表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/31

第24話 条件付きの打診

 打診は、遠回りな形で届いた。


 北方修道領に直接、王都からの使者が来たわけではない。公式文書もない。ただ、いくつかの「偶然」が、同じ方向を向き始めただけだ。


「最近、王都の商人が増えましたね」


 修道士が、何気なく言った。


「物資の流れを見ているようです」

「価格じゃなく、仕組みを」


 私は、帳簿から視線を上げる。


「……仕組みを?」


「ええ。どこで判断が止まらないのか、とか」


 それ以上、深い意味は込めていないようだった。だが、私の中では、はっきりと線がつながる。


 ――探っている。


 昼前、修道院長エレナが私を呼ぶ。


「間接的な照会が来ました」


 言葉は簡潔だった。


「王都の文官から。

 “辺境修道領の運用を、他地域に展開する可能性”について」


 私は、一瞬だけ息を止める。


 展開。

 それは、評価の言い換えだ。


「正式な要請ではありません」


 エレナは、すぐに続けた。


「あくまで、参考意見としての打診です」


 それは、逃げ道を残した言い方だった。

 うまくいけば功績。

 問題が出れば、無関係。


 王都らしい。


「どうしますか」


 問いは、私に向けられている。


 私は、即答しなかった。


 断ることは、簡単だ。

 ここで築いた仕組みを、外に渡す義務はない。


 だが、引き受ければ、

 王都との距離は、確実に縮まる。


「……条件があります」


 私は、静かに言った。


「個人名は出さないこと」

「提案は、修道領として行うこと」

「最終判断と責任は、王都側が持つこと」


 エレナは、私を見つめる。


「王都は、それを嫌がるでしょう」


「だからです」


 私は、視線を逸らさない。


「条件を呑めないなら、話は進めなくていい」


 沈黙の後、エレナは小さく笑った。


「あなた、随分と交渉が上手くなりましたね」


「……必要だったので」


 午後、マルクにも話が伝えられる。


「王都が?」


 彼は、露骨に顔をしかめた。


「今さら、何を」


「仕組みだけ、欲しいそうです」


「人は、いらないと?」


 皮肉が混じる。


「はい」


「都合がいいな」


 だが、怒りはなかった。ただの事実として受け止めている。


「どうするつもりだ」


「条件を出しました」


 マルクは、短く笑った。


「らしいな」


 それだけで、反対はしなかった。


 夕方。


 私は、机に向かい、簡潔な覚書をまとめる。

 制度の概要。

 判断の分散。

 失敗時の修正ルール。


 名前は、どこにも書かない。


 ――仕組みは、誰のものでもない。


 それが、ここで学んだ一つの答えだ。


 数日後、返事が届いた。


 条件付きで、話を聞きたい。


 文面は丁寧だったが、行間ははっきりしている。


 ――個人には、まだ踏み込まない。

 ――だが、無視もできない。


 私は、書簡を読み終え、そっと畳む。


 迎えに来たわけではない。

 謝罪でもない。


 それでも。


 追放された令嬢に、

 条件交渉の余地が生まれている。


 それ自体が、世界の歯車が戻り始めた証だった。


 私は、窓の外を見る。


 境界は、まだここにある。


 だが、もう一方的に切り捨てられる場所ではない。


 選ぶのは、これからだ。


 ――私が、どこまで関わるのかを。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