表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

第29話 譲れない線

 条件を詰めるという作業は、感情よりも体力を使う。


 書簡を机に並べ、内容を比較し、言葉の差異を拾い上げる。王国案、隣国案、そして修道領としての最低条件。どれも、似ているようで決定的に違う。


 私は、赤い線を一本引いた。


 ――ここから先は、譲らない。


 午前、修道院長エレナ、マルク、修道士二名で最終確認の場が設けられた。


「王国案は、前進している」


 エレナが、淡々と整理する。


「だが、まだ“元に戻せる余地”を残している」


 私は頷いた。


「それが、一番の問題です」


 王国の文面は丁寧だ。配慮もある。だが、失敗した場合に責任を曖昧にできる余白が、随所に残っている。


「だから、線を引きます」


 私は、紙を指で叩く。


「この三点は、文言で確定させたい」


 一つ目。

「現場裁量の範囲を、具体的に明記すること」


 二つ目。

「試験導入期間中の最終責任は、王国が負うこと」


 三つ目。

「追放に関する行政記録を、今後の人事・制度判断から完全に除外すること」


 マルクが、低く唸る。


「……三つ目は、相当嫌がる」


「はい」


 だからこそ、必要だ。


「これは、私個人の問題ではありません」


 私は、言葉を続ける。


「“都合が悪くなったら切る”という前提が残る限り、仕組みは再現されません」


 エレナは、ゆっくりと頷いた。


「分かりました。これを最終条件にしましょう」


 その場で、文面が整えられる。余計な修飾を削り、解釈の余地を減らす。読み手が嫌がるほど、明確に。


 午後、王国使節に返答が送られた。


 ――王太子本人との場を設けること。

 ――上記条件を前提にすること。


 それだけだ。


 数時間後、返事が来る。


『条件を受領した。

 殿下は、直接の会談を了承されている』


 短い文面だったが、意味は重い。


 夜。


 私は、窓辺に立ち、外を眺めていた。雪はすっかり溶け、地面が見えている。季節は、確実に進んでいる。


 思えば、追放の日から、私はずっと「譲らない線」を持っていなかった。

 求められた役を演じ、期待に応え、最後には切られた。


 今は、違う。


 何を引き受け、何を拒むか。

 どこまで関わり、どこから離れるか。


 それを、自分で決めている。


 扉をノックする音がした。


「準備は、整っています」


 修道士の声に、私は振り返る。


「ありがとうございます」


 会談は、数日後。

 場所は、王都ではない。


 ――中立地で。


 それは、こちらの条件だった。


 私は、机に戻り、最後に帳簿を閉じる。


 次に開くとき、

 私はもう「追放された令嬢」ではない。


 王太子と向き合うのは、過去を裁くためではない。

 未来を選ぶためだ。


 譲れない線は、すでに引いた。


 あとは、その線を越えさせないだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