みんなでお散歩♪
カチリ
カチリ
カチリ
ルーチェは鍵束を受け取ると、迷わず鍵を選びとり、1つずつ開けていく。
「すごいね、間違わないんだ」
「間違えたら、叩かれる」
「…………」
魔獣達が一匹、また一匹、ゆっくりと檻から出ていく。
「おさんぽ。静かにね」
ルーチェがしーっと、人差し指を立てるしぐさをすると、唸り声は一斉に止み、魔獣達はお行儀よく整列した。
「いい子」
ふわりとルーチェが微笑んで、魔獣の頭を撫でる。
その姿に、ナハトは驚きと感心を隠せなかった。
「へーっ!ルーチェはテイマーの才能があるんだな」
「……ていま?」
「テイマーっていうのは――」
「ナハトおぉぉぉお!!!」
突然の怒号と共に、奥の角から、仲間の一人が飛び出してきた。
「げっ!バルト」
バルトは一瞬で距離を詰めると、ナハトの胸ぐらを掴みあげて揺さぶった。
「何やってんだお前ええぇぇ!!」
「いやーあのーえとー、お散歩?」
「はあぁぁ??!!」
後ろでは、バルトの声に驚いている魔獣たちに向かって、
「しーっ、だよ」
ルーチェが人差し指を立てていた。
「おい、誰だ今の声」
「檻の方から聞こえたな」
酔いの抜けきらない低い声がして、すぐ脇の仕切り布が上げられた。
「「あ」」
「あ?」
「「……」」
「……」
男は見た。胸ぐらを掴まれてる男と掴んでいる男、檻から出ていて、何故か整列している魔獣達、そしてルーチェ。
状況が理解できない。ただ一つだけ、わかったことを全力で叫んだ。
「侵入者だぁぁあ!!」
「やっべ、バレた」
「ちっ!」
バルトはすぐさまナハトから手を離すと、現れた男の腹に拳を叩き込んだ。
だんだんと人の声が増えていく。
「あーあ。バルトが大きな声出すからバレちゃったじゃんか」
「お前が原因だろうがあぁぁ!!」
ナハトは悪びれる様子もなく、頭の後ろで手を組み、口を尖らせた。そして何かを思いついたような顔をすると、
「よーし、ルーチェ」
「?」
「見つかったからかくれんぼは終わりだ!次は鬼ごっこやるぞ!」
「おにごっこ?」
「そうだ!鬼はあいつら。俺らは逃げる!捕まったら負けだ!」
「おい、ナハト。お前まさか…」
「どう逃げるかは、好きにすればいい」
「……みんなは?」
「魔獣たちも同じだよ。さぁ行こうぜ!」
「……」
ルーチェは魔獣たちを見ている。魔獣たちも、ルーチェを見ている。バルトは一度ルーチェを見た後、なんだか諦めたような顔になった。
「みんな……好きにしていいよ。捕まったら、負けだよ?」
次の瞬間、魔獣達が地面を蹴った。
天幕の布を裂き、柱をなぎ倒し、木箱を蹴散らし、狭いすき間をすり抜ける。
「うわああああ!!」
「止めろ!止めろぉぉぉ!!」
見世物小屋の男たちは慌て、転び、悲鳴が響き渡る。
だが、魔獣達は牙を使わない。
避ける。
駆ける。
追い抜く。
まさに“鬼ごっこ”だ。
「おー、すげー!」
「感心してる場合か!めちゃくちゃにしやがって!!」
「よーし!ルーチェ、鬼から逃げるぞー」
「誰が鬼だ!!」
ナハトはルーチェの手を引き、倒れてきた柱の導線から外す。バルトはその柱を見もせずに殴り倒した。
「走れ!」
ルーチェは、ナハトに手を引かれたまま走り出す。前後左右でいろいろな音がした。だけど今はーー
「捕まったら……負け」
あまりにも真剣に言うものだから、ナハトとバルトは思わず吹き出してしまった。
森まであと少し。振り返ると、天幕はもうだいぶ遠くにあるように感じた。
崩れた天幕からは炎が上がっていた。
月のない夜なのに、そこだけが明るかった。
小さな頃、気づいたらいた場所。
間違えたら、叩かれる場所ーー。
そこが今、燃えている。
そこがなくなったら、どこに行けばいいんだろう。
おにごっこって、どうやって終わるのだろう。
いつの間にか、おにごっこのメンバーは増えていた。
増えた人たちが、ナハトに色々言っていて、ナハトはニコニコして答えてる。
「……ナハト」
小さく、ポツリと、名前を読んでみた。
「ん?どした?」
小さい声だったのに、前を走る彼は気づいてくれた。
「……どこににげるの?」
おにごっこの終わり方はわからない。でも、今までいた場所も燃えてしまっている。
「家だよ」
「いえ?」
「そう!俺んち」
「俺達んち!だろ」
増えた人たちがまた色々言って、ナハトはまたニコニコして答えてる。
「……いえ」
ーー“いえ”って、なんだろう




