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第九話 解除

5/16 漢字変換率修正

5/25 誤字修正

 初のARPS三機との戦いは勝利に終わったが、その傷跡は今までになく深かった。

 最終損害報告(ダメージレポート)はカグツチ壱型が最終損傷率31%、そしてスヴァローグⅡは最終損傷率41%、左腕作動不能、レーダー機能25%低下と惨憺たる結果となった。問題は損傷だけに留まらない。まだ護衛依頼は完了していないのだから。

 取り敢えず、三人で打開策を相談する。

「修理にはどれ位の時間が掛かる?」

「今までの経験だとカグツチで二時間、スヴァローグはセンサーに一時間、本体は正直分かりません」

「スヴァローグボロボロだもんね……」

 カグツチは損傷個所は多いが、まだ普通に動ける状態だ。だが、スヴァローグは動くのがやっとといった状態なのだ。

「商隊に聞いたら、遅くとも二時間後には出発しないと予定が狂うらしい」

 ゲーム的には一定時間を超えて到着すると、マイナス評価が与えられるようになっている。報酬は変わらないが、成功ポイントを減点される。そのことはプレイヤーには告知されてはいないので、この様な商隊からの要望に対する対応で依頼の評価が変わっていくのだ。

「今五時半過ぎだから、七時半には出発だね」

「そこでだ、スヴァローグはセンサーだけ直して、その後カグツチを一時間で直せるだけ直すのはどうだろ」

「センサーだけですか?」

「スヴァローグ直さないの?」

 二時間という限られた時間内でカグツチを全快させる方法もあるが、キースの提案はスヴァローグのセンサー機能を生かし、今後は極力敵との遭遇を避けようというものだ。

 一時間もあればカグツチも全快とまではいかないが、一機位の相手は出来るまで直ることも考慮してだ。仮にもし襲撃を受けても、スヴァローグも固定砲台位は務まる。

「残り半日なんだから、昨日までの状況を考慮すると十分避け切れると思う」

「まあ、この状況を考えると、まず遭遇しないことを第一に考えないといけませんね」

「来てもカグツチでやっつけるから、任せてよっ」

 こうして修理計画が決まり、出発までの僅かな時間が慌ただしく過ぎていった。




「じゃあ、ここで。これが完了証明書になるよ」

 商隊リーダーの男が一枚の紙を渡してくる。

「ありがとうございます」

「こちらこそ、襲撃を受けたけど人も荷物も無事で、時間も予定通りに到着出来た。また会えるのを期待しているよ」

 そういうとワゴンに乗り込み、街の中へとコンテナ車共々入っていった。

 あれからキレンスクロフまでは襲撃者との遭遇は無く、どうにか無事に商隊を送り届けることに成功した。

 一度襲撃を察知はしたのだが、15km以上離れた地点で判明することが出来たので、商隊の進路を少しずらして貰い遭遇を回避してここまでやって来た。

「やっと終わったねー」

「ああ、取り敢えずはギルドに提出して報酬を貰ったら、街を探索してみるか」

「さんせー」

「自分は解体屋(ジャンクヤード)巡りに行きたいです」

 各々行きたい所を上げながら、キレンスクロフの街へと入っていく。




 キレンスクロフの街は事前に聞いていた通り、かなり小さな街だった。それは広さ的なことももちろんあるが、それ以上に高層な建物が無いので印象的にも小さく感じる。中心部にある建物は大きい物でも十階建てで、ギルドの支部など街の重要施設が入っている。中心部から少し離れると平屋建ての建物が目に付く様になり、中でも郊外へ行く程に工場関係が多く建ち並んでいる。鉄鋼の街ならではの趣だ。


 到着したギルドで報酬とポイントを貰った後、街中を探索すべく三人はアイバンへと立ち戻ると、順番に行きたい店の所在地を検索していく。

「今の装備だと、色々と厳しいから何とかしたが……」

 今回の戦いで浮き彫りとなったのは、今後三機以上の敵が増えてくるのは必須の中、今のままの機体や装備だと役割や作戦以前にそもそも戦いにならないであろうことだ。

「もっと人数がいれば良いんでしょうけど、何とか方法を考えて対処したいですね」

 欲しいからといってすぐにメンバーが増える訳ではないので、現状の三人での方法を模索していく。

 まずカグツチ。現状では攻撃力は問題無いが、接近手段が乏しく、接近するまでの損傷も多い。

 次にスヴァローグ。守備力の低さが問題。特にセンサーを損傷すると、そもそもこの機体を選択した意味が薄れてく。

 最後にアイバン。元々バックアップとは言え、流石に何らかの攻撃手段が欲しい。今のままだと存在が空気なのはまだ良い方で、最悪狙われたら足手纏いにすらなりえる。自衛手段と牽制程度の攻撃力は必要だ。

