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第十三話 邂逅

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 街に到着後、目的地が一緒だったため、護衛対象であるギルド職員の女性とギルドまで同行することにした。

 他国機を見かけての警戒なのか、元々基地があるせいか、ノヴォべリスクは緊張感に包まれた雰囲気を感じさせる街だった。

「何かピリピリしてますね。軍用機を運んでいるのも見かけますし」

 街中を走りながら、ビエコフは先程擦れ違ったトレーラーをミラー越しに見ている。

「いつもはもう少し長閑な所なんだけどね」

 何度か来ているであろうギルド職員の女性は、現状に違和感を感じているようだ。

「他国機のせいですか?」

「うーん、軍の上が騒いでいるから、バタついているのが伝わっているのかな。しばらく経ったら元に戻ると思うよ」

 少し大袈裟に騒ぎ過ぎているのよと、女性は肩をすくめた。


 その後、特に止められたりもせずギルドに到着すると、完了証明書を貰い、職員の女性とはその場で別れた。

 受付で証明書とカードを渡すと、報酬と一緒にカードが返却される。

「おめでとうございます。ギルドランクが上がり、線が二本へと増えました」

 そういって渡されたカードには、二本線がくっきりと記されている。

「やったー。後一個上がったら、私達もクエスト受けられるね」

 余程嬉しいのか、エレノアは満面の笑みを浮かべ、カードを受け取っている。

「その前にクエストに関する情報を集めないといけないな」

「色々準備しないといけないですね」

 二人も満足そうにカードを受け取る。

「まあ、その前に地道に依頼こなして三本線に上がらないとな」

 一つ上のランクからは、更に世界が広がって行くだろう。そのためにも着実に一歩ずつ進まなければならない。実力だけで無く、装備や情報といった準備を怠れば、簡単に転落して、負の連鎖へと呑まれてしまう。焦りは禁物だ、とキースは自身を再度戒める。


 ギルドを出ると、早速街の散策へと出掛ける。

 ノヴォべリスクの街は東西に伸びた細長い形をしており、東側に街並みが、西側を基地の敷地が占めてしている。

 まずはキレンスクロフ同様に、アイバンで調べた全ての店を片っ端から回るも、前回の様なアンロックらしいイベントには遭遇しない。

 ならばと基地に向かってみるも、当然の如くプレイヤーであるキース達は中に入ることが出来ず、あっさりと門前払いを食らう。

 仕方なく衛兵が睨みを利かせる入口を折れ、基地の敷地を囲っているフェンスに沿ってトレーラーを走らせる。

「違ったか……」

 あまり期待はしていなかったが、手詰まりとなったために、キースは落胆の色が隠せない。

「見つかんないね」

「この街じゃないのかもしれませんね」

 僅かな望みを掛けて来たものの、三人共にどこかやっぱりといった印象の方が強い。

 左手に流れ去るフェンス越し、遠目に見える格納庫の前にARPSが何機か整列している。

「あのARPSって、今日襲って来た奴だよね」

「同じ機体だろうな。シュネイック軍採用機だったのか」

「若干装甲が違うので、軍仕様ではあるんでしょうね。性能も多少は違うでしょうし、触ってみたいな……」

 立ち去る際に見えた機体は、ノヴァべリスクに来るまでに何度か対戦した85式だ。軍仕様のため、外装も迷彩色に塗られ、両肩に部隊章と識別番号が書かれている。装甲も肩や搭乗部は増加され、頭部もアイカメラの辺りに何やら独自の装置が追加されている。

