表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/32

第28話 再会の席

 正式な使者が来たのは、三日後だった。


 北方修道領に王国の紋章を掲げた馬車が入るのは、追放の日以来だ。警備は最小限。仰々しさもない。だが、それがかえって本気を感じさせた。


「王国文官局より、特命使節が到着しました」


 修道士の報告に、私は静かに頷く。


「応接は、通常通りで」


 歓迎も、拒絶も、必要ない。


 応接室に現れたのは、年配の男だった。かつて王都で何度か見かけた顔だ。表情は硬いが、敵意はない。慎重さだけが、そこにある。


「お久しぶりです、リリアーナ嬢」


 名を呼ばれた瞬間、胸の奥がわずかに揺れた。


 だが、逃げるほどではない。


「本日は、修道領としてお話を伺います」


 私は、静かに言った。


 彼は、一瞬だけ目を伏せ、それから頷く。


「承知しました」


 机を挟み、修道院長エレナ、マルク、私、そして王国使節が向かい合う。


「本題に入らせていただきます」


 使節は、書簡を差し出した。


「王国として、貴修道領の運用に正式な関心を持っております」

「試験導入について、前向きに検討したい」


 言葉は丁寧だ。

 だが、まだ謝罪はない。


 私は、書簡には目を落とさず、相手の顔を見る。


「条件は、変わりましたか」


 率直な問いだった。


 使節は、わずかに唇を引き結ぶ。


「……いくつか、修正が入っています」


 それが、精一杯だったのだろう。


「現場裁量の拡大については、限定的に認める方向で」

「試験地域については、王都が最終責任を負う」

「追放記録については――」


 一瞬、言葉が詰まる。


「“今後の行政判断において参照しない”という扱いに変更する案が出ています」


 完全な撤回ではない。

 だが、前進ではある。


 私は、すぐには答えなかった。


 沈黙が、部屋に落ちる。


「確認します」


 私は、静かに言う。


「それは、王国全体の公式見解として、文書に残りますか」


 使節は、頷いた。


「はい。殿下の了承を得ています」


 その一言で、空気が変わった。


 ――王太子が、動いた。


 私は、エレナと視線を交わす。彼女は、何も言わず、ただ任せるという目をしていた。


「本日は、即答はいたしません」


 私は、はっきりと告げる。


「条件を持ち帰り、修道領として検討します」


 使節は、反論しなかった。


「それで構いません」


 むしろ、安堵したようにも見えた。


「ただ、一つだけ」


 彼は、最後に言った。


「殿下は……再び、直接お話しする機会を望んでおられます」


 空気が、わずかに張る。


「個人として、ではありません」

「あくまで、立場ある者同士として」


 私は、しばらく考え、それから答えた。


「条件次第で」


 それ以上は、言わなかった。


 使節が去り、応接室に静けさが戻る。


「……来たな」


 マルクが、低く言う。


「はい」


「どうする」


 私は、机の上の書簡を見つめる。


「条件を、さらに詰めます」


 逃げない。

 だが、譲らない。


 夜、部屋で一人、私は椅子に腰を下ろす。


 王都と、再び向き合う席。

 それは、過去をなぞる場ではない。


 これからを決める場だ。


 追放された悪役令嬢としてではなく、

 条件を提示する一人の人間として。


 私は、ゆっくりと息を吐いた。


 再会は、始まりではない。

 選択の続きを、確認するだけだ。


 ――もう、物語の主導権は、私の手の中にある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