第7話 天才少女と異端の冒険者
リシェルの研究室は、学院の北棟の最上階にあった。
机の上には魔導書や術式の羊皮紙が山積みされ、中央には魔力制御装置らしき巨大な魔法陣が刻まれた台座。
俺が辺境で使っていた石板とは比べものにならない精度だ。
「ようこそ、レン。ここが私の研究室よ」
リシェルが胸を張る。
「随分と整ってるな。これなら複雑な術式も組めそうだ」
俺は部屋を一瞥し、すぐに装置に近寄った。
「魔力の流量調整機か? こいつを使えば魔力圧縮の効率が跳ね上がるな」
「やっぱり見る目があるわね」
リシェルが目を輝かせる。
「で、本題だけど……あなたの**《マギ・プラズマフレア》**、どうやってるの?」
「簡単なことだ。酸素濃縮と金属燃焼を同時に起こして――」
「酸素濃縮? 金属燃焼? ……ちょっと、意味がわからないんだけど」
リシェルが眉をひそめる。
「魔力で物質構造を変えてるってことだ。
お前たちは“神秘”って呼ぶが、俺からすればエネルギー変換と物質制御だ」
「物質制御……? そんな発想、魔法理論にはないわ」
「だからこそ面白いんだろ?」
リシェルが口を開きかけ、そして笑った。
「確かに……異端だけど、嫌いじゃないわね」
「で、次は何を研究するの?」
リシェルが尋ねる。
「治癒魔法の改良だな。前に試作したやつは成功したが、実戦投入には不安が残る」
「学院の資料室で術式を漁る?」
「いや、それだけじゃ足りない。現場でのサンプルが必要だ」
「……現場?」
「怪我や毒、呪詛……机上の研究じゃ限界がある。
だから――冒険者ギルドで依頼を受ける。
ダンジョンや戦場でデータを集めた方が早い」
リシェルは目を丸くした。
「研究のためにダンジョン潜る魔導師なんて、聞いたことないわよ……」
「いいだろ? 俺はそういうやり方をする」
リシェルは数秒沈黙したあと、にやりと笑った。
「……いいわ。私も付き合ってあげる」
「え?」
「あなたのやり方、興味があるもの。
それに、首席の私が同行すれば学院も黙認するはずよ」
まさか学院首席が自ら実地調査に同行とはな。
だが、これは好都合だ。
「決まりね。明日、ギルドで依頼を受けましょう」
こうして俺は、王都で初めての**共同研究(兼ダンジョン探索)**をすることになった。
「……面白くなってきた」
机の上にはリシェルが貸してくれた高等術式の資料。
王都はやはり宝の山だ。
この世界で、科学と魔法の限界を突破する。
そのためなら、学院も冒険者ギルドも利用する――。
寮に戻った俺はノートを広げ、今日のやり取りを記す。
《マギ・プラズマフレア》:王都基準でも異端
治癒魔法改良案:毒素分解+組織再生促進の複合術式
ダンジョン探索で実戦データ収集予定