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ルーチェ

 夜。森の外れ。


 見世物小屋の中から、異様な熱気と歓声が響き渡っていた。


 大きな天幕の中では火の輪が吊られ、地面には幾何学模様の魔法陣が描かれている。


 檻の中で唸っているそれは、全て異様だった。

  

 鱗のある四足獣。

 牙をむき出しにした一角狼。

 天井では、翼の生えた猫が舞う。

 様々な()()が、檻の中で順番を待つ。

 

 どれも人里近くに出れば、討伐依頼が出る魔獣だった。


 その首には番号札が下げられ、毛並みは妙に整えられている。

 観客はそれを恐れるどころか、笑いながら指をさしていた。

 

 ステージの中央には、着飾られた十代半ばほどの少女が立っていた。

 

 白い髪、温度の無い赤い瞳、兎のような長い耳。

 

「お!あの娘、亜人(ミュート)だな」

兎族(ラビ)か、珍しいな」


 観客たちは、さも当たり前のように値踏みをしている。


「さぁ!本日の目玉だ!ルーチェ!」


 拡声器を持った司会の男が、少女へと視線を誘導した。


 重い音を立てて檻が開くと、一際大きな魔獣が、低く唸りながら前に出た。

 鎖を引きずる音が、地面を震わせる。

 その威圧感に、観客たちは思わず息をのむ。

 

「……行って」

 

 兎族(ラビ)の少女――ルーチェが短い言葉で、静かに指示を出した。


 瞬間、大きな魔獣が跳んだ。

 火の輪をくぐり抜け、空中で回転。

 鋭い爪が地面を捉え、観客席に向かって咆哮したのち、ルーチェの前でぴたりと伏せる。

 まるで従順な犬のように。


「すげぇ!」「従ってやがる!!」


 ルーチェが表情を変えずに一言、短い言葉で指示をする度に、魔獣が舞い、金が舞い、歓声が上がる。

 

 やがて魔獣達が整列し、ルーチェの顔にライトが当たると、天幕は割れんばかりの拍手に包まれた。

 

 少女の表情(かお)は、変わらない。



          ◆


 

 天幕の灯りが落ち、歓声が遠ざかる。


 薄暗い部屋の中で、ルーチェは立っていた。

 ステージに立っていた時とは違い、粗末な生地の薄汚れたワンピース姿だった。

 部屋の外からは、男たちの声が聞こえる。


「今日は上々だな」

「魔獣も慣れてきた。次は高く売れるぞ」

「三番はまだ温存しとけ」


 金貨を数える音、袋を縛る音、下卑た笑い声。


 しばらくして足音が近づいてきた。

 無造作に部屋の扉が開くと、男がズカズカと入ってきた。


「ルーチェ」


 そして当たり前のように、


「いつものだ」


 と言った。

 ルーチェは、いつもの順で服のボタンを外していった。



 “いつもの”と言われたから。

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