 軍用機が用意されている以上は、何れ他国の軍とも戦う事態が想定されているのかなとぼんやりと考えながら、キースはミラー越しに小さくなっていくARPSを眺めていた。


 思いがけず軍用ARPSを見ることが出来たが、この街での滞在理由も無くなったので、来て早々となるがレニンスキへと戻ることにした。

 再びギルドを訪ね、レニンスキ行きの依頼を探すと、今回は運の良いことに好条件の依頼を見つけられた。

 受注したのは配達依頼で、五日後までに送り先のARPS製造メーカーまで届ければ良い。受け取った荷物は1.5m四方の鉄製のコンテナに入った物だった。

 早速ビエコフがクレーンでトレーラーに積み込むと、今日来た道を辿るべく草原へと走り出す。


 中途半端な時間に出立した関係で、宿泊予定地には辿り着くことが出来なかった。昨夜宿泊した場所より大分手前に、今晩の宿を構え一泊する。

 念のために夜間警戒をするも、依然として襲撃者は現れなかった。初依頼時の印象が強いせいもあり、当初は気負って警戒していたが、その後は一向に夜間襲撃を受けないので、徐々に気が緩みがちとなって来ている。

 いつもより素早く朝食を済ませ、二日目は先を急ぐことにする。予定では街道を東へと折れる、初日の宿泊地まで一気に進むつもりだ。

 来る時よりも長い距離を一日で移動するため、いつもより速度を上げて走る。

 途中、二度程襲撃に遭うが、大した損傷も受けず撃退に成功し、予定より少し遅れはしたものの、無事に宿泊予定地である湖畔へと辿り着けた。

 三日目の朝も無事に迎え、今日中にレニンスキへと辿り着くべく出発した一行は、もうじき昼を迎えるという辺りでその異変に遭遇した。




 左右を深い森に囲まれた中、街道は真すぐと東へ続く。北に位置する左手側に小高い丘が、時折木々の間から覗いている。

 異変に最初に気付いたのは、周囲警戒中のアデリナだった。

――マスター、進路前方、方位0-2-6、距離14.3kmにアンノウン感知――

「敵か?」

 今日は朝から一度も襲撃を受けていなかったので、キースが身構えるもアデリナは少し戸惑うような声色で返す。

――いえ、ARPSとは違うのですが、今までに無い反応です――

「そうか。アデリナ、その地点を中心に重点探索」

――了解です。方位0-1-1から0-4-1の範囲で探索を開始します――

 通常とは明らかに異なるアデリナの対応から、俄かに緊張感を増すキースは警戒を促すべく、ビエコフへも指示を送る。

「ビエコフ、気になる事があるので少し速度を落としてくれ」

「分かりました。30km/h位まで一旦落としますね」

 それぞれに指示を出し終えると、未知への警戒心からキースは緊張が高まる中、じっとアデリナからの分析結果を待つ。

 どれ程待っただろうか。結果が出るもあまり芳しくない様で、口篭るアデリナが現れたのに気が付き、キースの方から報告を促してみる。

「どうだ、何か分かったか?」

――……はい。結論から言いますと、ARPSや車両などではありません。人らしき反応と車両よりも小さな反応を一つ確認しました――

「人だと……」

 キースは想定外の答えに、言葉を失ってしてしまう。

――はい。人、それも一人の反応があります――

 緊張に身構えていた身体が、突如の困惑に思考が止まっていく。

 その時、急に速度が落ちたのを、不審に感じたエレノアから通信が入る。

「ねー、何かあったの?」

 いつもと変わらぬ声色で、キースは止まりつつある思考を、急速に回復する。

「ああ、ちょっとな。説明するからビエコフも一緒に聞いてくれ」

「分かりました」

 ここで判明した困惑の原因を、二人に対して説明していく。

「なるほど、人ですか……。プレイヤーですかね?」

「こんな所までARPSも無いのに、一人で来るのかな?」

 キース同様、二人も戸惑いの色を隠せないようだ。

「それなんだよな、問題は……」

 未知だったものが判明したことで、更に厄介な方向へと状況が陥ってしまった。


 現在キース達がいる場所は、開始の街レニンスキから半日以上離れた地点である。遭遇率に差があるとはいえ、当然敵ARPSによる襲撃も一度や二度は遭うだろう。更には昼を前にしてこの地点にいるということは、街での宿泊ではなく野宿をしている可能性すらあるのだ。

