第43話「廃村に刻まれた痕跡」
白き尾根を越えた一行が目にしたのは、深い谷間に広がる灰色の影だった。
そこはかつて人の営みがあったであろう村。しかし今は、屋根は崩れ、井戸は枯れ、壁は黒く焼け焦げている。
「……ここに、確かに人が暮らしていたはずなのに」
リナが震える声で呟いた。
ガルドは剣を抜き、周囲を警戒する。
「嫌な匂いがする。これはただの焼き討ちじゃねぇ……」
◇
レンは《オーディン》を起動し、残留魔力を解析する。
「波形が不自然だ。自然発火でも、普通の火炎魔法でもない……」
画面に浮かんだ数式は、ある特異な現象を示していた。
「酸素濃度を強制的に下げた痕跡がある。窒息によって村を無力化し、その後で炎を使った……」
オルドが目を細める。
「つまり、奴らは“呼吸”そのものを奪って村を滅ぼしたか」
「……人を殺すためだけの科学と魔法の融合」
レンは拳を握り締めた。
◇
ミリアが倒壊した家の隙間から、金属の欠片を取り出す。
「博士、これを」
それは円環を模した符を埋め込んだ小片だった。
レンが顕微観察用の小型レンズを取り付け、詳細を調べる。
「やはり……ウロボロスの実験器具だ。魔力を媒体にして酸素分子を捕縛し、局所的に“真空領域”を作り出した痕跡がある」
ガルドが唸る。
「人間を実験台にしてやがったってことか……!」
◇
一行はさらに調査を進める。
井戸の底からは異形の獣の骨が発見され、それもまた符で汚染されていた。
「ここで魔獣を放ち、村人と同じ空気を吸わせ……生存率を観察した形跡がある」
レンの声は低く沈む。
「科学を歪め、魔法と掛け合わせ、ただ“効率的に人を殺す方法”を試している……」
◇
その時、ミリアが弓を構えた。
「誰かが……見てる」
森の影に、一瞬だけ人影が揺れた。だが次の瞬間には消えていた。
オルドが杖を強く握る。
「監視されておるな。わしらの動きを逐一見張られている」
レンは冷たい風を受けながら、仲間たちに告げる。
「……この廃村そのものが“警告”だ。
ここから先、奴らは必ず姿を現す。幹部クラスが待ち受けているはずだ」
夜の闇が迫り、廃墟の影が不気味に揺れた。
一行は息を呑み、次なる戦いを覚悟した。




