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終章

『トゥ。任務だ。』

「…はい。」

 呼ばれて、瞼をゆっくりと開けた。無心で横たえた体を起こし、用意された服を着る。

 空っぽの頭に記憶されているのは、体の使い方と、戦い方と、自分の名前、そして、何故それしか記憶にないのかという、理由だけだ。

 身嗜みを整える事は、この”匣”の中に於いては最重要項目だった。

 白い前釦のシャツに、黒いスラックス、黒い革靴。最後に、黒いロングコートを羽織い、部屋にぽつんとある全身鏡の前に立つ。

 ”試験管”の中で生まれ、この煌々と灯りの灯る銀色の匣型の建物の中で育ったトゥは、自分が生きている事と、自分が兵士である事以外、自分の事は何も知らない。

 部屋を見渡す。

 四角い匣の中の、小さな四角い匣。

 ここは、トゥの匣だ。

 この建物には、こんな匣が沢山ある。そしてその数だけ、トゥと良く似た少年がいる。

 銀色の髪に、赤い瞳。白い肌。

 この三つの要素だけが、トゥたちが、自分が自分であると認識出来る材料である。

 背は低い。体も細い。だが、特殊な訓練と教育を施されたトゥたちの体には、あらゆる武術と兵器の扱い方が染み付いている。

 トゥは服を調え、最後に髪型を確認して、鏡を離れた。少し長めの髪が、これ以上伸びる事はない。そう、”決められている”。

 部屋を出、長い長い廊下を行く。

 行き先は、『教員室』と呼ばれる部屋だ。そこには、『教授』と呼ばれる大人がいる。『教授』はトゥたち少年の責任者であり、トゥたちをこの世に生み出した親である。

 『教員室』の扉が見えた。背筋を伸ばす。

 すると、『教員室』の扉が開いた。

 中から、少年が一人出てきて、こちらへ向かって歩いてくる。

 トゥと同じ姿をした少年。

 銀色の髪に、白い肌。そして、トゥと少しだけ違う、深紅の瞳。

 黒いコートの胸には、瞳と同じ色をした宝石のブローチが着いていた。

 綺麗な色だな。

 そう思った途端、なぜか心が揺れた。

 トゥは気になって少年の顔を見た。だが、少年はトゥなど視界に入っていないかのように、トゥには一目もくれずにすれ違い、歩いて行ってしまった。

 トゥは立ち止まり、少年の背中を追った。

 胸が高鳴った。

 彼が誰だか知っていた。でも、解らなかった。

 名前を呼びたくて、でも、何と読んでいいか解らなくて、喉元で声が止まった。

 知らない筈だ。

 なのに、こんなに心の中が掻き乱された。

 少年たちは、戦う事以外に生きる理由がない。

 だから、少年たちは任務から帰れば、記憶の殆どを消し去られてしまう。

 空っぽの頭に記憶されているのは、体の使い方と、戦い方と、自分の名前、そして、何故それしか記憶にないのかという、理由だけだ。

 トゥは溜め息を吐いて歩き出した。

 思い出せない。そしてきっと、思い出したところで、また消されてしまう…。

 『教員室』の銀色の扉の前に立つと、スッと扉が開いた。

 一歩入り、背筋を伸ばす。

 『教授の前では、礼儀正しく』。

 これが、ここでのルールだった。

「素早い身支度だ。実に宜しい。」

 穏やかで、優しげな男性の声がする。

「ありがとうございます。」

 トゥが礼を述べると、『教授』は満足げに頷いて、トゥに一枚の紙を渡した。

「さて、キミの任務だが…。」

 少年は、任務を行う。

 生きている限り。

 そして、繰り返し消される。

 空っぽの頭に記憶されているのは、体の使い方と、戦い方と、自分の名前、そして、何故それしか記憶にないのかという、理由だけだ。

 何度も、何度も。

 でも、大人たちは知らない。

 少年に、”大人が入り込めない領域”がある事を…。



 ボクらは透明な、細長い器の中で生まれて、


 ボクらは重厚な、キラキラ光る灰色の鉄の匣の中で育って、


 ボクらは真っ暗な部屋の、緑色の光のパネルの前で出会って、


 そしてボクらは、何度も忘れて、


 それでもボクらは、何度も出会う――。

有り得ない科学と物理学の妙な短編です。

BL風にしようと思いましたが、露骨なのが性にあわないのでやめました。


誤字脱字は今のところ修正するつもりはありませぬ…。

お目汚し、失礼いたしました。

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