れたが、配送系依頼は完了期間に対して予備日が設けられているものもあり、距離に応じてその日数が定められている。三日以上の距離に対しては予備日を一日貰え、それ以下の依頼には予備日は発生しない。これは季節が変われど変更は無い。

 ところが冬季の場合、吹雪などの天候の悪化により、一日や二日の行程の停滞など極当たり前に起こり得る。

 天候を先読みしようにも、現実では極当たり前に存在する長期予報は実装されておらず、翌日の天候が分かるだけとなっている。

 そのことから距離に関係無く、常に高いリスクが発生するのだ。

 ならば、雪解けとなる春まで避けようとしたい所だが、そうも言っていられない状況がプレイヤー側には存在する。

 普段何気なく手にしているアイテムや物資などのストックは、NPCが行っている物流の量によって定められている。

 今まで特に困ること無く過ごせていたのは、この物流が円滑に流れていたお陰である。それが途切れることになれば、街ごとにストック量のばらつきが生まれ、価格の高騰を招き、更には商品の枯渇にまで至る可能性も十分にある。

 つまり、自分達の為にもリスクを承知でこなすしかないのだ。普段気にせずこなしていた依頼に、ここまで重要な意味が含まれているとは、この時まで誰も知らなかったのである。

 因みにこれは三ヵ国共通の仕様であり、他の国では季節で変化する訳では無く、砂嵐やスコールなどの災害時に於いて、同様のことが発生する仕様となっている。


 その説明を聞いた一行は、話の内容から驚愕の表情を浮かべる。

「……リンデさんは、ラサーラの時に受けたことってありますか?」

 キースの言葉に、全員の視線がディートリンデへと注がれる。

「一度だけね。うちのチームはクエストをメインにしていたから」

「一度ってことは、あんまり旨みが無いのか」

 グレンの指摘を受け、気まずそうな表情を浮かべる。

「正直に言えば、そうね。ラサーラの場合、丸々一つの季節の間適応される訳では無かったから、リスクの方が際立って見えてたわね」

 その消極的な態度から、一同は押し黙ってしまう。その沈黙は躊躇いを呼び、段々と全員の意識を厄介事から避けようとする方へと傾ける。

 そんな沈滞する空気を押し破る声が上がる。

「でもさー、受けないとみんな困るんでしょ。だったら、頑張ろーよ」

 全員が逃げ腰な態度の中、能天気とも思えるポジティブな思考のエレノアに見つめられ、一同はハッと気付かされる。

 今回の事態は特別なことでは無い。この先も毎年付き合わねばならないことなのだ。ならば、逃げるのではなく、共存する道を模索した方がずっと建設的であり、楽しい筈なのだ。

「そうだな。依頼内容を厳選すれば、何とかなるだろ」

「資金も回収しないといけませんし、一冬MOB狩りに費やすのも暇を持て余しますからね」

「じゃー、みんなで頑張ろー」

 一人テンションの高いエレノアを中心に、一同は依頼内容を再度検討し始めた。

 まずは今まで訪れた街の範囲に絞り、天候情報を集めながら、報酬に欲をかかず慎重に依頼を選別していく。

「最初はペトロヴェートなんかどうですか。予備日が貰えるので、リスクが少ないと思いますが」

 キースは窺う様にメンバーへ視線を向けると、一人盛んに頷いているエレノアの横で、グレンが口元に手をやり難しそうな顔をしている。

「グレン、何かあるの?」

 ディートリンデが話を振ると、考えをまとめる様にゆっくりを口を開いた。

「予備日があってもペトロヴェートは止めた方が良い」

「何でですか?」

 キースが不思議そうに尋ねる。今まで訪れたことがあり、予備日が貰える街は三日程掛かるペトロヴェートと、三日半掛かるマクノーシ・スラビシュの二ヵ所しかない。例え半日とは言え、リスクは少ないに越したことは無い。

