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「現世最強の科学者、異世界では科学の力で最強魔法使いに」  作者: Naoya


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第44話「幹部との邂逅 ―前半―」

廃村を包む夜の静寂を破る、乾いた足音。

 それは隠れることなく、むしろ堂々と存在を示すように響いていた。


 月光に照らされ、ゆっくりと姿を現したのは一人の男。

 背は高く、痩せた体躯を黒衣で包み、裾は風もないのに揺れている。

 肌は死人のように蒼白で、頬は削げ、血色というものを感じさせない。

 長く垂れる銀青の髪が月光を浴びて冷たく輝き、瞳は氷を思わせる蒼の光でこちらを射抜いていた。


 細く長い指には黒金の指輪が嵌められ、その爪は獣のように鋭い。

 まるで空気そのものが彼を拒めず従っているかのように、周囲の風がわずかに震え、焚き火の炎が低く揺れた。


「……お初にお目にかかる。《アトモス=ヴェイル》。ウロボロス幹部にして“大気を支配する者”。」

 男は無駄のない動きで立ち止まり、名乗った。

「神代レン。君の歩みは、実に興味深い観察対象だったよ」


 声は低く穏やかだが、響くたびに肺の奥を冷気で締めつけられるような圧があった。

 その存在感に、リナは思わず後ずさり、ガルドは剣を構えるも全身から汗が吹き出した。



 アトモスはゆるやかに腕を広げる。

「科学を人を救うために使う? 甘い。科学の本質は合理と効率だ。村を滅ぼすのに剣や炎は要らない。呼吸を奪えば終わりだ」


 レンは《オーディン》を握りしめた。

「科学は人を救うためのものだ。奪うためじゃない!」


「……面白いな。ならば証明してみせろ」

 アトモスの足元に黒い術式が展開する。



 瞬間、空気が震えた。

「――《大気隔絶領域》」


 廃村全体から酸素が奪われ、兵士たちは次々に咳き込み膝をついた。

 リナが胸を押さえ、ミリアが地面に手をつき、オルドの炎は掻き消える。

 呼吸そのものが敵に握られた恐怖が場を支配した。


「これが科学の合理性だ。生き物は酸素なしでは五分も保たぬ」

 アトモスの碧眼は冷たく輝き、そこに情けは一片もなかった。



 レンは即座に術式を展開した。

「水を電気分解……酸素を生成! ――《酸素供給回路・緊急展開》!」

 青白い球状の幕が仲間の周囲に広がり、局所的に酸素が満ちる。


 兵士たちの顔にわずかに赤みが戻った。

 リナが涙をにじませながら息を吸い込む。

「はぁっ……博士、これで……!」


 だがレンは額の汗を拭った。

(完全には補えない……奪われる速度の方が速い!)



 アトモスの碧眼が鋭く光った。

「酸素供給か。やはり君は興味深い。だが足りない。観察はここまでにしておこう」


 黒衣が風に揺れ、彼の姿は夜の霧に溶けていった。

「次は高地で待つ。本気の試験を始めよう」


 圧迫が解け、一斉に兵士たちが息を吸い込む。

 荒い呼吸と、廃墟の軋む音だけが夜を満たした。


 レンは拳を握りしめ、呟いた。

「……科学を歪め、人を殺す道具にした……あれが、ウロボロス幹部」


 誰も言葉を返せなかった。ただ、その瞳に深い恐怖と決意を宿していた。

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