 そんな敵味方の識別もつかない存在を前に、取り敢えず一旦トレーラーを停車させた。逃走も考慮しつつ、警戒しながらキース達は二機のARPSで、潜伏地点へと慎重に近づいて行く。

 すると、突如三人にオープンチャンネルでの通信が入る。

「警戒させたようで済まん。敵じゃない。一応これでもプレイヤーだ」

 自身の映像が付いておらず、声だけの通信となるが、こちらへと呼びかけが届く。

 落ち着いた口調の男性の声で、雰囲気からキース達より年上のように感じる。

「これから街道まで姿を見せに出て行くから、攻撃をしないで欲しい」

 向こうからの提案に、三人は揃って固まっていたが、逸早く復帰したキースがオープンチャンネルにて返答をする。

「分かりました。こちらは一旦この場で止まっています」

「助かる、すまんな」

 通信後、しばらく街道に二機並んで待っていたら、前方300m程先の森から一台のサイドカーが現れた。

 車体は黒く塗られ、左側に乗車用の側車が付いており、その搭乗部にはカバーが掛けられている。そのため、乗っているのは一人だけだ。搭乗者との対比で見ると、バイク自体もかなりの排気量がありそうだ。

「へっ……、バイク?」

「あっ、謎のライダーだ!!」

 エレノアの発言を聞き、キース達は一つの話を思い出していた。開始当初に情報を集めていた折に、エレノアが見つけて来た正体不明のライダーの噂を。

「取り敢えず、街道の真ん中で話すのもあれだから、この先で一緒に昼食でもしながらってことでどうだ?」

 ヘルメットは被っていないが、ゴーグルをしているために、今だ表情が見えない相手からの提案に対し、こちらからも色々と聞きたい好奇心が働き、二人に相談することなく独断でキースが答えてしまう。

「分かりました。後ろから付いて行きますので、そちらで先行して下さい」

「分かった」

 返答後、振り返ることなく走り去るバイクを追い掛けるべく、二人はトレーラーへと急ぎARPSを収納した。

 襲撃かと予想された展開からは、想像だにしなかったが、三人は別の意味で心臓の高鳴りを感じていた。




 三十分程進み、辿り着いた場所は左側の森が窪んでいて、30m四方程の草むらが広がる空間だった。

 その僅かな広場へとサイドカーに続きトレーラーを停めると、顔合わせをするべく三人は搭乗席から外へと降りる。

 三人が見守る中、サイドカーを降りこちらへと歩いて来たのは、キースと背格好がそっくりの男性だった。オレンジ色の髪に焦げ茶色の顎鬚を蓄え、顔にはゴーグルを掛けている。恰好はツナギとも軍服ともいえる服に、足下は編み上げブーツを履いている。

