第27話 襲来、模倣兵装
ヴァルグラント峡谷から戻ったその夜。
俺はすぐに作業に取り掛かった。
「……回路構造の分割比率を再計算。
術式制御領域を演算支援に振り分ける……」
《オーディン》のページ上で、光の回路がうねるように展開されていく。
新素材の魔力鉱が高出力伝導を実現し、従来よりも一桁上の演算処理を可能にした。
「完成すれば、術式のリアルタイム構築が……!」
俺は指を止め、《オーディン》の試作ページを開いた。
先の戦いで、ふと思いついた“融合”が頭に残っている。
「高温で導電率を上げ、そこへ高圧電流を叩き込む。
火と雷の複合魔法……
――理論上は、成立する。」
《オーディン》の演算機能を使って術式を試作する。
魔力流動の最適パターンを即座に可視化し、新たな魔法構成式が完成した。
融合魔法ーー
渦炎閃光!
高温酸化反応による赤熱→雷撃による瞬間衝撃波。
単体貫通力特化の破壊術式。
「……できたな。」
その時、学院中に非常警報が鳴り響いた。
「緊急通達!
連邦の機動部隊が国境を突破!
魔導兵装による襲撃を確認――!」
ユリウスが血相を変えて部屋に飛び込む。
「レン! 王都西部に模倣型の《オーディン》が実戦投入されたって!」
「……来たか。」
俺たちは即座に移動用の転移陣を使い、戦場へと向かう。
王都の西側、広大な平原。
そこには、連邦の部隊と共に“黒い《オーディン》”を携えた術師たちがいた。
「模倣品ってレベルじゃない……!」
ダリオが歯噛みする。
「出力は高いが、演算が単調だ。
データを流してるだけの模倣AI……」
俺は《オーディン》の試作型を構えた。
「こちらは演算も戦術もすべて実戦対応済みだ。」
敵の魔導兵装が火球を連射してくる。
ユリウスとリシェルが結界を展開し、エリシアが回復支援に回る。
「回避が間に合わない!」
「仕方ない……やるぞ。」
俺はページを切り替え、力を込めた。
「Mg + O₂ からの燃焼…
赤熱完了。
高圧電流――
焔渦烈光!」
赤熱した地面から一筋の閃光。
次の瞬間、敵の盾部隊を貫通する雷火の渦が爆発する。
「うわっ……!? 何だこの魔法……!」
連邦兵たちが狼狽する。
「科学と魔法は融合する。
再現性があれば、これはもう“神秘”じゃない。」
敵部隊は一時撤退。
こちらは無事に王都防衛線を守り切った。
「……模倣オーディン、あれはこれから増えてくるぞ。」
リシェルが呟く。
「なら、本物の叡智を見せるまでだ。」
俺は試作型オーディンのコアに手をかざす。
「次は……“複合魔法を自在に構築する演算機能”を本格実装する。」
その名も――《オーディン:コード・アセンブル》。