「ペトロヴェートに向かうと、その先の選択肢が無くなるからだ」

 ペトロヴェートの先にある街は、東に向かう『セルドフヴヌィ』と南西に下りる『ラードゥジュイ』の二つ。両方共に道程は二日半程だが、どちらもまだ訪れたことの無い街だ。

「地形も知らず、敵の強さも分からず、更には国境にも近い。流石にそこまでのリスクを掛けて、今行く街では無いだろう」

「二日半だと難易度が変に高いのに、予備日が出ませんしね」

 追従する様にビエコフからも意見が入る。

「そうなると戻るしかない訳だが、天候次第ではそれさえかなりのリスクが発生する」

「なるほど。キレンスクロフとマクノーシ・スラビシュのどちらかに向かうってことですね」

 ここレニンスキを基点に、キレンスクロフとマクノーシ・スラビシュの三ヵ所は、全て街道によって繋がっている。その為、どの街に移動しようと常に二ヵ所の選択肢が生まれる。

「そうだ。これなら天候次第で行き先を変えることも出来て、多少とは言えリスクも減るだろう」

「だったら、キレンスクロフに行きませんか? グレンさんとディートリンデさんは、まだ武器のアンロックを受けていないですよね」

 ビエコフの提案に、当の二人はすっかりと忘れていたらしく、指摘を受けて思い出したのか、少し恥ずかしそうにしている。

「じゃあ、まずはキレンスクロフに行くってことで」

「おー!!」

 一行は報酬がそれ程高くない、物量の少ない依頼を選ぶと受付へと向かった。




 配達物を受け取り、食材などの補給を済ませると、東へと進路を取りキレンスクロフへと進んで行く。

 初依頼以降、何度となく通っている街道の筈だが、一面を雪に覆われた景色は記憶にある印象とは異なり、見飽きてたキース達三人に新鮮さを与える。

 二日程の道程は途中何度か襲撃に遭うが、そこは勝手知ったる何とやら。クエスト騒動以前には散々経験して来たこともあり、特に問題も起こらず撃退した。

 この二日間は特に天候も荒れること無く、無事にキレンスクロフへと到着することが出来た。

 高層な建物が無く、工場が多く立ち並んでいる街並みは、すっかりと雪に覆われたことで通りも閑散としており、以前より寂れた雰囲気をさせていた。

 到着した一行は配達物を届けると、まずはアンロックを済ませるべく、街の中心部から大分外れた一件の武器屋へと向かった。

「これでもう大丈夫だな」

「あのねー、お店に入ると、ヒュンって変わるんだよー」

「へえ、そうなの。それは楽しみね」

 無事に目的を果たした一行はギルドへと向かい、終了手続きと共に次の行き先の検討に入る。

「天候の方はどうだ?」

「明日の予報は両方共に曇りですね。ただレニンスキの方は、徐々に崩れて来ている様です」

 公開されている天候情報は、街を基準としたものだけとなる。なので、途中の街道の天候は、向かう先の街の天候などを参考にして各自が推測するしかない。当然、街の天候が晴れていても、その間の街道が大雨なんて場合も起こり得る。こればっかりは、様々な経験を積んで推測精度を上げるほかない。

