我儘で欲しがりで怠惰な王女なんているわけない
だってそのうちいなくなるから
また来たのか。執務室に乗り込んでくるなと何度言えば理解するんだろうな。私は忙しいのでお前のくだらない話を聞く時間はないのだが。私の貴重な休憩時間を割くのだ、それ相応の価値があるのだろうな。
そうか、漸く結婚相手が決まったか。おめでとう。
相手はあの子爵家の次男だろう。そう、お前が略奪してまで欲しがった男だ、何が不服なのだ?
王女が降嫁するには爵位が低いと。まあ子爵家の次男など長男に子が産まれれば用済みだしな。それに何か功績があるわけでもないし、新たに爵位を与えるほど優秀でもない。だがそれに文句を言われてもなあ、分かっていて手を出したのだろう?私達は散々お前に言ったはずだ、相手は既婚者で評判も良くないと。肝心のお前には響かなかったようだがな。
そもそも、なぜあの男だったのか今でも不思議なんだがな、あの顔だけのクズのどこが良かったのか。まあ顔はいい、それは私にも分かる。だが他は?いや、あの男は文官の中でも評判が悪いぞ。簡単な書類も書式を間違える、提出期限を守らない、勝手な判断で遅刻早退する、勤務時間中に侍女や女官の待機室の近くを彷徨く。五年勤務してこの態度、誰がこんな男を評価するんだ?そろそろ解雇されてもおかしくないだろう。
それに家庭を顧みないというか、碌に自宅にも帰っていなかったそうだな。お前は元妻のことを「夫に相手にされない惨めな女」と嘲笑っていたが、元妻はあの男の有責で離婚できて喜んでいたらしい。
もともと子爵家のお荷物を片付けたかった先代が、堅実な運営の商会を持つ男爵家に頼み込んで成立した婚姻だ。なぜかあの男は自分の美貌に惚れた元妻が申し込んできたと思っていたようだが、勘違いも甚しい。
当時貴族のごく一部で流行っていたらしい「お前を愛することはない」という台詞でもともと無いに等しかった信頼もゼロになり、真実の愛だとか愛人はいないが複数の娼館にお気に入りがいる。文官としての給与は全て自分の交友や女遊びに使う。
聞けば聞くほど禄でもない男だな。
まあお前の評判も同じようなものだから、ある意味似合いの夫婦なのでは?
おやここまで言っても自覚がないとは、本当に無能や無知というのは恐ろしいな。
まずお前には王族としての自覚が足りなさすぎる。母親は愛妾とはいえ、父親は国王なんだぞ。王族としての教育には時間も金も人材も人一倍かかる。それなのにお前はそれらから逃げ出し、最低限の教育しか身につけなかった。ある程度で見切りをつけたが、この時点で政略の駒にもならん。その上既婚者と恋仲になり、軽率に男女の関係となった。
それにあの男以外にも声を掛けていたな。引っかかった男たちの中で一番顔がいい者を選んだようだが、お前の頭は飾りか?中身は溶けて無くなったのか?仮にも王女が自分が結婚相手を選べると、本気で思っていたなら救いようが無い馬鹿だ。
お前が男漁りを始めた時点で王族の籍を抜くことは決定したが、だからといって市井に放逐するのも迷惑しかかけないだろうと協議していたんだがな、子爵家が責任を取って世話をすると言ってくれたのだ。親と弟の不始末で急遽子爵位を継ぐことになった彼には災難だが、最期まで面倒を見ると言ってくれたのが子爵しかいなかったのでな。
当然だろう?自分の立場も正しく認識せず、好みの異性を見れば盛り、親の権力を振り翳して我儘放題。誰がそんな人間を好む?
お前の価値を下げたのはお前自身の行動の結果だ。
端から見ている分には面白かっただろうな。仮にも王女とあろう者が、自ら滑り落ちていくんだから。
正直身内でなければと何度も思ったよ。そうすれば多少不快な喜劇として楽しめただろうに。
とにかくお前たちの処遇については既に決まったこと。王族の籍を抜かれた女と子爵家から籍を抜かれた男が、めでたく夫婦になるのだ。この程度のこともわかっていなかったのなら、もともとお前には貴族の生き方は向いていなかったということだ。
さあ、もう出ていってくれ。明朝、子爵領への馬車が出る。愛する男と幸せにな。
まったく、あれのせっかちには困ったことだ。
最近、子爵領の端のあたりに強盗が出ると報告があるから気をつけるようにと言うつもりだったのだが、まああれには聞く耳がなかったようだから意味のないことだな。




