表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド《黒猫の家》〜ただいま、おかえり〜   作者: ときる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

お散歩

 灯りの落ちた天幕を、木陰から見つめる影がいくつかあった。

 

「思ったより派手だな」

 

 十代半ばほどの少年が、木の幹に身を預けながら天幕の様子をうかがっていた。

 

「いつの間に運び込んだんだ?違法ミミックバッグでもあるのかな?」

 

 アメジスト色の瞳が、楽しげに細められる。

 

「でも相当な高級品(ランク)じゃないと入り切らなくない?」

「あったとしても間口が足りないだろう」

「静かに!見張りは三人。裏手に二人、入口に一人」

「魔獣の檻は北側。鍵は見張りが腰に下げてるね」

「今日は証拠押さえて終わりだ。暴れるなよ、ナハト」

「暴れないって」

 

 少年――ナハトは、天幕の裏手を眺める。

 

 揺れる布の隙間からは、わずかな光が漏れていた。

 

「よし。裏から入る」

「静かに、な?」

 

 ナハトは肩をすくめた。

 

「もちろん」


 木陰から、音もなく影が散る。



  

 

 天幕の裏布が、わずかに持ち上がると、冷えた夜気が、熱のこもった空間へと流れ込んだ。

 ナハトはそこへ、音もなく滑り込む。

 

 さっきまでの熱気が嘘のような静けさだった。

 

 遠くで、魔獣が低く唸った。

 鎖がかすかに鳴る音がする。


 見張りの男を見つけると、背後に回り、口を塞ぎ、引き倒す。

 一瞬だけ空気の漏れる音がして、男は動かなくなった。

 

「ついでにもらっとくか」

 

 腰にかけられていた鍵束を外すと、指でくるくると回しながら、薄暗い通路をゆっくりと進んで行く。

 



 布で仕切られた区画と、乱雑に積まれた木箱。その間に、小さな窓のある扉がいくつか並んでいる。

 

 そのうちのひとつ。

 

 窓の中に、白いものが2つ見えた。

 

 ――耳?

 

 兎のように長いそれが、扉の向こうにある。

 

 (魔獣……?)

 

 慎重に窓へ顔を寄せると、

 

 「……」

 「……」

 

 無機質な赤い瞳が、こちらを見ていた。



  

 魔獣かと思ったのに。

 

 長い耳。

 白い髪。

 細い肩。

 

 鎖はない。

 首輪もない。

 手足も、縛られていない。

 ドアの鍵も、開いているようだ。


 ナハトは静かにドアを開けた。


「ねぇ、君、亜人(ミュート)?」

 

 返事はない。

 

「なんでここにいるの?」

「…………」

「名前は何?」

「……ルーチェ」

「ルーチェか。いい名前だね」

 

 小さな声だが、今度は返事があった。

 喋れないわけじゃなさそうだ。

 

「俺はナハト。ナハト・シャウド。ここ、君の部屋?」

「……うん」

「へぇ……」

 

 ナハトは部屋の中を見回した。

 簡素なベッドと、小さな椅子とテーブルが1つずつ。

 ほかは何もなかった。

 

「……なんでここにいるの?」

「ここにいろって言われたから」

「ふぅん……」

 

 ルーチェの赤い瞳は、時々瞬きをしながらずっとナハトを見ている。ただただ、見ている。

 怖がるでもなく、人を呼ぶわけでもなく、ただーー。

 ナハトはその瞳を見つめ返すと、目を細めた。

 

「ねぇ、俺達と一緒に逃げない?」

「にげ、る?」

「うん、俺達ここを潰しにきたんだ」

「……なんでにげるの?」

 

 きょとん、と少しだけ首が傾く。

 

「ここ、退屈じゃない?」

「部屋にいろって言われてる」

「外、出たくない?」

「部屋から出たら、叩かれる」

「あー……」

 

 ナハトの瞳が、一瞬、少しだけ鋭くなった。

 

「えっと、そうだ!散歩。散歩しよう」

「さんぽ?」

「そう、散歩。散歩なら後で部屋に戻ってくるだろ?だから大丈夫」

「…………?」

「まぁいいや、行こう」



 

 ナハトがルーチェの手を軽く引くと、彼女は素直に立ち上がった。

 ルーチェの手を握りながら、ドアの外から少しだけ顔を出し外の様子を伺った。

 

「いいか?ルーチェ。ただの散歩じゃつまらないから、かくれんぼをしながら行くぞ」

「かくれんぼ……?」

「そう、だから見つからないよう静かにな」

 

 ルーチェは少し考えてから、こくりと頷いた。


 


 誰もいないことを確認すると、ナハトが先に部屋を出た。

 静かに。足音を立てないように。

 ルーチェも続く。ナハトに手を引かれながら。

 布の仕切りを抜け、木箱の陰を進んでいく。


 


 天幕の北側、魔獣の檻の前で、ルーチェの足が止まった。

 

「ルーチェ?」

 

 低く唸る魔獣たち。暗闇の中で光る、たくさんの目。

 

「……この子たちは?」

 

 ルーチェは檻の中を見つめたまま言った。

 ナハトは一瞬だけ目を瞬く。

 

「魔獣のこと?」

「……うん」

「うーん……」

 

 低い唸り声と鉄格子を爪が擦る音が聞こえる。

 

「さんぽ」

「え?」

「さんぽ、だめ?」

 

 ナハトは一拍、言葉を失った。

 

「へ?」

「みんな、いい子」

 

 小さな声だった。けれど、今までより少しだけ、柔らかな声だった。

 檻の奥で、白い一角狼がこちらをじっと見ている。

 ナハトは、ははっと小さく笑った。

 

「散歩したいのは、ルーチェだけじゃないってか?」

 

 ルーチェは、こくりと頷いた。


 ――カツン。


 布の向こうで、小さく石が弾かれる音がした。

 

「お、さっすが。早いねぇ」

 

 短い、決められた合図がした。任務完了だ。

 あとは静かに引き上げるだけ。

 

「グルルルル……」

「…………」

 

 ルーチェはまだ檻の中の魔獣達を見ている。

 

「ちょうどいいや」

 

 ナハトは、ポケットから先ほど奪った鍵束を取り出した。

 

「鍵、持ってるけど?」

 

 指先で鍵束をくるくると回すと、金属がぶつかり合い、小気味良くリズムを刻んでいる。

 

「散歩だろ?」

「……みんなも?」

「そう、みんなも」

 

 ナハトは、未だ不思議そうに見つめてくるルーチェに、そっと鍵束を手渡した。

 

「開けるの手伝ってくれる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