「過去の天気を見ると、ここ三日間マクノーシ・スラビシュでは雪が降ってません。レニンスキの方は一週間前は晴れてましたが、ここ三、四日は降ったり止んだりですね」

 天候情報は現在の状況と明日の予報以外にも、過去一週間の天気が公開されている。

「でも冬に入ってから移り変わりが激しくて、あまり参考になりませんよね」

 ビエコフが少し呆れた様な声を出す。実際、雪が降り出すのは突然と言った感じが多く、いくら予報が曇りでも信用は置けない。

「こればっかりは経験だろうからな。取り敢えずは予報で天気が崩れて無ければ、良しとしないとな」

 グレン自身も目安にはしても、当てにはしていない様子だ。

「じゃーさー、マクノーシ・スラビシュに行くの?」

「良いんじゃないかな。グレンさんどうです?」

「ああ、良いんじゃないか」

「やったー、山見れるね!!」

 全身で喜びを露わすエレノアを宥めながら、一行はマクノーシ・スラビシュへの依頼を受けると補給を済ませ、一路北へと進路を取った。




 ここキレンスクロフの街の北には、大きな山脈が東から長く伸びて来ており、その終点となる西端が丁度位置する。

 街道は一旦北へ向かうと、すぐに山脈を迂回する様に西へとぐるっと回り込む。

 街からも眺め見ることが出来る程大きな山々だが、それは近づくに連れ、徐々にその壮大さを目の当たりにする。

「おっきーねー」

「そうね。山頂も隠れているのね」

 エレノアとディートリンデの二人は窓に並ぶ様に座り、雄大な山脈を眺めている。

 薄らと雲が広がる空に、まるで突き刺すかの様に聳え立つ山は、その山頂部分が雲の上へと消えている。

 雲の下の山肌は真白く染められ、一部雪崩の痕であろう雪が剥がれ落ちた場所も見えており、跡を辿ると下の方にはポツポツと緑の点が浮かんでいる。その姿に目を凝らすと、それが雪で薙ぎ倒された木々の成れの果てだと分かる。

「これは注意しないと拙いな。近くに寄った時に雪崩が発生したら、一溜まりも無いぞ」

「ですが、戦闘となればかなりの音が発生しますし……」

 襲撃に遭えば、いくらこちらが自重しようとしても、敵側はお構い無しに放って来るだろう。


 その後も一行は、絶えず眼前に聳える山の話をしながら進んで行く。

 結局、初日は襲撃遭うことも無く、無事に過ごした。


 二日目を迎えると、何とか持ちこたえていた天候も耐えきれなかった様だ。早朝から空は黒く濁った雲が立ち込めて、大量の雪が降り頻っている。

「ちょっと嫌な感じですね」

「そうね」

 アイバンの脇に立つキースとディートリンデは、互いに深々と雪が落ちて来る空を眺めながら、この先の行程を憂える。マクノーシ・スラビシュへの道程は二日の為、予備日は存在せず、日付が変わる前までに届けなければ失敗となってしまう。

 朝食を手早く済ませ、出発した一行は、降り頻る雪で視界が悪い中、出来得る限り速度を上げて街道を進んで行く。

「あんまり無茶をするなよ」

「分かってます。ですが、日暮れ前に到着しないと視界が効かなくなりますから」

 キースの心配する声を余所に、ビエコフはかなりの焦りを感じていた。

 日が落ちれば当然視界を確保する為に、ヘッドライトを点灯させる。ところが、雪が多く降っている状況では、光を雪が反射させてしまい、逆に視界が効かない状況を作り出してしまう。現実世界では余程の田舎に行かない限り、道には街灯が点っており、ヘッドライトを消して走行することもどうにか可能となるが、この世界の街道には街灯なんてものは存在しない。

 徐々に雪の量が増えると共に、風も吹き始めて来た。段々と吹雪の様相を見せる中、一行は少しでも前をと急ぎ街道を突き進む。

 時刻が昼を迎える頃には、外は完全に吹雪と言える状況となった。

「ねー、だいじょーぶ?」

 少し不安そうな表情を浮かべるエレノアに対し、誰もが押し黙り、一行を取り巻く状況の悪さを表している。

 そんな中、追い打ちを掛けるかの様に、静まり返った車内に警告音が鳴り響く。

――Alert!! アデリナより報告。方位2-6-0、距離10.4kmに所属不明機感知――

 一同は吹雪に加え、追い打ちを掛ける襲撃に苦々しい表情を浮かべる。

「なんでそんなに近くに来るまで、敵の接近に気付けなかったんだ……」

 この悪天候の状況下に於いては、出来れば戦闘を回避したい所だ。しかし、ここまで敵の接近を許すとこちらも移動速度を出せない以上、逃げ切ることは非常に困難となる。

 呆然とするキースに対し、アイバンから説明が入る。

――どうやら、吹雪の所為で索敵範囲が大分縮まっている様です――

 通常スヴァローグの索敵範囲は15~20kmにも及ぶ。それが天候の悪化を受け、半分にまで性能が低下していた。

「そんな詮索は後にして、ARPS組は早く起動しに行けっ」

 グレンの声に追い出される様に、停車した車内から雪が吹き荒ぶ外へと三人は飛び出して行く。

「さ、さむーいー」

 背後からエレノアの悲鳴を耳にしながら、キースは素早くスヴァローグへと搭乗すると、アデリナを起動させる。

――マスター、アンノウン判明。レーシィ・シェースチが二機。それとARRTが二台です――

 寒冷地仕様として、冬季の運用に特化したレーシィ・シリーズの一世代前の機体であるシェースチ。通常であれば楽勝とまでいかなくても、余裕を持って戦える相手ではある。だが、現在の状況に於いては例え旧型機であろうとも、勝敗に関してはどの様に転ぶか予測が付かない。