 各々が問題点と向き合い、改善策を考えながら様々な商品を探すため、店を訪ねていく。




 その問題となった店は中心部からは大分離れ、周りに建物はあれど商店は存在せず、一軒だけひっそりと佇んで建っていた。

 それは武器屋を検索していた時、見つけたは良いが郊外に一店舗だけ離れていたため、わざわざ回るかどうかを検討していた。しかしビエコフの「こういう所は掘り出し物があるかも知れません。是非寄りましょう」という鼻息荒い主張に二人は押し負けたのである。

 店内に入るとまず驚く。建物の大きさに対し店舗部分が異様に小さいのである。商品の入った硝子式のショーケースのカウンターが一台きり。商品もケース内に二つとカウンター奥の壁に掛かっている三つしか無く、客自体も十人は入らないであろう店内にはキース達三人しかいない。

 数少ない商品を眺めると、あることに気が付く。

「値段が高い割にやたらと弾数が少なくない?」

 そのエレノアの呟きを聞き、カウンターの奥にいた店主であろう口髭を生やした男は、こちらへとやって来た。

「お嬢ちゃん、新規入国者かい? 初期支給品のおもちゃと一緒にして貰っちゃ困るよ」

 馬鹿にしているとも、子供に諭しているとも取れそうな話し方で、男は疑問に答える。

「それはどう言う意味よっ」

 馬鹿にされたと受け取ったエレノアが憤慨するも、やれやれといった表情で説明を続ける。


 そもそも初期支給品の目的は、ロボットと言うものに慣れてもらうことだ。そのため、武器に関しては極力気を配らなくても済むような設定にされている。それが弾数だ。今までキース達は弾切れを起こしたことが無い。当然予備の弾倉すら持っていない。それは過度ともいえる仕様によるものだった。キースのアサルトライフルを例に取ると弾数は一日300発だ。一日というのは300発撃てば空になるが、翌日にはまた300発撃てるという仕様だ。

 そしてここからが本題になる。新規入国者が開始時のレニンスキ以外の街に存在する指定店舗へ行くと、初期装備以外を購入できるようになるというものだ。つまりレニンスキに留まる限りは、いくら金が貯まっても初期装備品しか買うことが出来ないのだ。


「で、ここがその指定店舗って訳だ。分かったかい? お嬢ちゃん」

「でも、弾数多い方が良いじゃない。今までも一撃で倒せたわよ」

「いや、そりゃ見当違いだよ。お嬢ちゃん」

 すると、またも聞き分けのない子供を諭すように説明をする。

「そもそも初期支給品を使用して、一撃で倒せる機体は前の世代の旧型だけだ。現行よりも古い機体ということは当然上には現行機、更にその上とも遭遇するかもしれないぞ。しかもそれだけじゃない。まだ他国の機体も存在する。そんな連中にゃ勿論歯が立たないさ」

「他国のプレイヤー機か……」

 キースは周りに聞こえないような小さな声で呟く。


 『鋼鉄の新世界』はPvPが条件付きで可能となっている。その条件とは同じ所属国のプレイヤーとの戦闘を禁じている。違反者は賞金首リスト入りと街の施設利用の制限となる。そしてそれらに当てはまらないのが、他国所属プレイヤーだ。この世界は瞬間移動系の交通手段が存在しない。国境から離れた内陸部にある開始の街レニンスキ近郊には、遠征に日数が掛かることもあり、現在他国のプレイヤーは存在してない。しかし、国境付近は当然PvP目的のプレイヤーも出没するだろうし、時が経つに連れ遠征するプレイヤーも出て来るだろう。


「しかし今までの話を聞く限り、国境付近にも行かないといけないだろうな」

「何でよ」

「それはだな……」

 偶然とはいえ、この店に来たことによってキース達は初期装備の武器のアンロックを受けることが出来た。なら、当然他の街にもそれらに該当することがあるのでは、と考えたくなるだろう。特に危険度の高い国境周辺とか、もしくは他国領内の街とか。

「今すぐって訳じゃないさ。いずれはって感じだな」

「そうですね。特に他国だと国内では手に入らない技術とかありそうですよね」

「そっかー。対戦は人相手が一番面白いもんね」

 一人斜め上を向いているが、三人は今後積極的に新たな街へと向かう事を共通の見解とする。


 そして改めてこの店にある商品を見る。

 ショットガン:アネッリ EL391(弾数十発) 420,000Y(イェン)

