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「現世最強の科学者、異世界では科学の力で最強魔法使いに」  作者: Naoya


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第40話「道中の火種」

 研究棟を後にして三日。

 レンたちの一行は北方の山脈を目指し、草原と森を越えて進軍していた。

 瓦礫と化した村々を横目に見ながら、馬車の車輪は泥を跳ね、兵士たちの鎧は次第に煤と土で汚れていく。

 それでも彼らの足取りは軽かった。なぜなら先日の峡谷戦で博士――レンが酸化爆炎オキシデーション・バーストを披露し、誰もが「科学の魔法」をこの目で見たからだ。


 遠征部隊は兵士と研究員を合わせて三十余名。

 物資を積んだ馬車が列をなし、昼夜問わず交代で進軍が続いていた。



 昼下がり。森を抜けた一行は、小さな川辺で休憩を取った。

 川面に陽が反射して眩しく光り、兵士たちは甲冑を外して汗を拭った。


 リナが湯を沸かしながらレンに近づく。

「博士、少し休んでください」

 彼女が差し出した水筒を受け取り、レンは喉を潤した。

「助かる。酸素濃度の推移を測っていたら、つい熱中してしまった」

「また数式ですか……。博士は本当に休むことを知らないんですね」

 リナは苦笑しつつも、その瞳は尊敬の色を隠せない。

「でも……だからこそ、私もついていこうと思えるんです」

 レンは目を細め、わずかに微笑んだ。



 その少し離れた場所では、ガルドが若い兵士たちと素振りをしていた。

「腰が抜けてるぞ! 剣は腕じゃなくて全身で振るんだ!」

 彼の豪快な声が森に響く。

 レンが視線を向けると、ガルドが笑いながら声を張った。

「博士! あんたもどうだ? 頭ばかり使ってると身体が鈍るぞ!」

「……剣術は専門外だ。ただし反射速度を高める方法なら研究できる」

「やっぱりそう来るか!」

 周囲が笑いに包まれ、兵士たちの緊張もほぐれた。



 森の端では、ミリアが弓を引き絞り、枝の間を飛ぶ鳥を狙っていた。

「……敵の斥候の可能性がある。気を抜けば、すぐにやられる」

 放たれた矢が鳥の真横をかすめ、羽音を散らして消える。

 リナがそっと声をかける。

「ミリアさん、少し休んでも……」

「休むと森を思い出すんです」

 彼女は短く言い、矢を番え直した。

「枯れた大樹、焼けた故郷……。だから私は弓を握っていた方が楽なんです」

 リナは言葉を失い、ただ彼女の背中を見つめた。



 焚き火のそばでは、老魔導師オルドが若い兵士たちに講義をしていた。

「魔法は神秘ではない。理解と積み重ねで形になる。博士が示してくれたことは、わしらに新しい目を開かせてくれた」

 兵士たちは真剣に耳を傾け、魔法陣の線を何度も書き直す。

「この線一本の違いで、火が灯るか消えるかが決まる。魔法とは繊細なものだ。博士の科学とやらと似ておるな」

 オルドの声は穏やかで、兵士たちの心を安らげた。



 夜。野営地に焚き火が灯り、兵士たちが食事を取り始める頃、レンはタブレット《オーディン》を起動していた。

 大気の組成、湿度、地脈の魔力流――全てが数値化され、地図に重ねられていく。


(ただの行軍でさえ、実験場になる。こうして集めたデータが必ず戦いに役立つ)


 ふと彼は焚き火を囲む仲間たちに視線を向けた。

 ガルドは笑い声を上げて兵士たちを鼓舞し、ミリアは弓の手入れを黙々と続け、リナは薬草を仕分けしている。オルドは若者に古い知識を伝えていた。


「……俺ひとりじゃない」

 レンは小さく呟く。

 科学は理論だ。だが理論だけでは未来は築けない。共に歩む仲間がいて初めて、科学も魔法も本当の力になるのだ。


 山脈はまだ遠い。だが道中で積み重なる絆が、やがて大きな力となる。

 焚き火の炎が夜風に揺れ、レンの瞳に決意を映していた。

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