――ARPSは二機共アサルトライフルとシールドを装備しています。ARRTもベースはレーシィ・シェースチの様です。こちらは左右の腕を機銃に換装したのが一台と、弾数六発のショルダーミサイルガンポッド装備が一台となります――

 敵の戦力が判明した所で、通常であれば対応策の検討に入りたいが、今回はそれ程時間に余裕は無い。

「ねーねー、どうするの?」

「そうだな……」

 キースはエレノアの問い掛けに、咄嗟に返答出来ずに口籠る。

「今回は役割だけ決めていくしかないだろ」

 代わりにグレンが答えた。

「外がこの状況だと、流石にトラップは無理よね」

「ああ、それに設置するにも時間が足りん」

 ソロ時代と違い、今は手当たり次第、取り敢えず仕掛ければ良いと言う訳にはいかない。キチンと役割に応じ、効果が見込める様に仕掛けなければ意味は無い。

「ミサイル持ちは、俺かリンデさんが担当しないと拙いですね」

 現状ミサイルに対抗できるチャフ持ちは、この二人しかいない。視界が効く状況であれば未だしも、この吹雪いている中だと他の二人では負担が大きい。

「それなら、ARRTは私とグレンで担当するわ」

「俺もそれで良いぞ」

 ディートリンデの言葉に、あっさりとグレンも同意をする。

「じゃー、ARPSは私のね!!」

「分かったよ……」

 キースはそっと溜息を吐く。エレノアの言葉の意味する所は自分が二機共倒すから、それを手伝えと言うことだ。

 一行は打ち合わせを済ますと、雪が吹き荒ぶ中、迎撃地点へと向かって行った。




 迎撃地点として選んだ場所は、小さな森や林が周りにいくつか点在してはいるが、比較的大きく開けた雪原である。

 吹き荒ぶ雪は益々強くなっており、今や有効視界は3mにも満たない距離しか無い。

 その為、戦闘に支障を来たす恐れのある障害物が、極力無い場所を選んだのだ。とは言え、その分他のリスクも発生する。いくら視界が効かないと言っても、そこには遮蔽となる物は存在せず、敵の攻撃に対しては全て避けねばならなくなる。

 敵が進行して来る正面にはカグツチとスヴァローグが並び立って待ち構えており、シュヴァルディアは敵の側面を突くべく、少し離れた右側に潜んでいる。

「ねーねー、グレンさんどこに居るの?」

「んー、雪原に居るみたいなんだが、この吹雪で良く解らん」

 グレンは到着後、待機をする際に一人でキース達から離れて以後連絡が断たれ、居ることは確かながら、誰もその居場所までは把握していなかった。

「どこに隠れてるんだろー」

 センサー性能に優れているスヴァローグではあるが、この吹雪で各種性能は低下しており、カモフラージュを施して隠れ潜んでいる一人の人間を探すのは至難な状況となっていた。

「スヴァローグでも見付けられないんだから、敵に発見される心配は無いだろ」

 今の所、敵側にセンサーパックや特化機などは未だ出現しておらず、この場に於いては、スヴァローグ以上の性能を誇る機体は存在していない。

――マスター、敵との距離1kmを切りました。接触まで約5分です――

「分かった。エレノアっ、視界が効かないんだから、いつも以上に注意しろよ」

 視界を雪で遮られ、白く染められた中では、敵の視認も距離感の把握も容易なことではない。いつもの心算でいると、簡単に足を掬われかねない。

「そう何度も言わなくても、わかってるよー」

 キースはスピーカーから流れて来る拗ねた様な声を聞いて、どっと心労を感じてしまう。

 しかし、今回の戦闘の鍵を握るのはカグツチである。今までとは違い、図らずも乱戦の様な状況に於いて、近接戦闘で破壊力がある格闘装備は非常に頼もしく感じる。そのカグツチを活かす為にも、キースは気合を入れると共に、ひたすらサポートに徹するつもりだ。

