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第3話 治癒魔法の解体と再構築

翌朝。

村の広場が騒がしい。


「レンさん! 大変!」

テオが駆け寄ってくる。

「弟が森でケガしちゃって……助けて!」


案内された先には、足を深く切った少年がいた。

傷口は赤黒く腫れ、膿が滲んでいる。

化膿が進めば壊死もあり得るだろう。


「治癒魔法は?」

俺が問うと、そばにいた女が肩を落とす。

「私の魔法じゃ浅い傷しか癒せないの……」


なるほど。

現行の治癒魔法は表層修復しかできないということか。


「よし、やってみよう」


女が唱えた治癒魔法を観察する。

掌から淡い緑の光が広がり、皮膚がゆっくり再生する――が、傷の奥までは届かない。


「なるほど。出力が拡散しすぎてるな」


魔力が皮膚表面で広く散らばり、深部組織にはエネルギーが届いていない。

言うなれば、レーザーではなく懐中電灯で照らしているようなものだ。


ならば、光を一点に収束させればいい。


「魔力ってのは体内エネルギーだが、構造的には高次元場での振動粒子だな」

俺は独り言のように呟く。


つまり、制御さえすればエネルギー密度を局所的に上げることが可能だ。

さらに、治癒には細胞分裂と組織再生の促進が必要。


「なら……アデノシン三リン酸(ATP)の合成促進を狙えばいいな」


ATPは細胞活動のエネルギー通貨。

これを増やせば細胞の修復スピードは劇的に上がる。


魔力をリン酸基と類似したエネルギー構造として扱い、患部で有機リン酸結合を擬似生成させる――。


「よし、いける」


俺は石板を取り出し、魔法陣を描く。

通常の治癒魔法の回路を改造し、魔力を高密度ビーム状に収束する補助線を追加。

さらに、患部でのリン酸結合促進フィールドを発生させる構造を書き加えた。


「テオ、これを弟の足の下に置け」

「え? 石ころで?」

「いいから」


俺は魔力を流し込む。

意識を深く沈め、傷の奥――筋繊維までイメージ。


――ジュウウ……


高密度のエネルギーが流れ込み、患部で有機リン酸結合が活性化する。

細胞の再生速度が跳ね上がり、肉が高速で再構築されていく。


「……治った?」


わずか十秒。

傷は完全に塞がり、皮膚まで再生した。


少年が恐る恐る立ち上がり――駆け出す。

「すごい! 全然痛くない!」


「今のは……普通の治癒魔法じゃない……」

女が呆然とつぶやく。


「簡単なことだ」

俺は淡々と答える。

「魔力を収束させ、患部深部でリン酸結合を促進した。

要するに、細胞エネルギーの供給をブーストしただけだ」


「リン……なんだって?」

「まあ、細胞が元気になる仕組みだと思ってくれ」


彼らに理論を理解させるのは難しいだろう。

だが、それでいい。

結果がすべてだ。


その夜。

俺は机に向かい、新しい回路を書き続けた。


魔法は感覚で使うものじゃない。

分解し、再構築すれば“科学式魔法”に進化できる。


「次は……攻撃魔法の改良だな。化学反応型の爆炎魔法を作るか」


未知の世界。

未知の法則。

俺は科学で、それを解き明かす。


「科学は魔法を凌駕する」――その日まで。

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