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「現世最強の科学者、異世界では科学の力で最強魔法使いに」  作者: Naoya


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第38話「遠征の支度」

 夜が明けると、研究棟は慌ただしさを増していた。

 峡谷での戦闘報告が持ち帰られ、《黒き反応炉》の残骸も調査班によって運び込まれてきた。

 レンは《オーディン》を通じて収集されたデータを整理しながら、研究員たちと次なる行動について協議を始めていた。



「博士、これが現場から回収した外殻の断片です」

 リナが机に載せたのは、黒く煤けた金属片だった。表面には蛇が輪を描く紋様が刻まれている。


「やはりウロボロスのものか」

 レンは指で断片を軽く叩き、反応を確かめた。鈍い音とともに微弱な魔力が走る。

「この金属は単なる鉱石ではない。魔力を吸収し、外部から供給する機構を持っている。……この世界の技術では作れないはずだ」


 研究員たちは息をのむ。

「つまり博士、彼らの背後には――」

「そうだ。明確に“科学”を理解している頭脳が存在する」

 レンはモニターを睨む。そこには数式と魔法陣が複雑に重なり合い、導師の影が暗示するように浮かんでいた。



 議論はやがて次の行動へと移った。

「敵は必ず次の一手を打ってくる。こちらも動かねばならん」

 レンは椅子から立ち上がり、研究員たちの視線を受け止める。

「目標は北の山脈の裏。残留座標から推定すれば、ウロボロスの拠点があるのはほぼ確実だ」


「遠征……ですか」

 リナが不安げに呟く。

「ただ行くだけでは危険すぎます。彼らは博士の術式を模倣し、強化しようとしている。対抗するには――」


「新しい装備と、魔法体系の強化が必要だ」

 レンは頷き、机の上に二つの試作品を置いた。

 一つは腕輪のような小型魔道具。もう一つは厚みを増した《オーディン》の拡張ユニットだった。


「これは……?」

「《オーディン》のサブコアだ。研究棟全体に広がる回路網を縮小し、持ち運び可能な形にした。

 これで戦場でも複雑な演算を即座に行える」


 研究員たちはどよめいた。

「博士……つまり戦闘中でも即興で魔法回路を再設計できるのですか?」

「その通りだ」



 レンは皆の驚きを横目に、静かに言葉を続けた。

「だが装置だけでは足りない。必要なのは“仲間”だ。戦場で俺ひとりが動いても限界がある。

 リナ、そして――他の冒険者や兵士にも協力を仰ぐ。今回は研究棟だけの戦いではない」


 その言葉に、場の空気が引き締まる。

 リナは力強く頷いた。

「わかりました。博士と共に行きます」


 他の研究員たちも次々と決意を示した。

「物資と薬品は私たちで揃えます」

「魔導具の修復も終わらせます」

「遠征用の回路調整を急ぎましょう」


 レンは静かに皆の顔を見渡し、僅かに微笑んだ。

「ありがとう。これでようやく、“科学と魔法の戦い”を正面から迎え撃てる」



 夜。

 研究棟の屋上に立ったレンは、遠くの山脈を見つめていた。

 星々の間に暗雲が広がり、その奥に不気味な光がまたたいているように感じられる。


「ウロボロス……輪の中心がどこにあろうと、必ずたどり着く」

 タブレットの画面に表示された座標が淡く輝く。


「科学は未来を築くものだ。お前たちに好き勝手にはさせない」


 風が吹き抜ける。

 遠征の時は近い。

 レンと仲間たちはついに、ウロボロスの本拠へと歩みを進める準備を始めた。


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