「済まなかったな。今まで気付かれたことが無かったから安心していたんだが、こっちも吃驚したよ」

 そういってゴーグルを外したその顔は、年の頃は二十代前半だろう、目に強い力を感じる人だった。

「こっちも驚きました。まさかっていう感じでしたから」

 迎える形となったキースも一歩前へと出ると、すぐに対応する。

「ねーねー、何でバイクに乗ってるの?」

「姉ちゃん、少しは空気読もうよ……」

 面白い獲物を見つけたのか、瞳を輝かせて興奮を隠し切れていないエレノアを、素に戻っているビエコフが頻りに抑えている。

「立ち話もなんだし、昼飯でも食いながらゆっくり話そうぜ」

 四人はそれぞれ食事の用意をすると、キース達三人の前に一人座るという形で食事が始まった。


「あー、まずは自己紹介からな。俺はグレン。一応後ろに有るサイドカーで、このゲームをやっている」

「俺はキースです。そして左にいるのがエレノアとビエコフです」

「エレノアだよ」

「ビエコフです。このトレーラーを使っています」

 四人は互いに名前を紹介し合うと、早速本題ともいえる話題へと入っていく。

「まあ、色々と聞きたいことはあるだろうけど……」

 その後の展開を予想してか、グレンは恐る恐るといった様相で口火を切ると、早速とばかりにエレノアが飛び付く。

「ねーねー、何でバイクに乗ってるの?」

「それはだな、あー、長くなるからここではちょっとな……」

「えー、なにそれー」

 口篭るグレンに対し、エレノアは頬を膨らませている。

「次だ、次っ」

 頻りに聞きたがるエレノアを、面倒そうに手を振り退けると、グレンは話題を変えようとする。

「じゃあ、あそこで何をしていたんですか?」

 キースが質問をすると、グレンはすぐにその話題へと飛び付いた。

「MOB狩りだ」

「へっ? あの、ARPS持っていないのにですか」

 意表を突く答えに、キースは呆気にとられてしまう。

「ああ、そうだ。俺はこの状態で今まで狩ってきたぞ」

 グレンの予想外の発言に対し、三人はまたしても固まってしまう。

「まあ、こんな事をいっても信じられないだろうけどな」

 三人の表情を見て、グレンはそう自重気味に笑った。

「そうですね。正直、この目で見ないとあまり信じられる話では無いですが……」

「だろうな。だから今まで誰にも話した事は無かったし」

「えっ、何で俺達には話してくれたんですか?」

「最初にいったと思うが、初めて気付かれたから、かな……」

 重荷に感じていたのか、安堵の表情を浮かべて話すグレンを見て、三人は押し黙ってしまう。

「これ以上は長くなるからな。お前らも街に帰るつもりなんだろ?」

 静まった空気を変えるつもりか、グレンはこの後の予定を訪ねて来た。

「ええ、これからレニンスキに戻る予定です」

「これも何かの縁だし、良かったら街まで一緒に行かないか?」

「俺は良いですよ。二人はどうだ?」

「自分も良いです」

「だったらさー、うちの拠点で話聞かせてよー」

 話が中途半端なせいか、エレノアがグレンに対し提案を持ち出す。

「お前ら、もう拠点持ってんのか?」

 驚きとも、呆れとも取れるような表情をグレンは見せる。

「ええ、ですので良かったら、続きはそこでしませんか?」

 エレノアの発言を受け、キース自身も驚いたものの、すぐに好奇心が勝りグレンを誘うことにする。

「……ここまで話したしな。取り敢えず街まで宜しくな」

 グレンは僅かな逡巡を見せるも、吹っ切る様に了承してくれた。

「はい」

「まかせてー」

「宜しくです」

 昼食後、三人はメンバーを一人増やして、レニンスキへと向かうことになった。




 一人増え、四人となった一行は、グレンのサイドカーを先頭に、その後をトレーラーが追走する形で走っていく。

 この形はグレンから「トレーラーの後ろじゃ土煙りを浴びて辛い」との発言を受けた結果だ。

 街への道中に一度襲撃を受けるが、キースとエレノア二人で対処し、なんなく撃退した。


「……やっぱり、手の内は見せないか。まあ、会って間もないからしょうがないかな」

――どうしましたか? マスター――

「いや、何でもないよ」

 襲撃中はトレーラーの後ろへと避難していたグレンをモニターに見ながら、キースは取り敢えず合流すべくビエコフの元へと向かった。


 街へは日が落ち、暗くなり始めた頃にようやく到着した。

 当初の予定より遅れてしまったが、依頼期日には余裕があったので特に問題とならず、荷物を送り届けた後ギルドに寄って報酬を貰い、そして拠点へと戻った。

 初めて自分達以外の人に対し、見せた拠点へのグレンの感想は「辺鄙な場所にあるが、雰囲気の良い建物だな」とのことだった。


 そのグレンの簡易登録を済ませ、中へと向かい入れた三人は、この後グレンの長い独白を聞くことになる。

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