第24話 偽物と叡智
ヴァルトリア連邦・研究棟。
白衣の研究者たちが魔道装置を囲み、低い声で議論していた。
「完成しました。」
一人が報告する。
台座の上に置かれたのは、黒い魔道書型端末――
《オーディン》の模倣品。
「やはり本物には及ばないな。」
特使リヒトがページをめくりながら呟く。
「制御の精度が荒すぎる。」
「仕方ありません。奪えたのは補助回路の一部だけです。
ですが――これで収束型《錬滅新星》も、近い形で再現可能でしょう。」
リヒトは口元を歪めた。
「十分だ。
本物がある限り、我々が勝つための次の一手は打てる。」
「連邦が模倣を作った?」
リシェルの声が鋭くなる。
「間違いない。」
トウドウが頷いた。
「情報網からの報告だ。盗まれた試作パーツを元に、模倣端末が開発された。」
ユリウスが動揺する。
「じゃあ、もう連邦でも《錬滅新星》が……?」
「いいや。」
俺は首を振る。
「精度は落ちるはずだ。
だが――奴らが試作型で何をするかが問題だ。」
「レン、どうする?」
リシェルが問う。
俺は《オーディン》を机に置き、ページを開いた。
「……進化させる。
次世代型を作る。」
ユリウスが目を丸くする。
「進化型……?」
「模倣なんて意味がない。
俺が次を作れば、その時点で偽物は置き去りだ。」
リシェルが腕を組む。
「具体的には?」
「魔力演算機能を搭載する。」
俺は新たな図面を描き始める。
「今の《オーディン》は術式の呼び出しと補正が主だが、
次世代型は魔力演算を自動化して、術式の最適解をリアルタイムで導き出す。
――人間の頭じゃ追いつけない領域を、機械に任せる。」
「……まるで魔導コンピュータね。」
リシェルが呟く。
「そうだ。
魔法と科学の融合――これが《オーディン》の本当の進化だ。」
その夜。
ヴァルクスは密かに連邦の通信を受け取っていた。
「次はどうする?」
リヒトの声が通信から響く。
「――簡単なことだ。」
ヴァルクスは笑った。
「次は本物を奪う。」