――マスター、敵との接触まで残り1分です――

 キースはアデリナの報告を聞くと、強張る身体を解す様に一度大きく息を吐いた。

「エレノア行くぞ!!」

「りょーかーい」

 二機のARPSはローラーを回すと、視界が効かない中を飛び出して行った。

「うわっ……」

 キースは自分の提案を早々に後悔し始めた。

 敵ARPSは二機が並んで進んで来ており、側面に回って仕掛ければ、視界が効かない状況では同士討ちを避ける為に、攻撃を受けずに各個撃破が可能になると予測した。その為には、敵をある程度まで近づけた後に、素早く側面に回り込む必要がある。

 吹き荒れる雪を掻き分けて進んで行く二機のARPS。操縦をする者は、まるで目隠しをしたまま、自分の意志を無視して強引に後ろから押し出される様な感覚に陥る。

 キースは気を抜くと機体を止めそうになる身体を抑え、じっとその恐怖に耐えていた。

――マスター、敵が射程内に入ります――

 上手く側面へと回り込んだスヴァローグは、アデリナの声と同時にアサルトライフルの引き金と引く。

 強い風の音が響き渡る中、くぐもった小さな銃声が三回鳴る。

 すると、その後を引き継ぐ様に大きな銃声が響いた。どうやらディートリンデの方も戦闘に入った様子だ。

 敵のシールドを持たぬ右手側へと回り込んだキースは脚を止めると、エレノアの接近を補助する為に牽制射撃を続けて行く。

――マスター、敵が右に移動します――

「くっ、この辺か……」

 モニターが白く染まり、敵の機影が見えぬ中、キースは正に手探りで銃撃を続けていると、突如相手からの反撃を受ける。

「うおっ!?」

 敵の射撃音はこの強風で掻き消されているが、いくつもの銃弾を放っていたのだろう。

 一発の銃弾が盾を持たぬ右上腕部に着弾したのを皮切りに、胸部にも連続して銃弾を受けてしまう。

――マスター、損傷率20%を超えます!!――

 勘を頼りに銃弾を受けている場所の方へと盾を突き出すと、僅かな振動と共に銃弾が弾かれる甲高い金属音が木霊する。

「ここかっ」

 キースは見えない敵に対し、当てずっぽうに銃弾を放つも、その時間は長くは続かなかった。

 ガチっと言う鈍い金属音と共に引き金は固まり、弾を放てなくなる。

「ジャムった!?」

 キースは初めての事に動揺をして、慌ててコッキングレバーを動かす為に、翳していた盾を動かしてしまう。すると、それを待っていたかの様に敵からの銃撃が再開された。

「ちくしょう……」

 悪態を吐き、自分のミスを悔やみながらも、素早く盾を掲げると銃撃を防ぐ。しかし僅かな間にせよ、無防備な機体には当たった銃弾の奏でる金属音が操縦席に鳴り響いた。

「くそっ……、アデリナ損害報告(ダメージレポート)

――損傷率29%、頭部にも被弾を受け、センサー機能が7%低下しています――

「センサーは痛いな……」

 キースは仕返しとばかりに、盾の脇から詰まりを直したアサルトライフルの銃口を覗かせて銃弾を放つも、手応えは感じられない。

――マスター、銃撃を止めて下さい。カグツチが戦闘に入ります。この間に弾倉の交換を――

 キースは自身の手で借りを返したいと言う欲求を抑え、僅かな残弾数となった弾倉を取り外すと予備の弾倉を差し込んだ。

「アデリナ、ハッキングの状況は?」

――すいません。まだ敵の制御システムの侵入に手間取り、システムの確保までにはもう少し時間が……――

 戦闘開始前より、もう一機のARPSへと仕掛けていたが、この悪天候下では思う様な効果を上げられていない。

「分かった。アデリナはそのまま進めてくれ。これからもう一機に対して、牽制を仕掛ける」

 スヴァローグは見えぬ敵に向かい、ゆっくりと機体を進める。


 悪天候下の中で開始された戦闘。キース達は初めて経験する吹雪に翻弄され、苦戦を強いられることとなる。

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