表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/32

第22話 歯車の音

 王都では、問題はいつも静かに始まる。


 騒ぎになるのは、ずっと後だ。


 王城の執務室で、書類をめくる音が重なっていた。机に積まれた報告書は、量こそ変わらない。だが、中身が違う。


「……遅いな」


 王太子は、苛立ちを隠さずに言った。


「前なら、この程度の件、もっと早く整理されていたはずだ」


 向かいに立つ文官が、言葉を選ぶ。


「現在は、各部署での確認に時間を要しておりまして」


「確認?」


 王太子は眉をひそめる。


「確認など、前任がまとめてやっていたではないか」


 その名前は、口に出されなかった。


 だが、誰もが思い浮かべている。


 ――リリアーナ・エルフェルト。


 断罪された元婚約者。

 冷酷で、融通が利かず、空気を読まない女。


 そう、認識されていた存在。


「彼女がいなくなってから、各部署の連携が……」


 文官の言葉が、途中で止まる。


「歯切れが悪いな」


 王太子は、机を指で叩いた。


「要点を言え」


「……判断が、遅れています」


 正確な表現だった。


 誰かが悪いわけではない。

 だが、誰も全体を見ていない。


 結果として、判断は後回しにされ、書類は滞り、現場からの小さな不満が積み上がっていく。


 そこへ、聖女が入室した。


「殿下、お呼びですか?」


 柔らかな声。微笑み。場の空気が、一瞬で和らぐ。


「いや、ただ少しな」


 王太子は、表情を緩める。


 彼女がいるだけで、空気は軽くなる。

 だが、書類の山は減らない。


「最近、国の運営が少し……重いですね」


 聖女は、困ったように首を傾げる。


「皆さん、お疲れなのだと思います」


 それは、間違ってはいない。


 だが、解決でもない。


「聖女様は、気にしなくていい」


 王太子は、そう言って話を切り上げる。


 彼女に求めているのは、癒しであって、整理ではない。


 文官が、そっと一通の報告書を差し出す。


「北方修道領の件ですが……」


「まだ何かあるのか」


「配給と備蓄が、今年は安定しているそうです」


 王太子は、鼻で笑った。


「辺境だろう。たまたまだ」


「……隣国が、視察に入ったとの情報も」


 その一言で、空気が変わった。


「なぜ、隣国が?」


「理由は不明です。ただ、“運用を参考にしたい”と」


 王太子は、黙り込む。


 辺境の修道領。

 追放した令嬢が送られた場所。


 無意識に、胸の奥に小さな違和感が芽生える。


 ――そんな場所に、何がある?


「調べろ」


 短く命じる。


「誰が、何をやっているのか」


 文官は、深く頭を下げた。


「承知しました」


 その背中を見送りながら、王太子は思う。


 彼女がいた頃、国は回っていた。

 静かに、当たり前のように。


 それを、誰も評価しなかった。


 歯車は、今も回っている。


 だが、その音が――少しずつ、軋み始めていることに、

 王都はまだ、気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