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「現世最強の科学者、異世界では科学の力で最強魔法使いに」  作者: Naoya


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第45話「白嶺の決戦 ―後半―」

翌日、白き嶺の中腹。

 吹き荒れる雪風の中に、黒衣の男は立っていた。

 蒼白な肌は雪に溶け込み、銀青の髪が風に舞う。まるで山そのものが彼を奉じているかのような威容。


「ようこそ、神代レン。観察の続きを始めよう」

 アトモス=ヴェイルは、空気を震わせる低い声で言った。



 レンは仲間を背後に庇いながら、《オーディン》を掲げる。

「昨日の領域……酸素奪取。だがそれだけじゃないな」

「察しが早い」

 アトモスが指を鳴らすと、空気が圧縮され、白雪の地表が爆ぜた。

 凄まじい衝撃波が襲い、兵士たちが吹き飛ばされる。


 ガルドが盾を構え、必死に耐えた。

「ぐっ……! まるで見えない巨岩に叩かれてるみてぇだ!」


 続けざまに、アトモスは手を翳した。

 その掌の先で空気が抜け落ち、真空が生まれる。

 周囲の岩壁が内部から砕け、破片が雨のように降り注いだ。


「真空は衝撃の伝達を許さない。だが境界では逆に圧が集中する。合理的な破壊手段だろう?」



 レンは《オーディン》に高速で数式を走らせる。

「気圧差の集中……それを逆利用する!」

 両手を掲げ、詠唱と共に術式を展開した。


「――《渦炎閃光ヴォルテクス・フレア》!」

 炎が螺旋を描き、突風と衝撃波を絡め取る。

 火と風が互いを押し合い、空気の流れが一瞬停滞する。


 その隙を逃さず、ミリアが矢を放った。

「今だ!」

 矢は一直線に飛び、アトモスの黒衣を掠めた。


 しかし彼は眉ひとつ動かさず、片手で矢を掴み取る。

「矢は呼吸と同じ。空気を媒介する以上、私に届かぬ」



 レンは歯を食いしばり、新たな術式を描く。

「酸素を奪うなら、こちらは二酸化炭素を操る……!

 ――《酸化爆炎オキシデーション・バースト》!」


 生成された酸素を一点集中させ、二酸化炭素を媒介に燃焼を加速。

 轟炎が奔り、アトモスの結界にぶつかった。


 爆発音と熱風に雪が溶け、氷壁が蒸気を噴き上げる。

 仲間たちは思わず目を覆った。



 爆炎が収まった後、アトモスはわずかに口元を歪めた。

「ほう……私の膜を揺らがせるか。やはり、観察に値する」

 黒衣の裾は焦げていたが、彼自身は無傷。

 その姿に兵士たちが絶望の声を漏らす。


 オルドが杖を突き立て、必死に詠唱した。

「博士、奴は酸素を握っとる。ならば――別の元素で打ち破れ!」

「……そうか!」

 レンの脳裏に新たな式が閃く。



「――《錬焔閃火アルケミック・フレア》、収束型!」

 レンが叫ぶと、炎は一点に収束し、極細の光線となった。

 氷を蒸発させる白熱の閃光がアトモスを直撃。


 黒衣が裂け、蒼白な肌に赤い傷が刻まれる。

 初めてアトモスの表情に陰が走った。


「……なるほど。酸素ではなく、熱量そのものを収束させたか」

 彼は片目を細め、冷たく笑う。

「ならば、今度はこちらの番だ」



 アトモスが両手を広げると、山脈全体が呻いた。

 風が渦を巻き、空気が悲鳴をあげる。

「――《全域隔絶領域》」

 雪山の空気が一瞬にして奪われ、全員が喉を押さえて苦しむ。


 リナが倒れ、ミリアが必死にレンの名を呼んだ。

 兵士たちの目から光が消えかける。


「……これ以上は危険だ!」

 レンは必死に《オーディン》を操作し、仲間の周囲に酸素球を展開。

 だが自らの呼吸は保てず、視界が暗く霞む。


 最後に見たのは、冷たい蒼の瞳で彼を見下ろすアトモスの姿だった。

「次で決着をつけよう。科学の魔法使い――神代レン」


 雪風が唸り、幹部の姿は霧の奥へと消えた。



 荒い呼吸を取り戻しながら、レンは地に膝をついた。

「……あれが、本気の一端か」

 仲間たちは必死に息を吸い込み、生き延びた安堵に肩を震わせる。


 だが彼らの心に宿ったのは恐怖ではなく――次なる決戦への決意だった。


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