 サブマシンガン:バルツァー M50(弾数三十発) 450,000Y(イェン)

 ライフル:バララーエフ狙撃銃(弾数十発) 550,000Y(イェン)

 ロッド:ハードロッド 300,000Y(イェン)

 シールド:エイベル SD-30 400,000Y(イェン)


「うーん、何だかこう……。凄く勿体ないな」

「そうですね。威力は上がるんでしょうけど、今の状況だと微妙ですね」

「私の欲しい物が売ってない……」

 キースの場合、商品的には問題ない。威力が上がるサブマシンガンや今問題となっている防御が上がるシールドは、是非とも欲しい所だ。しかし、スヴァローグの装備重量制限に引っ掛かり、二つ所かどちらか一つも持てない状態である。

 エレノアの場合はどれも装備するには問題はない。ただ本人が希望する、殴るためのナックルやパイルバンカーが置いてないだけだ。

 二人して微妙に現状と希望との間に齟齬が生じているのだ。




 結局何も買うことなく店を出て散策を再開する。

「うーん、俺の場合はまず装備重量制限枠を増やさないと……」

「そうですね。機体出力を上げれば、少しは余裕が出てきますよ」

「出力ユニットだけでも高性能な物に変えれば……」


 ここでARPSの機体設定を少し説明する。損傷説明時に少し触れたが、ARPSは頭、胴体、両手、両足の計六ヵ所で構成されている。この六ヵ所は共通規格で接合されており、どこのメーカーのどんな商品でも付け替えが可能となる。つまり、スヴァローグの頭部をカグツチに付けることも出来る。

 但し、各胴体には出力が設定されており、その出力値によって機体重量及び装備重量が決定される。そして機体構成や装備はその枠内でしか行えない。高性能な機体パーツや武器は概ね高重量だ。よって高性能な武器を装備するには、相応な機体で無いと重量に余裕がないため宝の持ち腐れになりえる。

 更に各部位も様々なユニットの集合体として設定されていて、ユニット自体も共通規格だ。頭部にはアイカメラやセンサー装置などが、胴体には制御回路や出力装置など複数のユニットの集合体となっている。それらをメーカーを問わず高性能の物に入れ替えたり、既存ユニットを改修、改造して性能を上げたりと、色々な手段で強い機体を生み出すことが出来るように、ARPSを簡単に弄れる設定にされている。

 但し、各部位には機体毎にそれぞれ性能の上限が設定されているので、初期機体を全身フル改造した所で強さ的にはある所で打ち止めとなる。

 しかし初期支給改造機で中グレードノーマル機を狩ることは性能的には十分可能である。つまり各々が夢を持ち、妄想を垂れ流し、思い入れを持って機体を弄り、独自の道を歩み、それぞれの希望する強さを求めれば良いだろうという方針だ。


「キースさんの機体は条件がきつい分、弄りがいがあるんで正直楽しみです。一度改修計画を立てたいんで、希望を聞きたいから今度相談しましょう」

 目に妖しい光を湛えながら訴えて来るビエコフに対し、ただ肯くことしかキースは出来なかった。

 そしてここまで静かだったエレノアも、何やら色々と怪しいことを考えていそうな雰囲気だが、それもまたこのゲームの楽しみ方であろう。


 その後、ビエコフが要望した解体屋(ジャンクヤード)巡りも、護衛時に溜まった剥ぎ取り品を売るだけで特に何も買わずに後にした。その辺りをキースが尋ねるも「まずは市場調査からです」とあっさり返されてしまう。


 この街での用も無事終わり、次の目的地はという段で一度三人で話し合いを設ける。

 選択肢は二つ。このままレニンスキに帰るか、他の街へと移動するかだ。

 これには色々と意見が割れた。まず依頼を受けて移動するのか、それとも何も受けずただ移動だけをするのか。依頼を受けた場合、上手くレニンスキ行きの依頼があるのか、各街々を彷徨い最終的にレニンスキを目指すのか。それぞれに利点があり、短時間での収拾もつかなそうなので、一旦ログアウトするために整備場へARPSを預けることにする。どこに移動するにしても、行程には数日掛かる筈なのだから。




 国光が現実に戻ると午後六時を過ぎた頃だった。

 今日は夜も入る約束のため、夕飯は是が非でも食べておきたい所だ。


 メールで未沙と健に九時に待ち合わせの旨を送り、階下へ降りてお茶を飲み暫し休むことにした。

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