第6話 魔導学院での異端
王都の中央区にそびえる巨大な建物――それが王立魔導学院だった。
白亜の尖塔が林立し、空中には浮遊する魔導灯。
あらゆる場所から魔力の流れが感じられる。
「ふむ、エネルギーの循環システムが組み込まれているのか……」
建物の外壁に魔力を流す装置。きっと魔力供給の分散システムだろう。
やはり、ここは知識の宝庫だ。
「君がレンか」
学院長室で出迎えたのは、細身の老人――学院長ルカン・アルデン。
白いローブに身を包み、鋭い眼光でこちらを見据える。
「辺境で新しい炎魔法を使ったと聞いた。**“マギ・プラズマフレア”**だな?」
「ええ。少し工夫を」
「少し、か。
だが報告によれば、通常の火球魔法を遥かに超える威力だったという。
……君の魔法理論には興味がある。学院で存分に研究するといい」
「助かります」
翌日、俺は学院の大講義室にいた。
周囲は貴族の子息や、各地から集まった天才肌の魔導師たち。
壇上に立つ教授が声を張る。
「魔法とは、神秘である。
大いなる力を言霊と意志で形にする――それが魔法の本質だ!」
ざわ……と拍手が起こる。
俺は思わずため息をついた。
……精神論か。
講義が終わりかけたとき、教授が質問を受け付けた。
「何か質問はあるか?」
俺は手を挙げる。
「教授。今の説明では、魔法がなぜ発動するかが不明です。
“神秘”という言葉で片付けるのは説明放棄では?」
教室がざわつく。
「な、なんだと?」
教授が眉をひそめる。
「魔力はエネルギーの一形態。
発動の際には媒介構造――つまり魔法陣や術式――が必要です。
ならば、魔法とは未知の物理現象を利用した制御可能な技術です」
「技術……?」
「そう。術式を回路図として再構築し、魔力の流れを最適化すれば――効率は何倍にもなる。
事実、俺はそうやって“マギ・プラズマフレア”を作りました」
「な、何を言ってるんだあいつは……」
「神秘を技術だと? 冒涜じゃないか?」
貴族出身の学生たちがざわつく。
一方で、数人の若手が興味深そうに俺を見ていた。
教授は険しい顔をして言う。
「異端の理屈だな……だが、興味深い。
レン・カミシロ、君の言う理論、学院で証明してみせるがいい」
「もちろん。そのために来たんで」
講義後。
廊下で一人の少女が声をかけてきた。
「あなた、面白いこと言うじゃない」
長い銀髪に深紅の瞳。年齢は俺より少し下か。
凛とした雰囲気をまとった美しい少女。
「私の名はリシェル・ヴァルディア。
学院首席の魔導師よ」
「レンだ。辺境を回ってた冒険者だ。ついでに魔法の研究もしてる」
「ただの冒険者があの発言? ……興味あるわ。
今度、私の研究室に来なさい。あなたの理論、試してみたい」
――これが後の相棒(であり、良きライバル)との出会いだった。
寮の部屋で机に座り、ノートを広げる。
魔法は神秘じゃない。
エネルギー変換と物質制御――つまり、科学だ。
「この学院で全部解き明かしてやる。
魔法と科学の融合、その第一歩だ」
俺はペンを走らせながら、次の実験の構想を練った。