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断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


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第2話 追放と護送命令

 宣告は、淡々と、事務的に下された。


「よって、リリアーナ・フォン・アルヴェインは王都から追放とする。身分は一時停止、公爵家の後見下に置くことも認めない。――行き先は、北方辺境修道領」


 北方。


 その単語が出た瞬間、ざわめきが一段低い音に変わった。王都の貴族なら誰もが知っている。痩せた土地、寒冷な気候、物資も人も足りない場所。名目上は「修道領」だが、実態は流刑地に近い。


 それでも、私は驚かなかった。


 もっと重い処罰を想定していたからだ。幽閉、投獄、あるいは形式上の処刑――それらが免れただけ、温情と呼ばれるのだろう。誰の、とは考えない。


「異議は?」


 神官長が形式的に問う。視線はもう、私を見ていない。答えなど期待していない。


 私は一礼する。


「……承知いたしました」


 それで、この場での私の役割は終わりだ。悪役は舞台から降ろされる。物語は、正義と聖女を中心に回り続ける。


 そう思った、その時だった。


「護送役について、追加の命があります」


 老臣が書簡を読み上げる。紙の擦れる音が、やけに大きく聞こえた。


「北方辺境修道領までの護送は、近衛騎士団がこれを担当する」


 近衛。


 その言葉に、何人かが顔を上げた。追放者の護送に、王直属の騎士団を使うのは異例だ。ざわめきが再び広がる。


「団長」


 王太子が、抑えた声で名を呼ぶ。


 レオンハルト・グラーフは、すでに一歩前に出ていた。まるで、この命令を最初から知っていたかのように。


「私が行きます」


 即答だった。


 謁見の間が、完全に静まり返る。誰もが言葉を失い、次に来るべき反論を探している。


「団長、それは――」


「規定に反しません」


 レオンハルトは短く遮った。


「追放者の身の安全を確保する義務は王国にあります。加えて、現在の情勢では、道中の襲撃も考えられる。最も確実なのは、近衛騎士団長が直接護送することです」


 理屈は正しい。正しすぎて、反論の余地がない。


 王太子は一瞬だけ口を噤み、やがて視線を逸らした。


「……分かった。任せる」


 それで決まった。


 私は、そのやり取りを静かに聞いていた。胸の奥で、何かが小さく軋む。期待してはいけない。先ほどの一言も、これも、きっと彼の職務意識に過ぎない。


 そう言い聞かせる。


 けれど、心は命令通りには動かない。


 謁見の間を出ると、冷たい空気が肺に流れ込んだ。王宮の外は、いつもと同じ景色なのに、まるで別の場所のように感じられる。私はもう、この場所の一員ではない。


 侍女たちは、いつの間にか姿を消していた。私に付く者は、誰もいない。


「出発は明朝だ」


 低い声が、背後からかかる。


 振り返ると、レオンハルトが立っていた。近くで見ると、やはり大きい。鎧を脱いでいても、戦場の匂いが抜けていない。


「荷は最小限に。形式上、君は罪人だが、道中で不自由はさせない」


 淡々とした説明。そこに感情は見えない。


「……ありがとうございます」


 条件反射のように、言葉が口をついた。感謝は、私の防御手段だ。そうしておけば、相手は深入りしない。


 けれど、レオンハルトは一瞬だけ、眉を寄せた。


「謝罪も感謝も、必要ない」


 意外な言葉だった。


「これは命令だ。君が負うものじゃない」


 私は、返す言葉を見つけられなかった。命令。確かにそうだ。だが、命令にしては、彼の声音はどこか――硬すぎる。


「……団長」


 呼び止めるつもりはなかった。名前が、勝手に口を出た。


 レオンハルトが足を止める。


「なぜ、ですか」


 問いは短い。何が、と言わなくても伝わるはずだった。


 なぜ、あの場で一言をくれたのか。なぜ、護送を名乗り出たのか。


 彼は、すぐには答えなかった。廊下の高窓から差し込む光が、彼の横顔を切り取る。鋭い輪郭。だが、目だけは遠くを見ている。


「……戦場では」


 ぽつりと、言った。


「声の大きい正義より、黙って立っている人間の方が、よく人を守る」


 それだけだった。


 それ以上の説明はない。彼は踵を返し、去っていく。その背中は、王宮の誰よりも真っ直ぐだった。


 私は、その場に一人残された。


 追放。護送。罪人。


 並べれば、どれも重い言葉だ。けれど、不思議と胸の奥は、完全な虚無ではなかった。割れた底の向こうに、まだ暗闇はある。それでも、何かが確かに存在している。


 期待してはいけない。信じてもいけない。


 それでも。


 ――一人ではない、という事実だけが、今の私を立たせていた。


 明日、王都を出る。


 それが終わりなのか、始まりなのかは、まだ分からない。


 ただ一つだけ確かなのは。


 私はもう、この場所で「悪役」を演じる必要はない、ということだった。


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